都市農業研究 東京都の都市農業
1 東京における農地分布の特徴
集合的農地と小規模農地の併存分布
用途的には住宅区域に集中
市街化区域は都市計画法により、用途地域が定められ、かつ、それぞれの用途地域に建築基準法により建築物の用途が制限されている。
用途区域的な分布からすると、第1種住居専用区域に農地の81%が集中し、第2種の住居地域を加えると94%の農地が住居区域内にあることとなる。
このことは、第1種区域が低層住宅区域として10メートルと高さが規制されていることが、農地の営農環境も維持していることを意味している。逆に言えば、住宅圏にしか農地は残れず、用途指定が見直され規制が緩やかになれば、農地保全も困難であることを暗示している。
総合的振興施策
東京都は、市街化区域内農業に対して、比較的手厚い振興施策を実施してきた。その施策体系は、長期営農継続農地制度によって、市街化区域内の農地が保全されていることを前提として組立てられ、総合的な農業振興施策とスポット的な農地保全策が二本柱になっていた。
生産団地育成対策
総合的な振興施策とは、1982年に長期営農継続農地制度が成立し、市街化区域内農地の9割が制度適用を受け、長期的に保存されることとなったことを背景に、1983年に創設された「都市地域農業生産団地育成対策事業」である。この事業の成果としてはハウス導入による生産の施設化、土地利用の集約化、消費者の直販ルートの整備があげられる。また、市街化区域内の区市には、農振地域内の市町村のように自治体農政のビジョンを確立するシステムがなかったため、それを育成計画という形で作ったことも大きい意味があるとしている。
都市農業ブランド化推進事業
なお、この事業は生産緑地制度改定の動きが明確となった91年に見直され、以来ブランド化事業として実施されている。ブランド化事業では、今後市場出荷に加えて、地場流通が組織的・計画的に展開されることが期待されている。
協定による農地保全策
優良集団農地育成事業
都の市街化区域内の農業施策のもうひとつの柱は1971年にスタートした優良集団農地育成対策事業である。この事業は「東京都における自然の保護と回復に関する条例」(1972)を根拠法令とし、都内の一定規模以上の農地を優良集団のうちとして指定し、都市に不足するオープンスペースの確保と失われる緑の回復を図ろうというものである。
市街化区域内に農地が概ね1ha(運用で80アールで可能)あれば、一戸の農家でも指定可能であり、知事との契約によって、7年以上保持する事業である。毎年約100haが指定され、スポット的な事業ではありながら属地的なミニゾーニング的な施策として機能してきた。92年までの実績で1942ヘクタールが保存協定された。これは、89年1月現在の農地8405ヘクタールの23%にあたる。また、1ヘクタール以上の集合農地は4335(88年の実態調査)ヘクタールであるから、実施可能地区の45%をカバーしたことになる。最も、計画では用件に該当する農地3600ヘクタールの6割に相当する2160ヘクタールを95年までに指定することになっていたから、これだと、達成率は90%である(1993年に廃止)。
苗木生産供給事業
公共施設や地域の緑化に必要な苗木を市街化区域内農地を活用して委託育成し、あわせて農地の保全を図る事業である。生産委託はJAなど農業団体を通じてなされ、3〜4年苗木を栽培5〜6年で供給している。優良集団農地育成事業と同じく、「東京における自然の保護と回復に関する条例」を根拠とし、1972年から実施されている。都市緑化と農業振興を結びつけた点がユニークであり、89年実績で35万本。毎年40数ヘクタールがサツキやツツジの苗畑となっている。
都市農業経営がかかえる農地保全上の問題点
発地氏は、農業経営の内容が農地保全とどのように関係するかに着目し、次のような問題点を指摘している。
営農意欲の強弱による問題点
集団的農地(とくに3ヘクタール前後)は、農家によって営農継続意欲に強弱がある。農地所有者の都合によって集団農地が無秩序に宅地化され、全体に営農環境が悪化する事態の発生を防がなければならない。スプロール防止は農政の課題でもある。
最も、農地を集約化し、団地化せずモザイク状態のままであったとしても、農家が農業生産可能な最低限の広さを持つならば個人経営に影響を及ぼさないという意見もある(文献(2)深沢氏コメント・P112より)。
施設化による問題点
N氏(53歳・妻49歳)は、6ケ所に分散したほ場を持ち、経営面積は1.8haである。うち主要農地は自宅に隣接する80アールであり、ここに40アールの施設を設置したため、夫婦二人の労力では、他の農地が過剰になっている(発地氏の田無市における調査より)。このように、従来の粗放的な土地利用が施設化による集約化が進むと生産緑地が過剰となる現象がかなり「広範」に存在している。
高齢化による労力不足の問題点
また高齢者農家が所有する農地も問題である。E氏は(63歳・妻56歳)、4ケ所に分散したほ場を持ち、経営面積は2.25haである。うち主要農地は自宅に隣接する1.0と0.8haの農地であり、農業後継者がいない。このため路地野菜を作付していた80アールの主要耕地に88年から矮化リンゴを導入し、93年は農協が組合員サービスように全量買い上げた。今後はりんご一本ごとの消費者オーナー制度を考えている。また別の20アールの農地には93年から都の苗木育成供給事業による植木を植え始め、94年にはさらに40アールに拡大する予定である。個人レベルで肥培管理が楽になるような方向に作付内容を転換しているわけであるが、このように担い手が高齢化し、後継者がいない農家を支援できる地域システムづくりが必要である。
相続税による農地解体の問題点
発地氏の調査より。E氏は1976年に相続を受けたため、2.6haの農地が2.25haに減少した。相続税納税のための売却と、兄弟など共同相続人への分与のためである。
他にも農家は1haの農地相続に10億円の相続税を課税されたため0.4haを坪100万円で売却した。熱心な専業農家であったが、分割相続を要求されたため、農地を細分化し、以後無気力となりゴルフ場かよいで農業をほとんどしなくなった。相続税を考えると農地保全には限界がある。震災の反省を踏まえ、オープンスペースを都市内に確保するための国としての施策が必要である。
生産緑地の不安定性の問題点
生産緑地制度により農地保全は担保されたので、農地保全策以外の農業振興施策だけでも十分ではないか。という見方もある。しかし、生産緑地は、30年に満たない場合でも農業従事者の高齢化や営農困難による買取の申し出(法10条)や買取希望の申し出(法15条)を認めている。農振地域における農用地ほどの保全が担保されているわけではない。
宅地化農地の問題点
0.5ヘクタール以下の面積で生産緑地に乗れなかった宅地化農地もポケットパークとして買取れば、都市部の貴重な緑としての活用が可能である。
しかし、宅地化農地を保全するには、国家からの厳しい干渉に対抗した施策展開が必要である。例えば、大阪府豊中市の場合は0.5ヘクタール未満で生産緑地の適用がされない農地に対して、都市防災空間として保護する必要があるとして、固定資産税と都市計画税の3分の1を助成する「緑地保全登録農地制度」を創設しようとしたところ、「宅地化を促進する生産緑地法の趣旨に反する」との建設省の指摘を受け、導入を断念した。また、神奈川県藤沢市では宅地化する農地であっても今後10年は農業を続ける意志がある農家に対して、、固定資産税と都市計画税の3分の1相当額を市が貸し付け、一定条件を満たせば返済を免除する条例案を策定したが、「実質的な税の軽減にあたり、制度の趣旨に反する」などの理由により自治省が中止を指導した。
このことからも、農家を宅地並み課税から守るという十らの施策理念では施策を組み立てられないことを意味している。生産緑地を核として農地の公益性を確保するためにこそ、宅地化農地へ行政投資することの妥当性を理論武装する必要がある。
ゾーニングによる面としての農地保全
要するに、これまでの長期営農継続農地制度の下で、農家の営農継続意欲に依拠して展開されてきた農地保全策や農業振興策とは別のシステムが必要である。農家を対象とした農業振興施策から都市の公益的価値を持つ農地保全への政策の転換である。これを発地氏は地域グリーンシステムを提唱する。
ゾーニング手法の欠落点
団地育成事業にしても、多摩地域営農集団育成事業も、事業そのものは総合対策で、農地保全施策として直接機能させることを目的としたものではない。ゾーニングに基づくものではなく、農地の賦存の特徴に対応した独自施策も展開されていない。
東京の農業は、畑作中心であり、ほ場が分散していても、一定面積さえあれば、営農が継続できる。施設導入が進めば、なおさらのことである。一方、個別農地転用も進んでいる。このため、都ではゾーニング手法による農地保全策は実施されなかったとしている。
しかし、特定の生産緑地を対象とする属地対策がないと公共的な農地として生産緑地を保全していくという理念が見えてこない難点があり、今後は集団的農地を面的にまとまりがあるまま、保全することに焦点を絞ったゾーニング手法による農業振興施策が必要であるとしている。
なお、発地氏の否定的評価とは別に、村山元展氏は農家への助成を媒介に宅地化農地への支援が出来るメリットがあるとしている。このためには次のようなソフト支援が必要である。
都市計画と農政の一体化
今回の法改正による農地区分は都市計画上でもスプロールという問題点をもたらしている。そこで都市計画と農政とが一体となった街づくりの推進が求められる。東京都では都市計画サイドだけで宅地化ガイドラインが作成されているが、農地保全のガイドラインは作成されておらず、片手落ちとなっている。
農家の営農意欲の強化
土地利用計画制度として農地の保全を担保するシステムがないからこそ(農用地利用増進法による利用権の調整は市街化区域ではできない。たとい出来たとしても、貸付地では農地等相続税納税猶予制度が適用されない)、農家の営農意欲を高めることにより、自主的な農地保全の合意形成を促すための施策が必要である。
機動力のある事業展開
しかし、個々の農家の営農計画と事業実施時期が適合しないなど大きな事業であるがゆえに、小回りがきかに面もあり、今後は農家と農地の条件にあわせた機動力のある対策も適宜実施される必要がある。
なお、94年からは土地改良というハード面に限定した事業として生産緑地保全事業がスタートしているが、ソフト的な手法と組み合わせた生産緑地保全システムの構築が求められている。
行政・農家・都市住民。また、生産緑地と宅地化農地をふくめた地域合意形成がもとめられる。
スポット的対策と農家のネットワーク
一方、面としてまとまりがない点在する農地は、ゾーニング手法による保存策を実施するのは困難であり、なんらかのスポット的な保全手法を行うのが現実的である。協定による優良集団農地の事業は、実態に即した施策である。しかし、優良集団農地制度は、土地利用計画に基づくシステムではなく、また担保となる保存協定期間も7年間と短かった点に限界があった。
点在する農地をスポット的に保全し、事業を導入するだけでは、生産者が孤立してジリ貧になる。野菜農家でも個人出荷の限界を認識して、市場むけの協同出荷組織づくりが盛んになってきていることからしても、点と点を結びつける施策が必要である。
個別農家へのソフト的支援
なお、東京都農業会議が全農家を対象に行った「都市農業施策に関する意向調査によれば、生産緑地を申請した農家は行政に対する要望として、農道や生産といった従来のハードの要望もあるものの、有機農業、特産化、直販といった都市農業の販売特性をにらんだ経営のありかたの模索やそれと関連した経営相談、研修強化、情報提供と言ったソフトなものを望んでいる。儲かる農業をどう作るか。
このため自治体やJAが農作業受託システム土地の交換斡旋など個別経営を請えて生産緑地地区を保全管理する地域システムを確立する必要がある。市民と連携した労働力補完システム農業ファンクラブも必要である。
世田谷区の農地保全へ向けた取り組み事例
一方で、世田谷区を始めとする区市町が独自におこなっている小規模農地の保全策を拡大すべきである。
世田谷区では、90年の産業活性化委員会農業部会(田代洋一)での調査研究や、91〜92年の都市農業研究会(竹中久二)の検討など、生産緑地制度改正に先立ちかなり早い時期から施策検討を進めてきた。
これを受て、区が打ち出した新たな農地保全策は、営農継続が確実な生産緑地に『都市農家育成制度』(92年度から発足)を、宅地化農地であっても当面営農を行う農地には『緑地環境維持農地制度』(93年度から発足)という「属地」的な制度をそれぞれ実施するというものである。
『都市農家育成制度』は、農家が農業経営の近代化を図る場合に補助率4分の3で助成を受けられる制度である。面積5アール以上の農地に対して、1アールあたり年1万円、農家あたり50万円を限度に補助される。
『農地維持制度』は、生け垣の設置や農地の良好な維持管理に必要な資材や機材の購入等経費を同じく4分の3の補助率で助成するもので、面積は3アール以上の農地に対して1アールあたり年5千円、農家あたり25万円を限度に補助。ただし、災害時における防災避難場所の指定と野菜供給を行う協定を区長と5年間結ぶこととなっている。
【参考文献】
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