1.他人の煙への暴露

  人がみずからの意志でたばこを吸うのに対して、自分の意志とは無関係にたばこの煙に暴露され、それを吸引させられることを
 「受動喫煙」と呼んでいる(ときに「間接喫煙」、「不随意喫煙」、「不本意喫煙」ということもある)。受動喫煙は特に喫煙習
 慣をもたないものにとって不快と感じられるだけでなく、急性、慢性のさまざまな健康障害をひき起こすことが最近ますます問題
 とされるようになってきた。
  たばこの煙は、喫煙者が吸い込む煙(主流煙)と点火部分から立ち上る煙(副流煙)とに区別されるが、この両者はその発生の
 条件が違うことにより、含有成分がかなり異なることが知られている。例えば、主流煙は酸性なのに対して副流煙はアルカリ性で
 刺激が強く、さらに後者には前者よりも発がん性物質などが多く含まれている(表・・7−1(略))。実際に受動喫煙で人が暴
 露されるのは、副流煙と、喫煙者が吸ってから吐き出した主流煙とが混ざったものである。
     表・・7―1 副流煙中のいくつかの成分の主流煙中含有量に対する比(略)
  このような他人の煙の吸引は、喫茶店のように特に大勢の人が喫煙する場所はいうにおよばず、人びとが長時間を過ごす日常生
 活空間、例えば職場、家庭、さらに列車等の中などでさまざまな程度で起こる。たばこの煙による室内汚染は発生する浮遊粉塵、
 一酸化炭素、二酸化窒素、ときにニコチンなどを指漂として定量されている。閉鎖室内でのCO濃度経時変化の一例を図・・7−
 1(略)に示した。都市の一般的なオフィスの場合、室内の浮遊粉塵中に占めるたばこ煙由来の粒子状物質の割合は30%から
 80%に達し、また会議室では73〜82%、休憩室でも88〜90%となる、という報告もある。一酸化炭素についても同様に、
 たばこ煙のないところでは、その空気中の濃度は2.0ppmであるのに対し、煙の充満した環境では、例えば会議室8〜33p
 pm、居室15〜60ppmに達する。しかし、その濃度は換気状態に大きく左右され、換気良好な通常の状況で喫煙者がいる場
 合は通常10ppm以下、いない場合は3ppm以下である。また、煙の粒子相の成分は空調システムを用いて除去できるのに対
 して、一酸化炭素は除去できない。
     図・・7―1 シガレット喫煙による閉鎖室内空気汚染時のCO濃度経時変化:4畳半相当(16・)の室内(略)
  列車内においても、たばこ煙による空気の汚染は明瞭である。禁煙車両内では一酸化炭素、浮遊粉塵の濃度はそれぞれ0〜2p
 pm、0.02〜0.08・/・であるが、普通車両では2〜7ppm、0.15〜0.52・/・に達するという。窓の開閉が
 できない特急列車の場合、車内がかなり空いた状態でも数人の乗客が喫煙しただけで、浮遊粉塵量は容易に建築物環境衛生管理基
 準値を越えることが確かめられている。
  家庭内の受動喫煙の場合には、浮遊粉塵や一酸化炭素などのほかに、室内暖房や調理用のガスや石油の燃焼による二酸化窒素に
 よる屋内空気汚染との同時暴露が問題となってきた。
 生活環境を家庭と職場とに大別し、そこで過ごす時間とそこでの煙への暴露を推定したモデル計算により、米国の平均的な成人非
 喫煙者の1日当たりのたばこ煙への暴露の程度は、紙巻たばこのタールに換算して最大14・、受動喫煙の全くない人も考慮した
 加重平均で1.43・相当であるという。ただし、上にみたように、受動喫煙と能動喫煙とでは吸引する煙の成分がかなり違うこ
 と、常習喫煙者と非喫煙者とでは急性にせよ、慢性にせよ、健康影響の出かたが違う可能性もあること、また受動喫煙の場合、煙
 は不均等な拡散をするため、平均的な測定濃度よりもかなり濃厚な有害成分を吸引する場合がありうることなどから、他人の煙へ
 の暴露の程度を能動喫煙の程度に換算してその健康影響を考えることには慎重でなければならない。