「月例自然観察会」行動記録    第121回   2009.07.20
今回は少しだけ変わった観察会です。でも、おもしろくてむかしのれきしがまなべます。知ってる言葉、いくつ出てくるかな?
では、一緒に始めましょう。
今回のアクションプログラムは
1.地域に育つ里山の歴史を学びます。
2.生き物が生き続けるための最大の愛とはを学びます。
3.滅び行く動植物界のこれまでについてを楽しく学びます。
4.年令を問わず、心の豊かさを感じるお話です。

むかしむかしのことじゃ。(1)
いせのくに、うれしのという、それはそれは豊かな村があったそうな。
その村は、お米がたくさんとれて、だいこんもくりもたくさんとれた。
「うれしいのお」というみんなのかんしゃの気持ちがそのまんま、その村の名前になったんじゃな。
そしてこの村にはあちらこちらに泉がわいてでて、きれいな水がさらさらと音を立てながら流れておったそうな。
そんなじゃから、畑もこえておって、村人らも一所けんめい朝からばんまではたらくものじゃから、ますますうれしの村は栄えていったんじゃと。

そういう日からおよそ300年ほどがたった、ある日のこと。
(2)
「むらおささま、むらおささまあ、むらおさのリュウガオウさまあ。」
『なんじゃ、さわがしいと思ったらガシンではないかい、どうしたんじゃな。』
「先ほどから木がこげるようなにおいがしまする。これは山がもえているにちがいねえですだ。みはり木にあがらせてもらえねえですか。」
『なになに、山火事だと言うのか、山火事だとすると大変なことじゃわい、お前さんのはなは千里もみとおすからのお。』
ガシンはむらおさの声を後ろに聞きました。そして大きな杉の、みはり木にいっちょくせんに走りました。みるみるうちに高いやぐらに上がるとガシンは大声でさけびました。
「山がもえとる、青い山がもえとるぞお。」
火は矢下(やおろし)のおくから釜生田(かもだ)の方へと広がっていて、阿射加(あざか)の方へも白いけむりが上がっていました。
もう、村中がおおさわぎです。
カエルやウサギ、ヘビたちも長い行列を作りながら、田んぼへと逃げ出しました。
「シャクゼンジ
(3)前だぞ、みんな、シャクゼンジ前の田んぼに集まるんだ。」と先頭のカエルがみんなをひっぱりました。
キツネやタヌキ、イノシシたちは中村川にとびこみました。
「テンゲイジ
(4)前だぞ、みんな、テンゲイジ前の中村川に集まるんだ。」と先頭のキツネがみんなをひっぱりました。
村人たちはヘビさんやイノシシさんたちがにげだすのを見ましたが、いっしょににげるわけにはいきません。クリや干した食べ物などを大急ぎでかごにつめないといけないからです。
この山火事はみっかみばんのあいだ、続いたそうです。
そして村はいちめん、やけ野原になってしまいました。

それからまた300年ほどがたちました。
うれしの村には、また前のような豊かさがもどってきました。
そして村人たちはお寺をたてました。シャクゼンジという名前がつけられた寺の前にはテンノウサンという小さな丘があって、その丘と小川とのあいだに大きな赤松の木がありました。
お寺がたって、まもなくのころ、コウノトリ
(5)がとんできて、その大きな赤松のてっぺんにすを作りはじめたのです。
村人たちは、その大きなコウノトリをとても大切に見守っているのでした。

ところがその年に限って長い間、雨が降らなかったのです。
田んぼはカラカラにひあがってしまい、カエルも魚もいなくなってしまいました。そして、村人たちはコウノトリがやせていくのでとても心配しました。
お米も少しだけしか実りません。
そんなある日のことです。
むらおさをつとめるトイじいさん
(6)に、悪代官から通知が届いたのです。
ねんぐとりたてのこと、4つがかいてあり
一、米だわら 5俵
一、こんぺきにかがやくせんす 1本
一、コウノトリの卵 3個
一、三神三獣鏡(さんしんさんじゅうきょう)
(7) 1面
以上、ひと月のうちに差し出すべし。

村はもうおおさわぎで、村人たちはまいばんのようにお寺に集まり、話し合いましたが、ケンケンガクガク、ケンケンゴウゴウ、これはという名案(めいあん)がうかんできません。
それで10日目から村中全員でということになり、子どもたちも話し合いの中に入り、シャクゼンジの広い板の間は大人と子どもでいっぱいになりました。
コウノトリの卵 3個とこんぺき色に光りかがやくせんす 1本  

するとヘイキチが大きな声でしゃべり始めました。
ヘイキチという名の子どもは、いつも青いはなをたらしていて、はなたれこぞうとみんなからからかわれている10才の子どものことです。
そのヘイキチが言いました。
「大人たち、そんだらこと、長いこと、なやんでおったんか、こんぺきのせんす、おいら、知っとる。泉の森の中にヤマモガシ
(8)という木があるけど、そのヤマモガシの木に住みつくサツマニシキ(9)というチョウの羽を使えばええ。」
『そうか、それは名案じゃ』とばかりにむらおさを務めるトイじいさんはひざをポンとたたきました。
そしてみなもウンウンとうなずきました。
はなたれ小僧のヘイキチはさらに言いました。
「こんぺきにかがやくセンス、おいら、他にも知っとるよ。テンゲイジ山にコンテリクラマゴケがあるから、それも使えばええし。須加神社に住むタマムシ
(10)も使えばエエ。虫の神さまだって、きっと許してくれるやんかな。」
ん、なるほど、なるほど、ウンウンと村のみんなはうなずき合いました。

「それは名案じゃが、もう一つのコウノトリの卵はどうすることもできんなあ。コウノトリさんはわしらの守り神じゃ。コウノトリさんのおかげで子どもらも増え、みなも幸せにくらせとる。その恩を忘れたら、てんばつに等しいことじゃからなあ。」
するとまた大きな声で10才のヘイキチが言いました。
「テンゲイジ山には白い砂がある、おいら、その場所を知っとるから、その砂を水でこねて卵のからをつくればええわ。アサリの貝がらを火で焼いてから粉にしたものを混ぜると硬くなるしな。」
するとそれを聞いて『そうか、それは名案じゃ。』とばかりにむらおさを務めるトイじいさんはひざをポンとたたきました。
そしてみなもウンウンとうなずきました。

「卵の中身はどうするんじゃ。」と村の一人が言いました。
ここまでは元気の良かったハナタレ小僧もさすがに中身をどうしたらいいのか、いい知恵がうかんできませんでした。
「さあ、こまったなあ。」『こまった、こまった。』
村のみんなは黄色のきみと白色のどろどろ汁を何で作ればいいのかとなやみぬき、とうとうだまりこんでしまいました。

それからいっこく
(11)がたったころ、お寺の前のオカメが池からヘイキチを呼ぶ声が聞こえてきました。
「ヘイキチさん、ヘイキチさん、いつも私たちと遊んでくれてありがとうございます。いま、わたしたちイシガメ
(12)とカエル会議で決めたのですけど、コウノトリの卵の中身は私たちの卵を使ってくださればいいです。どうぞお使いくださいませ。」
その声はヘイキチが助けてやったイシガメの組長のものだったのです。

つづく


1 今から1600年ほど前の古墳時代。三神三獣鏡。一志・嬉野だけでも320基の古墳があったとされる。
2 1300年ほど前の奈良時代。釜生田のシビ。
3 積繕寺。嬉野須賀町にある。
4 天華寺。嬉野天花寺町にある。
5 コウノトリ。日本では、かつて全国にかなりたくさんすんでいたという。
6 森本の戸井 左近之丞。大飢饉の年、村を守るため切腹した。
7 三神三獣鏡。古墳時代前期(300〜400年頃)のもの。
8 ヤマモガシ。ヤマモガシ科の常緑高木。高さ約10メートル。葉は倒楕円または倒卵状披針形。阿射加神社の社殿を包む樹林は、貴重な自然林として天然記念物に指定。
9 サツマニシキ。マダラガ科の1種。本州から南西諸島まで分布する。幼虫はヤマモガシを食べ、成虫は8月、9-10月に現れる。

10 タマムシ。細長い甲虫で、全体に緑色の金属光沢があり、背中に虹のような赤と緑の縦じまが入る、とても美しい昆虫。
11 いっこく(一刻)。陰暦で用いられた時間の単位で今の二時間ほど。
12 イシガメ。開発による生息地の破壊、水質悪化、ペット用の乱獲などで生息数は減少。

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