第2章 諸外国における現状
1.諸外国における法制度的対策
(1)WHOの動向
1979年、WHOの専門委員会(WHO Expert Committee on Smoking Control)は、
すべての国に対して、次のような勧告をしている。
(1)喫煙しないことが正常な社会行動であり、そのような態度を促進するべきである。
(2)たばこの販売促進については、いかなるかたちといえども全面的に禁止するべきである。
(3)たばこの輸出と生産は援助せず、可及的速やかに、それらを縮小すべきである。
(4)政府は一定の職場においては、喫煙がきわめて危険であることの認識を喫煙者にもたせるとともに、必要な場合は、立法措
置を含む特別な対策を講ずるべきである。
(5)紙巻たばこに含まれる成分に上限を設けるべきである。
1980年の春の総会では、専門家委員会の勧告を受けて、次のような決議を行った。
「喫煙はいまや開発国においても、公衆衛生上の重要な問題であることが確実になりつつある。
喫煙の健康に対する悪影響、特に、妊娠中の女性、授乳中の母親と子供のようなリスク・グループには、悪影響がある。
激しい販売促進が、若い世代に喫煙習慣をつけさせる心配があり、実際に、心理作戦を用いた広告が、若者を喫煙に誘い、そ
れを続けさせている。一方、数カ国においては、広告の全面的規制、また、多くの国では一部の規制が行われており、国の活
動や国民の認識に進歩がみられてきた。」
WHOは、長期的視点に立って、各国に次の行動をとることを勧告している。
(1)喫煙対策を強化すること、特に教育的接近、なかでも若者に対する教育、および、たばこの広告の全面禁止、または規制に
力点を置くこと。
(2)これに関連したWHOの活動を支持すること。
また、事務局に対しては、
(1)効果的な行動計画を作る
(2)他の国連機関、特にFAOとの協調を図る、
その他を含め6項目にわたる要請を記している。
世界の国々における対策をみると各国におけるこれまでの歴史、種々の事情から、現実の対応はかなり多様である。しかし、
各国における認識はしだいに高まってきており。またWHOなどの国際機関のリーダーシップによっても今後は各国における喫
煙対策は急速に進むことが予想される。
WHOの専門家委員会報告によれば、主なる喫煙対策は、次のように分類される。
(1)たばこを製造し、広告し、販売する側に対する対策。すなわち、広告の規制、タールやニコチン、一酸化炭素の量に対する
規制。
(2)喫煙者側に対する対策。
第1の対策の基本的問題のひとつは、製品を生産して売ることの自由を制限することになる点である。製品を生産して売るこ
とは自由主義経済の国では基本的に自由である。しかし、問題はその製品が習慣性があり、かつ、健康に対して悪影響があるこ
とが明確になってきたことである。生産し販売する側は、強大な経済力を持ち、マスメディアなどあらゆる方法で個人を説得す
ることができる。その力の前には、個人は圧倒的な弱者である。そこで政府の役割が期待されることになるのである。政府が企
業活動に対して規制を加える方法は、
・立法によるか、
・業界の自主規制による方法がある。
前者の方法によってし銭引国々はスウェーデン、ノルウェー、フィンランドなどであり、後者の方法によっている国々は、英
国、オーストラリア、ニュージーランド、デンマークなどである。
Roemerは、世界における喫煙に関する立法の歴史を次のように分類した。
(1)1890年〜1960年;未成年へのたばこ販売の禁止、火災防止のための公共の建物の中での禁煙などが主なものであっ
た。
(2)1960年〜1970年代初め;健康との関係で、表示を義務づけたり、広告の制限などが、主となった。
(3)1975年〜;包括的立法化の時代。
(2)諸外国の動向
1)広告と販売に対する規制
Roemerによると、1982(昭和57)年の時点で、国内での広告を禁止している国は、15ヵ国、厳しい規制を行
っている国が12ヵ国あった。
a.全面禁止を行っている国
たばこの広告は、あらゆる媒体に及ぶ。ラジオ、テレビジョン、新聞、雑誌、ポスター、看板、その他、スポーツや文化的
催し物のスポンサーなどである。直接的でない方法としては、他の商品や、サービスのなかに組み入れるという方法もある。
1970年、シンガポールでは、すべてのたばこの広告を禁止した。唯一の例外は、外国の出版物であるが、国内で印刷さ
れるものは広告を含んでいる場合は販売できない。
そのほか、アイスランド(1972)、ノルウェー(1973)、フィンランド(1976)、ブルガリア(1980)に
おいても、ほぼ同様にたばこの広告を全面的に禁止した。
b.部分的な禁止を行っている国
英国、ベルギー、フランス、スウェーデンなどがこれに含まれる。英国においては、業界の自主規制で行ってきたが、19
76年に、テレビジョン法によってテレビジョンを通じての広告は禁止された。しかし、その他の媒体を通じての広告の自主
規制の結果は必ずしも成功ではなかった。そのため、1980年に、改めて次のような目標を立てることで、業界との合意に
達した。すなわち、1982年までに
・ポスターを30%減らす、特に学校や運動場の周囲には置かない。
・新しい、もっと有効な警告文を表示する。
・若者を対象にした販売促進はしない。
・タールの成分の平均含有量を16.5・から15・に減らす。
フランスでは、1970年以来、法によりラジオ、テレビジョン、その他の広報、劇場や公共の場所での広告、ポスター、看
板、ネオンサインを禁止した。また、景品などへの印刷、サンプルをただで配ること、自動車レース以外のスポーツのスポンサ
ー、その場への看板、表示等も禁止した。新聞への広告は、商品名、成分、生産者名、販売者名のみに限る、等とした。
メキシコ、スリランカ、マレーシア、スペイン、西ドイツ、アメリカ合衆国では、ラジオ、テレビジョンでの広告を全面的、
あるいは時間帯で禁止している。
2)警告表示
多くの国ではたばこのケースに、喫煙の健康に対する悪影響に関する文言を表示することを義務づけているが、そのなかで、
スウェーデンは、いくつかの文言によるローテーション方式をとり、かつ、それをときどき改正しており、最もその効果におい
て優れていると考えられる。
3)成分の規制
健康に悪影響があるタール、ニコチン、一酸化炭素量を減少させれば、悪影響は少なくなることが考えられる。実際に資料1
のような国々で行われている。このような方策は、喫煙をやめられない人に対しては、健康に対する障害を少なくする可能性は
ありうる。
4)経済的方法
WHO、のガイドラインによれば、経済的な方法は以下の3つに分類されている。
・一般的な課税によって買いにくくする。
・課税の比重を低タール、低ニコチンに軽くする。
・禁煙教育、研究に税の一部をふりむけなければならない仕組みをつくる。
これらを実行している国については、資料1のとおりである。
5)教育
学校およびその他の場における教育は、最も重要であるので、項を改めて取り上げた。
6)その他の対策
喫煙場所の規制は、古くから行われてきた対策のひとつであり、資料1のとおり、世界的に広く行われている。
7)総合的対策の必要性
WHOはカナダのオタワに国際会議を招集し、1986年11月21日、同会議は「2000年までにすべての人に健康を」
とのスローガンを達成するための『憲章』を採択した。アルマ・アータの宜言は、主として、開発途上国を対象とした戦略であ
ったが、今回の憲章は先進国向けのものである。
この憲章は、WHOのヨーロッパ事務所を中心に、ここ数年来準備が進められてきたもので、その基本的な考え方はその推進
者たちの論文にも記されている。それらを極めて要約して言うならば、次のようになろう。いずれの先進国においても疾病構造
は慢性疾患が中心になり、医療や保健サービスなどの効果は限られたものとなってきた。そして、健康にとって重要なのはライ
フスタイルであり、そのための個人の能力を高めること、地域社会を強めることが必要である。また、それを助ける自然、社会、
経済的環境を整えることが重要である。そしてなによりも、健康を国の政策決定の重要な原則のひとつにすべきである。
カナダ、オーストラリアをはじめ、ヨーロッパ諸国は、喫煙に対しても、このような考えに基づき、総合的な取組みを開始し
ている。