タヌキの社会

2年間の私のタヌキ研究より、タヌキの社会を考察してみました。
1.タヌキの社会構造

 この調査地では、タヌキの社会は、ペアタヌキと単独のオスからなっていました。ペアタヌキは、メスが子を産み、子育てがうまくいけば、その年の秋までは子どもを連れた家族が単位になると思われます。単独のオスは、産まれてくるタヌキの子が、オスの方が多いために生じるものと考えられます。 タヌキの社会の特徴は、お互いの行動圏が重複することです。タヌキの行動圏の分布をみると、谷の中心部の民家が点在する場所にペアタヌキの行動圏がならんでいます。そして、その周りの山ぎわの方に単独のオスがひかえています。ペアタヌキの行動圏の中には、民家の残飯捨て場やトウモロコシ畑、水田などタヌキの主なえさ場が集まっています。えさの密度が高く、子どもを育てなければならないペアタヌキにとって、安定したえさの確保が約束されている場所です。しかしながら、人間や飼い犬、同じえさ場を利用する野犬などにおびやかされる心配も大きい場所です。実際に、トウモロコシ畑にしかれられたワナにかかるタヌキや、交通事故にあうタヌキも多く、何頭か目にしています。このような不利な条件や危険があるにもかかわらずペアタヌキは谷の中心部に住み続けています。また、この危険からはその気にさえなれば(山ぎわに住めば)逃れられるにもかかわらず谷の中心部に住み続けています。これは、これらの危険以上に、豊富なえさや身を隠せる場所がタヌキにとって魅力的だからだと考えられます。自分の環境について、よく学習し、どこに何があるかわかるようにし、用心深く 生活すれば、タヌキにとって充分に価値のある場所は、むしろ民家の周辺なのだと思われます。 タヌキの主な食べ物は、残飯やトウモロコシ畑のトウモロコシの実、水田に大発生するカエルや、一度にたくさん実るクワの実などです。これらの食べ物は、季節的に、突然あらわれるものです。また、一所にたくさんあらわれます。季節的な、大量のえさは、争うことなしに、そこに住むタヌキの家族やグループで利用するのが、そこに住むタヌキたちが子孫を繁栄していくためにも良い方法だと考えられます。 山ぎわにひかえている単独のオスたちも、季節的な、大量のえさを求めて、夜になると谷の中心部にやってきます。これが、谷の中心部に行動圏をかまえるペアタヌキと、行動圏をだぶらせる原因です。やはり、谷の中心部にえさ探しにやってきた、となりに暮らす単独オスと行動圏をだぶらせることもあります。そして、朝方までえさ探しをしたようなときは、谷の中心部に泊まり場をとることがあります。したがって、谷の中心部のえさ場に近い石づみの中やチョウセンニンジン小屋を利用した泊まり場は、日を変えて何頭かのタヌキに利用されています。他のタヌキがその泊まり場を使ったことがにおいなどで確認できれば、その泊まり場は使えることがお互いにわかるのだと思われます。その方が、日の出前の限られた時間内に新しい泊まり場を見つけるより、効率的で安全なのです。タヌキの場合そのねぐらともいえる泊まり場は、穴を掘るわけでもなく、何の労力も必要ありません。ただ、身を隠せればいいのです。その日の泊まり場は、その日の日の出前にどこにいたかで決まるといってもよい のです。しかし、単独のオスは、谷の中心部に長くとどまることは少なく、ふたたび山の中や山ぎわの沢の中に入ってしまいます。これは、谷の中心部にペアのタヌキが行動圏をかまえていることへの遠慮か、あるいは、単独のオスが若いタヌキであるため人間や飼い犬などに慣れておらず警戒しているためではないかと考えられます。この調査では、谷の中心部に行動圏をかまえるペアタヌキのオスがどこかへ行ってしまったあと、そこにしばしば姿を現すようになって、しまいにはそこに行動圏を移してしまった単独オスを観察しました。この例のように、山ぎわにひかえている単独のオスも、食べ物の豊富な谷の中心部を手に入れたいと、常に機会をうかがっているのかもしれません。タヌキの社会では、えさの一番豊富なところをペアタヌキがとり、単独オスは、そこに出稼ぎにくるという形をとっています。えさ場にしても、泊まり場にしても生活経験の豊富なペアタヌキの利用したところがタヌキにとって、もっとも価値があると思われます。このペアの行動圏を中心に、それぞれのタヌキの行動圏が分布しています。 えさ場とともに、行動圏の重複がみられるのはためフン場です。ためフン場は、そこに住むタヌキの最新のえさ情報や付近のえさ場を何匹のタヌキが利用しているか、あるいは付近のタヌキがいなくなったことなどを知る情報交換の場所であると思われます。 タヌキは、行動圏が重なるわりには、境界線や重なる部分での争いがほとんどみられません。この調査でも、えさ場でタヌキがキツネを追うのを観察しましたが、タヌキ同士の争いは全く観察しませんでした。同じ日に、同じ残飯捨て場やトウモロコシ畑、水田などを利用することもしばしばありました。しかし、えさ場へは時間を変えて訪れるなどしており、お互いに出会う場面が観察できませんでした。おそらく、タヌキはにおいやためフン場からの情報などにより、お互いの位置を知っているのではないでしょうか。例え、家族でないとしても争いがおこらないようにお互いに気を使いながら、同じえさ場やフン場を使うのも、タヌキ社会の特徴のひとつではないかと考えます。タヌキは争いを好みませんが、単独で生きるという生き方もしています。それには、人間の利用、お互いの利用という“もたれあい”が必要です。タヌキは、その用心深さで、人間や他のタヌキのことをよく理解して、その行動を予測しながら生きています。人間や他のタヌキの生活のすき間をぬって慎重に行動しているのです。 それにより、つねに時間に差をつけながら、相手の間をうかがって、ペアの行動圏、単独オスの行動圏を重複させ、ペアの行動圏を中心にかまえるような形をとっています。 タヌキはイヌ科の動物ですが、体の形やつくりが他のイヌ科の動物と大きく違っています。したがって、タヌキはイヌ科の動物の中でも原始的ななかまだといわれます。このタヌキの社会構造は、イヌ科動物にみられる社会の基本ではないかと池田さんは述べています。この調査で確認することができた同じえさ場を利用することによって生じる行動圏の重複は、たとえ同じ時間に出会うことがないとしても、イヌ科の動物の群社会が発達していくもとになっていると考えます。

2.身近な動物タヌキ
 タヌキに発信器をつけて、その行動を追うことにより、タヌキの行動圏がお互いに重なることがわかりました。そのわけについて、わたしが観察できたことをもとにして述べてきました。しかしながら、タヌキについてはまだまだわからないことがたくさんあります。もっともっと研究が進み、たくさんのことがわかればと思います。  タヌキは、人間の生活が豊かになり、食べ物をきれいに食べずに残飯として捨てる量が増えるにしたがって増えていくと思います。また、人間の生活圏に、より近づいてくると考えます。したがって、タヌキが自然の状態以上に増えることや自然の状態以上に人の生活圏に近づくことは手放しで喜べることではありません。みなさんもタヌキの交通事故死体をしばしば目にすると思います。タヌキが自然の状態でいつまでも暮らせるようにするためにも、みなさんは食べ物を大切にして、残飯をあまりださないようにした方がよいのです。いずれにしても、タヌキは人間の生活に、かなり身近な動物になっています。タヌキは畑の作物を拝借したりして、昔から、人間の生活場所をうまく利用して生きてきた動物ともいえます。表4に、上田市と小県郡丸子町、南安曇郡堀金村で行った哺乳動物の目撃アンケートの結果をあらわしました。今まで見たことのある哺乳動物を答えてもらったのですが、どの地域でもタヌキは上位の方でした。とくに、上田市や丸子町のような人口の多いところで平均55%と見たことのある人が多かったです。これも、タヌキが人間の生活を利用しているひとつの証拠かと思います 。
図・表は略させていただきました。
 以上、2年間の調査でわかったことより、タヌキの社会を推測してみましたが、まだまだわからないことが多いのが正直なところです。どうかご批判いただけるとありがたいです。


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