4.授乳婦への喫煙の影響
(1)乳汁分泌への影響
喫煙により母乳の産生が抑制されるかどうかは明らかでない。抑制されるとする報告には次のようなものがある。2時間以内に
7本の紙巻たばこを吸った母親からの乳汁採取が困難であったこと、十分に母乳の出ていた喫煙者55人のうち11人(20%)
は、出産後約11日目に退院するとき、母乳の不足が認められたこと。ただし、両者とも非喫煙者との比較は行われておらず、喫
煙本数との関係も認められなかった。
わが国での調査では、喫煙者と非喫煙者の間で、乳汁分泌に著明な差は認められていない。
喫煙者は非喫煙者に比べ授乳期間が有意に短いとの報告もあるが、母乳の産生が不十分なために授乳を中止したのか、喫煙者に
特有の別の要因で授乳を中止したのかは明らかでない。喫煙者の母乳産生が非喫煙者の母乳産生より少ないとしても、それは喫煙
そのものの影響よりも、むしろ喫煙女性は非喫煙女性より神経質で興奮しやすく、不安感が強く、その結果、母乳産生が抑えられ
ているのではないか、とも考えられている。
(2)母乳へのニコチンの移行
ニコチンがヒトの乳汁中に分泌されることは、古くから知られている。ある研究によると、母親が4時間以内に6〜20本の紙
巻たばこを吸った場合、喫煙後約4〜5時間後には微量ながら乳什中にニコチンが検出された。また、図・・5−14(略)は、
12時間当たりの喫煙本数と母乳中のニコチン濃度を、午前と午後に分けて示したものであるが、乳什中に分泌されるニコチン濃
度は喫煙本数と強い関係のあることがうかがわれる。
図・・5−14 喫煙本数と乳汁中のニコチン濃度(略)
近年では、乳汁中のニコチン量の測定にガスクロマトグラフィが用いられるようになって、より精度の高い測定が可能となった。
非喫煙授乳婦6人の乳汁の分析からは、ニコチンが認められなかったが、9人の喫煙授乳婦の乳汁中には、平均91ppbのニコ
チンが検出されたとの報告がある。血清中のニコチン濃度と乳汁中のニコチン濃度は正の相関(r=0.70)を示し、乳汁中の
ニコチン濃度は血清中のそれの約3倍である。
(3)児に及ぼす影響
乳汁を介しての微量のニコチンによる慢性影響は明らかでない。しかし、たばこを吸う母親の母乳を飲んだ新生児からニコチン
中毒が発生した事実は、報告されている。その主な症状は、不穏、不眠、幅吐、下痢、頻脈、哺乳減少、皮膚蒼白、無感情などで
あり、母乳と新生児の尿からニコチンが検出されている。また、授乳の中止でこれらの中毒症状が軽減、あるいは消失したことは、
ニコチン中毒のひとつの証拠であろう。
一方、喫煙者は非喫煙者に比べて、出産後1週の問に授乳する率が低いので、母親から母乳を介して受ける免疫学的恩恵が少な
くなり、その結果として、感染症などの疾病に罹患しやすくなる可能性は否定できない。また、仮に授乳したとしてもその期間の
短いことが知られている(2.7カ月対4.1カ月)。