人の心臓に存在するadrenergicな受容体には、β1、β2およびα1が認められており、これらにagentが結合することで、変力作用や細胞増殖などの様々な変化が心筋細胞に生じることになる。
中でも、β1 adrenergic Receptor(以下β1AR)へのcatecholamineの結合はG蛋白を介してadenylyl cyclaseの活性化を来たし、細胞内cAMP濃度を増加させることで、最終的には細胞内にCaの流入の増加および、筋小胞体からのCaの放出を引き起こし、収縮力の増加を生じる。
また、βAR刺激に伴う一連の細胞内情報伝達の過程において、phospholamban(PL)のリン酸化が生じる。PLは通常、細胞質から筋小胞体へのCaの取り込みを制御しており、これがリン酸化されることで、この制御効果に抑制がかかり、細胞質からのCaの除去が速やかになる。このため、弛緩が促進されることになる。
以上のように、β1AR刺激は収縮と弛緩の両方を増強することが知られている。
慢性心不全時(主に僧帽弁閉鎖不全症)においては、容量負荷が生じるために、代償性に収縮力の増強がはかられる。このため、初期には、βadrenergic刺激の亢進が生じ、血液中のcatecholamine濃度は著しく上昇することが知られている。
しかしながら、亢進した刺激状態は心筋細胞膜表面における受容体のinernalizationを引き起こす(この受容体の減少は、通常状態のおよそ5〜7割)。この他にも、adenylyl cyclase活性の低下、抑制性G蛋白の増加およびβ1ARのmRNAの発現の抑制が生じる。これらの過程をdownregulateと呼ぶ。
このdownregulateは心不全進行と正の相関を示すが、一方でβ2ARのupregulateが代償的に生じることが明らかにされている。このβ2ARは、β1ARとは異なる抑制性G蛋白と結合しており、細胞死の抑制に働いているとされていることから、βblockerを心不全に対して投与することは、この細胞死抑制作用に対して不利に働くことにもなるため、その処方には疑問が残る。
しかしながら、深刻な心不全状態では、刺激性G蛋白に関するβ1およびβ2ARの情報伝達においてcAMPの産生だけでなく、Caの輸送(小胞体における取り込み)に至るまで減弱していることが知られている。
以上のことから、心不全時には血液中のcatecholamine濃度が上昇しているにもかかわらず、変力作用の陽性反応は見られず、筋収縮力は低下することとなる。
catecholamine濃度が過度に上昇し、またβAR以下のdown regulationが生じた状況下において、β遮断薬を用いる有用性としては、βARに対するcatecholamineの過剰刺激に対して拮抗作用をもたらし受容体刺激を減少させることで、受容体のinternalizationを解除し、更には受容体以下の機構に対して正常な反応を呼び起こすことである。
病態によりβ受容体の状態には違いのあることが予想されること、またβ刺激そのものは心機能に対して必ずしも悪影響を及ぼしているものではないことから、受容体刺激の抑制程度が治療理論上重要になる。
このため、投与方法は低濃度から効果発現まで暫増していくことになる。
ちなみに本大学では、0.25mg/kg/dayから始めて状態を観察しながら暫増している。
今のところ、ジギタリスやACEIとの併用に関しては、問題ないとされており、逆に心機能への関与が異なることから相乗効果が期待されるとされている。
人医学領域ではすでに併用による大規模な臨床試験が実施されており、その死亡率が半減するとの報告がなされている。