2.喫煙の継続にかかわる要因

(1)喫煙者の喫煙理由

  大学生の場合、氏井らの調査によると、喫煙している者の喫煙理由として、男子では「手持ちぶさた」、女子では「気分転換に
 なる」が最も多い。このほか、「気持ちが休まる」、「習慣」、「雰囲気」、「味,香りを楽しむ」などがあげられている。
     表・・2―3 喫煙理由(略)
  また、多々納らの調査では、入学1年後の男子喫煙者の喫煙理由は「ストレス解消」が最も多く、次いで「なんとなく、その他」、
 「落ち着く」、「好きだから」である。
  このように、現在喫煙している者は、喫煙に対し、初回喫煙動機にみられた「好奇心」、「カッコよい」、「大人の仲間入り」
 といった心理的社会的な面での表象的価値づけに加え、「手持ちぶたさ」にみられる手の操作的満足や「気分転換」、「ストレス
 解消」、「落ち着く」などにみられる精神の鎮静効果や「雰囲気」、「楽しみ」にみられる娯楽的満足を期待するようになる。

(2)喫煙タイプと形成過程

  lkard、Russellらは野々瀬も紹介しているように喫煙のタイプを以下の7つに分類している。

  心理的社会的喫煙
    大人っぽくみられたいとか、友達とのつき合いのために喫煙するもので、初めてたばこを吸う者にみられるタイプ
  感覚運動的喫煙
    たばこに火をつけたり、煙を見るのが好きだったり、たばこを手にして弄んだり、口での感触や手の操作そのものに満足を
   覚えるタイプ
  道楽的喫煙
    楽しみのための喫煙であり、ゆっくりと楽しく味わえる休息時(食後、仕事の区切りのついたとき、コーヒーなどを飲むと
   き等)に行われがちであり、喫煙者が忙しいときや何かに熱中しているときは2〜3時間喫煙しないタイプ
  鎮静的喫煙
    精神の不安や緊張時の不快な状態を軽減するときに行われ、女性や神経質な人に多いタイプ
  刺激的喫煙
    道楽的喫煙と違って、喫煙者が忙しい活動をしているときに、精神の興奮を得るために行われ、喫煙量が多く煙を深く吸い
   込む人にみられるタイプ
  耽溺的喫煙
    20〜30分吸わないと禁断症状が現れ、このつらい状態を回避するために行われ、眠っているとき以外は常に喫煙してい
   る人にみられるタイプ
  自動的喫煙
    刺激的喫煙者や耽溺的喫煙者のうちのきわめて重度な者にみられ、まだ喫煙しているのに無意識のうちに別のたばこに火を
   つけるタイプ

  たばこを初めて口にした若年喫煙者は、このなかの心理的社会的タイプに相当し、カッコいい、大人っぽくみられたい、友達と
 つき合いがうまくいく等といったことに喫煙の価値を置いている。ところが喫煙頻度が増し、吸入が深まるにつれて、また、発育
 発達によって、社会性が身についてくるにつれて心理的社会的報酬の大部分は弱められ、感覚運動的報酬や薬理学的報酬が喫煙を
 持続させることになる。

(3)喫煙の形成過程に及ぼす要因

  Russellは喫煙を継続させる因子として、図・・2―2(略)の右側に示したように「心理的社会的報酬」、「感覚運動
 的報酬」、「道楽的因子」、「鎮静的因子」、「刺激的因子」、「禁断症状の軽減」をあげている。これらの因子は前述した喫煙
 の7タイプとかかわっていることはいうまでもない。
     図・・2―2 喫煙の継続に影響を及ぼす要因(略)
  図(略)の左側には喫煙を中断させる因子として、「健康への懸念」、「たばこの費用」、「社会的圧力」、「喫煙行為に対す
 る制御動機」(喫煙行為をコントロールしたいという意志力)、「喫煙行為に対する審美的動機」(喫煙行為の善悪、是非に対す
 る態度)、「喫煙行為に対するお手本行動」(若年者の良き手本となりたいという気持ち)が示されている。
  この中断因子に比べ、たばこを継続させる因子のほうが強いと喫煙行為は継続されることになる。
  Stepneyも図・・2―3(略)に示したように、Russellとほぼ同様の因子をあげている。継続因子の中の「社会
 的要因」はRussellの「心理的社会的報酬」、「感覚運動的報酬」、「道楽的因子」と、また、「覚醒状態の調整因子」は
 「鎮静的因子」、「刺激的因子」と、「身体的耽溺」は「禁断症状の軽減」とにそれぞれ相応しているといえよう。
     図・・2―3 喫煙開始、喫煙習慣の成立およびその維持に影響を及ぼす諸因子(略)
  このように初回喫煙から喫煙本数が増大してゆく過程(常習喫煙に至らない過程)では心理的社会的要因が大きく関与している
 のであるが、その具体的要因としては次のようなものが見出されている。

 1)個人的心理的要因(パーソナリティー)
  a.外向性、反社会的傾向、神経症的傾向
   村松は女子学生の喫煙者の心理的特徴を交流分析を用いて検討しているが、まず、5つの自我状態(P―批判的CPと保護的
  NP、理性的A、C―自由奔放的FCと順応的AC)についてみると、喫煙者は非喫煙者に比較してP(物事を客観的にみて、
  善悪を判断する阻我状態)での差は大きくなく、C(感情に支配される本能的な自我状態)での差のほうが大きく、FCが高く、
  ACが低い。このことから喫煙者は自分の思いのまま行動し、天真らんまんで自己中心的であることがうかがえる。次に個人が
  自分および他人に対して生涯一貫してとる4つの「基本的な構え(自他肯定、自己肯定・他者否定、自己否定・他者肯定、自他
  否定)」についてみると、喫煙者は非喫煙者に比べ、有意(p<0.001)に自己肯定型が多く、自己否定型が少ない。自己
  肯定型は外向的性格の人にみられる活動的で社交的な特徴を有しているが、小川の成人男子を対象にした研究においても、喫煙
  者の性格特性として積極的、勝ち気、独断性をあげ、外向的傾向がみられると報告している。
   一方、Eysenkらも喫煙者は非喫煙者よりも外向的であること、また反社会的傾向や神経症的傾向がみられることを報告
  している。同様に、Simonらも女子学生199人を対象にして、EPPSテストを行い、喫煙者は「自律」、「変化」や
  「異性愛」への要求が非喫煙者に比べ著しく、また、マリファナを吸う傾向にあるが、非喫煙者は「達成」や「服従」、「秩序」
  への要求が強い傾向にあるという。Cherryらも成人2753人を対象にしてMPIテストを行い、神経症的な傾向の強い
  者は、喫煙者、なかでもより深く吸い込む者に多くみられ、外向性の者は内向性の者より、喫煙を好み、しかも1日の喫煙本数
  も多い傾向にあると報告している。Smithは19種類の研究報告を分析して、喫煙者はより外向的(反抗的、反逆的、挑戦
  的、逸脱的など)傾向にあるとの指摘が多いということを報告している。同様なことはLebovitsらやNesbitt、
  Reynoldsらも指摘している。b.Health Locus of Control(HLC)
   HLCはRotterの社会的学習理論に基づくLocus of Controlの考えを保健行動の領域に適用した一種
  の人格変数である。HLCが1nternal(内的統制)の者は健康を自分自身の努力によって得られると信じ、Exter
  nal(外的統制)の者は、運や医療に携わる者などによって得られると信じているというのである。
   初期の研究としては、結核入院患者を対象にしたSeemanとEvansのものがある。これによると、Internal
  な患者はExternalな患者より自分の症状に関する情報をより積極的に得ようとすると報告されている。
   喫煙との関連については、Clarkらの研究があり、喫煙者は非喫煙者に比べExternalであると報告している。S
  mithやBermanやHjelleも同様に喫煙者は、よりExternal傾向が強いと報告している。渡辺もHLC尺
  度を用いて大学生(文系1年生)の喫煙行動および喫煙態度との関連を調査し、External傾向が強いほど喫煙する者が
  多く、またInternal傾向が強いほど喫煙に対して否定的態度をとると報告している。用いたHLC尺度は14項目から
  なり、Internal項目では「そう思う」「ややそう思う」、「そう思わない」の順に4〜1点とし、External項
  目では逆に1〜4点として14項目の合計得点を求める。したがって、この得点が高くなるほどInternal傾向が強いこ
  とになる。
   HLCの理論は期待×価値モデルを基礎としており、HLCはこの「期待」に関する尺度である。したがって、このHLCの
  期待に加え、健康に関する価値を併用することによって、さらに保健行動の予測力が高まることが期待できる。Kaplanら
  はHLCがInternalでかつ健康を高く価値づける者が最も喫煙本数が減少したと報告している。そして、その理由とし
  て、Internal傾向の者は積極的、自主的に行動しようとする姿勢が強いがゆえに、節煙の効果を信じて行動を変容しよ
  うとするからであり、健康を高く価値づける者は健康であろうとする意向が強いがゆえに節煙によってもたらされる効果をさら
  に持続しようとするからであると指摘している。

 2)社会的因子
  福田らは高校性の喫煙行動と家族の喫煙習慣の関係を分析し、両者の間にきわめて有意な関係が認められると報告している。
  多々納らは、男子大学生の喫煙行動に密接に関連する変数として、喫煙に対するイメージ(態度)、次いで"重要な他者"(父、
 母、兄、姉、親友、一般成人)の喫煙状況をあげている。すなわち、喫煙者ほど喫煙に対し好意的、積極的イメージをもち、家族
 よりは友人の喫煙状況の関与が強いというのである。
  村松は、女子大学生の喫煙行動の背景要因について、日常生活行動様式および属性とのかかわりの面から検討しているが、それ
 によると、喫煙行動との単相関が0.15以上のものは「喫煙する女子の友人」、「女性の喫煙に対する態度」、「化粧」、「飲
 酒」、「喫煙する男子の友人」の5項目であり、さらにこの5項目への相関が0.15以上のものは「休日行動」、「小遣い」、
 「年齢」の3項目である。
  この8項目と喫煙行動とのパス解析の結果に基づいて喫煙行動の形成過程を解釈すると、年齢が増え、小遣いが多く、休日に外
 出することが多いほど今飲酒したり、化粧したりすることが多くなり、このことが多いほど→喫煙する男子および女子の友人が多
 くなり→女性が喫煙するのを是認することが多くなることになる。