大阪連絡会会報・じねんじょレターズ


 <自然観察のテ−マ・29>

春の冬芽


 本多さんの書いている記事はいつも気にはなりながらもそのことには触れ ないできたのですが、最初に前回の記事に関して一言書いておきます。本多 さんが使っているテ−マという言葉と私がここで使っているテ−マという言 葉とは少し意味が違うようですね。私が使っているのは自然観察の道具とし てのテ−マです。本多さんが使っているのは自然観察の目的としてのテ−マ でしょうか。ですから私のテ−マは「今日の自然観察会の目的とテ−マは」 というようなテ−マではなくて、短時間で「あっ、これ見て」というような 感じのテ−マです。以前に知識があるほうが観察会は面白くなる場合がある、 と書いたその延長線上にあるようなテ−マです。
 自然観察の目的は、自然を自分なりに把握すること、そしてその結果とし て自然と自分たちのくらしとの係わりを知り、その自然を保護することにむ すびつくこと、だと思います。そしてそういう目的に向かうためには、道具 としての知識や手法、そして観察のテ−マが必要になる場合が多いと思われ ます。そういう意味でこの連載では、できるだけ理念ではなく、実際に自分 の目で観察をするための材料を並べたいと考えてきました。前に外にでるこ とが少なくなってテ−マを思いつかなくなってきたと書いたことがありまし たが、今や物を考える時間がとれなくなってきました。書いている内容の質 が落ちていくかも知れませんが、もう少し続けます。
           
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 さて冬の観察の中で冬芽の観察というのがあります。冬芽のいろいろなタ イプを見ていくというのですが、実際には面白く進めるのはとても難しいよ うに思います。そういう中で絶対に人気があるのが冬芽の芽を包む部分(芽 鱗:がりん)を外から丁寧に剥がしていって、その冬芽の中で春に広がる葉 がどうなっているかを見るというものです。材料の植物は街路樹に使われて いるユリノキです。
 ユリノキの外側の芽鱗を丁寧に剥がします。あわせの部分が合着して全体 を一枚で包むようになっています。そしてそれを剥がすときれいな緑色の葉 がでてきますが、その葉は、ユリノキのあの面白い形をした葉が全くそのま まの形でミニチアになって、おまけに真ん中から二つに折れ曲がって収めら れています。当たり前のことなのですが葉柄も同じように小さく付いていて、 とてもかわいいものです。
 さて、問題はこの次です。その内側は、最初の剥がした芽鱗と同じように 包まれていますが、その芽鱗をまた同じように剥がすと、中にはさっきより もっと小さくて、半分に折りたたまれた葉が入っています。そしてその内側 の芽鱗をはがすと、・・・ これがずっと続くのですが、私ができたのは5 枚まで。一度やってみてください。なるほど冬芽というのは春の準備をして いるのだとよくわかります。
 この葉を1枚1枚丁寧に包んでいるのは、もともとは託葉という葉を守る ための役割分担をした葉で大部分の植物ではこのようには葉を取り囲んでい ません。ユリノキの仲間はモクレン科といいますが、この形はモクレン科の 特徴です。この全体を包んでいる芽鱗の跡が枝にリング状に残ります。ユリ ノキの前の年の枝を見てください。逆に同じ様なリングがある樹木はモクレ ン科である可能性が高いということです。
 また同じように冬芽全体を包んでいる鱗をもつ種類として、山でよく見る イヌビワがあります。といってもこれは最近にある所で教えてもらっただけ で自分では見ていません。今度山を歩いたときに確認しておきましょう。  この観察をユリノキでやるのは、比較的どこにでもあるからということと、 比較的罪悪感が少ないためです。選定した枝でもあれば申し分がありません。 でももっと大きくて、わかりやすいモクレン科は沢山あるのです。私は今で もあの大きなホウノキの芽を解体してみたくてしかたがありません。ある神 社の境内にごく低いところから枝がでて、すぐに取れるところがあるのを知 っているのですが、我慢しています。
 なんでこれが春の観察かというと、春の芽が動きだす時期であれば、無理 に芽をむしらなくても見ることができるからです。モクレン科の枝であれば、 まず一番外側の芽鱗が外れて落ち、その内側の葉が開き始めます。茶色くな った物が木の下にたくさん落ちているのが目立つでしょう。そして次の葉が 同じようにして開きます。いったいどういう力が働いて一枚ずつ落ちていく のかと不思議に思います。そして冬芽を無理に開いたときと同じように、い ろいろな段階の芽が開いた状態を観察することができます。
           
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 さて、この時期の他の植物の芽の動きを観察しておきましょう。多くの植 物では、冬芽は芽鱗という名前の通りにうろこ状です。そして多くは全体が ふくらみ始め、解けるように広がって、伸び始め、そして鱗はばらばらと落 ち始めます。伸び始めるときの形や中に収められている葉の折りたたまれか たは種類ごとに特徴があります。そういうことを説明した本には、冬芽の中 では扇子のようにおりたたまれた葉や全体が丸くなっていたり、葉の中心に 向かって両側から丸められていたりといろいろなタイプがあるようです。そ ういうことを本で見ているだけではなく、実際に確認してみましょう。
 あるいはカシの仲間やクスノキなどでは、芽が開く時にほとんど同時に落 葉しているのがわかります。まだ木には葉が残っていても、木の下にたくさ んの葉が落ちています。それはたまたまたくさん落ちているのではなく、広 葉樹の秋の落葉と同じように、春の落葉です。常緑樹と落葉樹の違いは、葉 が木の枝に付いている時間の違いであることがわかります。クスノキでは芽 が開くのが遅くなる年があり、そういう年には先に葉が落ちてしまい、遅れ て芽が開くために、一時的に木が裸になってしまうことがあります。
             
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 さておまけにもう一つ。先日ある観察会で植物の科はどうして決めるのか、 と聞かれたことがあります。そんな難しいことを簡単には答えることができ ませんが、近くに咲いていたナズナとアブラナの花を見てもらって、なるほ どと言ってもらえました。タネツケバナヤハナダイコンなど、アブラナ科で あれば、大きな花でも小さな花でも、何でもいいので花の中を見てください。 すべて花びらは4枚です。見てほしいのはおしべの数と形です。おしべは6 本で、そのうち4本がめしべのまわりに並び、2本は離れたところに見られ ます。
 なぜこんな形をしているのか、中央の4本は虫を呼ぶ普通のおしべで、残 りの2本は丁度花にきた虫の腹にあたる位置にあって、虫の体に花粉を付け るように分化しているのだろうと言われています。その理由はともかくとし て、アブラナ科の花はきまってこういう形をしており、同じような形の花は 他にはないのです。なるほど同じ科の植物の花は同じ形をしているらしい、 ということがよくわかる材料です。
(布谷)