第4章 研究教育および国際協力
1.研究
医学を中心にして喫煙の健康被害に関する研究が内外から報告されているが、喫煙の健康影響、特に肺がんについての本格的研
究は1950年代に入ってからである。1964年には、これらの成果をふまえて、米国公衆衛生総監は、『喫煙と健康』につい
ての報告書をまとめた。
昭和39(1964)年2月、わが国の厚生省は、米国公衆衛生総監による同年の報告書を基盤として、「喫煙の健康に及ぼす
害について」通知するとともに、日本人の喫煙と健康に関する調査を行うこととし、全国6府県29保健所管内の40歳以上の地
域住民約26万人を対象とする計画調査を開始した(1965年〜、平山ら)。昭和39年のこの通知は「わが国においても若年
者の喫煙、成人の長期多量の喫煙が健康に悪影響を及ぼすことは明らかである」と初めて明言したものとして注目された。
喫煙対策という視点にたったその後の研究としては、昭和54年以来続いている、健康づくり等調査研究委託費による「喫煙と
健康に関する調査研究」や、環境庁の委託研究による「禁煙指導に関する調査研究」、さらに昭和32年より開始されている専売
公社の委託研究報告書などがある。
前二者の研究では、広く内外の文献を収集しつつ、わが国での効果的な喫煙対策の方法を確立することを主な目的として、喫煙
や対策の実態分析、学校、職場、地域における禁煙教育方法の検討や評価などが調査研究され、実際的な手引書も作成されている。
一方、後者の報告は、喫煙と疾病との関連性を医学的に究明することを主な目的にした研究内容から構成されている。
今後の喫煙対策のあり方に関する研究としては、昭和61年3月に、財団法人健康・体力づくり事業財団からの調査研究委託費
によって報告書が提示されている。喫煙対策のあり方に関する調査研究としては、わが国初めてのものである。
米国国立がんセンターの喫煙対策についての報告では、「がんの成因と喫煙との正の相関についてこれ以上の研究をいたずらに
くり返すよりも、まだ十分には解明されていない、喫煙開始の防止方法、禁煙方法などの研究が重要であり、もしこのような国家
的な研究戦略がとられていたなら、喫煙者率を低下させていたはずである」と述べている。ちなみに、米国の1985年度の「喫
煙開始の防止方法、禁煙方法などの研究費」は、約1100万ドルであった。WHO専門委員会報告での研究の方向性としても、
「なぜ人びとは喫煙を始めるのか、なぜ人びとは喫煙しつづけるのか、なぜ人によっては禁煙が困難なのか、なぜいったん禁煙し
た人が、また吸い始めることがあるのかといった喫煙習慣を左右する要因をより明らかにするために、もっと研究が必要である」
と述べられている。
2.教育
WHOの報告によると、「喫煙と健康の問題には研究の余地があるとはいえ、喫煙対策としての主要な教育活動を行うべきであ
る」と勧告されている。
喫煙問題に関する教育問題としてWHOは、保健医療関係者の教育、一般大衆の教育、そして、子供に対する教育の3点から考
察している。
表・・4−1(略)には、富永が示したわが国における保健医療関係者の教育機関と対象者を示した。
喫煙に関する学校教育で用いられる教科書に関する高石らの昭和56年の報告によると、「教科書の記述内容を総合的にみて、
「喫煙と健康」に関する教育の重要性がいくらか認識されてくるようになっている」という。また内容的には、「非行防止という
観点から、疾病予防の項目で喫煙による健康障害について説明」されているという。さらに高石らは、喫煙防止のための教育方法
についても実践的に研究をかさね、その方法論および効果について報告している。また、小学生および中学生を対象とした喫煙防
止をねらいとした手引書もすでに発行されている。
一般の人びとが受ける禁煙教育としては、マスコミによるものや保健医療機関によるものがあげられる。健康情報の入手方法と
してテレビ、ラジオ、新聞といったマスコミ情報が大きな役割をもっているということが、健康づくりに関する意識調査結果に示
されている。厚生省が昭和62年に行った保健所における喫煙対策実態調査によれば、なんらかのかたちで喫煙対策を実施してい
る保健所は全体の67.6%であった。医療機関での禁煙教育については、森らの昭和60年の調査によれば、診療時の再来患者
に対する問診として「喫煙習慣の変化」を必ず実施しているのは16.8%である。
表・・4―1 喫煙対策従事者の教育機関(略)
3.国際協力
喫煙に関連した国際協力としては、研究分野が主要であろう。喫煙対策における国際協力としては、政府レベル、研究レベル、
民間レベルなどに分けられよう。政府レベルとしては、世界保健機関(WHO)を基軸にしたものが主要である。WHOによって
示される喫煙に関する主な勧告は、政府の通知という形式で各都道府県知事、各指定都市の市長あてに通知されている。またWH
Oが主催する喫煙対策に関する世界会議に政府から参加していることも国際協力のひとつと考えられる。
1985年、ワシントンで開催された、喫煙対策指導者国際サミット会議などは、喫煙対策のあり方を国際レベルで探りあうと
いう意味で民間レベルにおいて国際的な協力といえる。また、国際対がん連合(UICC)は国際消費者連盟(IOCU)と協力
して、民間レベルにおける喫煙対策のあり方を探っている。一方、学会や民間の健康関連財団でも世界的レベルで喫煙対策を推進
している。昭和62(1987)年秋には、第6回喫煙と健康世界会議が東京で開催される予定であり、新しい視点での効果的な
喫煙対策が展望できるものと期待されている。