第2章 喫煙行動の形成過程(変容過程)とその要因

1.喫煙開始にかかわる要因

(1)初回喫煙動機

  大学生を対象にした重信らの調査によると、高校時代に初めて喫煙した者が54.5%で最も多く、喫煙動機としては「好奇心」
 が最も多く、次いで「なんとなく」、「つき合い」の順である。また、氏井らの調査でも喫煙開始年齢は高校時代が46.5%と
 最も多く、喫煙のきっかけとしては「なんとなく」と「好奇心」が全体の7割を占め、次いで「人に勧められて」である。村松ら
 や皆川らの調査でも喫煙動機に関して同様の結果が得られている。
     表・・2―1 初回喫煙動機(略)
  高校生を対象にした伊藤の調査では、喫煙開始年齢は15歳が最も多く、喫煙動機としては「なんとなく」が最も多く、次いで
 「友達の勧め」である。「まね」、「カッコよい」、「大人の仲間入り」はわずかである。
  中学生を対象にした小川らの調査では喫煙開始年齢は小学生のときと答えた者が約半数を占めている。喫煙動機は「好奇心」が
 最も多く、次いで「なんとなく」、「友達の勧め」である。このほか、回答率は少ないが、「他の人に勧められて」、「親に勧め
 られて」、「友達が吸っていた」、「カッコいい」、「香りがよい」、「先輩の勧め」などがあげられている。
  以上のことから「好奇心」、「なんとなく」は初回喫煙開始の2大動機であるといえよう。「なんとなく」という回答が多いの
 は、初めて吸ったときの動機がはっきりした意識によるものでなく、したがって鮮明な記憶として残らないからであろう。非喫煙
 者がなぜたばこを吸うようになるかの原因を明らかにするにあたっては、回答率は少ないもののこれ以外の他の動機、すなわち他
 人、なかでも友達からの勧めや、かっこよさなどに注目する必要がある。

(2)初回喫煙場所

  中学生を対象にした小川らの調査では、初めてたばこを吸った場所としては「自分の家」が最も多い。これ以外の「公園」、
 「友人の家」は約8%にすぎず、「学校」、「ゲームセンター」、「先輩の家」、「喫茶店」ではほとんど吸われていない。

(3)初回喫煙時のたばこの入手先

  中学生を対象にした小川らの調査によると、初めて吸ったたばこは「家にあったもの」が最も多く、次いで「友達からもらった」
 である。「自動販売機で買った」、「先輩からもらった」という者はわずかである。

(4)初回喫煙時の仲間の人数

  中学生を対象にした小川らの調査によると、初めてのたばこは「1人で吸った」が最も多く、次いで「2〜5人ぐらい」である。
     表・・2―2 初回喫煙時の場所、たばこの入手先、人数(略)
     図・・2―1 喫煙開始に影響を及ぼす主要な心理的社会的要因(略)以上のことから、非喫煙者がたばこを吸うように
           なる一般状況は、小川らの指摘するように「小学生または中学生のときに好奇心から、自分の家で、家にあ
           ったたばこを1人または複数で吸った」と描ける。
  したがって、たばこを初めて吸うか否かは、家庭ないし家族とのかかわりが特に大きいといえよう。
  Russellは思春期の喫煙開始を決定する主要な心理的社会的因子を図・・2−1(略)のように示している。
  左側には喫煙を阻止する因子として、子供の喫煙に対する「親の態度」や「学校の態度」、「喫煙の健康に及ぼす危険性」(肺
 がんに対する危険性の認知度など)、「感覚的不快感」(最初の2〜3本の紙巻たばこを吸ったときの不快感など)、「ニコチン
 の作用」が示されている。ただし、これらのうち「感覚的不快感」と「ニコチンの作用」の不快な副作用は喫煙行為が繰り返され
 ればまもなく消失する。
  一方、右側には喫煙を強化する因子として、「たばこの入手可能性」、「喫煙への好奇心」、「反抗心」、「強さへのあこがれ」、
 「大人へのあこがれ」、「社会的信用」、「親のまね」、「兄弟の喫煙」、「友達の喫煙」が示されている。
  これらの心理的社会的因子のうち、Bynnerは、「たばこを吸う友人の数」、「大人へのあこがれ」、「子供の喫煙に対す
 る親の態度」、「肺がんの危険性に対する子供の認識の程度」の4因子を喫煙開始を決定するうえで特に重視しており、彼の提唱
 するrecruitment modelの主要な構成要素にしている。すなわち、大人へのあこがれをもち、たばこを吸う友達
 とまじわる子供ほど最も喫煙を開始しやすい状況にあり、反面、子供の喫煙に対し否定的態度を持つ親がいて、肺がんに対する危
 険性を強く認識している子供ほど喫煙を開始しにくい状況にあるというのである。
  小学生や中学生などの未成年者が初めてたばこを吸おうとする動機はすべて心理的社会的なものであるといえる。
  喫煙防止にあたっては、まずもって、非喫煙者がたばこを吸わないようにすることを重視すべきであり、そのためには未成年者
 を対象にして、社会科学的視点から喫煙行動に関与する心理的、社会的要因を体系的に分析する研究をさらに進める必要がある。