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ありのままに ー1ー 斜め座りをしたまま両手をぶらりして飛んでいた。山間を過ぎ、市街地を前方に捉えたりして 視界は終に、目まぐるしく左右上下に曲折し始めた。不安定さに突然怯え、座り直して身体を 揺さぶっていると、後ろから声がした。「動かないで!」 ーそんなこと言ったって、落ちたら・・・ーと反論する間もなく機体から滑り、両手で丸い機体 の表面にしがみ付く。「パシャッ、パシャッ、パシャッ」とカメラのシャッター音が続く。 なんとか身体のバランスを保てるようになって、再び後ろから声がした。 「終わりました、ご苦労さま。」機体は徐々に速度を下げて、発着場に降りた。冷や汗を吸った 下着の不快さに戸惑っていると、持ち切れない程のカメラ器具を携えて雇い主なる彼女が寄り添い 白い封筒を差し出した。「ご苦労さまでした。これ、お手当てです。」「また、よろしく。」 呆然と見送っていた。 ー2ー 発着場の出口から最寄のバス停に歩いていると後ろから彼女が足早に近付き、路上に手を掲げ タクシーを止めた。ただ立ち尽くして見守る私を振り返り見て言葉をかけた。 「どちらまでお帰りですか?」と。意外にも私は咄嗟の問いに答え、そのタクシーに便乗する ことになり器材の搬入を手伝っていた。車中で交わした会話から分かったことは、カメラマン であり、常に単独で仕事を請け負い、人手の足りない時は臨時に今回のように雇うそうだ。 会話の物足りなさを抱いて「さよなら」を交わしてからも彼女への関心は数日続いた。 ー3ー 彼女への関心は消えることなく日増しに膨らんだ。そんな折、彼女から仕事の依頼が来た。 彼女の事務所に集合して、そこから自家用車で現地に向かうという内容で願ってもない依頼と 勇んで出かけた。出発してから、まず食事を済ませようと現場近くの料理店に入ることになった。 食事のはずだが、彼女はドリンクだけを注文したので、私もコーヒーだけにした。 私達が席に就いたのは作業員風の男達の座るテーブルの一角であった。他に空いたテーブルが あるのにそこに座っていた。訝しげな視線を感じながら窓の外を眺めて懐かしい想いがした。 「この店の料理はどれもおいしいですよ。」と言う。「ええ、確かに・・・」 「ご存知でしたか」「はい、随分以前になりますがよく訪れていました。」 ウェイターがドリンクを持って近寄って来たので顔を見て確信した。 「久しぶりです。」「いらっしゃいませ」と言いつつ記憶を辿っている顔に向かって私はかつて 所属していた社名と仲間の一人の名前を告げた。 「ああ、思い出しました。懐かしいですね。」暫く会話している間、彼女は隅に控えていた。