大阪府庁との対談との対談 平成9年3月25日

大阪府の都市農業と都市緑農区制度

大阪府農業振興課 


 東京と同じく都市農業をその管内に抱える大阪府は、平成4年9月に「大阪府農林水産業振興ビジョン」(新ビジョン)を策定し、農業振興を軸に大阪農業の新たな展開領域として、食と緑とをその両翼に掲げてみせた。単に生産部門を充実・向上させるのみならず、生産から流通、加工・食品産業までも含めた包括的な全過程を「食」と称し、農業を人間の生存基盤産業として捉えなおそうとしている。また、農地・森林・水域とそこに生育する生物、さらにこれら自然資源が果たしている教育・文化的機能を人間が文化的に暮らすために不可欠な「みどり」と称し、産業振興行政からより幅広い生命産業行政への転換を提唱している。このようなきわめて哲学的色合いの強いビジョンを基礎に有名な都市緑農区制度やなにわブランドの育成、広域農業公園育成・整備基本構想、水と緑に包まれた共園文化の創造〜オアシス構想(ため池整備基本構想)などが展開されているのである。


blue.gif大阪府はその半分が都市農業地域である
 大阪府では1955年から75年にかけて人口が激増した。 462万人の府民が828万人へと倍増するという爆発的な人口増加にともなう激しい開発のため、60年に45,400ha あった農地が75年には23,800haへと半減する。70年代半ばには、弓の弧を描くような形で大阪府の多くの地域は都市農業地域となった。
 とはいえ、大阪府が東京と決定的に異なるのは、府下の半数の自治体には農振地域がないものの、いまも20市町村が農振地域を持ち、面積にして10,335haもの農地を農振地域内に確保している点である。94年現在の市街化区域内の農地面積は、5,720haでありこれら農地が全体に占めるウェイトは3割にすぎない。
 大阪府では91年8月と11月に生産緑地指定が行われ、当時市街化区域内にあった農地 6,062 ha の41%が生産緑地の指定を受けた。しかし、その内実には厳しいものがある。指定により全体として農地は大幅に減少した。一戸あたりの平均農地面積もわずか12aであり、一筆あたりの平均農地面積は 5aという小ささである。

blue.gif大阪府の都市農業施策
 このような立地条件を持つ大阪府での都市農業対策の出発点は、1973年からスタートした園芸団地整備事業(87年に都市農業振興事業に再編)である。事業は、土地基盤整備や経営近代化施設の整備を助成することにより、産地の育成と生産性の高い経営を育成することを目指した。しかし、いかなる方向へ都市農業を振興するかという明確な方向性を欠いたため、総合的な生産振興には結びつかなかった。また、財政規模が小さいために、拠点的な整備にとどまり、事業の内容も構造改善事業のミニチュア版のいわゆるうわもの主義(単なる生産施設中心の助成)となりがちであった。元大阪府農業会議の橋本卓爾は、その著書の中でこのような批判をしている。

blue.gifビジョンづくりと「都市農緑区制度」の発足
 1983年。大阪府は、社会情勢の変化に対応した農林業の新たな発展とコンセンサスの形成をめざし少数の専門家だけでなく、消費者団体や婦人団体、報道関係機関も加えた大阪府農林漁業振興府民懇談会を設置。これをもとに84年3月に「大阪府農林漁業振興ビジョン」を策定した。ビジョンは農業を、生産面と多面的機能の両面から位置づけ、緑と空間と安らぎを与える産業、資源のリサイクルの場、都市の多目的空間と評価し、生産性の高い都市農業と地域社会に根づく農業の確立をその目標に掲げたため、多くの府民の共感と関心を呼んだ。
 このビジョンで提起され、1985年からスタートしたのが「都市農緑区制度」である。都市緑農区制度は、おおむね2haの農地がある地区において、地権者の3分の2がおおむね10年の営農を続けることを条件に、地区生産者に農地利用計画を策定させ、市街化区域内農地を「都市緑農区」として指定することによって、緩やかにゾーニングし、保存することを目指したものである。指定は、市長が現在の線引のまま府知事の承認を得て行い、農政部局が都市計画部局と事前協議をするシステムとなっていた。
 この制度により、市街化区域内での圃場整備による土地利用調整が可能となったし、都市計画部局との調整も行ったという点で、従来の農業振興施策のフレームを越える先駆性を持ったゾーニング手法として評価・着目を受けた。

blue.gif都市農緑区制度の限界と問題点
 大阪府の都市農業施策の最大の特徴は、基盤整備であれ、施設化のような上もの整備であれ、事業を実施する場合の最低の踏絵として都市農緑区に入ることを条件に課している点であろう。
 例えば、基盤整備事業については、一件ごとに農政部局が財政部局と協議することにより実施されている。もう一つの柱である都市農業振興事業は、目的に応じた次の三つの事業から構成されている。JAや営農集団などに対して1年間で1000万円を40%補助する「地域農業活性化対策事業」。個人的色彩が強い農家対象に2年間で4000万円を50%補助する「高能率生産団地育成事業」。3戸以上の認定農家を対象に2ケ年で6000万円のハード事業を注ぎ込む「経営育成促進事業」(昨年9月に新設)である。
 大阪府の農家数は33,000戸である。このうち3,000戸を認定農家として育成していく方針であり、すでに444名を認定した。むろんのこと市街化区域内にもりっぱな農家が多く、生産量からみても都市農業のウェイトは重いため、都市農家も認定農家の対象となる。このためにわざわざ新規事業を創設したのである。ところが、認定農家の支援のように属人的色彩が強い事業にしても、都市緑農区に入ることを条件としている。
 さて都市緑農区事業である。府では事業の発足に先立ち、10年で45地区、合計480haの指定を想定していた。しかし、蓋を開けてみると要望上は55地区があがっているものの、現実の取組み事例は乏しい。現在までの実績は、市街化区域で10件、調整区域の2件の合計12地区に留まっている。中でも基盤が実施された場合が少なく、数ケ所にすぎない。指定実績が伸びない背景には、以下のような制度上の問題点があるとされる。

(1)合意形成の難しさ
第一は合意形成の難しさである。大阪での都市農家の分化は想像する以上に著しく、わずか2haの緩やかなゾーニングであっても地権者が多く、土地利用についての地元の意向調整と合意形成が難しい。農地があってもそこにリーダーとなる熱心な農家がいるとは限らない。逆に強い営農意欲を持つ個別経営があったとしても、属地的条件を指定要件としているため、これをキャッチできない弱点がある。

 

(2)指定用件の厳しさ
第二は指定用件の厳しさであろう。大阪府においては、市街化区域内で2ha以上の連担性を持つ集合農地は378地区、1,959 haにとどまり(1990年値)、市街区域内の全農地の26%である。大半を占める2ha未満の分散小規模農地が対象とされず、この属地要件で熱心な農家が除外されている点である。
 生産緑地制定にともない、府では調整区域における事業制度はそのままに、市街化区域においては宅地化農地を都市農緑区制度の指定から除外し、かつ生産録地の指定要件を1ha に緩和し、あわせておおむね10年以上の営農継続条件もあわせて撤回した。  それでもこれをみたす団地件数は全体の2%に満たない。
 「現地ではこれを緩和して欲しいという声が高いのではないか」と聞いたところ、「確かに多い」という答えが返ってはきたが、面積用件の緩和に対する歯切れは悪かった。その背景には財政当局との協議の厳しさがあるように思われた。農振地域を十分に持つ大阪府にあっては、農振地域に相当する何らかの「担保」がない限り公的資金を注ぎ込むコンセンサスが得難いのではあるまいか。

 

(3)農地担保力の弱さ
第三は農地保全力の低さであろう。生産者協議会が農地利用計画を策定して、農地の保全と有効利用を図ることになっているが、指定した農地利用や処分への規制(転用制限や先買権の付与等公的規制が曖昧)が不十分であるため、その投資に見合う営農がなされるかどうかは、地元農家と行政との信頼関係しかないことである。生産緑地法の改正にともない、市街化区域ではこの不十分な規制すらなくなった。
要するに、すでに線引きがされた市街化区域の中で、横浜の農業専用地区のようなゾーニング施策を打ち出した点ではユニークであったが、投資に見合う土地規制のなさと、点在的な展開にすぎないことに、その限界があった。

blue.gif都市農業施策の今後の課題
 前述した元農業会議の橋本は、今後、都市農業施策拡充の方向として、次の四つの課題をあげている。的を得ていると思われるので、多少長いが要旨をまとめておく。

(1)農家意向に応じた農地と農家の峻別
第一の課題は、都市農業の著しい分化への対応である。都市緑農区制度の第1号として指定した住吉区住道地区のように営農意欲が強い地域であっても、農外利用を望む声がある。要するに、農家の意向をリアルに見れば、一律に宅地化することも、一律に農地として保存することも現実の実態に即していない。このため、農家の意向を踏まえて、保全する農地と育成する農家を峻別し、明確化する必要があろう。

 

(2)個人経営の支援と面としての農地の保全 (属人的制度と属地的制度の両面作戦)
第二には、分散化する生産・経営拠点に対して、いかに面としての農業を確保するかである。農業の多面的機能からみても農地には一定のまとまりが必要であり、孤立分散化した農業では、その価値は半減する。このため、個々の熱心な経営を守るという属人的な点と線の施策と、一定のまとまった面的ひろがりのある都市農業の保全という属地的な面の施策の組合せによる両面作戦が必要である。

 

(3)自治体による地区土地利用計画への位置づけ
第三は、個々の自治体のきめ細かい再線引や実態的な地区計画の必要性である。農業振興が書かれていても、文面上のことだけであり、一方で同じ自治体が農地を破壊している。景気回復を口実とした開発や水田転作といった都市農業への風あたりの中で、大阪農業を保全・育成するためには、都市住民の支持と自治体の役割が不可欠である。

 

(4)都市住民との相互理解の未熟の解消
第四には、農家と都市住民との連携・相互理解をどのように高めるかである。生産された野菜が周辺住民の胃袋と直結せず、農産物を媒介とした接触や交流がなければ、住民は農業に関心を示さないし、支持しない。周辺にある農業が、自分たちの暮らしや命と具体的に直結してこそ、支持や共感は得られる。そのためには、地域の実態に即した地場生産・流通・消費のシステムを確立させる必要がある。
 また、都市住民による農業ファンクラブの結成も求められよう。すでに府よりも市町村レベルでは、契約栽培や農産物直販事業、イベント等が行われ、都市住民は自ら参加し目に触れる農業を体験している。「市内農業産地バスツアー」「体験田植え」「かかしづくり」「バケツ稲づくり」「新鮮とれとれ市」「わけあり市」「農業祭」などかような事例は枚挙にいとまがない。しかし、一方でトタンや鉄条網に囲まれ美的景観に欠けた農地や荒廃した農地が増えており、施設園芸化により住民に開放されていない農地も増えている。今後は、農業経営の収支性と農園・農業集落のデザインを結合させた生産・経営形態の開発が望まれるだろう。
 例えば、従来の生産振興一本やりの都市農業振興施策から、次の段階である「農のあるまちづくり」施策へとバージョンアップするためには、都市住民参加型の農業ファンクラブの結成も必要なのであるまいか。

【参考文献】
(1)橋本卓爾「大阪における都市農業と自治体」『計画的都市農業への挑戦』(1991)日本経済評論社
(2)橋本卓爾他「都市農業の軌跡と展望」(1994)
(3)発地喜久治「生産緑地制度と地域グリーンシステム」『日本の農号195』(1995)農政調査委員会
(4)アーバンフリンジ研究会「都市近郊土地利用辞典」(1995)建築知識


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