3.喫煙と虚血性心疾患
(1)虚血性心疾患の危険因子としての喫煙
虚血性心疾患の危険因子としては、Major Risk Factorとして高コレステロール血症、高血圧症、喫煙があげ
られており、その他の因子として糖尿病、リポ蛋白異常、高尿酸血症、肥満、身体活動度の低下、心電図異常、性格行動様式、心
血管障害の家族歴などが検討の対象となっている。喫煙と虚血性心疾患に関する欧米における疫学調査成績としては、まず米国に
おけるPooling Project Research Groupの結果が重要であると考えられる。本研究は米国におけ
る5主要疫学研究(Framingham Study、Albany Study、Chicago People Gas
Company Study、Chicago Western Electric Company StudyおよびTec
umseh Health Study)の総括である。5主要疫学研究および総括したPooling Projectの結果
は表・・3−2(略)、表・・3―3(略)に示すごとくであり、いずれの研究においても喫煙者は非喫煙者に比して、心筋梗塞
の発生率および虚血性心疾患による死亡が高率であることを報告している。
表・・3―2 National Cooperative Pooling ProJect5集団、および全集団一
括による喫煙習慣別の虚血性心疾患発生率の分析、発生比、リスク比、対象者数、人年法による延べ人数、
初回発生数(略)
表・・3―3 National Cooperative Pooling Project5集団、および全集団一
括による喫煙習慣別の虚血性心疾患発生率の分析年齢群ごとの初回主要冠疾患の平均リスク、標準化発生比、
1日1箱以上の喫煙者の非喫煙者に対するリスク比、初回発生数(略)
Framingham Studyは、1948年に開始された。マサチューセッツ州フラミンガムの29〜62歳の住民(男
2282人、女2845人)を対象に24年間の追跡の結果、喫煙と心筋梗塞の発生率および虚血性心疾患による死亡率において、
喫煙者は非喫煙者に比し高率であることを報告している。Albany Studyは、1958年に開始された。アルバニーの
40〜54歳男性公務員1823人を6年間追跡し、表・・3−2(略)、表・・3−3(略)に示すごとく、喫煙者は非喫煙者
に比し心筋梗塞の発生率および虚血性心疾患による死亡が高率であると報告している。Chicago People Gas
Company Studyは、1958年に開始された。シカゴガス会社の40〜59歳白人男性従業員1264人を対象に平
均8.8年間追跡し、表・・3−2(略)、表・・3―3(略)に示すごとく、喫煙者は非喫煙者に比し心筋梗塞の発生率および
虚血性心疾患による死亡が高率であると報告している。次に、Chicago Western Electric Compa
ny Studyについては、シカゴ電気会社の従業員のうち40〜55歳男性従業員1981人を対象に平均8.3年間の追跡
調査を実施し、表・・3−2(略)、表・・3−3(略)に示すごとく、喫煙者は非喫煙者に比し心筋梗塞の発生率および虚血性
心疾患による死亡が高率であると報告している。最後にTecumseh Health Studyは1959年に開始された。
ミシガン州Tecumsehの40〜50歳男性1240人を対象に平均8.05年間の追跡調査を実施し、表・・3−2(略)、
表・・3―3(略)に示すごとく、喫煙者は非喫煙者に比し心筋梗塞の発生率および虚血性心疾患による死亡が高率であると報告
している。
ほかにも重要な研究が多数報告されており、Minnesota Business and Professional M
en Studyは1948年に開始された。ミネンタ州のビジネスマンおよび専門・管理職の40〜59歳男性284人を対象
に平均14.1年間の追跡調査を実施し、前述のPooling Projectと同様、心筋梗塞の発生率および虚血性心疾患
による死亡率が、喫煙者は非喫煙者に比し高率であると報告している。さらに、Minnesota Based Railro
ad Worker Studyは1958年に開始され、ミネンタ中心に40〜59歳の白人男性鉄道員2571人を対象に平
均4.9年間の追跡調査を実施した。結果としては前述の諸報告と同様であった。その他の欧米における喫煙と虚血性心疾患の調
査成績としては、Englishらによるメイヨ・クリニックにおける男性冠疾患患者の発生率の検討から、40〜59歳の男性
において喫煙者は非喫煙者の3倍の高率で冠疾患の発生を認めたが、60歳以上ではほとんど喫煙との関連性は認めなかったと報
告している。Millsはシンシナチ市民の死亡率に関して検討を加え、30〜59歳の年齢層において高度の喫煙者では冠動脈
硬化症による死亡率が非喫煙者の2倍であると報告している。また、WynderおよびLemonは非喫煙の宗教団体(SDA)
の人びとには冠疾患罹患率が低く、かつ発病年齢も遅いことを報告している。米国男性および米国退役軍人に関する調査でも喫煙
者に冠疾患死亡率が高いことが報告され、しかも喫煙量が増えるほどリスクも高まり、Hammondsらは20本以上の喫煙者
は非喫煙者の2倍以上冠疾患死亡率が高いと報告している。
1971年の英国王立内科医学会の報告では紙巻たばこ喫煙者は非喫煙者、パイプまたは葉巻喫煙者に比し冠動脈性心疾患によ
る死亡の危険性が高く、喫煙の量が多ければ多いほど危険性も高いと報告している。喫煙者が冠動脈性心疾患で死亡する危険性は、
非喫煙者の1.5〜2倍、ヘビースモーカーでは3.5倍であると報告している。また、英国公務員の集団における冠動脈性心疾
患の死亡率はより高く、1日当たり紙巻たばこ20本未満の者は非喫煙者に比し64%、20本以上の喫煙者では75%増加して
いると報告している。英国医師の研究では、ヘビースモーカーでは非喫煙者に比し致死的な発作の危険性が高く、特に45歳未満
では相対危険度が15倍であるが65歳以上ではこの危険度は比較的低いと報告されている。
国際共同研究では、米国、ユーゴスラビア、日本、フィンランド、イタリア、オランダ、ギリシャの7カ国の16地区の40〜
59歳男性1万2509人を対象に10年間追跡を行った成績から、1512例の総死亡中413例の冠動脈性心疾患死亡を認め
たと報告されている。10年間の冠動脈性心疾患死亡率が1万人当たり75以下であったのは、Crete(ギリシャ)、Cro
atia(ユーゴスラビア)、牛深・田主丸(日本)の地区であり、1万人当たり250以上の冠動脈性心疾患死亡率であったの
は、フィンランド、米国、オランダ、Belgrade(ユーゴスラビア)であった。これらの地区では喫煙は冠動脈性心疾患死
亡と高い相関が認められ、例えば、米国における分析では、非喫煙者および禁煙した群に比し、20本以上の喫煙者では約3倍の
冠動脈性心疾患の死亡率であった。また、北欧の地区では、20本以上の喫煙者は非喫煙者の4倍のリスクが認められたが、南欧
では2倍の差であり統計学的に有意差は認められなかった。冠動脈性心疾患による死亡が最も高率であったのは東部フィンランド
地区の11%であり、最も低いのはCrete(ギリシャ)であった。
日本における研究として、木村は40〜69歳の男1038人を10年間追跡した調査において人口1000人対年間当たりの
虚血性心疾患の発生率は、非喫煙者3.4に対して1日20本以上の喫煙者6.7と約2倍の発生率を示すと報告した。平山は、
昭和40年の国勢調査時に全国29保健所を選びその管内に居住する40歳以上の成人26万5118人(男12万2261人、
女14万2857人)を対象として、喫煙習慣を含む種々の健康調査を実施している。その結果1966年から1975年の10
年間において、2万7993人(男1万6515人、女14万1478人)の死亡者が認められ、心臓疾患によるものは4017
人(男2257人、女1760人)であったと報告し、動脈硬化性心疾患の死亡リスクは喫煙者が非喫煙者に比し60%高いと結
論している。Konoらは、5777人の日本人医師を対象に昭和40年から昭和52年の12.7年間の追跡を行い、計121
人の冠動脈性心疾患による死亡例を認め、喫煙により冠動脈性心疾患が増加することを報告している。すなわち、年齢補正を加え
た相対危険度の比較において、非喫煙者を1とすると冠動脈性心疾患死亡は、禁煙者で1.79、喫煙者では2.14と増加する。
小西、小町らは1万人の勤務者男性の追跡調査において、1日20本以上の喫煙者は非喫煙者に比し虚血性心疾患発生の危険率
は4.6倍であると報告している。
このように日本では喫煙と虚血性心疾患の関係を認めるものが多い。独立の危険因子として有意性は証明できなかったとする報
告もあるが、これらは発症例数の少ないものである。
また、日本人とハワイの日系人との喫煙量の増加と動脈硬化性心疾患の発生率との関係において、Robertsonは、年齢
補正を加えても喫煙量の増加による動脈硬化性心疾患発生率の増加はハワイの日系人に増加が著しいと報告している。さらに、日
本人とハワイの日系人の間に喫煙による影響に差を認め、喫煙はハワイの日系人においてより大きな危険因子であることを報告し
ている。
(2)喫煙と虚血性心疾患の他の危険因子との関連
たばこ煙中にはいくつかの薬理学的に活性のある物質が含まれており、直接の効果が観察されている。虚血性心疾患に関連した
ものではリポ蛋白および血圧値との関係が明らかにされている。以下にその詳細を述べる。
a.リボ蛋白との関係
最近の研究で、喫煙のリポ蛋白に対する作用が明らかになりつつある。いくつかのフィールド・サーベイで、HDLコレス
テロール値が虚血性心疾患の発生と負の関係にあることが明らかにされており、虚血性心疾患の発生率が低い集団では比較的
HDLコレステロール値が高い水準にあることが知られている。例えば、HDLコレステロール値は男よりも女で高く、日本
人男性のほうが米国人男性よりも高いこと、また、米国内では自人男性よりも黒人男性で高いことが知られている。一方、喫
煙者においてこのHDLコレステロールが低値を示すことが明らかになっている。これらの研究では喫煙者は非喫煙者に比し
有意にHDLコレステロールが低いことが示され、いくつかの研究では、毎日の喫煙本数とHDLコレステロールの値に有意
な負の相関がみられている。この関係については交絡因子が関与している可能性は認められていない。すなわち、肥満者でH
DLコレステロールが低く、飲酒者でHDLコレステロールが高い傾向にあるが、これらを補正すれば、より以上に喫煙者と
非喫煙者間でHDLコレステロール値の差が開くからである。また、血中の他のリポ蛋白も喫煙者では好ましくない影響を受
けることがいくつかの集団で観察されている。
b.血圧値との関係
喫煙により一過性に交感神経系を介した血圧の上昇がみられる。しかし、疫学調査によれば血圧値と喫煙の間にわずかに負
の相関がみられるという報告がほとんどである。この関係は体重と飲酒を補正しても同様である。Ueshimaらは、大阪
の40〜69歳の男子勤務者において飲酒、肥満度、年齢とは独立して、最小血圧は喫煙と有意の負の関係を認めた。また、
オーストラリアの勤務者での研究でも、体重と飲酒を補正した後でも最小血圧がわずかに喫煙者のほうが低かったと報告され
ている。米国脂質研究クリニックの研究では、喫煙は血圧、特に最大血圧との間により強く負の関係が認められた。しかし、
シカゴの前向き調査では、喫煙は高血圧と関係していた(特に最大血圧に関して)。しかし、この分析に飲酒は考慮されてい
ない。
最近の研究はほとんど、従来の報告すなわち、喫煙者は非喫煙者よりもやや血圧値が低いということを支持する結果となってい
る。しかし、体重の増加を補正したうえでの、禁煙による血圧値の有意な上昇を示すデータは報告されていない。
(3)喫煙と虚血性心疾患の他の危険因子との複合効果
他の危険因子が喫煙と併存したとき、2つの効果を合わせた以上の虚血性心疾患の発生増加がみられることがいくつかの研究で
明らかになっている。
1)Framingham Study(12年間の追跡)(図・・3−4(略))
a.喫煙と高脂血症
各コレステロールレベルごとに喫煙者と非喫煙者間で虚血性心疾患発生率を比較した結果、各レベルとも喫煙者のほうが
非喫煙者より虚血性心疾患発生率は高かったが、コレステロールレベルが高いほど喫煙者群と非喫煙者間の発生率の差が大
であった。
図・・3―4 喫煙と血圧、血清コレステロールの関係、12年間の虚血性心疾患の発生率(Framingham S
tudy)(略)
b.喫煙と血圧
各最大血圧レベルごとに同様の比較を行ったが、高い血圧レベルほど喫煙者と非喫煙者の間の虚血性心疾患発生率の差が
大きい傾向がみられた。
2)Pooling Project(図・・3−5(略))
喫煙者と非喫煙者で高コレステロール血症合併の有無、高血圧合併の有無で虚血性心疾患発生率の比較を行ったが、高コレ
ステロール血症、高血圧の2者を合併した者のほうが単純に足し合わせたよりも高率に虚血性心疾患の発生がみられた。喫煙、
高コレステロール血症、高血圧の3つを併せもつ群は、高コレステロール血症と高血圧を合併した群に比べて2倍以上の虚血
性心疾患の発生率であった。
図・・3―5 三大危険因子の組合せと、10年間の重症虚血性心疾患の発生率30〜59歳、男(年齢補正)(Poo
ling Project)(略)
3)Ni―Hon―San Study(表・・3−4(略))
日本人とハワイ日系人の研究では、ハワイでは高コレステロール群のほうが喫煙者と非喫煙者間の虚血性心疾患発生率の差
がより大きく、複合効果が観察された。これに対し日本人においてはこのような傾向は見出せなかった。これはハワイでは住
民のコレステロール平均値はかなり高く、そのため虚血性心疾患の発生率がかなり高く、複合効果が出やすいためではないか
と考えられる。
スウェーデンのストックホルムおよびイエテボリの各集団でも複合効果が観察されている。
表・・3―4 血清コレステロール値、喫煙と虚血性心疾患発症との関係(略)
Framingham Studyの集団における多重ロジスティック関数により推定されている喫煙者における虚血性心疾患
発生率が、コレステロール値の低い集団では実際観察される発生率よりかなり高いことはこの複合効果によってかなり説明される
ものと思われる。これは複合効果を考慮に入れない多重ロジスティック関数による結果である。すなわち、各因子の効果は和によ
って作用するという仮定に立ったものである。したがって、この関数によって計算される予測値は、喫煙についてみるならば喫煙
以外のリスクの低い集団では喫煙者における虚血性心疾患の発生を実際の発生率よりも過大に計算するだろうし、喫煙以外のリス
クの高い集団ではより過小に見積もる傾向がでると思われる。
(4)虚血性心疾患に対する喫煙の量−反応関係
喫煙の量と虚血性心疾患危険度との関係、量−反応関係については、諸外国において大規模な疫学的研究が行われ、その関係が
明らかにされている。喫煙の量は次の3つに要約できる。
・1日の喫煙本数、
・喫煙を始めた年齢(喫煙期間)、
・1回の喫煙でどれだけ深く吸入するか。
表・・3−5(略)は1日の喫煙本数別の虚血性心疾患の死亡率を非喫煙者と比較したものであるが、いずれの調査においても、
明らかに喫煙本数が増えるほど、死亡率は増加している。
次に、喫煙を始めた年齢と虚血性心疾患による死亡率との関係をみた成績が表・・3−6(略)である。若年者のうちに喫煙を
開始すると、死亡率が高いことが示され、特に未成年者においてはその傾向が強い。
さらに、喫煙時の吸入度と虚血性心疾患による死亡率との関係をみたものが表・・3−7(略)である。若年層では、深く吸い
込めばそれだけリスクが高くなっている。
日本における喫煙と虚血性心疾患との関係の大規模な疫学調査は、平山らによってなされている。これは昭和41年から48年
の間に、29保健所管内の40歳以上の成人26万5118人についての8年間の観察記録に基づいたものである。図・・3−6
(略)は、男について、1日の喫煙本数および喫煙開始年齢と虚血性心疾患標準化死亡比との関係を示したものである。喫煙本数
が増えるとリスクが高くなり、また未成年のうちに喫煙を開始すると特にリスクが高くなっている。
古野らは日本人医師(男)5477人を、昭和40年から52年まで、12.7年間追跡調査し、喫煙習慣と虚血性心疾患との
関係をまとめた。調査期間中、虚血性心疾患を死因とする死亡者数は非喫煙者16人、禁煙者31人、喫煙者74人であり、年齢
補正して虚血性心疾患の死亡率の相対危険度をみると、非喫煙者を1とした場合、禁煙者では1.79、喫煙者では2.14とな
っている。
表・・3―5 喫煙量別の虚血性心疾患死亡率の比―前向き調査(略)
表・・3―6 喫煙開始年齢別の虚血性心疾患死亡率の比―前向き調査(略)
表・・3―7 煙の吸入習慣と虚血性心疾患死亡率の比―前向き調査(略)
図・・3―6 虚血性心疾患標準化死亡比(男)1966−73、日本(平山ら)(略)
同様に、年齢補正した虚血性心疾患による死亡の相対危険度を1日当たりの喫煙本数別に比較してみると、非喫煙者を1.00
とした場合、9本以下では1.51、10〜19本では2.12,20本以上では3.01と、本数が増すほどリスクが増すこと
が示されている。
また、喫煙開始時の年齢を20歳未満と20歳以上の2群に分けて、年齢補正した虚血性心疾患による死亡の相対危険度をみる
と、非喫煙者を1.00とした場合、20歳未満からの喫煙者では2.81、20歳以後の喫煙者では1.91となり、未成年の
うちに喫煙を開始すると、より高いリスクがあることが示されている。
さらに、喫煙の吸入方法によるリスクの差を同じ方法でみているが、非喫煙者を1.00とした場合、「吸入せずまたは時どき
吸入する」群では1.93、「いつも吸入する」群では2.42という結果を得ている。
表・・3―8 禁煙と虚血性心疾患死亡率―禁煙期間と1日の喫煙本数ACS 25州研究 6年間の追跡調査(略)
表・・3―9 禁煙期間別の虚血性心疾患(略)
表・・3−10 喫煙習慣別にみた虚血性心疾患の死亡率の比の性による差異(略)
(5)禁煙効果
American Cancer Society 25 State Studyでは虚血性心疾患による死亡率と禁煙効果
との関係を、今までに吸っていた本数と禁煙年数を加味して調査している(表・・3−8(略))。
これによると、禁煙期間が長くなるほど、虚血性心疾患死亡率の減少をみている。これに今まで吸っていた喫煙量を考慮すると、
毎日1〜19本の群では10年以上禁煙した群ではリスクは0.99と非喫煙者に相当する減少を示しているが、毎日20本以上
の群では、禁煙期間が10年経過しても、リスクはなお35%高い。また、Gordon、KannelおよびMcgeeらは、
18年間のFraminghamStudyにより、若年者における禁煙の重要性を示した。これは、禁煙後の虚血性心疾患のリ
スクに関して分析を加えたものであるが、65歳以下の群では禁煙によるリスクの低下が認められたが、65歳以上の群には認め
られないとしている。
日本においても平山らの調査では、虚血性心疾患の死亡率比は、禁煙して9年以内では1.61、10年以上では0.97とな
り、禁煙してから10年以上たつと非喫煙者の1.00に近づく傾向がうかがわれた。
表・・3−9(略)は今までに吸ったたばこの総本数を2群に分け、また禁煙期間を2群に分けて虚血性心疾患による死亡比を
比較した平山らの調査結果である。禁煙期間が5年以上になれば、4年以下に比べてリスクは減少するが、禁煙するまでに20万
本以上吸っていた群では、この減少率は小さい傾向にあり、禁煙効果はそれまでの喫煙量が深く関与していることが示されている。
さらに、Stamlerは1968〜1976年の間、35〜74歳の米国人の過去10年間の虚血性心疾患による死亡率が、
黒人で21%、白人で39%、平均24.3%減少したのは、食事の改善、禁煙、高血圧対策の危険因子の改善の結果であるとし
ている。また、Puskaはフィンランドのノース・カレリア地方における虚血性心疾患の一次予防の成績において、喫煙、高コ
レステロール血症、高血圧などの危険因子の抑制の結果、5年間で中年男性では喫煙率が70%低下し、コレステロールも10%
低下した。女性でもすべての危険因子が低下していた。この結果、心筋梗塞の死亡率が21%減少し、かつ総死亡率も11%減少
したと報告している。
また、上島らは日本における30歳から69歳の虚血性心疾患による死亡が昭和43〜昭和53年の10年間に、男で24%、
女で37%の低下をみているのは、喫煙習慣の減少が関与している可能性を報告している。
(6)喫煙の影響の性,年齢による差異
近年、米国では女性の喫煙者が増加し、また若い頃より喫煙をはじめるようになったため、女性の虚血性心疾患に対する危険因
子として、喫煙の影響が無視できないものになってきている。
Sloneらは1976〜1977年に50歳以下の女性の心筋梗塞患者を調査した結果、喫煙者では、相対危険度が6.8で
あった。また、1日の本数が1〜14本の群では相対危険度4.4であったが、1日35本以上のヘビースモーカーになると相対
危険度は21にもなっていた。また、Rosenbergらは1976年から1979年に、25歳から49歳の女性について、
喫煙と心筋梗塞に関する症例−対照研究を行った。これは、心筋梗塞発症例555人を、喫煙と無関係と思われる状態で入院した
入院患者と比較したものであるが、心筋梗塞の相対危険度は、1日の喫煙本数が1〜14本の群では1.4、15日24本の群で
は2.4、25〜34本の群では5.0、35本以上の群では7.0と喫煙本数に伴い増加している。これを年齢層別にみると、
1日35本以上の喫煙者群では、45〜49歳で相対危険度5.2となったが、25〜39歳のそれは13となっており、若いほ
ど心筋梗塞と喫煙との関連が強くなっている。
日本における平山らの29保健所管内の調査では、表・・3−10(略)に示されるように喫煙者の虚血性心疾患死亡率は男女
で同程度の値となっている。
表・・3−11(略)は諸外国の報告とあわせて喫煙者と非喫煙者との虚血性心疾患による死亡率の比を年齢別にみたものであ
るが、日本では40〜49歳の若年層では、男性喫煙者3.09、女性喫煙者1.46と男のほうがリスクが高い傾向を示してい
る。表・・3−11(略)は同時に、加齢により喫煙者の虚血性心疾患による死亡率の比が減少していることを示しているが、こ
れは非喫煙者も加齢によって、虚血性心疾患による死亡率が急激に増加するためであり、見かけの減少である。以上のように、老
年層においては禁煙によるリスクの大きな減少は期待されないが、逆にいえば、喫煙は若年層の虚血性心疾患発生のリスクとして
深く影響しているといえるのである。
表・・3−11 年齢、喫煙習慣別の虚血性心疾患死亡率の比と死亡率、年齢別死亡率の比(死亡率)―前向き調査(略)