第2章 喫煙とがん〔要約〕
これまでに行われた多くの研究から喫煙、特に紙巻たばこの喫煙は肺がん、口腔がん、喉頭がん、食道がんなどの重要な危険因
子となっていることが明らかにされた。喫煙者ではこれらのがんのほか、胃がん、膵臓がん、腎臓がん、膀胱がんなどのリスクも
非喫煙者に比べて高くなっていることも明らかにされている。また、女性では子宮頚がんのリスクも喫煙者で高くなっているが、
喫煙と子宮頚がんの因果関係は明らかではない。
肺がんについては紙巻たばこの喫煙量と死亡リスクの間に量−反応関係がみられるほか、たばこ煙を深く吸い込まない喫煙者や
フィルター付きのたばこ、低タール・低ニコチンたばこの喫煙者では発がんリスクが低くなること、禁煙者では禁煙後の年数が長
くなるにつれ、死亡リスクが低下することなども観察されている。葉巻、パイプたばこの喫煙者では紙巻たばこの喫煙者に比べて
肺がんの危険性が低いが、口腔がん、喉頭がん、食道がんに対しては紙巻たばこの喫煙者とほぼ同じ発がんリスクを示している。
たばこ煙の発がん性については多くの動物実験が行われている。古くは、たばこのヤニを用いた実験も行われたが、近年にいた
りたばこタール、たばこ煙濃縮物質、たばこ煙に含まれている特定の発がん物質を用いた実験、たばこ煙と既知の発がん物質や促
進因子を併用した実験が多く行われている。実験方法としては、たばこタールやたばこ煙に含まれている発がん物質を皮膚に塗布、
皮下注射、気管支塗布、気管内噴霧、気管支内注入したりする方法が多く用いられている。人間の喫煙に類似した条件でのたばこ
煙の吸入実験は比較的少ないが、米国のHammond、Auerbachらはビーグル犬に気管切開して2年半にわたりフィル
ターなしの紙巻たばこを強制喫煙させて扇平上皮がんが発生したと報告している。
たばこ煙の粒子相とガス相にはbenzo(a)pyreneなとの芳香族炭化水素系発がん物質やnitroso−dime
thylamineなどの揮発性ニトロンアミン類、N'−nitroso−nornicotineなどのたばこ特異的ニトロン
アミン類など多種類の発がん物質や発がん促進物質が含まれている。
喫煙による発がん機序の研究等、今後とも研究を推進する必要があるが、喫煙とがん、特に肺がん、喉頭がん、口腔がんなどの
がんとの因果関係はほぼ確立してきているとみられる。日本人のがんについては喫煙の寄与率は約20%と推計され、特に男の肺
がん、喉頭がん、口腔がんなどに対する喫煙の寄与率は大きく、現在の成人男性の喫煙率(約65%)が約30%に低下すると、
これらのがんの約35〜50%の予防が可能となると推計されている。