3.禁煙にかかわる要因
(1)禁煙過程と禁煙理由・動機
小川らは喫煙経験者(喫煙者+前喫煙者)を対象とした禁煙調査(成人男子2386人)において、禁煙過程を
・禁煙への関心、
・禁煙実行、
・禁煙持続、
・禁煙成熟
の4段階に区分している。各段階の出現率をみると、第1段階の禁煙したいと思ったことのある者は77.5%であり、このう
ち禁煙を実際に実行したことのある第2段階の者は76.2%(1409人、全体の59.1%)である。しかし、その禁煙実行
者群の過半数以上(65.8%)の者は再び喫煙を開始しており、残りの34.2%の者が第3段階の禁煙を持続しているにすぎ
ない。しかも、この禁煙持続者群の45.9%の者は今でも喫煙したい気持ちをもっており(不完全禁煙者)、全く喫煙したい気
持ちをもっていない第4段階のいわゆる完全禁煙者は54.1%であり、禁煙実行者群の18.5%にすぎない。これら各段階群
別に禁煙しようと思った理由についてみると、いずれも「将来の健康に悪いから」という者が最も多く、次いで「健康を害したか
ら」である。完全禁煙者はこれらに加え「医者に注意されたから」をあげる者が他の段階群に比べ多い。また、各段階群のうち、
第2、3、4段階群、なかでも第4段階群は加齢とともに増大傾向にある。この点、七田も「これまでの喫煙習慣調査から老年者
に禁煙率が比較的高い」と報告している。そして、70歳および75歳の在宅老人1129人のうち、39%が禁煙しており、し
かもそのうちの半数以上は60歳以後に禁煙していることや禁煙理由としては、「病気をした」が最も多く、次いで「健康に悪い」
からをあげていると指摘している。
森らはこの小川らの調査に引き続き、翌年の昭和57年に男子394人を対象にして、さらに禁煙の各段階での心理的要因につ
いて、質的分析を加えている。その結果、喫煙再発群が、たばこを吸い始めたきっかけとしては、「ストレス、気分転換」が最も
多く、次いで「会議・会話・周囲の喫煙」、「病気・体調の回復」、「飲酒・食事」、「予定禁煙目標の達成」の順である。一方、
現在禁煙しているものの喫煙したいという気持ちをもっている者が、再び喫煙したくなるのはどのようなときかについてみると、
「飲酒・食事」が最も多く、次いで「会議・会話・周囲の喫煙」、「ストレス・気分転換」の順である。
これらの結果を先述した喫煙タイプとかかわらせてみると、喫煙再発群は主として鎮静的喫煙型、不完全禁煙群は道楽的喫煙型
に属するといえよう。
(2)禁煙者の属性
小川らは、昭和45年、成人男子2828人を対象にして、禁煙者の属性(身体症状63項目、性格17項目、飲酒習慣25項
目、社会背景7項目)について検討している。
禁煙者は11.1%を占め、身体症状に関する11項目(咳、痰、まぶたの腫れ、手足のしびれ、舌あれ、食欲減退、毎夜排尿
起床、胸がしめつけられる感じ、鼻出血、鼻の具合が悪い、十二指腸潰瘍既往)において、喫煙群に比しその訴え率が有意に低い。
このほか、禁煙者は「健康意識が高く、神経質で内向的性格傾向にあり、社会的地位が高い。また、禁煙年数に伴って、コーヒ
ー習慣は低下するが、飲酒習慣は強まり、甘いもの、果物を好む傾向にある」と指摘している。
また、川上らも成人833人に対して、禁煙者(禁煙して1年以上)の属性(喫煙歴、禁煙の回数、動機、精神的離脱症状、喫
煙に対する知識・態度、既往歴、職業、個人生活、健康意識、健康習慣)について検討している。禁煙者は15.5%を占め、喫
煙群および以前禁煙経験群(1年以内)に比べ有意な関係の認められたものは、喫煙本数(20本以上)、喫煙年数(20年以上)、
禁煙回数(3回以上)、精神的離脱症状(+)、胎児に対する喫煙の影響に関する知識、喫煙制限への積極的態度、既往歴(全疾
患)、健康習慣(野菜をよく摂る、運動をよくする)、個人生活(時間的余裕がない)、職務内容(事務系)である。これらのこ
とから、禁煙者は喫煙本数が少なく、喫煙年数が短期間で、禁煙回数や精神的離脱症状が少なく、胎児への悪影響の知識をよく知
っており、職場での喫煙制限に対しては積極的態度を持ち、何らかの疾患の既往歴が多く、事務系の仕事についている者が多く、
個人生活では時間的余裕があり、野菜をよく摂り、運動をよくするといった特性をもっていることが明らかにされている。