第10回学習会 平成10年3月11日

生命産業である農業を循環型都市づくりに生かそう

船方総合農場 坂本多旦


 山口県、津和野からタクシーで20分もかかる純農村。そこに、観光客を年間に10万人以上を集める農場がある。有限会社船方総合農場がそれである。坂本多旦(かずあき)さんは農場の代表取締役として地域で非常に多くのことをやられており、全国農業法人協会の会長さんでもある。総理府が設置した内閣総理大臣の諮問機関、食料農業農村基本問題調査会にも生産者を代表して参加している。農林水産省が平成4年に新政策を打ち出すにあたっても坂本さんの意見が参考とされた。 全国的な視野から様々な提言を行い、全国を飛び回られる忙しい中を、今回は無理をいって講演を頂いた。


blue.gif新しいライフスタイル
 話をしてほしいということで今日、駆けつけた。1時間位、東京農場に限らず、感じていることを提案したい。

  私の村の人口は9000人。以前に比べて40%も減少している過疎の村である。仕事で東京へ出ることが多いのだが、東京に3日か4日いると村へ帰りたくなる。つまり、両方のいいところだけを味わっている。都市と農村の両方で暮らす。これからの時代は「複住」が理想的ライフスタイルがなるのではないか。

blue.gif人は都市で満足するとムラへ来たくなる<
 さて、私は昭和35年に就業したが、そのころは作れば売れる時代だった。ところが飽食の時代を迎え、水田転作をするようになるとただ作っただけでは売れない。そこで高付加価値化を考えた。東京で営業マンを8年やって疲れて帰郷した青年が仲間になったのだが、彼の言によれば、加工品を作っても容易には売れないと言う。売るには消費者に知ってもらわなければならない。コマーシャルが必要だが、TVでやるにも金ない。それではどうしたものか。そこで、私たちが山の中ではじめたのは消費者と生産者との交流であった。昔はモノがなかったから、都会が素晴らしく輝いて見えた。ところが山口市でもホテルがどんどん建ち並び欲望がある程度満足されると、今度は土日に村へ来たくなる。それが人間というわけである。

blue.gif農園を解放してはじめた消費者との交流
 私たちの農場には酪農、花、草地がある。「素晴らしいグリーンだ」。訪れた消費者はみな喜ぶ。そこに、入るなというのでは間違っている。そこで十年前の昭和60年に農場を解放した。30haについては農業を大切にして欲しいが、8haについては消費者に自由に解放していいよと。ところが、一度解放すると大変だ。消費者には、農業・農村のルールがわからない。農場の営みがどうされているのかもわからない。例えば、駐車場も舗装していないのだが、消費者は出鱈目に車を止める。10年たって、ようやくきれいに置くようになったが、当時は混雑でどうしようもなくなった。

 お客様は神様だと言っても、生命産業である農業にこの原則を当てはめるのは難しい。草地の環境を守るために農業があるといっても、公園のように管理をするならば、それは公務員でなければ維持出来ないものだ。牛は入りたくて柵の中に入っているのでなく、生産者が無理やり入れている。自然ではない。そのかわりに、我々農業者は日曜であろうと盆であろうと正月であろうと、さぼったら反則である。命懸けで草を守っている。そこを日本人は忘れているのでないか。

 契約販売、無農薬などかっこいいことをいっても病気になったら死んでしまう。そこをわかりあった上で、気に入ったら生産物を出す。お届けしましょう。農場にも1年に8回位遊びに来てねと。消費者にも出資していただいて、株式会社で「グリーンヒルATO」と名付けた交流の場を作った。

 例えば、ここでは600名の野外バーべキューが出来る。大変な人気で、喜ばれる。もちろん、牛の臭いが漂うが、故郷に来るとそれも味になる。それが人間だった。こういう場が成り立つかテストしているわけだ。

 そうこうしているうちに、年間に12万5千人が来るようになった。うちだいたい60%が弁当持参でやって来る。都市農村交流は儲かろうと思ってやったら間違いだ。そういうおつき合いをしている。それが我々の活動である。

blue.gifゼロ円リゾート
 山口県民全体で160万人しかいないのに、年間に12万5千人のお客が来ると言った。船方農場のリピーターはディズニーランドに匹敵する。いま、日本でこれだけ人を呼べるのは、ディズニーランドとハウステンボスだけである。しかし、ディズニーランドを作るには最低でも5千億円の投資が必要である。日本人は金を取ると物事を要求する人種で、金を取らなければ、ありがとうと喜ばれる。金を取るなら取るでディズニーランドのように徹底したソフトで満足させる。つまり、5千億円かゼロ。ゼロは無限である。

blue.gif求められる人間は生き物という視点
 農場を解放していく中で来る人も絞り込まなければならない。私は、OLも中学生もいらない。小学生3年生以下か幼稚園の子供に来て欲しいと言ってきた。それは何故か。いまの日本のように子供をきたないところに入れないで無菌状態で育てると、免疫がない子供が出来る。O157だといって大騒ぎする。しかし、本当に菌が危ないのなら私はとっくに死んでいる。牛飼いなんかみんなそうだ。牛が尾をふれば糞便がいくらでも顔にふりかかる。それでも病気にならないのは慣れているからではないか。どんな菌が来ても大丈夫。人間は生き物だという視点が必要なのだ。

 農場に来る子供を見て気づくのは、すぐにコロコロと転ぶこと。ふだん舗装された道を走っているから、柔らかい土の上では転んでしまう。しかし、子供はすぐ慣れるから心配はいらない。

 ウサギ、ヤギなどの小動物園も設けているが、自分で抱いてみて、あたたかいとびっくりする。中には、ウサギをひっぱたいたり、水槽につけて殺したりする子がいる。だいたい年間5件は殺兎事件がでる。だが、それでもいいじゃないかといっている。

 何故、ウサギを殺すのか。だいたい理由は想像がつく。殺すのは小学生の高学年である。小さい子供には殺気がないからウサギも素直に抱かれる。ところが、4年とか5年生とか高学年になると殺気があるから、ウサギも逃げる。無理に捕まえられると暴れて引っ掻く。掻かれるとムカッと切れて殺すのだ。中学生がジャックナイフで刺すよりはウサギならいいじゃないか。成仏してくれよねと。

 われわれが育った時代は喰うものがなかった。だから、蛇を捕まえて日影干しして、齧って食べる。風船がないから、風船のかわりにカエルのお尻から空気を吹き込んでで殺す。そういうことをしながら、生命の恐さ、畏敬を経験してきた。

 ところが今は、ファミコンやパソコンの世界になってしまっている。つまり、「命」を体験する場がない。パソコンも大事だけと、テレビゲームの中では何回殺しても生き返る。それは疑似体験にすぎない。パソコンばかりやっていて本当に大丈夫なのか。そういう子供たちがどんどん育ってしまうことを都市はどう解決していくのか。

blue.gifビルの町中に牛がいて麦畑があってもいい
 そういう体験の中から、東京農場開発を思いついた。最初に仕事で東京に度々出て来ると話したが、農林水産省関係の仕事が多いのだが、そこで行く度に感じることがある。例えば、日比谷公園。おばさんたちが落葉を集め、それをゴミとして燃やしている。われわれからすれば落葉は貴重なコンポストである。それをゴミにしているとは東京はなんと大変な都市だろう。花もしょっちゅう植えかえている。維持管理だけで6億円もかかるらしい。

 そのうちに都市博中止が全国的にも派手に話題になった。もし止めるなら都市博のあとに東京農場を作ったらどうだろうか。牛を飼ったらいいなと思った。ビルを無くそうといっているのではない。ビルの谷間になぜ牛がいて、麦畑があっていけないのか。また、ビルの上に木を植えると大変だが、30センチも盛土すれば麦畑にすることも可能だ。屋上を全部麦畑にして、東京ビルの地ビールだって出来なくはない。これは冗談だが、とにかく都民は喜ぶ。すごく絵になる心がやすらぐ光景ではないか。とにかく、あれだけ遊んでいるなら有効に使いたい。田舎ものの単純な発想でそう思ったわけである。

blue.gif7人の侍が集まる
 だが、聞くところによれば、臨海副都心の開発には3兆円がかかっているという。そんなことには使えないという。じゃあ、その向こうにゴミ捨て場があるじゃないか。実際に現場を見にも行ったのだが、まさに人々の欲望の捨て場ともいうべき凄い光景だ。しかし、ちゃんとユリカモメは飛んでいるし、生き物がいる。風の谷ナウシカではないが、この荒れた腐海をどう生き返らすことが出来るか。それが出来れば、まさに世界の都市東京として胸を張れると思った。

 もちろん、ダイオキシンがあったりして農地としてすぐ使えるかはわからないが、我々の東京に「命の場」を作ろうということで提案した。仲間に一人50万円出せ。交通費も出さないが、とにかく夢を語ろうと呼びかけた。その結果、7人の侍が集まって、東京農場構想を提案した。

blue.gif安らぐ緑。鎮守の森を作りたい

 東京都の港湾局の担当者に聞いたところによれば、沖合いのゴミ捨て場には22世紀の森を作る予定があるらしい。

 そこで、森についても提案したいが、日本の森は鎮守の森で鶏、ウサギ、豚がいる里山ではないだろうか。

 だいたい東京の緑はきれいに管理はされてはいるが、緊張する緑だ。だが、我々の農場の緑は自然に生えた緑である。台風で斜めになった木もあるが、全体で見るとほっとする。水清く里は魚すまずという。それが人間である。緊張する緑と安らぐ緑。緊張した緑は維持管理にもお金がかかる。税金がなくなったらどうするんだと。

 緊張しない緑を作るのは金もかからず簡単だ。例えば、我々が埋立地にヘリで菜種をばら播けばいい。100万円もかからない。臨海部が再び利用されるまでの間だけでも菜の花畑にしてもらえば、すごくきれいだろう。こう話したところ、東京都の官僚は凄いとおもったのは、そんなことをされると困ると。道路など交通アクセスの基幹施設が整備されないまま、そんな名所を作られたら、人がワーと集まり、都市機能を麻痺させる。大渋滞すると(笑)。

blue.gifディズニーランドの対角線には金をかけない命の場を

 とにかく、そういう命の場が東京にも必要である。ディズニーランドを否定する気はさらさらない。ディズニーランドは何回言っても素晴らしいし、常に新しい何かを提言しているし、感動出来る。しかし、あれはロボットの世界。ならば、その対角線上が生と死の場でないか。生命とゼロ円のリゾート。そういう場があると素晴らしいのではないか。お台場になんであんなに若者が訪れるのか。何かを都民が求めているからではないか。心を休める場が出来るのは金ではない。

blue.gif生ゴミと窒素の循環

 忘れてはならない大切なことは生ゴミの循環だ。大体いまの食生活では2600カロリーの40%をゴミにして出している。外食産業等は合理化システムが徹底されているから期限をすぎた食べ物は廃棄して焼却するしかない。日本人はこれをどう再利用していくのか。生態系に順応したリサイクルしかないではないか。

 また、自給率が42%しかないという課題。今の日本人の食生活をまかなうのには換算すると1700万haの農地がいることになる。ところが、500万haの農地しかない。後は外国から輸入されてくる。ここで一番恐いのは窒素の蓄積。これ以上輸入しつづけると窒素過多で大変なことになるということだ。日本周囲は大変な状況になる。もう一度作ったところに窒素を返さないと地球バランスが崩れる。ところが、堆肥はコスト的に儲からない。これをどうするか。これこそ国の責任だ。国が税金で生産現場へ還元するというシステムも必要になってくる。そういうテーマもこの農場で果たしてみたい。これこそ大都市のテーマではないか。

blue.gif民間が自立経営の中で緑を維持する

 だいたい350億円で日本一の農場が出来る。もし、地代のリース代がかかるとすれば、入場料を取らないと採算が合わないが、金を取る以上は里山の森をテーマにレジャー施設を作る。農業をテーマに多面的機能を出す。自立した経営が出来る生産エリアを作ったらという提案なのだ。

 それでは、事業の推進はどこがやるのか。事業はあくまでも経営体でしくむべきであると考える。ただ、民間だけだと調整がしきれない。だから調整機能としての第三セクターは置く。そういうシステムが必要ではないか。公共と民間とが連携してどう金をかけずに生命の場が出来るか。そこをなんとか工夫する発想をすれば、すばらしいことではないか。もちろん、350億円を一気に投資して作れと言っているのではない。15年も20年もかけながら、場づくりをしたらどうかということ。そういう思いで提案している。

blue.gif6次産業の時代

 これまでの国づくりでは地方も東京の恩恵を被ってきた。しかし、いまや戦後の復興というエネルギーがなくなった。ありとあらゆる産業が曲がり角に来ている。これからの時代はこれまでどうりにはいかない。戦後日本ではなく、どう21世紀の日本を作るか。

 私は、これからは第6次産業の時代であるといってきた。21世紀は第1次、第2次、第3次産業がどう連携するか。つまり、1×2×3=6で、6次産業、生命産業の時代だということを述べてきた。それが東京農場を発想した原点でもある。

 これは私の一人よがりではない。成田市ではもう議論をはじめているし、大阪は大阪でバブルで腐っている企業の土地をどうするかで悩んでいる。大阪府はオリンピックを手をあげたがテーマがない。そこで、6次産業をと。要するに、全国の都市から6次産業への思いがある。「都市農場」とは何なの。うちでも取り組みたいと。しかし私は、日本では東京からやってもらいたい。

blue.gif東京は日本の首都なり、都民の東京にはあらず

 それはなぜか。東京を愛していることもあるが、東京は都民のものではなく、我が国のリーダー都市だからである。「都民の東京だ」と言われると全国から金集めて一体何をやっているといいたくなる。都民が東京を都民のものだと思うとき日本は沈没する。よそものが生意気をいうなと言われるかもしれないが、東京は日本の首都であるというプライド、リーダーであるという誇りをもってもらいたい。命懸けで議論してもらいたい。

 ちょうど、時間になったので、これでひと区切りとします。


lawngreen.gifINFOMATION
全国農業法人協会のHPの中でも船方総合農場についても紹介がされています。


darkorange.gif都市農研のHP

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