2.健康教育

(1)青少年に対する喫煙防止教育

  喫煙対策へのアプローチのしかたは、喫煙行動の成立条件からみて、環境面へのアプローチと主体面へのアプローチとに大別で
 きよう。
  環境面へのアプローチには、たばこの生産・販売の禁止・制限、禁煙ゾーンの設置、たばこに対する増税、宣伝の禁止・制限な
 どの諸規制や、嫌煙運動などの社会運動といったものが考えられる。加えて、非喫煙者が大多数を占める青少年にとっては、特に
 他者からの喫煙の誘惑からできるだけ遠ざけるといったアプローチが必要であろう。最近の米国での喫煙防止プログラムをみると、
 この他者(仲間や家族)が青少年の喫煙開始に及ぼす影響に着目したものが多い。仲間や家族の喫煙もさることながら、彼らの模
 範であるべき学校の教師の喫煙が児童・生徒の喫煙の開始に与える影響は少なくないはずである。この点をふまえて、最近、現職
 教師の喫煙の実態や喫煙に対する意識に関する調査が実施されている。この結果を見る限りにおいては、教師の喫煙に対する意識
 の変革の必要性を感じざるをえない。
  主体面へのアプローチには、個人レベルの禁煙を考えると、結局は本人の意思にかかわっており、禁煙の成否は個人のパーソナ
 リティーの相違にかかわっていると指摘するものもおり、心理学、社会学、教育学などを応用した多角的アプローチが必要である。
 喫煙は特に、人間の健康に直接・間接にかかわることから、主体面へのアプローチのひとつとして健康教育的アプローチがあげら
 れる。健康教育の究極的目標は個人の認識や態度に働きかけ、健康にとって望ましい行動の形成を促し、かつ継続させ、健康にと
 って望ましくない行動を阻止することにあり、喫煙対策には欠かせないアプローチのひとつであることはいうまでもない。
  喫煙行動の変容過程からみると、健康教育的アプローチは、
   ・習慣喫煙者の喫煙を中止させ、喫煙習慣に戻らせない、
   ・喫煙経験者が習慣喫煙者になるのを防ぐ、
   ・非喫煙者が喫煙者になるのを防ぐ、の3つに大別されよう。
  青少年の喫煙の実態をふまえると、・ないし・のアプローチが主体になろうが、なかでも・に主眼を置くことになろう。・は予
 防医学的見地にたてば疾病の第1次予防に相当し、最近欧米において使用されるようになった「喫煙防止教育」(Smoking
  Prevention Program)に相当する。しかし、・ないし・のアプローチとして、喫煙者としての児童・生徒に
 対して、その個人の特性をふまえた継続的な個別的保健指導としての禁煙指導が必要なことはいうまでもない。
  最近ますます青少年に対する喫煙防止教育の必要性が叫ばれるようになってきている。その理由には、喫煙習慣は容易に形成さ
 れるが、それを断つことがむずかしく、喫煙開始年齢が低いほど健康への影響が大きく、また、青少年の喫煙者率が近年上昇傾向
 にありかつ低年齢化傾向にあることなどがあげられる。
  青少年を対象にした喫煙防止教育が系統的・計画的に実施されるのは、主として学校(小・中・高等学校)において児童・生徒
 を対象に、教育活動の一環として行われる場合であろう。もちろん、マスコミ等を利用した不特定多数の青少年を対象とするケー
 スや、地域での社会教育や健康教育の一環として青少年を含めた地域住民を対象として行われるケースも無視できないことはしう
 までもない。
  学校において教育課程に基づいて行われる喫煙防止教育には、教科の指導、道徳(小・中学校)および特別活動の指導において
 なされることが考えられる。以下では、授業形式(必ずしも教科の指導に限定せず、特別活動の学級指導なども含めて)をとる喫
 煙防止教育とその望ましいあり方を考究する喫煙防止教育研究に視点をあて、それらのわが国における現状と問題点について述べ
 ることにする。

 1)学校における喫煙防止教育の現状と問題点
  これまでのわが国における青少年に対する喫煙防止教育の特徴のひとつに、青少年の喫煙を反社会的問題行動ないしは非行の前
 兆としてとらえ、生徒指導や生活指導上の問題として取り扱う風潮が強く、喫煙を健康問題との関連でとらえることが希薄であっ
 たことがあげられる。
  喫煙を健康問題との関連でとらえると、喫煙問題をその教育内容として取り上げる主要教科は、保健科(小学校:体育科の保健
 領域、中学校:保健体育科の保健分野、高等学校:保健体育科の科目保健)ということになろう。小島は「喫煙問題の本質は、喫
 煙が人間の健康にとって有害であるという事実であり、それに対応した教育は保健教育が中心となって行うべきである」と指摘し
 ている。ほかには、教科としては理科、また、学級指導や行事として取り扱うことも考えられる。
  そこでまず、小・中・高等学校の保健料において、喫煙に関する教育内容がどの程度取り上げられているかについてみることに
 する。
  川畑らは、「『喫煙と健康』に関する教育の取り扱い方は、文部省より告示される学習指導要領およびそれに準拠して作成され
 る教科書によって大枠が決められる」とし、保健教育のなかで「喫煙と健康」に関する教育が実際にどのようなかたちで行われて
 いるかを知るために、主として保健体育科教科書保健編の記述内容を検討している。検討の対象とした教科書は、小学校では「喫
 煙と健康」に関する内容は組み入れられていないので除外し、中学校8種(昭和56年度より実施の新学習指導要領に基づく教科
 書3種と、旧指導要領に基づく5種)と、高等学校15種(昭和57年度より実施の新指導要領に基づく6種と、旧指導要領に基
 づく9種)であった。その結果明らかになった主な点は次のとおりである。

  ・中学校、高等学校の教科書の記述内容を総合的にみて、「喫煙と健康」に関する教育の重要性が少しずつ認識されてきている。
  ・中学校では、旧学習指導要領のもとでは全教科書が法律による未成年者の喫煙禁止について書いていることから、以前は非行
  防止といった観点から喫煙に関する教育を進めようとの姿勢であったが、新学習指導要領のもとでは「疾病予防」の項目で喫煙
  による健康障害について説明されている。
  ・高等学校旧学習指導要領のもとでは、喫煙に関した問題はあまり取り上げられていなかったが、新学習指導要領のもとではさ
  まざまな項目で喫煙について触れられており、成人病予防の面からも喫煙が好ましくないことが述べられている。ただし、喫煙
  の問題が最も大きく取り上げられているのは「適応規制」の項目においてであり、反社会的行動のひとつとしての喫煙という観
  点からの教育という面が強い。
  ・喫煙が身体的健康に害を及ぼすことを詳しく説明している教科書はまだ少数である。
  ・最近ではPassive Smoking(受動喫煙)ということも問題とされるが、中学校、高等学校の教科書ではそこま
  で扱っているものはまだきわめて少数である。

  以上の指摘は、青少年の喫煙問題を反社会的な問題行動としてではなく健康問題としてとらえ、学校保健教育の重要な教育内容
 としてとらえなおすことの必要性の問題提起であり、この点を指摘する識者は少なくない。保健教育において、まず第1になすべ
 きことは、喫煙が健康に及ぼす影響についての科学的な知識を児童・生徒に与えることであるが、現行の教科書の内容は決してそ
 のためには十分であるとは言いがたい現状のようである。
  次に、主として中学校、高等学校において、喫煙に関する教育が実際にどの程度行われているかを種々の調査結果からみてみる
 と以下のごとくである。
  川畑らが昭和55年に全国の中学校の保健教育担当教師を対象に行った調査では、保健の授業で「喫煙と健康」に関する授業を
 行ったと答えた教師は全体の65.0%であった。授業に費やした時間は、軽く触れた程度か、1/2単位時間程度が多かった。
 授業形式としては、教科書を使ったり、自分の経験を話すという方法が用いられることが多いが、教科書の記述やデータの不足を
 資料プリントや視聴覚教材などを用いて補おうという姿勢はあまりみられなかったようである。
  一方、内山らが昭和54年に、中学・高校の生徒を対象に行った調査では、保健の授業で喫煙に関する授業を受けたと答えた生
 徒は、中学生11.6%、高校生で12.1%と少ない。
  また、保健の授業に限定せず、他の機会も含めて、喫煙防止教育として一括して調査したものに、皆川らの新潟市内の幼稚園、
 小学校、中学校、高校、大学の教師を対象とした調査がある。そこでは、「なんらかの喫煙防止教育を行っていますか」の質問に
 対し、「行っている」と回答した者は、小学校12.1%、中学校51.0%、高校74.8%であった。ほかには、古田らの全
 国の中学校・高校の養護教諭を対象にした調査では、喫煙防止教育を実施しているのは中学校65.3%、高校61.7%であり、
 伊藤がT市の小・中学校教師を対象にして行った調査では、喫煙防止教育を実施している教師は小学校教師8.4%、中学校教師
 60.3%であった。
  このように、喫煙防止教育の実施状況は地域によってかなり差があり、また、喫煙防止教育の主要な位置を占める保健科の授業
 における喫煙の取扱いはもちろんのこと、学校教育全体からみても喫煙防止教育は質、量ともに十分な状況にあるとは言いがたい。
 この問題状況を改善するには、教師への喫煙防止教育の重要性の認識の徹底と喫煙防止教育研究の成果に待つところが大きい。

 2)わが国における喫煙防止教育研究の動向と課題

  わが国における喫煙防止教育に関する研究の現状は決して十分なものとはいえず、近年やっとその緒についたばかりという感が
 ある。しかし近年、反社会的問題行動としての取扱いでなく健康教育の立場からの喫煙防止教育研究の成果が散見されるようにな
 ってきた。それらを教科としての保健教育の立場から分類すると、おおよそ次の3つに分けることができる。第1は、授業案ない
 し、教材構成案の開発、第2は授業実践報告、第3は授業案の作成→実施→評価のプロセスをふまえた授業研究である。
  第1のものには、和唐による「たばこと健康」についての授業書形式の授業案、内山の学習者の保健認識調査結果に基づいて作
 成された「たばこの害」の教材、川畑の「喫煙と健康」の教材構成案などがある。これらはいずれも授業案ないし教材案にとどま
 っており、授業の実践・評価にまでは至っていない。また、授業案ないし教材案の作成において参考になると思われる非喫煙教育
 の副読本―“たばこを吸い始めないために知っていますか? たばこの害”―が平山らの監修によって作成、公表されている。
  第2のものには、昭和58年に禁煙・嫌煙運動をすすめている市民団体と教育関係者らによって設立された「禁煙教育をすすめ
 る会」の創立総会において、中学校や高等学校の教師によって発表された禁煙・嫌煙指導や有害学習の実践報告などがある。これ
 らは指導法など興味深い点もあるが、残念なことに、教育研究あるいは授業研究にまで至っていない。
  第3のものについての研究は少ない。福田らは、高校生を対象に実験群と対照群を設定し、視聴覚教材を用いて授業を行い、授
 業後に喫煙に対する態度の変容過程を調査分析し、さらに一部は約2年10カ月後に喫煙習慣の形成の有無を迫跡調査し、喫煙防
 止教育の効果を検討している。喫煙防止教育研究の基本的プロセスなど参考になるところは多い。
  川畑らは、小学校高学年を対象とした喫煙防止のための授業案を作成し、実際に授業を行い、授業の前後に授業を実施したクラ
 スと授業を実施していない対照クラスに対して同一の喫煙に関する知識・態度・行動についてのテストを実施し、授業の効果を評
 価している。
  近年、喫煙防止教育研究の必要性がますます高まってきているなかで、今後特に重視すべきアプローチは「誰が」「どんな内容
 構成」のもとに「どんな方法、過程」で、「どれほと継続的に学習者に対応したか」その課程と結果において、「何が」「どのよ
 うに」変化変容したかという「記述」「説明」をするという質的追求の実践的アプローチであろう。そのためには、まずもって健
 康教育研究者はむろんのこと、保健科担当教師、養護教諭など保健教育の実践にたずさわる者の努力に負うところが大きい。

(2)成人に対する喫煙防止教育の現状

  欧米においては20年来、喫煙に関する健康教育がすでに繰り返されてきたが、その結論として、喫煙者を自発的に禁煙に導く
 ことは大変むずかしいことが強調されている。そして、健康教育の対象はまだ喫煙していないが喫煙開始の可能性をもった学童・
 生徒に重点を置くべきだとしている。欧米の場合、健康教育の効果判定結果をみると、確かに思うような成果をあげていないよう
 にみえるが、近年の成人の喫煙率の低下はめざましいものであり、それは規制の強化ばかりでなく、健康教育の影響も大きかった
 と考えられる。
  わが国の場合、喫煙に関する健康教育はその緒についたばかりであるが、老人保健法に基づく健康教育の場で、しだいに喫煙防
 止教育が取り上げられ浸透しつつある。未喫煙者の喫煙予防はいうまでもなく、喫煙者の自発的節煙または禁煙のための働きかけ
 も、これからの課題であり現状を分析する必要がある。ここでは最近の論文と学会報告から、わが国の成人を対象とした健康教育
 の実施状況、実際の展開事例および効果判定について分析を試みる。

 1)禁煙教育の現状(具体的事例)
  a.保健所
    昭和62年2月に、厚生省が全国の保健所を対象に行った調査によると次のような結果が出ている。住民に対する禁煙教育
   や保健所内での喫煙場所の設置などなんらかのかたちで喫煙対策を実施している保健所は583ヵ所(67.6%)あり、こ
   のうち最も多いのは、「禁煙ポスター、パネル、パンフレットなど」によるもので557カ所(64.5%)であり、ついで
   「衛生教育の中に取り込んで」禁煙教育を実施しているところが377カ所(43.7%)であった。また、講演会も217
   カ所(25.1%)で実施されており、喫煙と肺がんとの関係や心臓病・脳卒中との関係、妊婦の喫煙の問題などが主な内容
   であった。禁煙教育を行っているところは44ヵ所であり、昭和61年1月から12月の実施状況は、1ヵ所当たり年間平均
   9.4回で全体の延べ参加人数は2万1820人であった。
    なお、所長の喫煙状況との相関では、以前は喫煙していたが現在は吸っていないという所長のところが、最も喫煙対策実施
   率が高く、所長が現在も喫煙しているというところは、最も実施率が低かった。
    次に保健所での喫煙防止活動の事例を紹介する。
    愛知県豊橋保健所では禁煙教室の開催に先がけて、そのニード調査を管内小・中学校職員ならびに健康相談のため保健所を
   訪れた住民を対象に実施することから始めている。それによると現喫煙者の20〜30%の人びとは参加の意思のあることが
   わかり、昭和58年より年に1回ずつ半日および1日のスケジュールで教室を開催した。対象者は、喫煙者で禁煙を望んでい
   る者である。内容は、オリェンテーション、映画、講義、エアロビクス体操、食事指導、質疑応答、パネル・ポスター展示な
   ど盛りだくさんである。3回分の教室終了者では1ヵ月後に平均29.2%が喫煙を継続しており、平均56.2%が減煙中
   であることがわかった。また昭和58年と昭和59年に実施された禁煙教室の1年後の成績では24%が禁煙を続けており
   38%が減煙中である。なお受講者の79.3%は過去に禁煙を試みたことのある人びとであった。
  b.病院
    「喫煙は心身共に健康を損なうものであり、またライフスタイルの改変が疾病の予防や健康増進には必要である」という信
   条から昭和4年の設立以来、病院内を禁煙とし、職員のほとんどが非喫煙者であるという東京衛生病院の禁煙教育活動は有名
   である。「5日間でたばこをやめる法」に基づき、禁煙教育を昭和41年より始めている。昭和50年には院内に健康教育部
   を発足し、以下のごとき活動を実施している。非喫煙者のための教育では、中学校・高等学校よりの依頼に応じて講師派遣、
   視聴覚教材の貸出し、情報、資料の提供、喫煙者への禁煙の呼びかけのプログラム、さらに禁煙希望者に対しての禁煙教室、
   禁煙ドックの定期的開催を行っている。禁煙教室は通常夕方6時より1時間半、5日間連続で開かれ、映画、医師による講義、
   臨床カウンセラーによる心理学的指導が主体になっている。5日間連続で実施すると、5日目には受講者のほとんどが離脱症
   状から解放されるそうである。この方法によると1年後の非喫煙達成率は45〜55%になるという。
    また、臨床医のなかには呼吸器疾患患者など病状からみて禁煙を必要とする患者に対して禁煙を勧めるというより命じてや
   めさせ、同意しない患者は治療を断るという強行策をとり、ほとんどの患者を禁煙に導いている例もある。
  c.企業
    次に企業の状況をみると、全国の企業の健康保険組合を通じての企業の禁煙活動の実践の状況は通木らの報告によると概略
   次のようである。企業528社の回答の中で禁煙推進活動を実施しているのは106社(20.1%)であり、具体的には
   「禁煙日、禁煙タイムを設けている」42社、「勤務時間中は禁煙または喫煙場所を設けている」36社が多い。「たばこの
   害に関する資料を社員に配布している」と回答した企業が16社、また、禁煙マランン、罰金制度などユニークな活動も少数
   あった。計画的健康教育の試みはまだほとんど行われていないようである。ただし、この調査は昭和60年1月に行われてい
   るが回収率(23.0%)が低いため、どれだけ実態を表しているか明らかでない。
  d.医師会
    次に医師会の活動については西村の報告によると、全国各地の県および地域医師会は、地域活動の一環として喫煙問題を取
   り上げつつあることが述べられている。医師会活動の特徴は、会員自身の禁煙・節煙への努力に対する援助と、住民に対する
   健康教育の展開を同時に目標として行っていることである。
    尼崎市医師会の報告からは、医師会会員の喫煙状況とさまざまな機会を利用した住民、行政、保健・医療従事者のための健
   康教育を含めた喫煙対策の状況をみることができる。また、広島県医師会の健康教育委員会禁煙小委員会の活動や、大阪府医
   師会、東京都杉並区医師会、武蔵野市・三鷹市医師会をはじめとした多くの医師会では会員を対象とした喫煙に関する意識調
   査を実施していることがわかる。さらに、沖縄県医師会は昭和60年に「たばこと健康」を主題とした学術シンポジウムを開
   催している。
    森の報告によると5つの地域医師会の会員を対象とした調査では、患者に対する喫煙防止指導は喫煙関連疾患の場合は63
   %が、それ以外の疾患では6%が強く指導しており、指導は口頭による説明がほとんどである。
    ここで、さらに尼崎市医師会を例に診療所単位でみてみると、この医師会は医師会として昭和53年より喫煙問題を取り上
   げており、昭和60年の会員調査(回収率67.3%)によると回答者の32.2%は現在も喫煙しているが(診療中に喫煙
   することがあると回答したのは、喫煙者の約3分の1で、全回答者の13.1%にあたる)、現在喫煙していない67.8%
   のうち、医師会が喫煙問題に関心を示しだしたここ10年以内に38.8%が禁煙している。また患者への働きかけをみると、
   診療室で患者に対し禁煙するように働きかけているのは73.2%と高率である。さらに市医師会としては市民健康増進スク
   ール、市民健康大学、老人保健法に基づく健康教育、市民との懇談会や対話集会、看護婦や産業医研修会などを利用して健康
   教育を展開している。また、待合室・診察室の禁煙は打ち出されているものの、徹底されてはいない。医師会館におけるロビ
   ー以外の場所の禁煙、市の保健衛生部門での執務中の禁煙は確実に行われているとされている。
  e.胸部疾患関連学会
    さらにハイリスク集団である呼吸器疾患患者に対する健康教育についての最近の報告をみると、胸部疾患を主に扱う2つの
   学会の会員に対する調査(回収率64%)では、胸部外科および同内科の専門医は開業医に比べ、カルテに患者の喫煙習慣を
   記載する率が高く、また喫煙に関連する疾患患者には85%以上が強く禁煙を勧めており、これも開業医に比べ高率である。
  f.助産婦会
    また、大阪府下の助産婦1099人を対象とした調査(回収率90.8%)によると、助産婦の喫煙状況は喫煙者が
   13.3%,喫煙中止者は10.6%であるが、妊婦および家族に対する禁煙指導の必要性については妊婦に対しては92%
   が、また家族(特に夫)に対しては76%がぜひ必要と答えている。実際の指導については、妊婦に対して31%が、またそ
   の家族に対しては21%の助産婦がしばしば指導していると答えている。
  g.市民運動
    現在、全国禁煙・嫌煙運動連絡協議会グループに加入している団体は60をこえており、全国に分布している。個人宅、法
   律事務所、医療機関、消費者団体、大学の医学部、教育学部内に事務所を置いている場合が多く、それぞれの立場でたばこの
   問題に取り組んでいる。わが国のたばこの問題を取り上げた市民運動は昭和45年に入ってであるが、昭和52年の嫌煙権運
   動以来世に知られるようになった。昭和55年には、国鉄の中・長距離列車の半数以上を禁煙車にすること、また国鉄を利用
   した原告に対する受動喫煙の被害者損害賠償を支払うことを求める訴訟をおこした。そのほか禁煙週間、禁煙デーを設け啓発
   活動を行っている。禁煙・嫌煙の市民団体とは別に、たばこに関する内外の情報の収集・提供を目的として昭和60年にたば
   こ問題情報センターが市民運動の一環として誕生し、季刊誌を発行している。喫煙に関する国際会議、内外の論文の紹介、市
   民運動の現状やたばこに関する新聞切抜きを掲載している。
    愛知県肺癌対策協会は、一次予防として禁煙道場を昭和59年に開催し、2泊3日の合宿制で耳ハリ治療、自律訓練法、ヨ
   ーガ、座禅、スポーツ、討議など多様な手法を取り入れている。また昭和58年8月には禁煙110番を開設した。毎月第4
   土曜日午後2時〜4時を使い禁煙成功者がアドバイザーとして禁煙相談に応じている。そのほか禁煙講習会、禁煙辻説法、禁
   煙テレホンサービスなどユニークな試みに挑戦している。
    その他、地域レベルの活動として長野県伊奈市の日本禁煙友愛会の活動を紹介しよう。これは一種の草の根運動ともいうこ
   とができ、現会長の呼びかけではじまり、人材に恵まれたこともあって組織化に成功し、すでに30年の歴史をもっている。
   会員は伊奈市を中心に周辺の市町村にも広がり、現在は37支部をもち会員数は1万6000人を超えている。自分ひとりで
   は困難な禁煙を会の仲間と誓いあい励ましあって実行する。旅行、ゲートボールなどのリクリェーション活動を通じて相互融
   和をはかり、喫煙したつもりで貯金しその一部を社会福祉の向上にあてている。つまり、禁煙活動を柱にした一種の地区組織
   活動である。
 2)健康教育の効果判定
   日常的に行っている喫煙に関する健康教育の評価は行われていない場合が多い。ここに研究的に行われた例を紹介する。
  a.病院での禁煙教育
    対象は主として東京都内に在住して新聞、週刊誌等または個人的接触によって知った男67人、女18人で平均年齢は
   41.5歳であった。教育内容は1日1時間30分の講習を5日連続で行っており、映画、医師の講義、質疑応答、討論で構
   成されている。
    効果判定は講習会第1日目と第5日目のアンケート、さらに1年後の面接または電話によって喫煙状況の調査を行っている。
    それによると終了時の成功率は87%であったが、1年後をみると32%に低下している。再発の時期は終了後1ヵ月以内
   が実に61%になっている。しかし、再発者のほとんどは再び禁煙の意向をもっており、失敗・再発者とも節煙の方向にあり、
   確かに喫煙習慣の変容の動きはある。また、受講回数と成功率の関係は大きく、受講中断の予防も重要であることを示唆して
   いる。
  b.職場における「喫煙と健康」の健康教育
    軽度高血圧者と肺結核要観察者の中で合宿保健指導に参加した53人について合宿中に禁煙に関する1時間の講義を行い、
   性、年齢、喫煙状態をマッチングした2倍の数の対照群と比較した。1年後あるいは1年半後に電話で調べているが、節煙お
   よび1週間以上の禁煙経験ありは指導群が有意に高かったが、指導群の非喫煙者は21人から23人にふえたにとどまった。
  c.成人病一般検診時の禁煙個別指等
    成人病一般検診受診者の中の男の喫煙者を無作為に3群に分け、働きかけの違いによる効果をみたものである。
   A群は医師の個人指導+リーフレット手渡し群、B群はリーフレット手渡し群、C群は対照群であった。6カ月後に郵送法に
   よる喫煙状況を調査した。回答率は群間に差がなくほぼ90%であり、分析対象者数はA群257人、B群213人、C群
   291人となった。追跡結果をみると、C群の禁煙率が4.1%に対し、A群は7.8%で統計的には有意ではないが、なん
   らかの効果を示唆するものであった。節煙した者の割合はB群のみが4.7%と低く、A・C群はともに10%以上であった。
  d.集団に対する禁煙教育効果
    肺がん喀痰細胞診検査の説明会を実質的に禁煙教育の場とした。対象者はBI(喫煙本数×喫煙年数)が400以上で、年
   齢は原則として40歳以上にし、説明会に不参加だったものを対照群とした。教育内容は疾病構造の変化、たばこと疾病の関
   係、間接喫煙の影響、禁煙効果、禁煙方法で、講義、質疑応答、集団討議を取り入れ1時間行われた。効果の判定は1ヵ月後
   に郵送法で行われたが、有効回収率は参加群72.0%に対し不参加群52.4%と有意な差が出た。禁煙率をみると、参加
   群の20.9%に対し、不参加群6.2%と有意に低かった。
  e.小集団に対する禁煙教育効果
    3〜4カ月乳児検診の際、その親に対し偶数月には禁煙教育を行い、教育を行わない奇数月受診者を対照群として両群を比
   較した。教育は5〜6人を単位としてパンフレットを配布し同時に拡大パネルを使用して、たばこの健康被害、がんの動向と
   疾病、一次予防の重要性、間接喫煙効果、禁煙効果、質疑応答を10分間行った。効果の判定は4カ月の検診時と1歳半検診
   時にアンケート調査によって行った。
    その結果はこの程度の教育だとほとんど喫煙行動の変容に影響を与えなかった。
  f.妊婦に対する禁煙指導
    妊娠届出時に喫煙していた妊婦を対象に、訪問または電話によって禁煙指導を実施し、その後出産までの間に禁煙した者の
   割合をみた。訪問指導群(31例)では48%を示したのに対し、電話指導群(32例)では23%にとどまり明らかに差が
   認められた。また出生体重をみると訪問指導群の低出生体重児の割合が3.2%に対し電話指導群のそれは7.4%であった。
  g.民間団体による禁煙講習会
    日本禁煙協会主催の5日間禁煙講習会に出席した153人の追跡調査である。受講1年後に郵送調査ならびに電話インタビ
   ューにより6カ月後および1年後の喫煙状況および喫煙再発の時期と理由を尋ねている。また、前もって受講時に調査した飲
   食習慣・嗜好、保健習慣、喫煙・禁煙に対する家族同僚の態度、家族同僚間の喫煙者の在否、性格など72項目を分析してい
   る。
  禁煙成功率は6ヵ月後41.8%、1年後35.8%となっており、受講後4ヵ月までの再発が多い。再発理由としては対人関
 係と飲酒・宴会が多くあがっている。
  禁煙成功・失敗の関連要因分析においては家族・同僚が本人の禁煙に無関心な場合が最も成功につながっている結果を得ている。