京野菜のブランド化戦略


blue.gif京のブランド化事業の出発の経過
 もともと京都は農業生産県というよりも一大消費地である。農業生産が格段に伸びることは望めない。激化する産地間競争を勝ち抜き、府内産の農産物を有利販売するには、京都が持つ高級・伝統イメージを活用してブランド化を図るしかない。
しかし、農産物の販売面での戦略は弱かった。京都府の野菜生産額は約260億円であり、農業生産全体の26%を占めているが、伝統的に種類が多く多品目少量生産である。京都市中央卸売市場での府内産野菜のシェアは13%と低下傾向にあり、京都市場のいわれるままに動いていた。
 例えば、丹後半島で作られている甘薯の評価が低い。「売れへん」という。小松菜にしても「仰山作ってるが、売れまへん」という。専業農家に夢を持たせるためには、京野菜全体を底あげするためのブランド化のための指標が求められており、知事も高付加価値化を進めるべきだとの発言をしていた。

blue.gif機能分担を明確化した上での立ちあげ
 京は、王城の地である。歴史的伝統もある。神社仏閣での精進料理も盛んである。もともとエンゲル係数が高いことで有名な京都のことだ。お菓子も「鶴吉信」など本物志向の店があり、消費ニーズとしても期待が持てる。もとよりブランド産品を育成するのに実に適した立地条件を持っている。昭和62年に農政課企画調査係の肝いりで「農林水産物ブランド化の推進協議会」がスタート。大学など学識経験者を加え1年ほどの歳月をかけ、「府内産農林水産物のブランド確立に関する基本指針」が作られたのもこうした背景があってのことであった。
 この中で京農産物全体のブランド化の「先同役」としての機能が期待され、着目されたのが「京の伝統野菜」だった。
 だが、もとより伝統野菜が売り出せるかどうかについては疑問視する声が強かった。多品目少量生産である上に、栽培技術に厳しいものがある。品目が少なく、試験場には種があっても、絶対に外には出さないという農家との約束のもとに、入手された門外不出の品種もあった。料亭と連携して細々と生産している農家もいた。このような伝統品種の保存を「委託圃」という形でバックアップしてきたのは、府よりも京都市の方であった。
 京都府のブランド化事業は平成元年度からスタートすることとなるのだが、このような背景も含め、府では対応しきれない「かゆいところ」まで手が届くために「斬込み部隊」として「京の産品協会」が推進母体となることとされたのだった。

 事業立ちあげの段階から、申し合せのもとに、府が行う部分は、総合調整や技術指導・普及、優良品種の栽培技術の研究開発の部分。JA中央会が行う部分は計画生産と出荷指導など生産対策。経済連が行う部分は出荷・流通など明確な機能分担が図られていたのである。
 以下の図を見ていただきたい。
 推進母体のふるさと産品協会は、昭和47年に野菜経営安定資金協会として出発した組織である。市町村、JAなどが会員となり、府からは2名、団体からも2名が出向し農産物価格安定対策委員会などの業務を受け持つ社団法人である。この産品協会の中に「ブランド認証審査会」(行政・生産者・流通関係団体で構成)が設けられ、市場情報や消費者ニーズを分析し、産地や品目を決定し、ブランド認証を審査する機能が与えられた。

blue.gifブランド化事業で裾野が広がる
明治以前の導入の歴史を有し、府内全域にあることを条件に40余品目の中から「京の伝統野菜」として選ばれたのが左下の18品目である。
 この中で生産をふまえてどれがよいかがさらに絞り込まれ、重点作目として量産拡大が期待されたのは、壬生菜・みず菜・伏見とうがらしの三品目である。これらは周年栽培が推進され、残りの品目は、ブロック別に計画的生産が求められた。
 事業を実施した結果は、ほぼ成功したといえる。伝統野菜の持つ生産額は約15億円とされ、野菜生産額全体260億円の中でも決して小さくない。水田転作の有効な作目としていくつか新産地が出来つつある。
 京都らしいもの。例えば、根に泥がついた野菜であれば、市場でも評価されるようにもなった。裾野が拡大したわけである。
 平成2年度からは東京へも出荷を始め、3年度からは、都内の百貨店2店舗に「首都圏京野菜アンテナショップ」を開設。平成6年には恵比寿ガーデンプレイスのオープンにあわせて新たに1店舗を増設し、積極的な販売促進・消費宣伝を行っている。系統扱いで年間1億はいっているという。

blue.gifブランド化の今後の課題
 京都が持つ伝統野菜の持ち味を活かし、京野菜全体のイメージの底あげを図ろうという府の当初の目論見はほぼ成功しつつあるようである。
ブランド化の今後の課題はどこにあるのであろうか。次の三つほどを今後の課題としてあげてくれた。

(1)有機農業への取組み
第一の課題は、汗をそれほどかくことなくブランド化に成功してしまったことである。本来のブランド化のためには、有機栽培で作られた安全な農産物である等、生産者の努力が必要である。ところが、京ブランドの場合は、伝統野菜という黙っていても差別化出来るものに目をつけたために、汗をかいていない。
困るのは消費者が「京ブランド」という認証がイコール安全な有機野菜である、と早とちりしてしまうことだ。今後は、消費者の思い入れに答えるためにも有機栽培へ向けての努力が必要であろうという点。これが第一点である。

 

(2)量的な確保と他産地との競合
「いいのはわかるが、モノがない」という声が府民から聞かれるのも頭痛の種である。実際にモノがない。例えば、本物の「加茂なす」は実が締まっていて重い。歯ごたえが違う。ところが通常、市場に出回っている「加茂なす」は本物とは程遠いニセモノであって、大半が奈良県産のものである。それが京ブランドのイメージによって高く評価されている。京都が懸命に宣伝することで他県に得をさせているようなものである。全く同じことが、埼玉県が生産を伸ばしているみず菜にも言える。
そこで府では府民への供給を優先し、東京のような他の市場へ持っていくには「新産地を育成した場合に限る」との条件をつけているという。
また、伝統野菜といっても、市場に見合う品種は壬生菜・みず菜・伏見とうがらしと数少ない。そして、これらは常に他県との競合にさらされている。この点も問題である。

 

(3)見えにくい具体的な市場メリット
第三は、これとも関係することだが、ブランド化したことに見合った価格で売れるか、どうかという点である。
例えば、販売イベントにしても現実には宣伝費は京都府の10分の10の補助で行われており、農家が自主的に行う段階には至っていない。
認証マークにしてもラベルを作っているがマークを張る作業労力が大変である。張ることが経済的メリットとならなければ広がらない。このあたりでも、それほどおいしい話は聞かれなかった。

 要するに、府全体というレベルで見れば、京都府のイメージアップにも寄与しており、十分な行政投資効果があるのだが、「推進事業費」という補助をとっぱらってしまっても、ぐんぐん生産が拡大してゆく、という程の市場メリットはないようなのである。
 京都の消費者意識も、聖護院だいこんにしても、壬生菜にしてもあたりまえのことだと思っている。あえて「地場産」であるとして意識して購入するまではいってはいないようである。
 このような話を聞く限りでは、ブランド化といっても市場を通じている限り、決定的なメリットがないのではないか。そう思ったりもした。

 「ブランド化というのはバブルが産んだひとつの申し子なのであって、それも弾けてしまったいま、もっと地道なこと。地域での自給率の向上や豊かな食生活こそが求められているのでないか。もはや、ブランド化という発想はいささか時代遅れになりつつあるのではないか」。そのように問いかけたところ、
 「そのとおりである。高い輸送運賃をかけてまで、東京へ出荷する必要が本当にあるのか、考えたりもする」といった声も返ってきたりした。

(96年3月26日取材)


darkorange.gif都市農研のHP

HOME.gif

lawngreen.gif都市農業ウォッチング

BACK.gif