OFFTIME ホっと一息
花酵母のお酒
多少程度の差こそあれ、授乳期の母親というものは概してかたくなである。
根が生真面目な私は、妊娠中から子供が母乳を卒業するまで、ただの一滴も
飲まない完全禁酒生活を貫いた。
妊娠中にお酒を飲むと、胎盤を通じて胎児にもアルコールが届いてしまい、
場合によっては大きな影響を及ぼすとも言われており、生まれてからも、母乳
を通じて赤ん坊にアルコールの影響が及ぶ可能性があるからだ。
育児休業が終わり、職場復帰しても、ワンパク長男との格闘に明け暮れ、ある
のは泥に沈み込むような睡眠欲だけ。飲み会に参加することはほとんどなく、
二人目の子にも母乳を与え続けたため、相変わらずの完全禁酒生活だった。
そんな私に「人生には酒という魅力的な存在もある」ということを思い出させ
たのは、“花酵母造り”という三種のお酒である。
多くの日本酒は、「協会酵母」という公的機関から頒布される優良酵母を使って
作られるが、それ故に各々の個性が出しにくいとも言われる。
諏訪酒造では、香りや味、風情に特徴あるお酒を生み出そうと、タンポポ、バラ、
アザミの花から特殊な方法で酵母を分離し醸造したのだ。
出張先でこれらのお酒を目にし、忘れかけていたお酒好きの心が呼び起こされた。
「ちょっとだけ・・・ね。」
おそるおそるグラスの中の液体を口に含む。
凛として、バラのごとく・・・。
この佳人は ぴーちゃんです。
タンポポは太陽をそのまま花にしたような風情だが、「たんぽぽ」の酒は花を蜜に
漬けたらかくやと思わせる、とろりとした甘さ。涼やかで凛とした感じの「あざみ」
のお酒も、やや酸味が強く高貴な感じの「ばら」もいい。
お土産に買い求め、キーンと冷やして夫に勧める。昨夜は「たんぽぽ」、今宵は
「ばら」だ。
「どう?美味しい?」
すると、無言で味わっている夫の側で、長男がおどけて言った。
「ばらのほうがからいね!」
何ということだ。母が涙ぐましい努力で完全禁酒を貫いてきたというのに、長男は
昨夜のうちにこっそりと舐めてしまっていたらしい。
蛙の子はカエルである。大人になって一緒に飲む日も、そう遠くはなさそうだ。
日刊工業新聞社 オートメーション 2002年12月号Vol.47 No.12 p80 掲載
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いろいろ素材ありがとうございます
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