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ありのままに ー4ー ウエィターとの会話中も時折私の視線は彼女に向けられていた。彼女と作業員風の男達との 交わす話が聞き取れないもどかしさに耐えられなくなって二人して厨房に向かった。 彼女の傍を通りかけた時に、ちらりと目線を窓の外に移して問い掛けていた。 「あれは、一体なんの装置ですか?」 横一列に並んだ異様な物体に驚いたのだ。高さ3m程の鉄の扉が上下に重なり、下方部の 扉には頑丈なハンドルが着いている。それが窓一面に並んでいたのです。 「あれが、今日の被写体よ」と即座に彼女は振り返って答えた。 窓に近寄り一望してみてさらに驚いた。異様な建物群は両端に直角に繋がる構造をしており 片側には巨大な煙突を持つ何かの処理施設が連なり、一方には高層の市営住宅らしい建物が 連なっていた。囲まれた広場にはゴミ収集車が列を組んでいた。 「こんな環境でよく生活していけるものですね。」 「最新の設備が整っているそうよ。今私も話を聞いてみて分かったことだけど」 「じゃあ、彼らはそこの従業員だったのですか」私も漸く理解した。 ー5ー ここでの仕事は車の運転であった。ゴミ収集車の全車が立ち去った後、もぬけの殻になった 広場に車を乗り入れ車の天井の開放部から上半身を載り出した彼女が被写体を捉えつつ指図 するというものだった。今回も目まぐるしく動いた。運転している私でさえ吐き気を幾度も もよおしたのに、彼女は撮り終えた後けろりとした様子だった。 その後、建物内や屋上などから撮影をして夕方前に予定されていた被写体はカメラに収まった。 「今日は、ご苦労様。はい、お手当てです。」 「帰りは私が運転しますから、どちらまで送りましょうか」 「有難うございます。懐かしい人達に会えたので、茲に暫く残ろうかと。」 「そう、じゃあ、またよろしくね。」「では、お気をつけて」 ー6ー 心地よさに包まれて目が覚めた。そのままに出勤しデスクに腰掛けて多忙な一日が 始まっていた。「おはようございます。」と身近な人の声が背中を包んだ。 「おはよう。」いつになく快活に受け答えするのに戸惑いつつ振り返り会釈もした。 「昨夜はご馳走さまでした。」「どういたしまして」 彼女が入社して三ヶ月が経過していた。多忙な日々が続いていた為昨夜漸く、歓迎会が 持てたのだが、その席で彼女から意外な告白をされた。 彼女は五歳になるまで、私の実家の近くに住んでいて、私の記憶があると言う。聞けば 私の下着をオムツ替わりに使用したことがあったと聞かされていたとまで告げた。 この三ヶ月の間、私の知らない記憶の空間に身を置き、そこから接し続けていたことを 加味するのは困難であった。オムツ替わりの逸話は作り話として私の中では即座に処理 されていた。彼女に対するこれまでの印象は今朝見た夢の中の彼女だったからである。