第1章 わが国における現状
1.わが国における規制措置等
(1)法律
わが国における喫煙に対する法的規制には、以下のようなものがある。
・ 未成年者喫煙禁止法(明治33年法律第33号)
同法は、満20歳未満の者が喫煙することを禁止し(第1条)、違反者に対しては行政処分として煙草及び器具を没収する
こと(第2条)、子の喫煙を知っていて止めなかった親(第3条)、未成年本人が喫煙することを知っていて販売した者(第
4条)に対して罰則を設けている。
・ 鉄道営業法(明治33年法律第65号)
同法第34条で、職員の制止に服さない者に罰則を設けているが、その中のひとつとして禁煙の場所及び禁煙車で喫煙する
ことをあげている。
・ 消防法(昭和23年法律第186号)
同法第9条において、火災発生予防の視点から、火災の発生の恐れのある器具の取扱その他の規制を市町村が条例で定める
こととしている。各市町村はこれに基づき映画館等の公衆の集合する場所等での喫煙の禁止を定めている。
・ たばこ事業法(昭和59年法律第68号)
喫煙に関連して、近年の大きな変化は専売公社の民営化であるが、また同時に輸入販売の自由化も行われている。
たばこ事業法において特に健康影響対策として関連の深い部分は、注意表示義務および広告に関する規制であるが、それらに関
しては以下のような規定となっている。
第6章 雑則
(注意表示)
第39条 会社又は特定販売業者は、製造たばこで大蔵省令で定めるものを販売の用に供するために製造し、又は輸入し
た場合には、当該製造たばこを販売する時までに、当該製造たばこに、消費者に対し製造たばこの消費と健康と
の関係に関して住意を促すための大蔵省令で定める文言を、大蔵省令で定めるところにより、表示しなければな
らない。ただし、輸入した製造たばこを博覧会において展示し即売する場合その他大蔵省令で定める場合は、こ
の限りでない。
2 卸売販売業者又は小売販売業者は、前項本文の規定により製造たばこに表示されている文言を消去し、又は変
更して、製造たばこを販売してはならない。
(広告に関する勧告等)
第40条 製造たばこに係る広告を行う者は、未成年者の喫煙防止及び製造たばこの消費と健康との関係に配慮するとと
もに、その広告が過度にわたることがないように努めなければならない。
2 大蔵大臣は、前項の規定の趣旨に照らして必要があると認める場合には、あらかじめ、政令で定める審議会の
意見を聴いて、製造たばこに係る広告を行う者に対し、当該広告を行う際の指針を示すことができる。
3 大蔵大臣は、前項の規定により示された指針に従わずに製造たばこに係る広告を行った者に対し、必要な勧告
をすることができる。
4 大蔵大臣は、前項の規定による勧告をした場合において、製造たばこの広告を行った者が、正当な理由がなく、
その勧告に従わなかったときは、その旨を公表することができる。
(2)通知
1964(昭和39)年1月に、米国の厚生教育省から報告書『喫煙と健康』が発表されたことに対応して、わが国の厚生省は
2つの通知を出した。それらは以下のとおりである。児童の喫煙禁止に啓発指導の強化について(昭和39年1月25日児発第6
0号。児童局長から各都道府県知事各指定都市の市長あて通知)
標記の件に関しては、かねて、児童健全育成の一環として、種々御配意を煩わしているところであるが、それにもかかわらず、
最近、児童の喫煙する者の増加する傾向がみられるのは、まことに憂慮すべきことである。未成年者の喫煙は、「未成年者喫煙禁
止法」(明治33年3月7日法律第33号)によって禁止されているところであり、喫煙が未成年者の心身の発達に及ぼす害につ
いても、既に各関係者および一般国民の承知されているところであると思われる。たまたま、1月11日、米国厚生教育省公衆衛
生院は「紙巻煙草は肺がんその他生命にかかわる病気の原因となり、健康に有害である」旨の発表を行ない、これが全世界に報道
され改めてこの問題の重要性が再認識されたところである。
この機会に、あらためて、家庭および地域社会の人々の関心をたかめ、啓発指導を強化することにより、児童の健全育成に寄与
するよう、下記事項につき斟酌の上、貴地方の実情に即した対策を樹て、貴管下の関係機関等と協力して未成年者の喫煙禁止の実
をあげるよう御配意を煩わしたい。
記
1 この問題は18歳未満の児童のみならず20歳未満の未成年者の喫煙禁止の問題でもあるので、児童福祉関係機関は、青少
年問題協議会および、関係行政機関、関係団体と十分な連絡提携をはかること。
2 喫煙の害とくに、未成年者の喫煙の害、および「未成年者喫煙禁止法」の趣旨に関し、広報宣伝を行なうこと。
3 市町村ごとに各関係機関、団体、地域組織等が協議し、それぞれの組織の活動を通じて、家庭、一般成人、未成年者、煙草
小売業者等に対し、未成年者に対する煙草の不売、不勧奨、未成年者の不買、不喫煙等につき、啓発指導を行なうこと。
4 児童委員協議会においては、議題として未成年者の喫煙禁止の徹底の問題をとりあげて協議し、児童委員の立場から、地域
の実情に即してこの運動の推進をはかること。
5 母親クラブ等の地域組織においては、その団体の活動を通して、各家庭を啓発し、かつ、個々の未成年の喫煙防止について
啓発指導を行なうこと。
6 なお、前記の諸対策を樹立するにあたっては、地方児童福祉審議会の意見を徴するようされたいこと。喫煙の健康に及ぼす
害について(昭和39年2月6日衛発第68号。公衆衛生局長から各都道府県知事、各指定都市市長あて通知)
標記の件に関し、先日米国厚生教育省公衆衛生局より「喫煙と健康」と題する報告書が発表され大きな反響を呼んでいるが、厚
生省においても去る1月27日専門の医学者の参集を求めてこの報告書の信憑性、日本における特殊性等について討議したところ
その意見はおおむね別添のとおりであった。
米国の報告書及びこれに関する専門家の意見からみて、わが国においても若年層の喫煙、成人の長期多量の喫煙が健康に悪影響
を及ぼすことは明らかであり、国民保健の立場からその害に関する啓蒙の措置をとる必要がある。
未成年者の喫煙防止については、さきに児童局長より通達されたところであるが、さらに成人の長期多量の喫煙の害についても、
関係機関、関係団体との連絡のうえ、別途送付する資料を参考として指導啓蒙の措置をとるよう御配意を煩わしたい。
別添 たばこと肺がんの関係について
過日アメリカ公衆衛生局の「喫煙と健康」と題する報告書が発表されて以来特にたばこと肺がんの関係について国民が不安を抱
いているので、1月27日専門の医学者9人の参集を求めて、本報告書の信憑性、日本におけるこの問題の特殊性等について討議
したところ、その意見は概ね次のとおりであった。
1.報告書に対する意見
1)報告書作成に当っての委員の選考、検討の順序等については、相当慎重な考慮を払い、公正を期していると認められる。
2)資料の収集については、可能な限りの努力を払っているが、なお、時間的・地域的に止むを得ない限界があったようである。
3)本報告書は、標題(Smoking and Health)に示すとおり肺がんのみならず、喫煙とかなり広い範囲の疾病
との関係を、主としてアメリカ、カナダ、イギリスのある時点のデータを集団的に把握して行ったものであり、これらのデータ
に関する限りにおいて、結論は正確であると認められる。
4)多量かつ長期間の喫煙は成人の死亡率に相当な影響を及ぼしていると認められる。影響が大きいと考えられる疾病は肺がん、
慢性気管支炎、心臓血管障害等があげられている。
5)肺がんについては紙巻たばこが葉巻、パイプに比して危険度が多いようであり、その危険度は喫煙の継続期間、1日の紙巻た
ばこの本数に比例するものとされている。
6)なお、本報告書においても、たばこの利点として精神面における効果を認めている。
2.日本における特殊性
1)現在における日本の肺がんによる死亡率は欧米に比してかなり低く、1961年においては男子でアメリカの約1/4、イギ
リスの約1/10であり、しかも病理学的な点においても欧米各国の肺がんでは扁平上皮がんが多いのに対し、日本では腺がん
が多い等の差もあって、たばこの影響があるとしても欧米に比して少ないと思われる。
2)しかし、肺がんの死亡率は最近15年間において男子で5.8倍に急激に増加しており、長期的に見ると若年層の喫煙、多量
の喫煙が現在よりも大きな要因となることが、本報告書から推論できるようである。
昭和53年には国立病院・療養所内の喫煙場所について、以下のような通知が出された。喫煙場所の制限について(病第58号
昭和53年4月28日医務局国立病院課長、医務局国立療養所課長から各国立病院長、各国立療養所長、国立がんセンター総長、
国立循環器病センター総長あて通知)
喫煙が健康に悪影響を与えることについては、WHOの勧告をはじめ広く認められているところである。
国立病院・国立療養所は、もっぱら健康に問題を生じている人々が集まる公共の場所であるため、既に十分な配慮がなされて
いる施設も少なくないと思料されるが、さらに喫煙による影響を理解し、また火災予防の見地からも、外来待合室等では、喫煙
の換気に配慮した一定の場所を設け、この場所以外での喫煙を禁止する等の措置を可能な限り実施するとともに、職員に対して
も喫煙マナーの指導徹底をはかられたい。
WHOが1980年を禁煙年としたことから、以下の通知が出された。喫煙と健康の問題に関する衛生教育について(衛発第
233号昭和55年3月13日公衆衛生局長より各都道府県知事、各政令市市長、各特別区区長あて通知)
喫煙の健康に及ぼす害については、昭和39年2月6日衛発第68号本職通知をもってその害に関する指導啓蒙方通知したと
ころであるが、本年4月7日の第32回世界保健デーにおいては、「喫煙か健康か選ぶのはあなた」を標語と定めその行事を実
施することとされ、この旨昭和55年2月18日厚生省収国第13号厚生事務次官通知をもって各都道府県知事、指定都市市長
あて通知されたところである。
WHOも指摘しているように喫煙は肺がんをはじめ、心臓病やその他の呼吸器疾患等と密接な関連があることが認められてお
り、喫煙を抑えること、特に、青少年に喫煙の習慣を身につけさせないようにすることはこれら疾患を予防する上で大変重要な
ことと考えられる。
このため、喫煙の健康に及ぼす影響について積極的に情報を提供し、疾病予防の見地から喫煙に関する認識を深めていくこと
が必要とされており、第32回世界保健デーはこのような見地から喫煙についての選択を広く求めようとするものであるが、こ
の問題については今後とも継続的な対応が必要であると考えるので、これを契機に別途送付する資料を参考として喫煙と健康の
問題に関する衛生教育の一層の徹底を図られたい。
昭和59年には、国立病院・療養所のみでなくすべての医療施設を対象にした通知が出された。医療機関におけるたばこの煙
に関する配慮について(医発第335号昭和59年4月5日医務局長より各都道府県知事あて通知)
たばこの煙が健康に及ぼす影響については、WHOの勧告をはじめとし、既に広く認められているところであり、疾病にり患
している患者が多く集まる医療機関においては、たばこの煙による悪影響を防ぐための十分な配慮が望まれるところである。
既に一部の医療機関においては、このための措置がとられていると思料されるが、いまだ実施されていない医療機関について
も、外来待合室の喫煙場所の制限や換気に配慮する等医療機関の実情に応じて必要な措置が採られることが望ましく、特に呼吸
器系の疾病をもつ患者や乳幼児が多く集まる内科・小児科等を中心に、たばこの煙による悪影響の防止に関し、十分配慮される
よう、貴管下の医療機関に対しその周知方よろしくお願いいたしたい。