籠正二句集<!-- 故郷が遠きひとりの春の宵骨壷に余熱粉雪降りだせり骨壷に母が納まり牡丹雪漉きあげる紙より白きなまこ壁若

籠 鶯 集

    ROOHSHU



2000年正月

元旦の湾にひとつの汽笛鳴る

椰蘇の島墓地に大きな聖樹立つ

切支丹墓地に聳える大聖樹

あこう樹の太根に座り日向ぼこ

紅椿香る煉瓦の椰蘇教会

紅椿囲む岬の椰蘇教会

マリア像多き五島に虎落笛

絵ガラスの聖堂照らす初日の出

マストには松一本の松飾

船室のテレビの上に鏡餅

若水を鍾乳洞に汲みに来る

若水が檜の桶にこぼれ満つ

2000年3月

故郷が遠きひとりの春の宵

骨壷に余熱粉雪降りだせり

骨壷に母が納まり牡丹雪

漉きあげる紙より白きなまこ壁

若布採る沖に灯台点るまで

遍路道風化激しき道しるべ

白装の遍路落花の道に入る

潮干狩波がぴちゃぴちゃふくらはぎ

地引網漁の船にて若布採る

鳥去りて河原が鳥の羽だらけ

潮干狩浜の浅井で足洗う

紅梅の下に黒猫うづくまる

夜もすがら山は春雷鳴り止まず

合宿の山は春雷鳴りどうし

春雷が夜具の中まで響きたり

2000年4月

合掌の指の隙間に春の風

耕耘機爪が大地を掻き回す

風見鶏よりも辛夷が高く咲く

ライオンの檻出入りする雀の子

遍路衣を土佐の潮風膨らます

日本の砂丘黄砂が降り続く

土佐湾にビニールハウス群が沿う

天を指す室戸岬の松の芯

燕飛び交う土佐安芸の野良時計

潮騒の荒磯鶯鳴きしきる

灯台も松の芯にも青き空

磯にまで寺の落花が飛び来たり

満開の花に灯台囲まれる

清流の両岸花の並木道

満開の花の隙間に青き海

清流の瀬より真白き花筏

城濠の花に逆立つ金の鯱

梵鐘に天女空には蝶が飛び

遍路にも大師像にも花吹雪

2000年5月

鍾乳洞出れば万朶の花明かり

丘の上つつじが囲む展望台

つつじ咲く丘の対岸千枚田

子供部屋矢車回る音聞こゆ

鯉のぼり真鯉緋鯉が擦れる音

鯉のぼり尾鰭が屋根を打ち跳ねる

ブランコをこぐ足届く青い空

田植機の苗挿す爪の鋭けれ

2000年6月

雀の子飛び込み授業騒がしき

蒲公英が散り咲く丘の音楽会

登山道通る大学演習林

岩ばかり針葉樹林の登山道

竹の子が回りに皮を脱ぎ散らし

木漏れ日に雨粒光る今年竹

郭公の声に皆が耳澄ます

水郷の水が匂えり菖蒲園

水郷は鯉も菖蒲も多彩なり

カスミソウ光る雨粒夥し

2000年7月

合歓満開樹下の光に紅気満つ

かぶと虫暗き洞にて黒光る

庭に干す梅が家中匂いたり

青空の下で真っ赤な梅を干す

昼寝より目覚めて頬に畳跡

満天の星をキャンプの火が照らす

白樺の枝にキャンプのランプ吊る

湿原の水面涼しき風が吹く

木道の右も左も水芭蕉

湿原の木道に入る登山道

めざす山仰ぐ雪渓庇にし

山頂のケルン石仏より高し

岳人が通る信濃の「塩の道」

妻も子も吾も花野に腰卸す

花野にて時を忘れて戯れる

尾根道が花野に出づる雨飾

親不知泳ぐよ定置網めざし

山中の遍路の鈴は獣除け

2000年8月

浜木綿が浜の砂より白く咲く

笹飾り葉の擦れる音美しき

どの店も笹飾り立つ旧街道

雲海に頂は島曙光差す

雲海に浮かぶ山頂島をなす

遠き山目指す青葉の並木道

麻酔覚め見える青葉の美しき

廃校の運動場にキャンプの灯

御仏の前で和尚は昼寝する

浜木綿の前で魚網繕へる

遍路衣の青年胸に十字架が

2000年9月


夕立が叩く遺跡の発掘地

地下街の階段上に月が出る

虫時雨ここでも虫が羽を立て

曼珠沙華青き茎には朱が流れ

刈り草の中にアザミも刈られいる

蔓珠沙華はびこる山の休耕田

村中の自動車集まる運動会
                                    
団栗が光る仏足石の上

蘂と蘂からませて立つ蔓珠沙華

運動会最後に仕舞う万国旗

                                   電線に並ぶ燕は音符なり

                                  玉入れの玉が飛び交う籠の上

立つ稲架はどれも小さき千枚田
                                  
虫がなく灯火暗き夕餉時
                                     
城山にピストルこだます運動会

   2000年10月

夕日にて穂が金色のススキ原

満月に海も鉄軌も燻銀

一輪の蔓珠沙華より峪暮れる

村に灯が点り黒ずむ蔓珠沙華

コスモス触れる遮断機の竿の先

鈴虫が雨の祇園に鳴きしきる


二日酔いにて祭り太鼓を仕舞う

両端に青き岬の水平線

天高し島と島とを州が結ぶ

仏壇の奥まで秋の入日差す

木漏れ日の雑木林にてきのこ狩り

学生の案山子に光る金ボタン

ズボン穿き案山子の足は竿二本

霧深き山の我が家に帰り着く

月下にて光る瓦は燻銀

鱗雲広がる波止で小鯵釣り

畑に落つ栗はどれもが穴だらけ

地下鉄の電車時雨に濡れて来る

2000年11月

露草がペットボトルの下で咲く

秋耕の下に遺跡の埋蔵層

聾学校門より激し虫時雨

鏡にて手を擦り合わす秋の蝿

水軍島山の蜜柑が輝けり

水軍島浜に散らばるくず蜜柑

海峡の渦が蜜柑の島囲む

赤と黄に海老茶加わる紅葉山

団栗が浮かぶ浄水場の池

浄水場団栗拾う子が一人

絹雲を飛行機雲が貫けり

磯宮の参道つわが沿い咲けり

花弁がどれもかけたる磯のつわ

空の青深し水澄む浄水場

浄水場昔の土手は草紅葉

空よりも水澄み渡る浄水場

枯山に伊予と土佐との海が見ゆ

虎落笛鳴らす牧場の有刺線

枯牧場有刺鉄線錆激し

閉ず牧の牧舎の窓にガラスなし

2000年12月

紅葉山なびく絹雲やわらかし

雨あがり刈田夕日に黒光る

降る雨に籾殻の山鎮まりし

放課後の教室草の棉が飛ぶ

地下街でサンタクロースビラ配る

落人の一族集い餅を搗く

平家谷餅つく音が木霊せり

師走なり今日も晴れたり曇ったり

年の暮一人異国へ旅に出る

寒夕焼け土手で遊ぶ子影絵なる

国境の川に数多の浮寝鴨

電飾の裸木電線網目なる

電飾の電線纏う枯銀杏

藁苞の中で咲きいる冬の薔薇

寒灯の終着駅にひとり着く

終着駅降りる冬至の最終便

雪除けの裾まで土を掃き寄せる

国境の空渡り来る雁の列

国境の多島海越え鴨が来る

国境の海に鴨張る長き陣

雪雲に隠れるビルの上半身

国境の多島海見ゆ聖樹越し

連絡船ロビー真中に聖樹立つ

降る雨の粒より聖樹灯が多し

教会に聖樹沖には漁火点る

中華街聖樹で爆竹鳴りしきる

国境の町に毛皮の女多し

木枯らしに皆襟立てる港町

多島海架橋の下に鴨の群れ

高層のビルに枯野が囲まれる

寒雷続く坂多き港町

橋脚の周りに鴨が屯する

暮早き終着駅の港町

手袋を脱ぎて手渡すパスポート

碧眼の長き睫毛に牡丹雪

子が眠るサンタクロース信じつつ

百八の鐘にみんなが耳澄ます

2001年1月

千畳敷岩の隙間に春の潮

春潮が千畳敷に満ちてくる

手袋で拭きし車窓がまた曇る

音立てて石見銀山霰降る

霜が立つ石見精錬所の遺跡

温泉街元湯に寒き灯が点る

看板に雪が張り付く元湯館

鳴き砂の浜に大きな雪達磨

六地蔵傍に一体雪達磨

五百羅漢前に鎮座の雪達磨

山陰線通る水仙咲く砂丘

海鳴りの砂丘水仙数多咲く

波高き海に出てくる枯野道

水族館這入る毛皮の襟立てて

電飾の架橋の下は寒き海

磯多き石見若芽を土産とす

石州の銀山街道雪鎖す

水仙が匂う砂丘に無人駅

銀山の道を塞ぐは雪達磨

屋根よりも高き吹雪の日本海

山の湯の脱衣場火鉢の火が盛ん

湯元館出て来る誰も着膨れて

着膨れてバスを降り立つ湯治客

温泉街行き交う人の息白し

湯元館出れば吐く息真白なり

日本海時化て崖には大氷柱

日向のみ歩く風邪の身いたわりて

姿を正し面接を待つ受験生

挨拶硬し面接の受験生

真っ青な空より牡丹雪が降る

故郷の友を見送る時雨の夜

2001年2月

石庭の岩の全てに布団干す

手袋の少女頬杖ついている

大試験書く音のみの静けさよ

枯山の道満天の星照らす

村に点く灯よりも木守柿多し

木守柿照らす厠の裸球

枯山に暗き灯ひとつ一軒家

白魚の群れ渦を巻く網の中

一匹の白魚笊に干からびる

水揚げの白魚に藻が絡みつく

白魚の網の目に張る水の膜

透き通る白魚生きる証なり

2001年3月

蓮根掘る村に名水汲みに来る

掘り揚げし蓮根名水にて洗う

掘る蓮の根まで列車の音響く

降る雨に蓮根掘る田が黒光る

島どれも枯れて瀬戸内海青し

慰霊碑の際までヒジキ広げ干す

水仙が海士の墓石を囲み咲く

狼煙山杉の花粉が煙たり

ままごとの茣蓙の端にて日向ぼこ

松原の砂浜潮と梅匂う

紅白の梅が天満宮囲む

潮の香に梅の香混じる天満宮

咲く梅の蘂が五弁をはみ出せリ

梅を見る少女睫毛に蘂近し

梅林に紅の濃淡混じり咲く

満開の梅林犬は駆け回る

万年筆挿すポケットに土筆挿す

菜の花が散り咲く峡の日が暮れる

睦みあう蝶に轟く戦闘機

鬼瓦上で蝶蝶が睦みあう

白き洲に紫添える花大根

ほころびる辛夷に村が明るけれ

梢にて咲ける辛夷白深し

真っ青な空に辛夷の白深し

星よりも白木蓮が数多咲く

潮干狩り農夫は鍬を担ぎ来る

菜の花が川の中州を縁どりし

予讃線崖は菜の花黄の斜面

多島海島の菜の花黄を添える

干し布団着たまま神に召されたし

満開の桜水銀灯照らす

満開の花の隙間に沖の漁火

満開の花満天の星照らす

雪洞が消えて花には星明り

2001年4月

竹薮の中で輝く花吹雪


結界に地震の地割れ花の寺

大地震地割れに落花吹き溜まる

石仏が地震に傾ぐ花の寺

地震にて傾ぐ墓石に蝶止まる

渦潮の渦より灯台白深し

島に見ゆ霞む伊予灘周防灘

満開の桜が囲む運動場

潮騒の島に激しき花吹雪

島の灯が花雪洞の灯で増える

波しぶき煙る島にて磯遊び

青深き空に明るき紅椿

菜の花の畑に桜散り頻る

蓬餅島の土産に持ち帰る

蓬より緑が深き蓬餅

遍路道塞ぐ地震の崖崩れ

牡丹の緋迫る夕日の朱を重ね


音立てて跳ねる河岸の鯉幟


砂混じる波に紛れる桜貝

雨濡れの竿に張り付く鯉幟

水源の森に郭公鳴きしきる

2001年5月

紫の重さ競える藤の房

また浴びて仏は光る甘茶色

天を指す指より甘茶潤せリ

散水車めぐる道後の温泉街

散水車路面電車の前走る

暗き森群れ咲くしゃがの白深し

登校の列が毛虫に滞る

潮の香に混じる蜜柑の花の香が

2001年6月

汗かきの母汗かきの我遺す

夜がふけて家も蛍も灯が消える

暮れてゆく空と薊と同じ色

薊咲く山に紫雲が掛りたり

生垣の裾を撫子彩りし

消灯の座敷窓辺に蛍の灯

黄に濁る川が滝にて真白なり

山脈の緑明るき梅雨晴れ間

竹薮の中より仰ぐ青き山

2001年7月

掬い来し金魚茶碗に移したり

綿菓子に夜市の灯り透かし見ゆ

兄弟が嘗め合う夜市の綿菓子を

夕立が去りて山道湯気の中

梅雨明けの河畔の砂の新たなり

山霧が白骨樹より白深し

白骨樹どれも傾く青き山

御来迎の滝石鎚の裏穿つ

大鳥居聳ゆ石鎚登山口

光が赤し満開の合歓の樹下

登山道尾根の白骨林に出る

石鎚の滝はどれもが痩せ細る

泳ぎ子の歓声峡に木霊せり

子が泳ぎ来る瑠璃色の淵にまで

水の無き滝に隈なく苔が生ゆ

一片の雲来るを待つ炎天下

2001年8月

虹かかる青き空より雨が降る

雷雲が高層ビルに掛りたり

藁葺きの山門涼しき風通る

皮むけば青き林檎が真っ白なり

五重塔九輪雷雲かかる

枝どれも秋天を指すポプラの樹

自噴井水は乳房の盛り上がり

犬が鳴く西瓜畑の真ん中で

入道雲ソフトクリームより白い

夕立の音に嬰児泣き出せり

夕立に高鳴る納屋のトタン屋根

雨濡れの蟻が我が差す傘に入る

沖めざしたった一人で泳ぎだす

夕凪の浜に小さな鯨塚

飼い主のボートに犬が付き泳ぐ

海の家軒の下まで波寄せる

嬰児が水着の母にしがみつく

天の川信濃の「塩の道」に沿う

泳ぎ子が灯台守の道帰る

水平線沿いに烏賊釣り灯が並ぶ

野尻湖を見下ろす青き牧場より

キャンプ場寝床の草の柔らかき

滝見橋渡る信濃の「塩の道」

松原の松が柱の海の家

子が泳ぐ岬に灯台点るまで

海の家テトラポットを礎石にし

岳人が大雪渓に黒き点

木道で渡るワタスゲの高原

白馬岳手綱にしたき虹かかる

夕焼けて赤き白馬の白馬岳

白馬岳独活が馬より白く咲く

砂日傘咲けり翡翠の多き浜

白馬岳裾に萩散る「塩の道」

潮浴びし糸魚川より「塩の道」

2001年9月

汗拭いつつゆっくりとペダル踏む

岩風呂の岩に張付く櫨紅葉

澄む水のせせらぎ耳に心地よし

山頂は風に波立つススキ原

山小屋の柱はどれも黒光る

台風の近づく夜の寝苦しき

山門の仁王足下に蟻地獄

夕日照る海に輝くススキの穂

赤蜻蛉群れ飛ぶ互いにぶつからず

2001年10月

咲く萩の一輪一輪帆掛け舟

鳴く虫も瞬く星も夥し

天高し川の底まで見晴らせり

親の列子供神輿に付きまとう

秋祭りテレビで砲撃とめどなし

秋天に坊ちゃん列車の煙立つ

清流の上で数多の柿が熟れ

町内が祭注連にて明るけれ

太陽の光に林檎輝けり

黄の光浴びる銀杏の並木道

皮むけば青き林檎の白深し

鶏頭のたった二本が咲き残る

防犯灯照らすたわわに実る柿

2001年11月

満月に森の中まで明るけれ

寒茜山が暮れ行く紫に

寒茜一番星が輝けり

中天に寒月我の影が無し

寝巻きにて朝刊取りに行く寒さ

今落ちる水の静かさ滝頭

比叡山の紅葉麓に下りてくる

真っ白に蕪太りし畝の上

比叡山仰ぐ黄落の母校より

枯色のメタセコイアに朝日差す

鈴なりの柿の木越しに山仰ぐ

枝つきの柿並べ売る無人市

比叡山をコスモス越しに仰ぎ見る

具視隠れし岩倉が紅葉せり

実相院岩倉川の水が澄む

比叡山を借景とする紅葉寺

山寺の参道紅葉降り止まず

火祭の火の粉加茂川渡り飛ぶ

本願寺囲む銀杏の黄が深し

合掌の指の隙間に紅葉照る

浮寝鴨加茂の流れの心地よし

浮寝鴨群れる五条の橋の下

茶碗坂茶碗の中に紅葉散る

清水の紅葉散り敷く茶碗坂

挨拶の生徒も校長も息白し

学校へ急ぐ子誰も息白し

紅葉狩り口紅紅葉より赤し

煙降り来る炭窯のトタン屋根

虫が鳴く墓地に兵士の墓高し

誰も来ぬ兵士の墓に虫が鳴く

火祭の火の粉星より高上がる

火祭の火が満天の星照らす

並木道我に枯葉が降り止まず

枯葉散る街に地下鉄電車出る

2001年12月

大漁の船に大きな松飾る

大枯野鶏舎に暗き灯が点る

点滅が多彩聖樹のベルは金

寺多き町に鳴り合う除夜の鐘

降る雨に光鮮やか聖樹の灯

昨日散り今日もまた散る山茶花よ

百舌鳥が鳴くヒマラヤ杉の天辺で

熊手にて芝生の上の落葉掃く

海鳴りの島に木枯らし吹きずさむ

粥食す真白き息を吐きながら

宝石選ぶ手袋を脱ぎし手に

オンドルの煙畑に靡きたり

空港の島の周りは大干潟

  

ジャンボ機の壁に聖夜の飾り吊る

七つ目は雪達磨なり六地蔵

大干潟島と島とが繋がりし

枯れススキどれも静かに穂を垂れる

枯山の麓海老茶と紅残る

2002年1月

雪原に煙る地熱の発電所

降る雪に温泉の湯気立ち昇る

雪原に温泉宿の灯がひとつ

海地獄隣の池の蓮枯れる

竹の樋も水車も氷柱だらけなり

雪の中檜造りの露天風呂

温泉を目指す山道雪深し

沈下橋渡り若水汲みに来る

信楽の陶の狸に雪積もる

初旅の汽笛夜明けの湾に鳴る

初旅の夜明け街には灯が残り

初旅の夜明けの空は浅黄色

雪積みて白き千里の草千里

湯煙が雪の別府に数多立つ

露天風呂湯に牡丹雪降りしきる

肥の国の山の湯治場雪深し

初旅の船は大きな波切って

風強き枯野ひとつの灯が点る

浜に干すヒラメ枯葉の色になる

五色浜山と積みたる屑蜜柑

この雨で梅の全てがほころばん

鶏舎の灯ひとつ枯野の果てに点く

蓋をとる漬物桶に霙降る

春の海暮れゆく朱より紫へ

2002年2月

紙めくる音の静けさ入試場

答案に視線釘付け受験生

咳とめどなし入学試験場

枯れ色のメタセコイアより烏飛ぶ

百舌鳥が鳴くメタセコイアの天辺で

菜の花の匂いに潮の香が混じる

水仙が匂う砂丘の無人駅

菜の花の散り咲く鉄路錆激し

静かなる夜更け大雪注意予報

陸屋根に猫が寝転び日向ぼこ

残雪が夕日に赤き石鎚山

2002年3月

雨粒が光る枯れ木に日が差して

枯枝に光る雨粒夥し

忘潮多き沖まで歩き来る

鮟鱇の鍋より長き骨を出す

鮟鱇鍋肝がだんだん白くなる

鮟鱇鍋皆の頬が赤くなる

若芽売る発泡スチロールの皿で

湯に漬けてさっと若布が青くなる

魚屋の猫足伸ばし日向ぼこ

水の無き川に出てくる枯野道

枯川の賽の河原に砂の道

三椏が咲く清流にうつむきて

廃屋に咲く三椏の白深し

藁葺きの家三椏の花囲む

傘立てに錫杖立てる遍路宿

洗濯機止めて遍路の衣が浮かぶ

遍路衣の背に墨書きの南無阿弥陀

地虫出る縄文人の洞窟に

山寺に遍路の読経とめどなし

雨の中散る雪柳霙なる

春一番並ぶ自転車薙倒す

爪先でそっと弾くよ土筆の穂

爪先で弾く土筆に粉が立つ

春一番叩く海原真白なり

ひと房の花を選びて近づけリ

新聞を配る少年息白し

島山に花の並木の一文字

縁側に緋毛氈敷く枯山水

花山の裾に白亜の発電所

南天の一樹が熟れる枯山水

枯山水土塀の上に花の比叡

鴨川に出てくる花の並木道

枯山水海に一枚枯葉散る

清水の舞台に落花舞い上がる

哲学の道も疎水も花が散る

花筏流るる速さに歩を緩め

枯山水真白き海に地虫出る

満開の桜の幹に暗き洞

銀閣寺高き垣根の椿咲く

白砂の白川流るる花筏

白川の白砂が堰く花筏

手旗振るロボット路傍に陽炎へり

暮れゆける谷に桜の白深し

満開の桜の枝の先が反る

花吹雪路地の角にて逆巻けり

満開の花が黄砂にまみれ咲く

鳳凰に春の雪舞う金閣寺

大仏に唐の黄砂が降り積もる

銀閣寺向月台にて馬酔木咲く

杉苔の斜面転がる牡丹雪

香を炊く七堂伽藍雪が降る

延暦寺菜の花の咲く近江見ゆ

青空に辛夷はどれも白深し

核実験場の黄砂が混じり降る

紫と白の木蓮並び咲く

満開の桜水銀灯照らす

花を見に沖の小島に渡りたり

長き州に紫添える浜大根

満開の桜の幹に絡む蔦

黄砂降るゴビにて死せる兵の墓

2002年4月

葉桜の中に一輪咲き残る

遍路道落花散り敷き真白なり

真っ青な空に向かいて桃が咲く

島山の裾を彩る桃の花

木が全て芽吹き鎮守が膨らみし

鶯が今日も我が家の松に来る

石ころに止まる羽ぼろぼろの蝶

鯉幟垂れる尾鰭に庭狭し

柿若葉光る産毛に薄緑

青畳楓青葉の影青し

山に入る道に暖簾の藤の房

藤の房手で分け渡る丸木橋

棒切れで子供が壊す蟻地獄

藤棚を白と紫二分して

2002年5月

鯉幟尾鰭藁葺き屋根を擦る

流木が白き河原の陽炎えり

新緑の山を削るは採石場

虹鱒を新樹の下で釣り上げる

焼き魚匂う河原のキャンプ場

泣きじゃくる水遊びにて濡れる子が

コーヒー沸かす水の良きキャンプ場

水笛を鳴らす河原のキャンプ場

玄関の傘立に立つ捕虫網

お大師の噴井底には白き砂

水軍島寺に蜜柑の花が咲く

山寺の参道横切る登山道

高縄山忽邦諸島が霞み見ゆ

本堂の裏に筍夥し

筍の皮が散らばる庫裏の裏

蟻地獄跨いで通る仁王門

夏氷プラスチックの匙が立つ

五月雨や火は燃え盛る地獄絵図

高波を蹴って入港鰹船

マストより高き港の鯉幟

新緑に煤ける鰹節工場

新緑の港に並ぶ鰹船

青葉する樹下に遍路衣薄緑

潮風にぼっと膨らむ遍路の衣

風呂の湯に漬かり五月雨聞こえ来る

2002年6月

川に入り洗う田植えの泥の足

畦道に田植えの泥の足の跡

撫子の紅白鉢を一にする

藁苞で拭う田植えの足の泥

石垣が田植えに濡れる千枚田

村中の田植えに濁る川の水

田植女が畦に履物揃え脱ぐ

青岬沖に散ばる島黒き

黒潮が青き岬の裾洗う

石垣に田水が滝の千枚田

畦道が田植えに濡れる千枚田

長雨に朝から皆が押し黙り

水源の森に紅濃き合歓が咲く

満員の電車に蜂が紛れ込む

大学の正門涼しき風が吹く

船の旅朝から長き雨が降る

梅雨湿る船室長き旅に出る

2002年7月

佳き風に椰子の葉擦れの音涼し

万緑に椰子の一本抽んでて

台風が近づく夜の寝苦しき

喉鳴らし飲み干すコップの岩清水

岩清水注げば直ぐに壜曇る

赤蜻蛉一尾曙光の中で飛ぶ

畑仕事帽子に止まる赤蜻蛉

油差す歯車多き芝刈り機

梅雨最中寺に火炎の地獄絵図

洗車機の飛沫に街の風涼し

水を遣る松葉杖にて身を支え

太陽のほとぼり籠もるトマト摘む

噴水の傘の心棒水の芯

噴水が水でお手玉遊びする

噴水が止まるどさりと音たてて

噴水の真中真白き水の束

京近江見晴らす比叡の登山道

バス停は電柱のみの炎天下

青葦原裾に出入の鮒の群

聳つ鷺に燕飛交う道後の湯

大日照り道後の出湯止め処なし

蝉時雨激し目覚めの夜明けより

2002年8月

塩の道白馬の登山道に出る

蝉丸の逢坂の関蝉時雨

近江富士裾の際まで青田波

原子炉のドーム真白き青岬

原子炉の空を飛交う赤蜻蛉

翡翠峡出づる姫川草茂る

渓谷の鉄路に縋る蝉の殻

姫川に沿える鉄路の陽炎へり

旱にて鎮まる水力発電所

発電所碍子に縋る蝉の殻

旱川翡翠を探す人多し

蝉時雨激しき峡に発破音

鉄橋を列車が渡る旱川

旱川水車の窓にガラス無し

山小屋に熊除けの鈴並べ売る

山小屋で子が熊除けの鈴鳴らす

紫陽花の下に野兎顔を出す

満天の星の下にてキャンプする

テントの灯次々消えるキャンプ場

恐竜の化石出てくる登山道

塩の道行く岳人の列長し

白馬村虹の脚立つ塩の道

塩の道にて白馬の虹仰ぐ

姫川の橋にて白馬の虹仰ぐ

清流の光るブナ林風涼し

大糸線落石網に百合が咲く

山百合が白馬の雪渓より白し

春日山囲む越後の青田波

二の丸に紫陽花咲けり春日山

鶏頭が白馬のの鑓より高く咲く

春日山米倉跡にねこじゃらし

雀には鉄砲となる猫じゃらし

空堀に蛇とぐろ巻く架す春日山

空堀の石垣蟻の列登る

連山に点くはキャンプの灯りのみ

滝道が出湯の宿に行き止まる

自動車のタイヤの溝を蟻登る

どの滝も濁る工事の多き山

キャンプ場下に出湯の一軒屋

右に佐渡左に弥彦夏の航

松原の松の間をヨット航く

親不知浜に数多の砂日傘

飛魚が佐渡の沖にて飛交ヘり

弥彦にも佐渡にも雷が鳴りしきる

飛魚が佐渡の上空長く飛ぶ

灯台も烏賊火も点る佐渡島

空に星山にキャンプの灯が点り

港町片影長き倉庫街

多島海島のひとつで揚げ花火

吉野川廃車の山に葛茂る

夕焼けが迫り真っ赤な吉野川

山門の下で浮浪者昼寝する

仏具屋の街に風鈴鳴り渡る

海峡の橋脚洗う土用波

足長蜂足の先より着地する

一陣の風に震える虫時雨

淡路島海を見ながら枇杷を摘む

岳人が双眼鏡にて峰仰ぐ

大原の一隅暗き紫蘇畑

風鈴が家並みに響く鯖街道

大原が暮れ行く紫蘇の畑より

氷菓売る平安神宮大鳥居

夕焼けの海に向かいて山下りる

瀬が白し夕焼け迫る吉野川

吉野川海には雲の峰が立つ

吉野川遍路が混じる舟遊び

履歴書の清書額の汗が落ち

2002年9月

朝顔が絡む一樹に数多咲く