大阪連絡会会報・じねんじょレターズ
<自然観察のテ−マ・33>
葉の裏と表
秋も深まってきて、私の事務机の上にはすでに30種類を越える木の実やツルなど
が集っています。博物館の人は面白がって、私からもいろいろと説明をして上げて
いるのですが、博物館外の人が事務所を訪ねてきた時には、おかしな顔をされてし
まいます。そろそろまとめて標本にしてしまおうと思ってはいるのですが。
さて、前回のじねんじょに葉の裏と表のことが書かれていましたので、そのこと
を書いておきましょう。まず葉の裏と表が簡単にわかる方法ですか。葉に裏と表が
あるように、植物には方向があります。それは根元に近い側と先に近い側です。枝
でも幹の一部でも必ず元の側と先の側があります。そして枝に葉がついていた跡に
は、動物やこびとの顔のように見える部分が残ることはよく自然観察の本に紹介さ
れています。あの顔は必ずといっていいほどに枝の方向と同じ向きに顔が見えてい
ると思いませんか。
葉が枝からでるときには、勝手きままな方向で出るのではなくて、枝と同じよう
に方向を持っています。葉の面が枝に対して垂直に出て(実際には枝の先の方に傾
いて)きます。そうすると葉の両側の面には枝の先を向いた面と枝の元を向いた面
ができることになります。そしてこの枝の先を向いた側を表、枝の元を向いた面を
裏といいます。植物の用語ではこの表側のことを腹側、裏のことを背側ともいって
います。表と裏は定義をして決めているわけですが、腹と背であれば、実際の枝に
対するつきかたで決まる呼び名です。
文章に書くと、とてもくどくてわかりにくい表現しかできません。ここまでわか
りましたでしょうか。実際に実物を手に取って話をすれば、なんということのない
話なのですが。そして枝に葉がつくときには、必ず葉がついている部分の枝先側(
つまり表側)に芽が作られます。春先には小さくて分かりにくいかも知れませんが
秋が近付くと芽も大きくなってきます。
つまり葉の裏と表の見分けかたは、葉のついている枝の部分に芽がある側が表で
す。
先ほどの冬の葉が落ちた跡が動物の顔のように見えるのは冬の芽が動物の顔の一
部になっているのです。図を見て下さい。その頭が枝先側になります。こんなこと
は現場で実物を見ればすぐに分かりますが、ちょっと迷うこともあるのです。例え
ばクズのツルが茂ってくると、茎の途中から根がでて、ちょっとしたジャングルジ
ム状態になります。どこが本当の根本でどちらが先なのかはまったく分かりません。
一度クズを見て下さい。葉のかげに大きな芽が見えます。つまり芽のある側が先で
す。このようなクズの大集団を方向が分かるような図に書いた人がいます。これは
おもしろいですよ。
この様なことは特に役に立つ知識でもないのですが、多くの人が疑問に思ってい
ることの一つはこの知識で理解できます。復葉はなぜ1枚の葉なのかということで
す。二つの理由があります。一つは小さな葉が軸(枝?)に対して平面になるよう
についていることです。葉は枝に対して垂直になるようにつくものなのです。そし
て二つ目は葉の根本に芽がついているかどうかです。この二つの点を見れば、例え
ばセンダンのような複雑なものでも1枚の葉であることが理解できるはずです。そ
して復葉とは一枚の葉が葉の脈にそって大きく分れていったものということが理屈
としてはわかると思います。植物には見た目の決まりのようなことが沢山あります。
そして葉と芽がセットで存在することもそういう決まりの一つなのです。
もちろん芽だ小さくてわかりにくい場合もあります。もっと面白いことには、葉
の柄の根本が芽を取り巻いてしまって、芽が見えなくなっているような種類もあり
ます。たとえば街路樹などに使われているプラタナス(スズカケノキのなかま)で
は冬芽が葉の根本に隠れていて、普段は見えません。秋に落葉した葉を見ると、柄
の部分が大きく穴があいているのが分かります。そして枝には葉の下から大きな芽
が現れます。
☆ ☆
観察会の場で葉の裏表を話題にすることがあるのは、おそらくシャガの葉を見な
がらではないでしょうか。イネ科やカヤツリグサ科などの単子葉植物でも基本は同
じなのですが、長い枝が伸びてその枝に葉がつくという姿ではないために、見た目
には分かりません。シャガの葉を野外で見てみましょう。見た感じでは葉の裏と表
は色も雰囲気も同じでちょっと裏表の区別がつきません。葉の根本まで見るとわか
ります。外側の1枚の葉の根本を突き破るようにして、内側の葉がでているのが分
かります。
ごく短い茎に数枚の葉がついているわけですが、新しい葉は茎の先側で伸び始め
ます。この時に葉は短い茎全体を取り囲むように筒状に成長し、根本は筒状に、少
し伸びたところからは筒があわさって平面になってしまいます。葉が筒状になって
しまうと、先ほどの話からすれば見えているのは根元側の面、つまり裏ということ
になります。シャガの葉は剣状に伸びていますが、見えているのは両面とも裏とい
うことになります。
さて葉が茎を筒状に覆ってしまったとすると、次にでる新しい葉はどうするので
しょうか。シャガの場合には筒の片側が開き、そこから新しい葉が出てきます。そ
の様子は、ちょっとかわいそうですがシャガの葉を横に引っ張ってやるとすぐに分
かります。日が当たっていない上の葉の蔭になった淡い緑の部分が出てきますし、
外の葉をその隙間にそって裂いてやると、本来の表面が出てきます。シャガはアイ
リスとよばれる植物の仲間です。そういう葉の出かたをした植物を見つけて下さい。
☆ ☆
さてもう少し書いておきます。タマネギをタテに切った様子を頭に想像して下さ
い。根が出ている側に白い固まりがあり(切って捨てている部分です)、そこから
7〜8枚程度の球形の葉が出ていることが分かります。茎は先へと伸びますから、
タマネギの外側の一番大きな葉が一番最初にできて伸びた葉です。そして内側ほど
新しい葉ということになります。
タマネギの葉は本来は地上にもあったわけですし、畑でほっておくとネギボウズ
の花を咲かせます。葉は内側のものほど後ででますし、一番最後の花が咲く茎は一
番内側から、一番最後にでてくることになります。さて、頭の中で想像できました
か。球の中にとじ込められている内側の茎から、次々と新しい葉がでて外へでてい
く。おわかりでしょうか。これはシャガの葉と同じですね。ネギで見えている葉は
すべて裏側です。そしてネギの葉の根本を見ると、シャガと同じように葉の根本で
隙間を作って、内側の葉が外へでているようすが分かります。八百屋さんでネギを
見てもその様子はよくわかります。
葉の裏と表というのは、単なる定義でしかないのですが、定義だけを覚えておい
ても本当は何が問題であるのかはまったくわかりません。葉の裏表は、植物には方
向があることと、葉と芽とがセットで枝についていること、そして植物の形という
ものは、見かけは違うようでも、まったく同じ形式の物とあることなどが分かりま
す。(布谷知夫)