大阪連絡会情報誌・じねんじょレターズ(52号)

<自然観察のテーマ・50>
蓮如はんの歯がた
布谷 知夫
 蓮如上人は滋賀県とも縁の深い方で、琵琶湖博物館がある滋賀県草津市の周辺にもその足跡があります。蓮如上人と呼ぶよりも、より親しみを持って「蓮如はん」と関西風によんでいるようです。

 博物館の準備室の時代に、「蓮如はんの歯がた」というものが持ち込まれたことがあります。ただしこの歯がたは、ヨシの葉についた「歯がた」模様でした。ヨシの葉のやや先のほうにうすくジグザグの模様が入ったもので、守山市のヨシの葉には必ず入っている模様であるが、これは何なのか、ということでした。蓮如上人の生涯をご存知の方であれば、彼が京都を追われた後、しばらく守山市の「金が森」というところに滞在するのですが、やがてそこにも追っ手が来て、北に落ち延びて行きます。その時に、あまりにひもじいのでヨシの葉をかんだその跡がついて、以後守山のヨシにはその歯かたがついているといわれています。

 自然観察のテーマとして、ササの歯の上に小さな穴が並ぶ、というのがあり、あれはどうしてできたのか、ということを考えるというものがあります。ササの葉の穴の正体は昆虫の幼虫であることはわかっているので、最初はそれと同じようなものかとも思いました。ササの葉の穴を見たことがない人に対しては正体を知らせてしまうのは気の毒なのですが、ササの葉がまだ若くて強く巻き込まれた形で立ち上がってきたときに、その巻いた葉がかじられた状態で開くと、線状に小さな穴が並んだようになります。よく見ると、穴の大きさは一様ではなく、やや大きいものからだんだんと小さくなっているのがわかります。細く巻いた外側が大きい穴になって、内側は小さくなっているわけです。

ササヨシ歯形

 ところがこのヨシの模様では穴は空いておらず、折れ曲がってできたような感じの模様でありながら、実際には折れてできたものでもないのです。初めて見たときにはいったい何であるのかがまったくわからず、そのままになってしまいました。そしてずっと忘れていたのです。

 琵琶湖博物館が開館して、またこの歯がたに出会いました。博物館が建てられたのは草津市の下物町(おろしもちょう)というところなのですが、敷地に面して守山市になるという場所です。この敷地に生えているヨシに例の歯がたがついているのに気がついたのです。地理的にはほとんど守山市なのですが、とにかく隣の草津市のヨシにも歯がたがついていたということになります。そして気になって各地で見ていると、どこに行っても探せばこのヨシの葉がたが着いているようなのです。いつぞやの大阪連絡会の淀川の観察会でも、やはり淀川のヨシにこの模様があることを確認しました。どうやら蓮如上人とは関係なく、どこのヨシにでも見られる可能性があると思いました。

 そしてさらに、もっとすごいことが話題になるようになりました。ヨシとごく近い種類で、ツルヨシという植物があります。ヨシとツルヨシとの違いは、ツルヨシには地上にほふく茎ができて、地上に立ち上がる茎と地表に這った茎とがあることです。ヨシは地下茎がありますが、地表にはほふく茎はありません。実はほかにもちがうところがあるのですが、はっきりとした違いはこの点だとされています。ところが、ほふく茎があるヨシといわれるものがあったり、ほふく茎がないツルヨシがあったりするという報告が出始め、ヨシとツルヨシの雑種がある、あるいは実はヨシとツルヨシは同じ種なのだ というようなことまで言われるようになってきました。そこでこの歯がたの

ヨシ茎


有無で、ヨシとツルヨシとが区別できないだろうか、と考えたわけです。そんなことを考えながら、またまた時間がたってしまいました。ツルヨシが近くにはないために、その確認をしないままで時間がたってしまったのです。

 そして今年の夏に、ついにこの「蓮如はんの歯がた」の正体を(おそらく)つきとめました。今年のあの暑かった真夏のヨシの観察会のことです。場所は近江八幡市の西の湖でした。

 ヨシの葉に不思議な模様があることを紹介しながらヨシの歯を観察していて、最近になって伸びだした新しいヨシがあることに気がつきました。その新しく開きかけているヨシの葉にも、新しい歯がたがついています。ところがその歯がたの位置が、ヨシのひとつ上の節の位置と同じなのです。完全に開いている葉についても、茎にぴったりとつけて位置を確認してみると、やはり歯がたの位置は、上の節の位置と一致します。どうやら歯がたは、節の少しふくらんだ部分に押さえつけられてできた葉の「きしみ」の結果できた跡であるようです。

 イネ科の葉は、節について、普通の葉の柄にあたる部分が茎を取り巻いて鞘とよばれる部分になり、葉身の部分が開いて、横に広がります。若いときには葉身の部分の茎を取り巻いていますので、そのときに押さえつけられてついた跡なのだろうと思います。

鞘柄

 このことについては、もう少し調べてみたいことはあるのですが、はじめてこの歯がたを見たときに、普通に、すなおにヨシ原に行ってきちんと見ておれば、きっとすぐにわかったはずなのに、と後悔することしきりです。

 念のために。ヨシの茎の先のほうには、最初に先端で広がった葉なので、おそらく歯型はないということになります。ササとは葉の位置が違うことに注意ください。なお、地元では「葉型せんべい」などというお菓子も作られて、多くの人が知っている(?)模様であるようです。(布谷 知夫)




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