大阪連絡会会報・じねんじょレターズ


 <自然観察のテ−マ・35>

1本の樹形を見ながら

布谷 知夫

 3月初旬に鹿児島の指導員講習会に行ったときに行なった観察のテ−マです。雨と 風で室内からの観察になってしまいました。
 建物の前の広い芝生の中に1本だけ大きな木が生えていました。その木を見ながら 分かることを考えてみようという観察です。20メ−トル近くはあるように見える大き な木でした。葉が落ちていて枝が見えるので、まず枝ぶりを簡単にスケッチしてみま しょう。すこし荒っぽいですが、図の様な感じです。こんなスケッチを自分でしてみ ることで、木の枝の特徴がよくわかります。何となく見ているだけではわからないこ とでも、スケッチをしてみると、自分で形を作っていくことで、はじめて気がつくこ とがあるものです。
 そしてスケッチをして改めて木を遠くから眺めることで、何が分かるのかを考えて みました。
 まずこの木はずっとこの場所にあったのでしょうか、あるいはこの施設の工事でど こかから移植をされてきたのでしょうか。
 これは調べてみれば本当の答は分かるわけですが、見て分かることだけから考えて みようということです。でてきた意見の多くは、どこかから移植してきた、というこ とでした。理由は枝が広く広がっていること、もう一つは <右上へ>
一番下の枝はかなり低い位 置にあったために、森の中の木の形ではない、ということです。森の中の木と広場の 中に生えている木との樹形の違いはどこにあるのでしょう。
 森の中の木は隣の木との競争が強いので、枝を自由に伸ばすことができません。特 に若いときは少しでも上に伸びて森の外に頭を出そうとするために、横に枝を広げる ことはあまりせず、枝ぶりが占める面積は狭くなりがちです。また光を受けることが できないために下の枝は次々と枯れていきます。森の中の木は枝の広がり(樹冠:じ ゅかん
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といいます)が狭く、下の枝はなくなっています。この木は非常に低い位置か ら大きな枝が出ていて、その枝は生きているようです。そんなことからおそらくこの 木は、この施設の芝生の広場が整地された後で、どこかで育てられていた木が移植さ れたのではないだろうか、ということになりました。もっともそんな話をしていたら 、今の土木工事は1本の木をわざわざ残すようなことはしない、丸裸にしてそれから 緑化として木を植えるものだ、とおっしゃった人がいて、それもまさしくその通りで す。
 また幹のところで大きく右に傾いています。これがなぜなのだろうということも話 題になりました。一つの説はいつも同じ方向から強い風が吹いているような場所に植 えられていた木だ、というものでした。確かに山の上などでいつも強い風が吹いてい る場所の木は、枝が極端に変っていて、幹も風で押されたようになっていることがあ ります。でもこの木は幹がはっきりと途中で曲ったように見えます。若いときに枝が 切られてこういう形になったのではないか、という意見もありました。これはその距 離で見ているだけではどうも分かりません。でももしかしたら、幹のその部分を近く で見れば、枝の跡などから見当がついたかもしれません。  前にも書いたことがありますが、自然史博物館のある長居公園の木は西か <右上へ>
ら(公園 の入口側から)の風が強いために西側が短く、東側が長くなっている様子がよくわか ります。町の中の大きな木がどうなのかを見て下さい。
 もし他の木の枝が邪魔で枝の広がりがよくわからないときには、数人で散らばって 上を見ながら枝の端の真下に立って見ると、枝の広がりがわかります。大抵の場合に は円形ではなく、幹の位置からどちらかの方向が長くなっていることがわかります。 つまり幹から枝先までの長さは、方向によって違っていることがわかります。
 さて、木を見てわかることのもう一つは、枝の出かたの違いです。この図のような 枝の出かたを何と表現したらいいのでしょうか。離れた場所からこの木を見て、あれ はケヤキだしょう、と言った人がいました。竹ボウキを逆さにしたような樹形という 表現がされていますね、といってみたのですが、竹ボウキというのがわからない人が かなりいました。樹形から木を見分けることは非常に難しいのですが、確かにケヤキ はよくわかります。この特徴はどういうことでしょうか。幹から出る枝が比較的真っ 直ぐに伸びて、その枝からの大きな枝わかれは余り出ない、そのために真っ直ぐな枝 がたくさん集ったような形になっています。おそらく背が高くなって、森の中の中心 になるような性質の木の形といえそうです。
 ここで反対側の窓から、建物の前に <左下へ>


植え てあるアメリカヤマボウシ(ハナミズキ)の木の樹形を見てもらいました。こちらは 2メ−トル程度の木で、樹形はケヤキとはまったく違います。何が違うのでしょうか。
ハナミズキは上に伸びて背が高くなろうというよりも、枝を横にゆっくりと広げよう としているようです。ハナミズキが日本に導入されてからもうかなりの時間が立って いるわけですが、どこにいってもハナミズキの大木は見たことがありません。もとも と背を高くするよりの、無理をしないで葉を横に広げてゆっくりやっていくようなタ イプの成長をしている木なのです。ハナミズキの場合にはどちらかというと強い光を 好むようですが、背が高くならない <右上へ>
樹種には、林の中で一番上にいくよりの、林の中 の弱い光でゆっくりやっていこうというような生活のしかたをしているものが多いよ うです。
 ケヤキとハナミズキのどちらが合理的なのか、それはわかりません。背を高くする 種類は、森の中で頭を出せるかわりに、太くて長い幹が必要です。そのためにかける コストは非常に大きいものです。背が低い樹種は強い光を必要とせず、大きな木の蔭 でもゆっくりとやっていこうというような生活のしかたです。どちらも一つの生活の 仕方と言えるかもしれません。
 ハナミズキの向こうにサクラの木が見えていました。サクラの木の樹形もまた変っ ています。ちょうどケヤキとハナミズキの両方の要素をもっていて、単に両方の中間 的な樹形とは言えないような気がします。「じねんじょ」が発行される頃はもうサク ラの花が散って葉が開いてしまっているでしょうか。葉が開くと枝がわかりにくいで すが、一度確かめてみて下さい。
 講習会のテ−マさがしの1時間の半分は、こんなことをして過しました。あとは植 木鉢のブ−ゲンビリアを見たりクワズイモを見たり。広く景色を見て底からわかるこ とを考えてみるという観察がされていますが、もう少しミクロに見ても、いろいろな ことが出きるかもしれません。(布谷)
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<追記>ペ−ジが余ってしまったのでもう一つ、鹿児島での観察テ−マを書いておき ます。ロゼットの観察です。 これは昔に自然史博物館の岡本さんに教えてもらった テ−マです。
 冬の間植物の中には、茎を伸ばさないで地表に葉を広げて、そのままで冬越しをす るものがあります。これをロゼットと呼ぶことはご存知のとおりです。
 でもこのロゼット葉はぴったりと地表にくっついて、少しぐらいの風にもびくとも しないでいることを不思議に思わないでしょうか。実はこれには秘密があるのです。
 監察会では葉を痛めないように根から引き抜いて、手の平に乗せて皆で見てもらい ました。ロゼットは地表に葉を広げ、冬の間も太陽の日が当たるときには光合成をし ていて、背は高くないから風がふいても少しもこたえないのかもしれない。等々の話 をしている内に、ロゼットの葉が動き出すのです。目で見て動くことはわかりません が、2〜3分ではっきりと動いたことがわかります。
 葉は裏側に曲っていきます。下に曲るのはあたりまえ、と思われるかも知れません。 それでは葉の裏側を上にして、手の平の上においてみましょう。やはり同じように葉 の裏側に、つまり上向きに曲っていきます。ちょっと話をしている間に、はっきりと 曲ってい<右上へ>
くのがわかります。
 どうもロゼット葉がぴったりと地面に張り付いているのは、ただ土の上に乗ってい るだけではなくて、葉は地面を押さえているようなのです。全体に裏側に曲るような 力が働いていて、地面からはがされてしまうと、その力で葉がゆっくりと曲っていく のです。
 これを幾つかの種類のロゼットでやってみました。その時の結果だけでいうとタン ポポ(おそらくセイヨウタンポポ)のロゼットが一番はやく、見事に葉がそっくり返 ってしまいました。ちょうど花を包んでいる総ほうと同じような感じです。いろいろ な種類のロゼットでやってみると、種類によって差があるのかどうかがわかるだろう と思います。