第7回学習会 平成9年9月3日
多摩の緑の中で農地の占める大きさはすこぶる大きい。いま、都市計画部局では、緑の基本計画づくりを推進しているが、すでに策定がなされた武蔵野市や武蔵村山市の計画上でも生産緑地を核とした農地は欠かせない緑としての位置づけがなされている。
しかし、高齢化の進行や後継者の不足によって市民が求めるだけの緑を維持しえないという農家の側の事情もある。今後は、市民と農家とが手を携えて地域の「公共資源」たる農地を保全するシステムを築いてゆかなければならないであろう。
今回は、北多摩で雑木林を守る運動を続けている市民団体、北多摩自然環境連絡会の宮崎啓子さんをお招きし、市民運動の視点から多摩の緑を守っていくための示唆を頂いた。
こんばんは。北多摩自然環境連絡会の宮崎です。今日は講師としてではなく、是非みなさんといっしょに緑の基本計画等の話をして、どうやって都市の樹林地が守ったらいいのかを考えてみたいと思います。
私は田無市の住民ですが、市内には70年位かかって作られた東大の10万坪の農場があるんです。3万坪が演習林、7万坪が農地です。演習林には、昭和初期から見本林として針葉樹100種、広葉樹300種が植えられ、下草やそこに棲息する虫たち等の豊富な遺伝子資源も残っています。
ところが、田無市議会から、この東大農場を東京都に買い上げてもらってスポーツ公園にするという計画が持ち上がりました。この田無の貴重な自然を残したい。どうしても守りたいと願う市民の間で運動が始まりました。それが、「東大農場の存続を願う会」の発端です。
会が催した初めての見学会では、田無市だけではなく近隣市を含めて140人が集まり、東大農場が都民共有の財産であるとの認識が広まりました。
また、そこでの出会いからスポーツ公園建設の計画が、広域行政圏協議会からの要望で出ていることも初めてわかりました。「行政が広域で連絡会を作っているのなら、市民の側でも広域連携をしよう」ということになり、1日で6市の自然保護団体が集まり、出来たのが「北多摩自然環境連絡会」なのです。
実らなかった相続税猶予制度創設の署名運動<
会のメンバーには自然好きな人間が多くいます。ウオッチングと称して、東久留米市の湧水や清瀬市の雑木林など各市内の自然を見てまわりました。
ところが、東京都が「雑木林の道」に指定し、清瀬市の保存林にもなっていた雑木林に、ある日突然「マンション建設予定地」の看板が出現しました。民有地であるため相続が発生したのです。地主は市に買取りを請求しましたが「お金がない」とのことで、開発を止められず、結局マンションになってしまいました。
北多摩北部に残る樹林地は全面積に対して5.9%しかなく、うち70%が民有地です。「民有地の保全がされない限り多摩の緑は守れないのではないか」。こうした認識が私たちに生まれました。そして、勉強を続けてゆくうちに、緑の保全には色々と多くの問題はあるが、中でも相続税制度が最大の問題であることが見えてきました。「お年寄りを見かけたら近々宅地になると思え」というわけです。
そこで、平成7年5月から市街化区域内の民有樹林地をターゲットに相続税と固定資産税猶予の請願運動を始めました。6月4日の朝日新聞に署名運動の記事が掲載されるやいなや、その日のうちに電話が鳴りつづけ、「がんばってくれ」という激励やら「いかに自分の林が失われたかの体験談等」92件もの連絡がありました。緑の喪失を憂いている人たちは予想以上に多かったのです。あまりの反響の大きさに問題の重要性を再確認しました。結果として全国から事務局に集まった署名は5万名にものぼったのです。
申請を行った北多摩6市では全市で請願が採択され、独自に行った2市を加え、最終的には8市(清瀬、小金井、小平、田無、保谷、東久留米、東村山、東大和)から国の諸機関あての意見書が出されました。また、都議会でも全員一致で採択を得て、8年3月28日付で都議会議長名で「都市の樹林地保全のための相続税猶予等の制度創設に関する意見書」が関係各大臣あて提出されました。「なんとか、なりそうだ。これが広がってゆけば、道が開けるのではないか」との感触を得たのはこの段階です。しかし、そこは市民が無知で甘かったのです。国会では委員会に先立つ理事会で全会一致にならなければ委員会審議は行わないという制度があり、衆議院大蔵委員会、地方行政委員会での採択決定は保留され、5万名もの署名は門前払いでお蔵入したのでした。
14団体が連携してシンポジウムを開催する
聞くところによれば、これまで大蔵委員会に出された事項で審議された懸案は1件もないといいます。大蔵省の壁は予想以上に厚かった。「十年はかかる」と息が長い気持ちで始めた運動ですし、長期的には税制改革は絶対に必要であることわわかるんですが、ちょっとやそっとでは税制が変わることはとても期待できません。そして、目の前の緑はどんどん無くなってきているのです。悠長なことは言っていられません。
東京都の緑の倍増計画も、一人あたりの公園面積など数字の上では目標を達成しているのですが、多摩地域では公園が増える割合をはるかに上まわるペースで農地や樹林地が失われています。昭和62年から平成4年までの5ケ年の変化を見てみると、公園面積が103haしか増えていないのに、失われた農地と樹林地は、それぞれ1300haと1200haにも及びます。この20年では、失われた緑地は田無市2ケ分にも相当するのです。
昔は雑木林の落葉は堆肥として農地で利用され、森と農業とは一体でした。しかし、いまはそうではありません。しかも、農地の部分については、生産緑地制度によって一応は保障されている。だから緑を守る運動は樹林地から始めよう。それが私たちの当初の認識でした。しかし、緑が減る状況は深刻で、生産緑地になった農地も買取り請求が出されると1割弱しか買取られていません。樹林地とそれに付随する農地を守らないと多摩の緑を残せない。
そこで、農業と一体となった緑を守ろうという主旨で「多摩の雑木林を守るシンポジウム」を開催することにしました。シンポジウムには、私たちの連絡会だけではなく、大地を守る会やTAMA農のあるまちネットワーク研究会など14もの多彩な団体の賛同を得て、実行委員会方式で行われました。そして、単なる一般的な市民啓発ではなく、私たち市民側から何か具体的な政策提案を行うことがシンポジウムの目標となったのです。
緑の基本計画に関わろう
6月15日、府中多摩交流センターで開催されたシンポジウムには115名もの参加者があり、盛大に幕を閉じました。特に、午後の部では「税制度」「防災面」「地域循環型の農業」の三つの分科会にわかれ、テーマごとに問題点が掘り下げられました。
このシンポジウムの結果、長期的には税制の改革が必要であるとしても、短期的中期的に市民がまず取り組めることとして提唱されたのが、緑の基本計画です。これを中心に関わってゆこうということが提案されました。現在、策定されているのは墨田区、武蔵野市、武蔵村山市の三区市だけですが、すべての市でいま計画中です。計画は、市民参加を前提としていますから、まず、行政の緑の基礎資料を手に入れる。そして、市民が参加する中で、緑の基本計画を実効性あるものにしていきたい。そう考えているのです。
不十分な農業予算に幻滅
例えば、シンポジウムでコメンテーターを務められた法政大学の大和田先生からは次のような意見をいただいています。「最近はどの市も環境と福祉を行政目標に掲げている。しかし、理念は多数あってもその予算は非常に少なく、スタッフの面でも不十分である。ハケ・雑木林・農風景がセットで残ることで緑の価値は倍増する。都市計画だけではなく、農政、教育、環境などがシステム的にからみあって緑保全の総合政策を作らなければいけない」。
実際、田無市でも市域の1割以上が農地です。その農地をどうするかが緑の基本計画に入らなければ駄目なわけで、田無市の農業委員会の方にあたってみました。しかし、「基本計画は都市計画がやっており、我々は関与していない。環境部も今は参加していない」とのことでした。また、市の農業委員は15人おり、うち10人が農家なのですが、市全体の総予算240億円の中で農業予算は4千万円しか組まれておらず、うち854万円が委員会費。つまり人件費なのです。農業振興費はわずか476万円で農業に対する施策が実にお粗末であることがわかりました。田無にしても、保谷にしても農地の面積は1割に及ぶのに、こんなわずかな経費で本当に農地の保存が可能なのでしょうか。悲観的な思いになります。
また、私たちは農家を訪問します。田無市には専業農家が2軒あるのですが、公民館で8年前の状態を調べたところ、このたった2軒しかない農家ですらも一部を駐車場に変え、12本もあった保存樹林が切られ、うっそうとした屋敷林がなくなっていました。農家同士の連携が取れておらず、加えて時代の変化に対応していける農業者が少ないのです。
必要な行政の支援
さて、話は変わりますが、私は「TAMAらいふ」以来、緑とは別に生ゴミの問題にも関わっています。生ゴミ学習会でいろんな人を呼ぶのですが、三浦半島のようにまとまった農業地域では農家の間に活力があることを感じます。三浦半島有機物再生利用組合では、土づくりにコーヒー滓やしめじ滓などを堆肥化して活用しています。この生ゴミ堆肥を大きく支えているのが、「廃棄物交換システム」です。神奈川県庁が中心となって商工会議所、商工会、横浜市、川崎市、横須賀市などが食品廃棄物を登録・斡旋する非常によいシステムを作っているのです。山形県のレインボープランでも生ゴミを循環するために農家が中心となってかんばっていますし、農地が生ゴミの捨て場ではないことはわかりますが、農家の間でどう土づくりをしたかを話してもらうなど農業者の連携がなければなかなかやって行けない。つまり、リサイクルにしても市民の手ではどうにもならない。行政だけではなく市民運動も縦割りとなっていて、緑の保全をやっている団体には生ゴミをやっている市民団体には情報が来ないのです。
田無市にはTさんという有名な有機農業家がいます。何回も農産物を買いに行ったりして顔なじみになり、「市民の側で一次的に処理してくれるのなら生ゴミを受け入れてあげましょう」というところまでこぎ着けました。行政は試験的に実施するといっても本当に成功する確信がないと関わってくれません。そこで、1ケ月30所帯から出す生ゴミを畑に入れる実験をしてみたのです。
しかし、一次処理が不十分であったのか、堆肥からカボチャが出てきたりしました。うまく堆肥化しないのです。団地92所帯の生ゴミ処理機を入れ、生ゴミを燃やさないで堆肥化する試みを東村山市で私たちの仲間が市民参加でやっているのですが、稼動がうまくいっていません。酵母を入れてみたり、血が滲む思いでやっているのですが、実験や研究の段階で行政に関わってもらわないと市民の手には負えません。生ゴミ堆肥化を進めているベンチャーは企業200もあるそうで、市民にはやってみないとどれがいいのかわからないのです。
農業者・市民・学者の意識のギャップを埋める
さて、いま話をしたTさんですが、シンポジウムに農業者の代表として出てもらおうと思っていたわけです。けれども、堆肥化が上手くいかなかったこともあって、結局参加を断られてしまったのです。「市民運動は結局自分たちの実績をあげるためにだけやっているのではないか。入れた結果がどうなるのかを見てくれないと困るんだ」といわれてしまい、3年間位かけていい関係になってきたと思ったのに残念です。
「農業くらい実践している農民と役人、研究者や学者とのギャップがある仕事はないんだ。農民はいつも虐げられてきた。売らなければ金にならないのだし、これだけ農家が働かず、楽をしたいようになって来ると、相続税の問題もあり緑は残せない」。そうもTさんは言っていました。つまり、相続税のような制度だけでなく、農業者や市民の意識も変えていくことが必要ではないでしょうか。都市の中で1ha以下の小さい農地であるのならば、市民も農家と一緒になって守るようなことをしていかないと本当に駄目なのでないでしょうか。
根源的な女性の感性が大切
だれも緑をなくしたくはないのです。「緑を感覚で語るな」という人もいますが、感性から緑が失われたら本当に恐ろしいことです。
最後に、「宗教と教育」という素晴らしい新聞記事があったので紹介します。日本の教科書は底が浅く、学校教育でこそ、自然への畏敬によって子供たちの情操を養うことが必要だという提言です。女性で環境保全をやる人間が多いのも、ちゃんとした体系的な勉強をしなくても根源的に自然の大切さを女性が知っているからではないでしょうか。山形県の長井町でレインボープランを推進している菅野氏もまず女性を狙えとおっしゃっていました。
もちろん、男性も拒みませんよ。男性が関わっている市民運動は、健全であると言われてますし。私たちの連絡会を影で支えてくれている豊福さんも男性で、都庁のお役人さんです。
INFOMATION
北多摩自然環境連絡会の会員になりたい方の申し込み先は、以下のとおりです。詳細は事務局の宮崎さんまでのお問い合わせ下さい。
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事務局連絡先 |
東京都田無市芝久保1-23-15 |
TEL 0424-64-0657 |
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会費申込み先 |
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東京00480-3-568644 |
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