大阪連絡会情報誌・じねんじょレターズ(44号)

 <自然観察のテーマ・42>

初夏の季節を探して
布谷 知夫
 前にも書いたのですが、仕事場に出勤するのに、かなりの時間を歩いています。そう するとバスで通り過ぎるのと全く違うのは、季節の変化が良く分る事です。今の季節に 気がついた事を幾つか書いてみます。
     
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 もう随分と前ですが、「竹の秋」を経験しました。4月の連休の直後ぐらいの時期に 、竹の葉の色が黄色くなって、降りはじめます。竹の紅葉の時期です。常緑樹や竹など は秋には葉を紅葉させたり、落葉させませんが、春の新しい葉が伸びはじめて直後に葉 を落とします。これを「竹の秋」と呼ぶのは俳句の季語ですが、季語にはその季節を表 現するのに相応しい、美しい言葉がたくさんあります。

 多くは「竹の秋」に続いて常緑樹の秋が始まります。新葉が伸び始めると、古い葉が 少し色を変えて、落ちてきます。常緑樹の中でも、春の落葉が早い樹種と遅い樹種があ るようです。色の変り具合も少しずつ違います。例えばクスノキは、5月に入ったころ に一斉に落ちてきます。クスノキの場合には、葉の寿命は1年で、前年に開いた葉は、 この時期にほとんど全部落ちてしまいます。モチノキの仲間も、クスノキの後をおって 、葉を黄色い色に変えて落ちてきます。カシの仲間もこのころからぼちぼちと落ちはじ めています。でもカシの仲間では葉の寿命は1年ではないようです。常緑樹の葉の寿命 は、その樹種の好む環境によって決っているように思います。ダイナミックに変化をす るのはユズリハです。これがいつごろから動きはじめたのかは気がつきませんでした。 ユズリハという名前は、代が変る、という意味であの大きな葉を一斉に落とし葉が入れ 替わります。いつも通っている道の端にあるのを見ていたのですが、気がついた時には 葉がすっかり伸びてしまいました。今は去年の葉が落ちかけています。そしてもうすぐ 「麦の秋:麦秋(ばくしゅう)」が始まります。

 麦秋といえば、麦の穂の出てくる早さにも驚きました。これも連休の直後くらいでし ょうか。本当に前日までは穂が上がっていなかったのに、次の日の朝には畑一面の麦の 穂が上がっているのです。アッと思って周囲の麦畑を見ると、どの畑も同じでした。実 はこれと同じ経験を以前に稲でもしています。ふと気がつくと穂が上がっている、とい うその成長の早さには驚きます。

 今の麦畑は緑から淡い黄色がかかりはじめています。そしてこの色がまたあっという 間に焦げた麦の色に変るのは、6月の始めです。
     
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 初夏は春から続いてたくさんの花が咲きそろう季節です。普段はそんな植物があるこ とも気がつかないのに、いっせいに花が咲きだしたのに驚く、というようなことがあり ます。

 エゴノキはシャンデリアのように華やかに白い花をたくさん咲かせます。車が通る道 端に、白い花がたくさん落ちてきていて、見上げると庭から伸びだした枝に白い花がつ いていました。面白い事に、はじめて気がついた日に最初の1本だけではなく、あちこ ちのエゴノキがみんな花を着けています。出勤してきて、博物館の中庭に植えてあるエ ゴノキを見にいったのですが、そのエゴノキもやはり花を着けていました。正直なもの だと感心してしまいます。

 同じ日にチガヤが立ち上がって白い穂が目立つようになっているのに気がつきました 。そしてやはり同じ日に数箇所で見ました。あれだけ目立つものを、これまで見逃して いるとは思えないので、やはりその日が咲きはじめであったのだろうと思います。チガ ヤはこの白い穂が開きかけた状態を食べたものです。甘い味がします。細い地下茎を伸 ばして広がるので、堤防や農道などが今の時期に真っ白に見える事があり、美しいもの です。この細い地下茎を掘り上げても、甘い味が楽しめます。ただし掘る場所を考えな いと怒られそうな場所が多いのは、タンポポの根を集めにくいのと同じです。いつぞや 京都御所の観察会で、人の目を気にしながら掘った事がありました。

 スイカズラはこの数日前に気がつきました。これは背の低い土塀の上に庭の中からか らみだして見えています。山にいけば里には普通に見られる花なのですが、集落の中で 見る事ができました。こんな植物を庭に植えているこの家の主は、いったいどういう人 なのだろうかと考えてしまいます。野草が好きで、気にいった、そしてそれほど人気が あるような植物ではない植物を庭に植えて楽しんでいるような人を想像してしまいます 。実はこの土塀のために、庭の中が見えないのです。他にはどんな植物を植えておられるのかと気にかかっている家です。

 ほんの数日前には(ナツ)ミカンの花が咲きはじめました。帰りの暗い道で甘い香り に気がついて、白い花を見つけたのです。ミカンの仲間は独特の香りがあります。翌日 の朝に、やはり他の場所でもミカンを見つけました。そういえば秋から冬には黄色いミ カンが付いているのを見ているはずなのにシーズンが変って見えなくなってしまうと意 識から無くなってしまうのです。

 ハコネウツギらしいウツギが今日咲きはじめているのに気が付きました。実は鉢ごと の植物を持込まれて、名前がわからない植物があり、花が咲くのを待っています。この 鉢の植物が、ハコネウツギの仲間なのです。野外で咲きはじめたのですから、この鉢も 咲きだす事でしょう。ようやく宿題がひとつ片付くことになりそうで安心しました。と いいながらまだその鉢に花が付いたかどうかは見にいっていません。

 こんな風に書いていくと本当にたくさんの花を見ている事に改めて気が付くのです。 エニシダやアイリスの仲間、名前が分らないで気になっているマメの花、そしてもう終 わってしまったハナミズキやツツジ、ニセアカシヤの花、いつまでも畑にすきこまない で、未だに咲き続けているレンゲの花、あげだせばまだまだ頭に浮かんできます。
     
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 人の家の庭を見ながら歩くというのはなかなか楽しいものなのですが、畑も面白いで すね。作物がどんどんと大きくなっていくのが分ります。まだ寒いころに本当に細いネ ギを植え付けてあったのが、今は大きなタマネギになってしまいました。ここしばらく はマメの仲間が面白い。エンドウマメやソラマメがこれも気が付かない間に大きくなっ て、あちこちの畑でぶら下がっています。もう収穫です。

 こうして書いていくと、植物以外の生物にはひどく冷たいのですが、逆に植物に冷た い人から見ると、また違った季節が見えてくるのだろうと思います。 (5月20日 布 谷)


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