4.喫煙行動の予測モデル(予測因子)
行動の予測変数として、態度に視点をあて、態度と行動との関係を明らかにしようとする試みは少なくない。両者の関係を明ら
かにするにあたっては、できるかぎり、少数の変数で、より的確に予測できることが最も望ましいことはいうまでもなく、この方
向で比較的研究が進んでいると思われるものにFishbeinの理論並びにその後の一連の研究がある。
たとえば、英国の国勢調査局社会調査課は1981年に、3990人(16〜66歳)を対象にして、喫煙の態度および行動に
関する大規模調査研究を行っているが、その喫煙(節煙、禁煙)の予測モデルとして図・・2―4(略)に示したようにFish
beinの理論が採用されている。
図・・2―4 態度と喫煙行動との予測モデル(略)
すなわち、喫煙(節煙,禁煙)をするか否かは「行動意図(その行動を遂行しようとする意志や考え)」によって決定されるが、
この行動意図は「行動に対する態度」や「主観的規範」によって、これらはさらに「外的変数」、すなわち・属性(年齢、性、学
歴、社会的階層、家族構造、喫煙タイプ、喫煙歴など)、・他の態度(社会問題としての喫煙に対する態度、喫煙と健康問題に対
する態度など)、・感情(意志力、依存性、社会的圧迫、緊張と不安、経済的圧迫など)によって規定されている。
図(略)中の各予測因子について、その測定(質問および評価)の仕方について概略すると次のごとくである。
〔1〕行動意図(BI)
「あなたは喫煙を継続(節煙、禁煙)するつもりですか」なとといった設問に対し、「吸うつもり−吸わないつもり」とい
った確率次元尺度で測定する。
〔2〕行動に対する態度(A)
「あなた自身が喫煙を継続(節煙,禁煙)することに対してどのような感じを持ちますか」今(良い−悪い、得−損など)
〔3〕行動がもたらす結果についての信念(Ba)
「あなたは喫煙を継続(節煙、禁煙)することによって、次の(a)〜(e)の結果がどの程度ありそうだと思いますか、
なさそうだと思いますか」
(a)病気や脅威の軽減、
(b)生活面の向上(食欲増進,疲労回復など)、
(c)積極的および消極的感情(楽しい、イライラの解消、気分転換など)、
(d)費用(お金がかかるなど)、
(e)審美的事項(格好がよい、不潔、汚いなど)
これらのおのおのに対して今(ありそう−なさそう)
〔4〕行動結果についての評価(Ea)
「喫煙を継続(節煙、禁煙)することによって得られそうな(a)〜(e)の結果は、あなたにとって良いことか悪いこと
か」
(a)〜(e)のおのおのについて今(良い−悪い)
〔5〕重要な他者の意見に対する信念(Bsn)
「あなたのまわりの重要な他者(友達、親、先生など)はあなたが(f)や(g)のような社会的規範の観点から喫煙を継
続(節煙、禁煙)すべきである、あるいはすべきでないと考えていると思いますか」
(f)社会的規範としての許容的事項(イライラの解消、気分転換など)、
(g)社会的規範としての否定的事項(未成年者は吸うべきでない、他人に悪影響を及ぼすなど)
この(f)や(g)について、重要な他者のおのおの(友達、親、先生など)はそのような観点から喫煙を今(継続すべき
であると考えていると思う−思わない)
〔6〕重要な他者の意見に従う意欲(Esn)
「社会的規範としての(f)や(g)に対するあなたのまわりの重要な他者の意見に、あなたは従いたいですか」
重要な他者のおのおのの(f)や(g)に対する意見に→(従いたい−従いたくない)
井上らも、大学生を対象にして、喫煙行動(喫煙量:0〜20本以上までを7点に尺度化したもの)、献血行動をとり上げ、F
ishbeinの理論の理論的統計的検証を試みている。ただし、「重要な他者の意見に従う意欲」は行動の予測性に有効でない
との理由で最初から除外されている。
行動に対する態度(A)および「重要な他者の意見に対する信念」(Bsn)は、行動および行動意図の予測変数として有効で
あり、さらには「行動に対する態度」単独よりも「重要な他者の意見に対する信念」を加えたほうが予測性が高くなることが明ら
かにされている。
加藤らもFishbeinの理論を日常の保健行動(運動・スポーツ、十分な睡眠、朝食、食前の手洗い、インスタントラーメ
ンの摂食、喫煙、飲酒)に適用し、その理論の有効性について理論的統計的検証を試みている。7つのいずれの行動においても、
その実施頻度と最も強い正の相関が認められたのは「行動意図」であり、次いで「行動に対する態度」である。「主観的規範」に
ついては、ほとんどの行動において相関がみられない。ちなみにこの点を喫煙行動についてみると、「行動意図」は男0.83、
女0.49と最も高く、次いで「行動に対する態度」の男0.72、女0.32であり、「主観的規範」は男のみ0.17である。
そこで、「行動意図」を目的変数とし、「行動に対する態度」、「主観的規範」を説明変数として重回帰分析を試みた結果、いず
れの行動においても、有意(p<0.01)な相関が認められている。また、2つの説明変数の標準偏回帰係数をみると、「行動
に対する態度」(0.88)のほうが「主観的規範」(0.06)よりも明らかに高く、「主観的規範」は行動意図の予測因子と
して、あまり寄与していないことが明らかにされている。
このことから、喫煙を継続するかあるいは節煙、禁煙するか否かは、喫煙に対する態度(喫煙結果についての信念および評価)
と大きくかかわっており、喫煙することによってもたらされる結果について、それがどのくらいの頻度や確率で起こるのかという
ことと、それが自分にとって良いことなのか悪いことなのかをどの程度信じるかによって左右されるといえよう。
以上、英国の国勢調査局社会調査課の研究報告等においてもFishbeinの理論の検証の仕方は、意識調査に基づく統計処
理などといった意識ないし認識面にとどまっており、実際の行動面からとの程度個人および集団の喫煙行動を予測し説明しうるか
についてまでは言及されていない。
このことは、Flshbeinの理論のみならずLocus of Controlやその他の保健行動予測モデルないし理論
(Health Belief Modelなど)においても然りであり、今後、観察や実験などによる実際の行動面からの研究
をすすめてゆく必要がある。