大阪連絡会会報・じねんじょレターズ
<自然観察のテ−マ・30>
足下に落ちているもの
観察会の場で、常緑樹と落葉樹は見て区別ができますか、と聞いてみたことがあ
ります。もちろん意図があっての質問で、これがなかなか難しいのです。もちろん
見てすぐに区別がつく樹種が多いのは事実ですが、葉の固さや色艶では分からない
ものや、半常緑というのが相応しいようなもの(例えばモチツツジ)もあります。
半常緑というのは、冬でも葉は緑色をしているけれども、いじけた、ちじこまった
ような葉になって枝についている状態です。冬の寒さによって葉の状態が変るよう
な植物もあるようです。この常緑樹と落葉樹の違いのことを話題にするつもりで書
き出したのではないので、その違いを詳しく書きません。何が違うのかを考えてみ
てください。
前書きにしてはしつこい前書きですが、本当に書きたかったのは、落葉樹は葉を
落とす植物、常緑樹は葉を落とさない植物と答える人が意外と多いということです。
葉を落とさない樹木など無いことは皆さんご存知の通りです。もしそんな植物があ
ったら、樹木は上から下まで葉の固まりになってしまうでしょう。木の幹の下に立
ってこずえを見上げると、葉の層がどうなっているかがよく分かります。例えば常
緑樹ではよく「お腕をかぶせたように木の葉がつく」という言い方をすることがあ
りますが、内側から見た木の葉の層は意外と薄く外側だけしかないことが分かるで
しょう。
葉はその年に伸びた枝だけに付きます。したがって外側へと葉の層は広がって行
き、古い葉は落ちます。冬芽が開いて伸び始めた枝と葉をあわせてシュ−トといい
ますが、葉だけが枝からいきなり開くということは本来はありません。
そうすると落葉樹は秋に葉が落ちて、冬には葉が付いていない状態になる種類、
常緑樹は開いた葉が1年以上枝についていて、冬にも葉がある種類ということにな
ります。そして常緑樹では5月頃に落葉する種類が多いのです。「竹の秋」という
言葉がありますね。今、竹の葉が黄色くなって、落ち始めました。そして今は常緑
樹の秋なのです。町の中でも道を歩いていると、一面に落葉が落ちていることがあ
ります。垣根のアラカシや街路樹のシラカシ、クスノキはもうとっくに終わってい
ます。クスノキの場合は、シュ−トが伸びて、葉が開くのと前年の葉が落ちるのと
がほぼ同時です。ちょっとタイミングを誤ると、ほんの数日間程度ですがまったく
葉がなくなってしまうことがあります。
今の常緑樹の落葉は意識して見ていないと気が付かない人が多いようです。葉が
たくさん落ちているなあ、というだけで終わりです。おまけに町でも公園でも、落
葉はゴミとして掃除をされてしまいますから。
常緑樹の葉は種類によって1年で落ちる種類と3年から5年ぐらい付いている種
類があります。今の時期の枝を見ると、広がったばかりの若々しい葉と、色が変り
始めて、黄色や茶色、種類によれば赤っぽくなった葉が付いてています。こういう
葉が次に落ちるということが分かります。指でつついてみると、パラリと落ちるこ
ともあります。観察会の見世物です。そういうような色がついて落ちそうな葉は枝
のどこにあるのかを見ると、枝の元側の葉、つまり古い葉であることが分かります。
☆ ☆
実は本当に書きたかったことはここからなのです。ただしこの話題では短かすぎ
るので。琵琶湖博物館の建物のすぐ手前にはちょっと長いスロ−プがあるのですが、
そこはまだ若いケヤキの並木になっています。去年の5月の初旬に、伸び始めたば
かりのシュ−トの先がたくさん落ちているのに気が付きました。3〜4センチほど
の長さの弱々しい枝の先で、開き始めている小さなケヤキの葉も2〜3枚は付いて
いるという状態です。そういう若いシュ−トがたくさん落ちているのです。私の頭
に浮かんだのは、何か虫がわいているのではないかということでした。
昔、東京の自然教育園でシイの葉が季節はずれに大量に落ちてきて、何が起こっ
たのかが問題となり、調べてみた結果、ガの幼虫の大量発生が原因であることが分
かり、その虫の正体を調べるまでの一部始終を教えてもらったことがあります。
そういうようなことかと思ったのですが、それにしてはシュ−トが伸び始めたば
かりで、虫が大量にでてくるにはちょっと時間が足らないような気がしました。落
ちている若い枝を拾い上げてしげしげと見てみたのですが、よく分かりませんでし
た。木の方にも何も証拠は残っていませんでした。実はこれは毎日の出勤時に見て
いるだけで、その時間帯以外には観察に行くことをしていなかったのです。そして
そういう落枝は毎日毎日落ちているようで、もう枯れてしまって茶色くなったもの
の残骸がどの木の下にも軽く一握り程度もたまり、そして気が付くと終わってしま
ったのです。
今年もやはり全く同じことが起こりました。また同じだ、とは気が付いていたの
ですが、これも昨年と同じで、分からないままでした。ところが先日、私の知人か
ら手紙をもらったのですが、その手紙にはさらっと次のように書いてありました。
「路上にケヤキの穂先とでも言いたいぐらいの柔らかい枝先がよく落ちているの
は風にでももまれて落ちているのかと思っていたところ、ヒヨドリが嘴の先にくわ
えて、まるで空中ブランコか回転をするようにクリクリと飛回って千切っているの
を見つけました。巣作りに必要だったのでしょうか。」
この人は70才をこえた女性で、根っからのナチュラリストです。やっぱり見て
るんだなあと脱帽でした。ちゃんと見ていれば私の所でも誰が枝を落としているの
かが分かっただろうにといいかげんにしか観察していなかったことを残念に思って
います。
☆ ☆
地面に落ちているもので、あれ、っと思うことがよくあります。特定の木の下に
種子がたくさん落ちていることがあります。これは種子が落ちていることに気が付
かないことが多いのですが、止りやすい枝に鳥がとまって糞を落としていて、その
糞が雨に洗われて種子がばらまかれたようになっているのだろうと思います。種子
の同定はやっかいですが、季節によって、いろいろな形や色の種子を鳥が落として
いること、本当はいろいろな果実を鳥が食べて種子を散布していることが分かりま
す。逆にそれを実験して鳥がどんな木の実を、どの時期に、どこから運んでくるか
を調べようとすると、木の枝に餌を付けて、鳥がくるようにすると、その木の下は、
鳥の糞の山ができるでしょう。ちょっと変った木の種子がでれば、その木を探せば
どれくらいの距離を運ぶのかが分かります。
森の中で花びらがたくさん落ちていて、花が咲いていることに初めて気が付くこ
とがありますね。フジの花ではよくあることですし、エゴの花なども同じように足
下を見ていて初めて気が付くことがあります。
森の中ではなく、マツしか生えていない広場のような所で赤っぽい花が散らばっ
ているのに気が付き、何だかわからなくて困った経験があります。双眼鏡でながめ
てようやく分かりました。マツの木につくヤドリギの仲間のマツグミの花でした。
さてもうひとつ。最初に常緑樹の落葉のことから書き始めましたが、5月頃に落
葉樹の葉の落葉が結構おこっているのに気がつかれたでしょうか。実は落葉樹の落
葉は、秋だけではなくて、春にも起こる種類があるのです。そして春の落葉樹の落
葉は、決まって夏から秋の葉とは違った形で、一般的には少し小さいようです。
葉の展開には、大きく2種類があり、春に一気に枝が伸びて、それでもう伸びな
い、葉の数も変らない種類と、一年中、ずっと枝を延ばし、葉を増やしている種類
とがあります。春に一気に伸びる種類では、大きく伸びてまず太陽の光を受けるた
めの体を確保して、あとはしっかりした体を作ることに養分を使います。一年中枝
を伸ばしている種類では、温度が確保できる間は、弱い光でもいいからとにかく成
長できる間はずっと成長しようというやりかたです。
どちらが得かということを考えるのはなかなか面白いのですが、一気に伸びるの
は森の優占樹種です。背が高くなるかわりに、しっかりした幹を作る必要があるた
め、そこに回すための養分が沢山必要になります。そして春に葉を落とすのは、年
中ずっと枝を伸ばし続ける種類です。優占種の影になることが多いため受けること
ができる光は少ないのですが、大きな体を作る必要がないため、養分の量もそれほ
ど必要がないわけです。
どうやら年中枝が伸びる種類では、まずとりあえずの葉を作って光合成を行ない、
蓄えができた段階できちんとした葉を作り、最初の葉の中に残った養分を吸い上げ
てしまって、その葉を切り落としているようなのです。とにかく光を受けることが
できる期間をフルに利用しようと言うやり方です。そういうとりあえずの葉では、
本来のその樹木の葉の形とはかなり違った形の葉を付けることが多いのです。枝に
付いた最初の頃の葉がいやに小さくて、おまけに黄色く色が変りかけている木はあ
りませんか。典型的なのはハンノキの仲間やヤナギの仲間などでしょうか。いろい
ろな木を見ると、意外と多くの樹種で、最初の葉と新しい葉ではかなり形が違うこ
とがわかるでしょう。
足下を見ながら歩いていると、ふと変ったものが目につくことがあります。どこ
から落ちてきたのだろう、と頭の上を見上げることで、新しい発見が生まれること
があります。 (布谷 知夫)