大阪連絡会会報・じねんじょレターズ


<自然観察のテ−マ・32>
      

木の実のおもしろさ

 秋になると私の仕事場にある事務室の机の上には、いろいろな木の実が並び始め ます。実は事務室の机の上にいろいろなものを置いておくと、事務の人や学芸員が いろいろなことを聞きに来るので、できるだけ目立ったものをいつも置いておき、 室内の観察会を行なっているのです。人からもらった東南アジアの大きなマメや木 の実、とても変った野菜などなど。私が自分で取ってきたものもありますし、他の スタッフが持ってきたものもあります。今は季節の木の実が幾つか置いてあって、 コブシの実、エゴノキの実、ハンノキの実、赤く熟したオクラ、日本ほ品種のワタ、 最近の新しい品種(海島綿?)のワタ、アオギリがあります。こうして机の上で変 化していくのを見ていると、初めて気が付くこともあって、なかなか面白いのです。 野外では時間をかけて見ることが実際にはできないために、初めて分かることもあ ります。
 実は生ものを腐らしてそのまま最後は乾燥してかたまってしまうまでというのを 何度かやっているのですが、これについては博物館でカビをばらまくことはタブ− ではないか、と若い人に詰め寄られて、どうも評判が悪いのです。今、机の上にあ る植物の解説をしてみましょう。

 

コブシの実

 コブシの実をご存知でしょうか。人のニギリコブシを幾つか重ねたような不定型 の形をしていて、木の上で実の皮の色が赤く変ります。あのおかしな形は、軸の周 囲に沢山の種子ができる可能性があり、その一部の種子だけが大きくなるために、 不思議ないびつな形になっているということです。
 さて、コブシの仲間の実が熟すると、一つ一つの種子の外側が開いて、中の赤い 種子が顔を出すわけですが、その赤い種子が白い糸でぶら下がるようになります。 多くの場合には赤い種子を手で引っ張って白い糸でぶら下がるような状態にして、 面白いでしょう、ということで見てもらうわけですが、いったいなぜそういう糸で ぶら下がるのか、だいたい自然な状態で種子がぶら下がるようになるのかどうかを 私は知りませんでした。
 赤い種子の色は鳥に種子が熟したことを知らせる目印なのですが、種子がぶらぶ らとぶら下がることで、鳥の目から見るとより目立つのでしょう、と人に喋ったこ とがあります。
 机の上に置いて見ていると、まず最初の実は赤い色をしていますが、種子の所が 割れて中の赤い(朱色)の種子が姿を表わすと、それまで外を覆っていた皮は真っ 黒に変ります。赤い種子とそれをとりまく黒い色という配色です。この赤と黒とい う色の取り合せは、とても強烈な配色で、自然の中では非常に目立つ、鳥をよぶ色 と言えます。遠くからでも非常によく目立ちます。
 さて、種子ですが、机の上でもやはり自動的に?競り出してきて、白い糸で赤い 種子がぶら下がるようになってきました。見た目には木に付いてい時の下の位置の 種子が飛出してくるような傾向がありますが、下からというだけではなく、真ん中 から出てくる種子もあります。実の皮が割れるときには一つの部屋には多くの場合 には二つの種子が入っており、できが悪い場合には一つの種子が入っています。そ の二つの種子のうちの一つ、多くの場合には下側がどうも押出されて飛出してくる ように見えます。開いた外の皮が乾燥して色が黒く変り、ちじんで押しているよう にも見えますがそこはよく分かりません。いずれにしても片方の赤い種子がまず飛 出してきて、白い糸でぶら下がり、片方の空間が空いてしまうと、もう一つの種子 もバランスが悪くなるのかゆっくりと外へ出てくるというような感じに見えます。

 そして糸でぶら下がった状態の種子は1週間ほどたったところでだんだんと黒っ ぽくなってきました。おそらく乾燥して色が変っていくのだろうと思われます。こ うして1週間ほどの間に実の下側(木に付いている位置の)が黒っぽくなってきま した。
 どうも自然状態でも種子は白い糸でぶら下がる状態になるようです。そうすると 今度は逆に自然状態でそういうふうに種子がぶら下がっている状態をほとんど見て いないことが気にかかります。やはり鳥がそのぶら下がった状態で食べているので しょうか。だれか教えて下さい。

 

エゴノキの実

 エゴノキの花は初夏の風物誌ですが、秋の実の状態はあまり知られていないので はないでしょうか。比較的大きな1センチほどの実がぶら下がりますが、実の色は 少し緑がまじったグレ−です。
 ところがこの実の色が黒に変身するのです。エゴノキの実は中に黒い色の種子が 入っていますが、その種子を取り囲む皮に縦に裂け目ができ、実の皮と種子との間 に隙間が出きると、その隙間にそって、皮全体が乾燥してクルットまきあがり、や がて花のガクの所が離れて、皮だけが落ちてしまいます。かくて黒い種子がぶら下 がるように見えます。そして地面にはくるりと巻いた皮が沢山落ちていて、これは 何だろう、ということになります。
 この黒い種子も強く触ると枝から(正確にはガクの部分から)はなれて落ちてし まいます。この黒い種子の色も、やはり鳥をよぶ色だろうと考えられています。黒 は地味な色のようでいて、自然界にはあまりない色なので、まだ木の葉が残ってい たり、紅葉が始まったような時期には、かなり目立つのだろうと思います。
 このエゴノキの最初の皮がさける場所にもきっと決まりがあるのだろうと思いま すが、目で見た範囲ではほとんどわかりません。モモの実にはっきりとした線が見 えるように、果実ができるときの元の構造にかかわる線があると思うのですが。た だ見た目には実が付いている細い枝にたいする内側が割れてくるように思うのです が、全体に乾燥していて、細い枝もねじれたりしているのではっきりとはしません。 野外でもう少し沢山を見ないと分からないですね。それにしても魚毒にするエゴノ キの実を食べる鳥がいるんですね。エゴノキの種子を好んで食べる鳥の話を本で読 んだことがあるように思うのですが、忘れました。どなたかご存知ですか。

 

アオギリ

 アオギリの種子は食べられる、といっても、私の事務所の人は誰も信じてくれま せんでした。普段からいいかげんなことをいっているので、あまり信用がないわけ です。
 実はアオギリの実がどうしても欲しくて、さる公園から取ってきたのです。何を するかというと風に乗ってクルクルと回るところを人に見せて上げようと思ってい るのです。アオギリには種子がいくつか付いています。この種子の数によってバラ ンスがちがって、うまくクルクルと回転するものとストンと落ちてしまうものとが
有ります。種子が付いている位置によって違うので、幾つが一番いいとは決まって いません。ひとつの種子をはずしてしまうともう後戻りできませんから、なかなか 難しいのです。これを子供に配って、みんなで飛ばしてみようという思っています。
これはシナノキの実でも同じですね。事務所の中で皆で飛ばして遊びました。

 ところであのアオギリの種子というのが植物としてはとても不思議なものなので す。まずあの食べている部分は種子であって、実ではありません。実はどれかとい うとあのスプ−ン状の木の葉のようなものは5枚が単位になっているのは見れば分 かりますが、あの5枚全体が実ということになります。本来ならあの5枚がくっつ いて丸っぽく?なって、外に少し厚く植物の壁が付いて、いかにも実のようになる ものなのです。ところがアオギリは厚い皮ができずに、薄い葉のような状態で割れ てしまっという形なのです。つまり種子が裸で見えているのです。アオギリって裸 子植物だった?ということになってしまいます。若いときのアオギリの実あるいは 花を見たことがあるでしょうか。若いときは他の植物と同じように種子の元を内側 に守った形をしています。そして実が大きくなる途中で、われてしまって、ああい う形になるのです。植物の形というのは本当に不思議です。
 あの1枚のアオギリの実は船の形というか、ある人にいわせると中華料理のレン ゲの形をしていて、外側に種子が付いています。多くの人はあれを葉だと思ってい ます。葉に実が付いている、というのが普通の見方ですね。実は植物の花びらもガ ク片も、オシベもメシベも、もともとは葉からできたという考え方があります。ア オギリではその葉がそのままに見えるという状態です。例えばマメを平たく開いて みると、ちょうどアオギリと同じ形になります。マメは一枚分の葉から実ができて いるということになります。アオギリはそれが5枚、リンゴではアオギリと同じ5 枚で、外側に厚い植物の壁ができています。
 いささか理屈っぽいですが、植物の形を見ていくととても面白いことがいっぱい あります。(布谷 知夫)