第4章 喫煙と呼吸器〔要約〕
呼吸器、ことに肺はたばこの煙を直接に吸い込む器官であるため、喫煙の影響については、臨床、基礎、疫学の各方面から検討
が加えられ、その実態が明らかにされてきている。
喫煙の呼吸器に対する影響についての疫学的研究は、大気汚染の健康影響調査を通じて行われた。臨床での経験を通じて、喫煙
者には咳や痰を訴える者が多いことがわかっていたので、大気汚染の影響調査に際しては、喫煙習慣についても問診し、喫煙者、
非喫煙者に層化して呼吸器有症状率を調査した結果、喫煙者では喫煙量に比例して、咳や痰などの呼吸器有症状率が高いことが明
らかにされた。喫煙者では非喫煙者に比し肺機能が低下傾向を示していることも報告されている。
喫煙は室内汚染の原因としても注目され、室内空気中のニコチン濃度、尿中のコチニン濃度、浮遊粉塵中のたばこの煙の割合
(約20〜90%)などの測定が行われている。
石綿暴露者、クロム酸塩製造工場従事者などでは、肺がんの発生率が高いことが知られているが、喫煙はこの肺がんの発生に対
して、相乗的に作用することが示されている。
喫煙と肺疾患との関係については、慢性閉塞性肺疾患、ことに慢性気管支炎や肺気腫などの発生に密接に関連することが多くの
研究で明らかにされている。また、全身麻酔で手術した後の肺合併症が喫煙者では多くなる。一方、特発性間質性肺炎、自然気胸、
びまん性汎細気管支炎などは、喫煙との関連は明らかでなく、農夫症やサルコイドーシスのような肉芽腫性疾患や気管支喘息では、
むしろ喫煙者が少ない。
喫煙の呼吸機能に対する影響としては、肺活量、1秒率の低下、残気量・率の増加などがみられ、フローボリューム曲線で、末
梢気道の閉塞性障害が証明されている。
喫煙の気管支や肺に対する影響についての基礎的な研究も多く行われており、喫煙者では肺胞・毛細管隔壁の透過性が亢進し、
気管支粘膜の最平上皮化生が高頻度にみられることが報告されている。近年、気管支肺洗浄液(BAL)を利用する研究が著しく
進歩し、喫煙者では肺胞マクロファージの増加。リンパ球や好中球の減少などが報告されている。