第3章 社会問題
1.喫煙に起因する経済損失
喫煙によって起こる経済損失は、大きく3つに分類されよう。1つは、喫煙によってひき起こされる疾病の治療費、2つは病気
や死亡に基づく所得損失、そして、3つはその他の損失である。
この正確な算出はきわめて困難であるが,いくたの前提をおいた試算によると,わが国における昭和51(1976)年の1年
間の喫煙による経済損失は約1兆1400億円と推計されている(表・・3−1(略))。
表・・3―1 喫煙に起因する損失(略)
2.火災
喫煙に関連する社会問題のひとつとして火災の問題がある。昭和59年中における火災による損害の総額は1462億円である。
火災の原因の第1位は、昭和35年以来「たばこ」が占めてきたが、昭和59年には「たきび」が第1位となった。しかし、火災
原因別にみた損害額では、「たばこ」が、約146億円で最も多い。
たばこによる火災の損害状況をみると、建物火災が最も多く、その経過は、「たばこ投げ捨て」が約70%を占めている(図1・
3−1(略))。
図・・3―1 出火原因別の出火件数と損害額(略)
3.民間活動
喫煙対策を効果的に推進させていくうえで、市民および民間団体の役割が重視されつつあるといえよう。
わが国での喫煙対策に関する市民活動としては、教育、保健社会医療、消費、添加物公害、嫌煙権そして人間性といった幅広い課
題として、広範囲に展開されている。これら市民活動の特色は、種々な職種の人びとが協力し合いながら、主にボランティアとし
て活動していることである。全国禁煙協会が把握している全国の市民活動グループは、昭和61年9月現在で49グループ、会員
数約10万人になっている。
表・・3―2 喫煙対策に関連した民間団体(略)
市民による主な活動としては、毎年4月に、全国一律に禁煙週間を設けて、市民に喫煙問題の啓蒙活動、アピールおよび禁煙教
育などを行っている。その他には、情報活動の一環として機関誌の発行やニュース発行などを行っている。
民間の立場から喫煙問題解決に力を注いでいる民間活動団体を表・・3−2(略)に示した。
4.訴訟
わが国における喫煙に関する訴訟はあまり例がないが、最近判決のあったものとしては市民グループが昭和55年に、日本国有
鉄道、日本専売公社(現・日本たばこ産業株式会社)、国を相手として国鉄の車輛の2分の1を禁煙とすること等を求めて提訴し
たものがある。本件は,昭和62年,原告らの敗訴となった。
外国でのたばこ製品についての訴訟の事例をみると、米国では1950年代後半から1960年代に,肺がんになった喫煙者の
ために10件の訴訟がたばこ会社に対してなされたが、4件は原告が訴訟を取り下げ、3件は陪審へ送られる前に略式裁判の申立
で敗訴し、3件は陪審に送られて敗訴している。訴訟に莫大な費用が必要なこと、喫煙と健康との関係について十分な医学的な知
識がなかったことなとが、敗訴の理由としてあげられている。
最近は米国では、たばこをめぐる訴訟の波の第2期にあり、20〜30件の訴訟が米国内の多くの州で提訴されている。原告は
肺や口腔などのがん、心血管疾患、肺気腫などの患者かその遺族で、身体への障害行為や不当な死亡に対して、補償的、懲罰的な
損害賠償金の支払を求めている。この背景には、まず喫煙の健康に対する影響について、多くの科学的な知見が蓄積され、また喫
煙に習慣性があるとする見解が強くなってきたことがあげられる。
これらの訴訟の争点の第1は、喫煙の健康に対する悪影響がよく知られていない時代に喫煙を始めた人たちが、厳格な不法行為
責任論を根拠に、たばこが欠陥製品であると主張しており、論争が続けられている。争点の第2は、喫煙の健康に対する影響があ
ることを明らかにする米国公衆衛生総監の1964年の報告が行われ、紙巻たばこの包装に警告をのせることを議会が決定した1
966年以降に喫煙を始めた人たちが、習慣性については警告がされていないことを問題とし、習慣性が周知のことであるか否か、
たばこ産業が行っている広告が警告を無効にしているか否か、警告の内容のあいまいさなどについて、論争が行われている。第3
の争点は、原告の疾病の原因がたばこだけで、それ以外にはないかということである。
嗅ぎたばこについては、嗅ぎたばこを12歳から用い、19歳で舌がんで死亡した子供の家族が、訴訟を起こしている例がある。
嗅ぎたばこについては、包装に警告も載せられておらず、テレビでの広告も許されているので、因果関係、広告の問題などが争点
になるものと思われる。
このほかに、たばこによる火災の被害者、ことに類焼にあった人が、不法行為責任の欠陥デザイン学説を根拠に、提訴をしてい
る。
スウェーデンでは、1980年に肺がんと診断された54歳の女性が、発がんの原因は職場での間接喫煙であるとして、労災保
険の適用を申請し、認められなかったために地方審判所に提訴し、1986年に上級審判所で労災適用が認定されているケースが
ある。