| No.9--------→ 淡い月 〜かの編〜 麦太郎は夜空を見上げていました。 真っ黒な空には 三日月がポツンとあるだけで、 なぜか星は あまり見あたりませんでした。 だから余計に三日月が暗闇に映えて とても綺麗でした。 おや? よく見ると 三日月の上にヒトがいます。 麦太郎は必死に目を凝らしました。 すると その人物と目と目が合ってしまいました。 どうやらオンナのコのようです。 麦太郎は窓を開けてみました。 2月の冷たい風が 部屋の中に入り込みます。 「あのー、そこで何をしているんですか?」 麦太郎は オンナのコに訪ねました。 「はい。私は“お街見”をしているんでしゅ」 お街見・・・・? 麦太郎は 聞き慣れない言葉に戸惑いました。 「お街見っていうのはね、街を見るコトでしゅよ」 お月見ならぬ お街見。 果たしてそんなのが 楽しいんでしょうか? 麦太郎は ますます疑問に思いました。 「良かったら こっちに来て 一緒にお街見しましゅか?」 好奇心旺盛な麦太郎は もちろんOKしました。 早速 帽子と手袋とマフラーで身仕度を整え、 そして以前 空を飛ぶ為に使用したジュリアナ・センスで パタパタと月へ飛んで行きました。 「私は“かの”と言いましゅ。 星の無い夜はいつもこうして お街見をしているんでしゅ。」 麦太郎は 月から街を見下ろしてみました。 地上にはポツポツと 小さな灯りが見えました。 まるで小さな宇宙みたいです。 「あそこの灯りは 郵便局長の家、 そんでこっちは 石井夫人の家、 キラキラしたネオンは 都会に行かなければ無いんでしゅけど ネオンよりも 小さな灯りの方が とっても綺麗でしゅよ。」 確かに かのさんの言うとおりでした。 小さな小さな灯りには それぞれ楽しい夜を過ごしているヒトたちがいるのでしょう。 それを想像しただけでも 麦太郎は楽しくなってきました。 都会に比べたら そりゃ寂しい街灯りなんですが 都会にはない 暖かい灯りがありました。 「かのは都会で生まれたんでしゅよ。 高いビルに囲まれて 車がたくさん走ってて ヒトがいっぱいいるトコロでしゅ。」 かのさんは ポツリとそうつぶやきました。 「かのさんは 都会が嫌いなんですか?」 「ううん。 かのは都会、嫌いじゃないでしゅ。 都会はも楽しいコトがたくさんあるし いいヒトも優しいヒトも いっぱいいましゅ。」 かのさんは お月さまのデコボコを撫でました。 そして ポケットから飴玉を取り出し 麦太郎にひとつ渡して 自分も飴玉を口に入れて こう続けました。 「でもね、ときどき かのは疲れるんでしゅ。 都会は楽しいコトがありすぎて、 それ以上に苦しいコトもあったりして、 かのは 息が苦しくなるんでしゅ。 そんなときは こうしてお街見に来るんでしゅよ」 かのさんは 口の中で小さくなった飴玉を カリっと噛んで また地上の小さな灯りを見つめるのでした。 麦太郎さんも かのさんのマネをして 小さくなった飴玉を カリっと噛じってみました。 甘いはずの飴玉は 何だかしょっぱい味がしました。 まるで かのさんの涙の粒みたいな飴玉でした。 夜は更けて 街灯りも少なくなってきました。 街のみんなは 眠りについたのでしょう。 「さて、かのはそろそろ帰りましゅ」 かのさんは お尻をパンパンと叩き 月のかけらをはらいました。 「またね 麦太郎しゃん。」 「うん。またね かのさん。 今度はかのさんの街の お街見をしましょう」 「はいでしゅよ」 かのさんは にっこり笑って手を振りました。 そして二人はお別れして それぞれの家へと帰りました。 麦太郎は 寝ている柘榴さんと牡蛎さんを起こさないように そうっと布団にもぐり込み、 「おやすみなさい かのさん」 とつぶやきながら 眠りにつきました。 麦太郎は 淡い月の上でかのさんと遊ぶ夢をみました。 かのさんも楽しい夢を見ているでしょうか。 麦太郎のお友達、かのさんのお話でした。 |