<自然観察のテーマ・44>
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布谷 知夫
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もうキンモクセイの香りがただようような季節になりました。初めて気がついたのは
10月1日の朝でした。あの香りは夜の暗い中でただよってくるのに気がつく事が多いよ
うに思うのですが、今年は朝の出勤の時間に、気がつきました。秋本番です。そして1
ヵ所で気がつくと、あちこちのキンモクセイの木が咲いている事に気がつきました。た
だし9月の29日と30日は出張していましたので、もうそのころから咲きだしていたのか
もしれません。 あのキンモクセイは全部、雄の花である事になっています。もともとキンモクセイは 中国から日本に入ってきた植物で、雄だけが入ってきたといわれています。したがって 実はつきません。ギンモクセイもまったく同じで、雄だけしか日本にはないそうです。 したがってごくまれにキンモクセイに実がついた、と報道されたりするのは、ウスギモ クセイという別種です。以前に豊中市の中学校の校庭でキンモクセイが実を付けた、と いう新聞記事を読んで、見にいったことがあります。葉をみても区別ができないのです が、花の色がまったく違っており、どうやらウスギモクセイだろうと思いました。名前 のとおり、キン、ウスギ、ギンは花の色を示しています。 植物の雄と雌というのはやっかいなものです。キンモクセイなどの場合には、ひとつ の個体に、雄あるいは雌の花だけがつき、株ごと雄あるいは雌ということになります。 ただし実際には、雄の株に不完全な雌の花がついている事があります。変化しつつある 状態ということなのでしょう。同じ様な株ごと性が決っているものでは、先年大阪連絡 会で問題になってアオキや、モチノキの仲間などがあります。アオキやモチノキまたイ イギリなどでは、真っ赤な実を楽しむわけですから、雄株と雌株との両方が近くにない と、実をみのらせることができません。 イイギリという木をご存知でしょうか。ナンテンの実の房をたくさんぶら下げたよう な実をつけて、大きな木が真っ赤になります。この木も日本の野性の植物ではないと思 いますが、公園等で木を見ると、たいていは数本の株立ちの形をしていて、実がついて いるのはその一部だけです。どうやら、若いまだ花をつけない状態で数本の個体を寄せ 植えして、ひとつの株を作り、雄と雌の個体をあわせた株を作っているようです。そう すると半分の確率で、雄どうし、雌どうしの組合わせができてしまうように思うのです が、いったいどうしているのでしょうか。 もうひとつのパターンは、同じ個体に雄花と雌花とを別々に咲かせるというやり方で す。例えばブナ科の植物、ナラ類やカシ類、あるいはシイやクリ、ブナ等はすべて同じ 個体に雄と雌の花を別の場所につけます。そして面白い事に、たとえばコナラやクヌギ 等では、雄の花が異常なほどに大量について、雌の花がほとんどついていない、それど ころか葉も少量しか開かない、というような個体をみることがあります。あれって、雄 の個体になりかかっているのかなと思って見ているのですが、どうなんでしょうか。 そしてもうひとつのパターンが普通に見られるように、ひとつの花にオシベとメシベ があるという花の形です。この花の形がやはり一番多いのではないでしょうか。 このように花がいろいろなパターンを持つのは、一般的には、花粉のやり取りをして 、遺伝子の交換をすることを優先して、できれば同じ個体内での交配をしないようにし ているということがあげられます。自花受粉はさけるわけです。同じ花の中ではオシベ とメシベがあっても、花粉が機能しない(受精しない)というものも多いのです。 よく例にあげられるのは、秋の七草のキキョウです。山で自然な状態で生えているの を見る事はほとんどできませんが、栽培されていたり、切り花として花屋さんで売られ ていますので見て下さい。つぼみがふくらんできた状態では、花びらがあわさって、ボ ンボリのような状態になっています。その花が開くと、花の真ん中におしべとめしべが くっついたような形になった1本の軸が見えます。やがて、そのおしべとめしべが離れ て、5本のおしべが5方向に開いて花粉を出すようになります。この時、まだめしべは 熟していません。やがて、おしべは花粉を出し終わって、花びらにくっつくようにしお れて倒れてしまいます。そして次にめしべが先端が五つに開いて花粉を受け入れるよう になります。キキョウの場合には、おしべの形で、雄の時代と雌の時代とがはっきり区 別できます。 春の花ですが、モクレンの仲間は、めしべの集団の回りをおしべの集団が取り巻いて います。ホオノキやタイザンボクなどでは、花びらが少し開きかける1日めにはめしべ が開いて花は雌の状態です。二日目からは花びらは完全に開き切って、その時にはまわ りのおしべが花粉を出しはじめています。雄の状態です。おしべは花粉を出しはじめる と根本からぽろぽろと倒れ、はなびらのお盆の中は花粉まみれで、この花粉を食べに来 る甲虫類の食堂になります。もちろん横には咲きはじめたばかりの雌の花があるわけで 、からだに花粉をつけた虫達がその雌の花を次におとづれることになります。 夏に咲いているクサギでは、花が開いて最初のころには、めしべは短く、おしべは長 く伸びて花粉を出します。翌日にはめしべが長く伸びて、花粉を受け入れる状態になり 、反対におしべはくるくると巻いて、めしべの位置から離れた状態になります。雄の花 から雌の花に変化した事になります。 このように同じ花の中におしべとめしべがあっても、その熟す時期が違っていて、雄 と雌の花を区別するようにしている花がかなり多いようです。そういうことを説明した 本も多いですし、実際に花の中をのぞいてみてください。また同じ様な事は同じ個体に 雄の花と雌の花を別々に咲かせる植物でも起こっています。 そしてこんな植物の工夫とはまた違って、自花受粉を一種の保険として行っている植 物もあります。 ツユクサは2種類のおしべと1種類のめしべを持っています。花が開くと飯部が開き ますが、黄色い花粉が目立つのは花の奥にあるおしべで、虫はそのおしべをめざして花 粉を食べにやってきます。ところが虫が花に来ると目立たない方の長いおしべが虫の腹 にあたり、花粉を虫の体に付ける事ができます。実はこの短い目立つおしべの花粉は実 は花粉としての能力のない、虫をだますための仕掛けだそうです。 そして昼過ぎぐらいになってくると、長く伸びためしべとおしべが一緒になってくる くると巻きはじめて、 めしべの先端におしべの花粉がつきます。これは虫がうまく花粉を運んでくれなかった 時の保険として、念の為に花の最後に自花受粉をしようとしているのだろうと思われま す。もし事前に虫が他の花の花粉を運んでくれていれば、その他の花粉で受精し、それ に失敗した場合には、自分の花の花粉でとりあえず種子を作っておこうというわけです 。ツユクサの場合には、午前中の花の様子と午後の様子とが違うのが分りますので、観 察会の朝一番で見ておけば、解散の時には、その様子が変っているのを確認できまるで しょう。 (布谷 知夫) |
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