言の葉の鼓動

( 一 ) 人を愛すると心身共に変化が起きる。相手のことを想うだけでいろんな変化が 起きる。動悸が激しくなったり、感性が鋭敏になったり、時には性的な反応が 生じたり、理性が撹乱することなど普段の生活からは予期せぬ事が起きる。 たかが言葉くらいでと彰は思っていたが、あの時の心境は今でも理解できない。 手紙の下書きが古い大学ノートに残っている。 「・・・・貴方の言の葉を待っています。どんな言葉でも構いません、どうか 私に片言で良いですからお送り下さい。最愛なる人へ  彰より  」 それは偽りの表現でもなく、誇張した表現でもなかった。 その日の日記には次のような文面が残されていた。 ー いつものように新聞配達をしていたら、突然彼女の言葉が浮かんだ。 動悸が高まり、同時にバイクの座席に接した部分に冷たさを感じた。 彼女と出遭う光景を思い描いたわけでもないのにどうしてなのか。  ー 数日して、彼女からの封書が届き、机の上に置かれていた。 部屋に入り、明かりを点した中に白い封書が浮かんでいた。 手荷物を放り出して椅子に座り手にするやぎこちなく開封しながら一息入れる。 しかし中に指先を入れようとはせずに、机上に置き直しまだ震える右手を 封書の上に重ねた。その温もりを掌に感じながら最後に受け取った彼女からの 手紙の一節を反復していた。暫く、ほんのしばらくの時が過ぎた。     拝啓  寒さ厳しい折いかがお過ごしですか。来年はいよいよ卒業です。 夏休み前に貴方の口から発せられた言葉が理解できないまま、今に至ります。 私は貴方と違って不器用なので、二人の関係と卒論研究を両立して過ごすことは できなかった。この手紙すら書こうか書かずに置こうかと随分迷いました。 ・・・・・・・