1.喫煙と疾病の因果関係

  喫煙と疾病との因果関係を立証するためには、単に統計学的な関連性が認められただけでは十分ではない。それらの因果関係を
 決定するためには、実験疫学つまり喫煙を続けさせることによって疾病を発現させる実験が必要となる。しかし、これらの実験介
 入疫学は人道的に許可されえない。そのために一般には、以下に示す5つの判断条件に基づいて因果関係の推理が行われる。これ
 らの判断条件は、1964年の米国公衆衛生総監の報告書「喫煙と健康」に提示されたものである。

  因果関係を評価する疫学的基準
  1.関連の一貫性(consistency)
  2.関連の強さ(strength)
  3.関連の特異性(specificty)
  4.時間的関係(temporal relationship)
  5.関連の整合性(coherence)
  この基準を用いて,喫煙と肺がんとの因果関係について検討してみる。

  関連の一貫性とは、関連の普遍性ともいわれ、同様な関連性が、対象者、時間、場所が異なっていても認められることをいう。
  喫煙と肺がんとの関連は、国別、民族別、世紀別にみても矛盾なく認められている点で、一貫性は高いといえる。
  関連の強さとは、喫煙と肺がんとの間にみられる関連性の強さを示し、その指標としては、相対危険度、オッズ比、相関係数、
 回帰係数、そして重相関係数なとがある。平山らの調査によると、この場合の相対危険度は、男4.13、女2.10である。さ
 らに、喫煙本数が増加するにつれて、相対危険度が増加していくことから、これらの関連性の間には量−反応関係が認められる。

  関連の特異性とは、喫煙と肺がんとの特異的な関連をいう。この場合、肺がん患者が必ずしもすべて喫煙者とは限らないという
 点で特異度が高いとはいえない。しかしながら、肺がんを扇平上皮がんに限定すれば、特異度は高まると思われる。
  時間的関係とは、時間先行性と呼ばれ、喫煙暴露が,肺がん発生以前に作用していることをいう。喫煙の流行が肺がんの流行に
 先行していることは、この時間性を支持している。

  最後の疫学的基準は、関連の整合性である。動物実験においてたばこ煙濃縮物では発がん性が確認されていること、および禁煙
 した場合に発がんの危険が少なくなることなどを含め、これらの関連に他分野の関連科学からの知識と矛盾しない場合に整合性が
 認められる。
  この点では、英国や米国における、医師や市民を対象とした研究調査、つまり喫煙率の低下とともに、肺がんなどの死亡率が減
 少したという事実はこの項目を支持している。

  以上、疫学の基準を用いて、肺がんと喫煙との因果関係について論じてきた。なお、最新の研究成果をふまえたWHOの最新の
 報告でも、「たばこ煙は人に対して発がん性がある」と結論されている。