2003/7/12
しばらく更新しない間に管理人が何をしていたかというと、実は、手持ちのCDを手当たり次第にCD-Rに焼きなおしては、例の怪しげな「波動処理」を行っていたのである。
CD-Rに焼きなおして「波動処理」を加えることで、CDから「CD臭」が霧消してしまう理屈は結局謎である。しかし、もう理屈なんかどうだっていい。とにかく、音に不満なCDほど、この処理で変貌を遂げるのは、驚くばかりである。
我が家には、80年代のCD時代の幕開けにとりあえず作ってみましたというAADのCDが何枚かある。当時は録音・編集・製品化まで全部デジタル(DDD)を使ったCDは少なく、売っていたのは、たいてい、AADとかADDというアナログ録音の焼き直しCDであった。中でもAADというのは、Analogue-Analogue-Digital の頭文字をとったもので、録音も編集もアナログで行ったマスタ・テープをデジタルに移しただけのものである。
AADのCDというのは、要するに、時間がないから、アナログレコードになる前のマスタをそのまま使ってCDにしたものだが、実は今となっては貴重な存在である。ADD(デジタル・リマスタ版)の場合は、オリジナル録音をデジタルで編集しなおす都合上、オリジナルのアナログマスタとは完全に同じものにならないことが多い。音の位置、各楽器の音量などが微妙に違うのである。その点、アナログマスタのAADならLPレコードで出た当時とまったく同じ音のバランスが保たれている。
ただ、このAADのCDは、一般には、音が悪いと信じられている。管理人もそう思っていた一人である。なにしろ、ヒスノイズが目立つ、ピッコロなどハイトーンの木管楽器がこもる、弦楽器がヒステリックで紙くさい、低音部が粗雑、弦をはじいて弾くタイプの楽器のニュアンスが不足して、金属弦、ガット弦の違いが出にくい、などなど、不満をあげたらきりがない。アナログ編集というのは、要するにアナログテープからアナログテープへのコピー編集だから、その間の音質劣化は当然ある。それに、当時やっつけ仕事で急造したCDは、プレスされたのがもう20年も前のことである。アルミ蒸着の質も今と比べて劣っている。管理人宅の古いCDの中には、ピンホールがあるものもけっこうある。
そんなAADで作られたCDの中の一枚にフュージョン系のアコースティックギタリスト、アール・クルーの同名アルバムがある。たしかこれはデビューアルバムではなかったと思うが、1970年代の後半にブルーノートが軟弱路線を敷いてから最初に大ヒットしたものである。ちなみに当時ジャズ喫茶でこれをリクエストして周りの顰蹙を買ったジャズ初心者は多かった。
プロデュースが映画音楽系のデーブ・グルーシンだから、バックにはストリングスが多用してあるのだが、この弦の合奏が「紙くさい」。別の言葉でいえば「ぱさついて潤いがない」。この紙くさく安っぽい弦の伴奏おかげでせっかくのアコースティックギターの響きが台無しである。
そこで、このCDをCD-Rにコピーして「波動処理」を加えてみると、あら不思議。弦は潤いを増し、音場が広がり、生の録音空間が見えてくるようである。音場全体がやわらかくなったような印象で、弦には紙くささなど微塵もない。なんだか、印刷の粗いグラビアのカラーコピーを見ていたのが、急に業務用大判カメラでスライド撮影した高精彩生写真に変わったような感じである。空間は音で埋め尽くされている、かと思えば音響処理で加えたエコーがどこからどこまで効いているかがわかったりもする。こうなって初めて弦の存在がアコースティックギターをサポートしている意味がわかるといえば大げさか。管理人宅のメインスピーカであるYoshii9はいわゆるスタジオモニタではないが、出てきた音はスタジオのモニタ・ルームで聞く音と傾向的に良く似ている。なんというか、生っぽいのである。元のCDとこれをコピーして「波動処理」を加えたCD-Rを、知らずに聴いた友人は、マスターが違うのではないか、つまり、CD-Rの方はデジタルリマスタ版だろうと言ったくらいである。
最近のデジタル録音、デジタルマスタの盤ではそれほど差が出ないだろうと思ってやってみると、これもまた違う。クラシックのピアノソロのCDでは、ピアノの低音弦のリアリティが雲泥の差なのである。波動処理したCD-Rの方は、低音弦を叩くたびに、弦へのアタック音とグランドピアノの複雑な胴鳴りが伝わってくる。これに比べるとCDの方は低音弦がエレキベースのようである。また、不思議なことに、CDの方はいくら「波動処理」を加えてもあるところまでしか良くならないのに、CD-Rに焼きなおしたものに「波動処理」を加えると、なぜか一気に音質が生々しくなる。もともとYoshii9の低音に不満のない管理人だが、「波動処理版CD-R」にするとこんな音がYoshii9から出てもいいのかというくらいのリッチで深い低音が出てくる。まるでウソのようである。
CD-Rを波動処理するとCDに記録された音が生々しくなるメカニズムは、前回、前々回と管理人なりに推理してみたが、そんなことはもはやどうでもいいような気分である。持っている音源のすべてを聴きなおしたくなるというような興奮は、そうあるものではない。というわけで、管理人は、手持ちのCDをせっせせっせとCD-Rに焼き直していたのである。
昨今はCD-Rも安くなって、台湾製の無印のCD-Rなら一枚あたり50円以下で買える。そんなに安いのは音も悪いのではないかと思うかもしれないが、なに、悪いのは歩留まりだけである。50枚まとめて買った中に書き込みに失敗するのが2,3枚あるだけで、「波動処理」をした後の音は音楽用の高いものも、安売りの台湾製も区別がつかない。
ただ、1枚あたり50円増しでCDの音質が格段に向上するといえば、聞こえは実にめでたいが、実際は「波動転写機」ン万円という元手が要ることも確かである。また、音質的に再生機器を選ぶかもしれないので、万人にはお勧めできないが、それでもなんとなくこの喜びをだれかと分かち合いたい気分の管理人である。