2.健康教育

(1)青少年に対する喫煙防止教育の現状

  1)喫煙防止プログラムの概要

   諸外国における青少年に対する喫煙防止教育は、コミュニティ活動として展開される場合もあるが、その主流は学校を基盤と
  した教育活動の一環として行われるものである。
   学校を基盤として行われる喫煙防止教育の位置づけをみると、学校教育課程の中に正式に教科の内容として位置づけて授業が
  行われる場合と、独自に開発された喫煙対策プログラムないし喫煙防止プログラムに基づいて行われる場合とがある。
   前者の教育課程の一環として授業として正式に喫煙防止教育を実施している国にはオーストラリア、アメリカ合衆国、イスラ
  エル、ルーマニア、チェコスロバキア、ベルギー、フランス、ノルウェーなどがある。特に米国の初等・中等学校教育における
  喫煙防止教育の実施状況をみると、「薬・たばこ・アルコール」教育を初等・中等学校段階の両方あるいは中等学校段階で必修
  としている州は、1974年には全米50州のうち32州にのぼり、1978年には34州に増加している。
   後者の喫煙対策プログラムないし喫煙防止プログラムは、これまで米国をはじめ各国において数多く開発され、その実施状況
  および効果についての研究も報告されている。それについてはThompsonが1960〜1976年に発表されたプログラ
  ムについて、米国の保健・教育・福祉省のリポートが1978年までのそれについてレビューを行っているが、その後に発表さ
  れたプログラムも少なくない。
   これらのうち主として米国におけるプログラムを概観すると、いくつかの特徴をみることができる。
  プログラムは、学校(教師あるいは生徒自身)、地域の関連団体、研究者、国あるいは州の関連機関、さらにこれらのうちのい
  くつかの共同によって開発されている。
   プログラムの実施形態は、スクール・キャンペーン、マスコミュニケーション・メッセージの伝達、クラス単位で行われる授
  業などがあり、その指導者は、学級担任教師、健康教育の専門教師、生徒の中から選ばれた青少年リーダーなどである。
   用いられる指導方法には、講義、討論、フィルムないしビデオテープなどの視聴覚メディアや実験装置の利用、ポスターない
  しコラージュの制作・掲示、寸劇ないし人形劇、グループ・ディスカッション、ロール・プレーイングなどがある。
   プログラムの内容ないしねらいは、生徒に喫煙が短期的あるいは長期的に身体に及ぼす生理的影響に関する知識や認識を深め
  させることや、青少年の喫煙行動に周囲の者が与える影響を認識させ、それに抵抗するための技能(skill)を習得させる
  ことなどである。
   プログラムが最終的にめざす目的は、主として喫煙対策の認識や態度の育成を意図するものと、非喫煙者の喫煙開始を防止す
  ることとがある。
   これらの特性をもとにプログラムを分類してみると、1980年前後を境にして喫煙防止教育プログラムの様相に明らかな変
  化がみられることがわかる。特に、プログラムの対象者および内容や目的面においてより顕著な変化がみられる。
   すなわち、1980年以前のプログラムに共通する目的からみた特徴として、習慣喫煙者の喫煙をやめさせ、経験喫煙者が習
  慣喫煙者になるのを防ぎ、非喫煙者が喫煙を開始するのを防止するといった喫煙防止教育の3つの側面のすべてを網羅しようと
  するプログラムが少なくない。また、内容面からその特徴をみると、喫煙の身体に及ぼす短期的影響や長期的影響を取り上げた
  ものが多くを占めている。ところが、これらのプログラムは、それに参加した青少年の喫煙の害についての知識や認識、それに
  喫煙に対する態度を変容させることには一応の効果がみられたものの、喫煙行動の変容を促すことには十分な効果が得られず、
  特に、いちど身についた喫煙習慣を中断させ、そのまま喫煙をやめ続けさせるといった行動変容は非常に容易ではないようであ
  る。
   そこで、この点をふまえて、1980年以降になると、プログラムの対象を主として非喫煙者に置いた喫煙防止プログラムが
  開発・実施されるようになった。このプログラムの大きな特徴は、十代の青少年の喫煙は、仲間や家族それにメディアからの社
  会的圧力によって促される心理社会的現象であるといった仮説に立ち、社会心理学的理論を応用したアプローチを用いることに
  よって、非喫煙者の喫煙の開始を防止しようとすることにある。
   以下では、1980年以前に比較的よくみられた喫煙防止プログラムをその特徴から便宜的に、
   ・スクール・キャンペーンによるもの、
   ・青少年リーダーが開発し実施したもの、
   ・マスコミュニケーション・メッセージを用いたもの、
   ・独自に開発した学校保健教育カリキュラムの一環として喫煙を取り上げたもの、
   ・・〜・のいずれかを併用した総合的喫煙防止プログラムに分け、
   ・さらに1980年以降に代表される喫煙への社会的圧力に着目し、社会心理学的理論を応用した喫煙防止プログラムについ
   て、紹介することにする。

  2)スクール・キャンペーンによる喫煙防止プログラム
   キャンペーンに用いられる方法にはさまざまなものがある。例えば、タールが肺に及ぼす影響を見せる実験、生徒による喫煙
  調査、喫煙実験装置(Smokingman)の製作、大学生が中学校で行う健康フェア、討論会、講義、集会、ポスター、フ
  ィルム、学校新聞の発行、展示会などである。これらの方法を駆使したキャンペーンは数多く報告されているが、その効果につ
  いて報告しているものはきわめて少ない。
   かなり長期間にわたるキャンペーンを実施した例をみると、ワシントンのSelahやペンシルバニアなどでの例が報告され
  ている。
   Selahでのキャンペーンは、1961年、1962年、1964年の3年間にわたって、6年生から12年生の生徒を対
  象に行われた。キャンペーン期間中に生徒の喫煙習慣調査が実施され、同時にフィルム・ストリップの映写、印刷物の配布、作
  文コンテストが開催された。喫煙習慣調査の結果から、喫煙している生徒は運動の面でも学業の面でもあまり競争心を抱かず、
  また、課外活動にも参加しない傾向があることが明らかになり、この結果は生徒たちに報告された。喫煙者の割合の変化につい
  ては、キャンペーン期間中をとおして、中学生の喫煙者の割合は予想に反して増加したが、高校生のそれには変化がなかったと
  報告されている。
   ペンシルバニアでのキャンペーンは、1962年に喫煙の社会的ステイタスを変えることに主眼をおいて、教師と青少年リー
  ダーが中心となって始められたものである。1967年までに、喫煙と健康に関する情報や教師および生徒のための教材が掲載
  されているキット8000部と、教師の手引き書1万部が配布された。同時に、種々のパンフレット、ポスター、視聴覚教材が
  準備され、地域でのミーティング、学校集会、展示会、青少年フォーラムなどが計画され、開催された。その効果については報
  告されていない。
   以上のようなキャンペーンによる喫煙プログラムは米国において比較的よく実施されているようであるが、喫煙行動の変容に
  対しては一般に効果が薄いといわれている。

  3)青少年リーダーが開発し指導するプログラムによる指導(Youth−to−Youth Program)
   このプログラムは喫煙行動に及ぼす仲間の影響に視点を当てたものであり、最もよくみられる形態は、高校生や中学生がみず
  から計画を立案し、自分たちの仲間や自分たちよりも下の学年の生徒に対して、喫煙防止活動を展開するものである。この種の
  プログラムに当たるものの中には、比較的少数の小学生に対するものから、1万人から2万人の生徒に及ぶものまである。ここ
  ではその主なもののうち、フィラデルフィアのStudent Concerned with Public Health
  と、米国の例ではないが、カナダのSaskatoon Rural Health Regionのプログラムを紹介するこ
  とにする。
   フィラデルフィアのプログラムは1968年に始められた。その内容は32人の10年生の生徒が、4〜6年生の生徒に対し
  て人形劇を制作、演出し、上演してみせるものである。この活動は10年生の生徒が卒業する年には、その年の新しい10年生
  の生徒に引き継がれ、その後3年間にわたって継続されるように計画された。1970〜71年の2年間に限ってみると、28
  のパブリック・スクールと11の教区付属学校の生徒2万665人に対してこの人形劇が上演されたことになる。なお、プログ
  ラムの効果については報告されていない。
   Saskatoonのプログラムは、1968年の秋に、22の実験校から、ソシオメトリック調査の結果に基づいて選出さ
  れた各校2人の8年生のオピニオン・リーダーが、Saskatchewan大学の喫煙と健康に関するセミナーに出席するこ
  とから始められた。セミナーを受講したオピニオン・リーダーはその後、各自の学校に戻り、自らの手で自分と同学年の8年生
  と1年下の7年生に対する喫煙防止プログラムを作成し、実行に移した。実験校において作成されたプログラムの数は、平均5
  個であり、なかには12個ものプログラムを作成した学校もあった。
   生徒が作成し実行した喫煙防止プログラムの効果を評価するために、実験校22校と対照校12校の7年生と8年生の生徒を
  対象に質問紙調査が実施された。調査はオピニオン・リーダーがセミナーを受ける前と、受けた後5ヵ月後の2度にわたって実
  施された。調査は次の3つの生徒の心理的特性を把握することを意図したものであった。すなわち、
   ・喫煙の恐ろしさに対する気づき、
   ・喫煙の恐ろしさの自覚、
   ・喫煙の恐ろしさの個人的関連性の自覚、
  である。
   その結果、プログラムの実施後、実験校の7年生と8年生共に喫煙の恐ろしさについて最もよく気づいている者と、喫煙の恐
  ろしさを最もよく自覚している者の割合が上昇した。しかし、この傾向は対照校においても同様にうかがえた。一方、喫煙の恐
  ろしさの個人的関連性を最もよく自覚している者の割合は実験校と対照校のいずれにおいても7年生、8年生共に有意な変化は
  認められなかった。また、実験校における8年生の喫煙者の割合は男女共に減少したが、対照校においては変化がみられなかっ
  た。
   その後1年おきに第2、第3の調査が行われたが、第2回の調査では、実験校、対照校共に、喫煙者の割合は上昇し、第3回
  の調査ではこの割合は、男子については実験校においては減少し、対照校においては上昇した。女子については、これとは逆に
  実験校においてわずかに上昇し、対照校においてわずかに減少した。

  4)マス・コミュニケーション・メッセージによる喫煙防止プログラム
   このプログラムの代表的なもののひとつにHornがオレゴン州のportlandSchoolにおいて実施した初期の研
  究(1959年)がある。彼は、マス・コミュニケーションが生徒の喫煙行動に及ぼす影響を明らかにするために、メッセージ
  を伝達する実験校とメッセージを全く伝達しない対照校を設定して、メッセージの伝達の前(年度初め)と後(年度の終り)の
  喫煙行動を質問紙を用いて調査した。なお、実験校は伝達される次の5つのメッセージの内容別に5群に分割されている。

   ・喫煙の長期的影響(健康への害)
   ・喫煙の今日的意義
   ・喫煙問題の2つの側面
   ・喫煙問題に対する当局の立場
   ・大人の役割の模倣と親の喫煙を思いとどまらせようとする試み

   その結果、喫煙の長期的影響に関するメッセージを受けた実験校の生徒の新規喫煙率は、対照校の生徒のそれに比べてより低
  い値を示すことが認められた。しかし、その他のメッセージを受けた実験校の生徒の新規喫煙率については、対照校との間に差
  はみられなかった。
   なお、この研究は後述するIIIinois大学の喫煙研究の一部としても応用されているので、実験方法の詳細については
  そちらを参照されたい。

  5)学校保健教育カリキュラムの一環としての喫煙防止プログラム
   米国において国家的にも広く認められている画期的な健康教育プロジェクトのひとつにSchool Health Cur
  riculum Projectがある。カリフォルニアのSanRoman Unified School Distri
  ctおよびBarkley Unified School Districtにおいて、米国の厚生教育省の援助を受けて開
  発されたプロジェクトであり、コア・カリキュラムの形態をとっている。また、このプロジェクトにおいては、カリキュラムを
  効果的に実践するために必要な教師教育のプログラムも併せて開発されている。
   このプロジェクトのカリキュラムは解剖学および生理学にその基盤を置いているか、その意図するところは、生徒が新しい知
  識を身につけ、積極的な態度を形成することによって、彼らが進んで個人的健康実践に関する積極的な意思決定ができるように
  させることである。このことが疾病予防を促進し、最終的には生活の質の改善につながることになる。したがって、このプロジ
  ェクトは必ずしも喫煙防止教育そのものを意図したものではない。
   プロジェクトのねらいを達成するためには、生徒に対し多様なメディアを利用したさまざまな学習経験を与えることが必要と
  なる。
  a.カリキュラムの概要
    カリキュラムは、1969年に上述したカリフォルニアのSan Roman Unified School Dist
   rictにおいて、このプロジェクトが初めて紹介された時点では、5、6、7年生を対象にした3つの単元(Units)
   からなっており、身体の系統によって構造化されていた。それらは、「肺と呼吸器系―5年生」「心臓と循環器系―6年生」
   「脳と神経系―7年生」であり、その後、「消化器系―4年生」「目と視覚―3年生」「耳と聴覚―2年生」の各単元が開発
   された。
    各単元は1年間に8〜10週間にわたって実施され、次のような内容からなっている。

    ・各単元で取り上げている身体の糸統についての生理学
    ・環境の悪化が身体の系統に及ぼす影響
    ・喫煙,薬物の乱用、食物やアルコールの摂り過ぎといった個人的行為が身体に及ぼす影響
    ・最高度の健康を獲得するために必要な身体の管理

    これらの内容を指導する際に、さまざまな教授法や教材が利用されるが、それらには、テープ、フィルム・ストリップ、模
   型、そのほか動物の心臓、肺、脳などがある。また、単元はすべて、特に芸術、音楽、数学、社会、国語といった他教科とも
   関連している。
  b.教師   教育プログラムの概要
    プロジェクトに携わろうとする教師には、プロジェクト実施前に2週間のワークショップに参加することが義務づけられて
   いる。そのワークショップにおいて、教師はのちに自分たちの生徒に対して指導ずる内容と同じ内容の学習を体験する。ワー
   クショップには、各学校から2人の学級担任教師および、校長と、それに1人ないし2人のスクール・ナース、健康教育の専
   門家、カリキュラムの専門家といった協力者からなるチームが派遣される。それは、この教師教育プログラムを自分たちの地
   区の学校区において広めるためでもある。
  c.プロジェクトの効果
    プロジェクトの効果に関する評価研究はこれまで数多く報告されているが、このプロジェクトは上述したように喫煙防止教
   育そのものを扱ったものではなく、健康教育の総合的プロジェクトであるため、その効果の評価は種々の保健知識・態度・行
   動の変容を把握することによってなされている。そこで、喫煙に関する知識・態度・行動の変容について報告している研究の
   うち2例を以下に紹介する。
    Milneは、1973年に、このプロジェクトの2〜4つの単元の指導を受けて2〜4年後に9年生、10年生および
   11年生になった生徒と、プロジェクトの指導を全く受けなかった生徒を調査し、比較検討したところ、指導を受けた9年生
   については指導を受けなかった生徒に比べて喫煙者がより少なかったと報告している。
    Gramanicaらは3つの学校区の生徒およそ280人に対して、指導の前と直後に調査を行い、5年生の単元(肺と
   呼吸器系)の評価を行っている。それによると、生徒の保健知識と喫煙に対する態度および両親や兄弟それに仲間の喫煙行動
   に対する態度との間には有意な相関が認められたと報告している。

  6)総合的喫煙防止プログラム
   イリノイ大学とサンディエゴの総合的喫煙防止プログラムを紹介する。

  <Univerty of Illinois Antismoking Education Study>
   この研究は、生徒の喫煙防止に対してさまざまなアプローチを試み、その効果を生徒の喫煙に関する知識・態度・行動の変容
  によって評価しようとする一連の研究である。その概略は以下のとおりである。
 〔1〕コミュニケーション・メッセージの効果に関する研究
   この研究は5種類のマス・コミュニケーション・メッセージのテーマか生徒の喫煙に対する態度と喫煙行動に及ぼす相対的効
  果を評価しようとするものである。
   メッセージの伝達は、1967年の2月から4月の間に、パンフレット、チラシ、ポスターを3週間おきに生徒に配布すると
  いう方法によって行われた。そのメッセージの内容は前述したHornが用いたものと同様の5種類からなっている。
   効果は、各メッセージを用いた5つの実験群と、メッセージを用いなかった対照群を設定し、メッセージ伝達前と伝達後の結
  果をもとに、次の3つの評価基準によって評価された。
    ・新規喫煙率(recruitment rate):メッセージ伝達後の喫煙者の割合から伝達前の喫煙者の割合を引き、
    その値を伝達前の非喫煙者の割合で割ることによって得られる。
    ・喫煙者の割合の変化
    ・行動変容スケールの得点の変化
   その結果、喫煙者の割合の変化という評価基準に照らし合わせてメッセージの効果を評価したところ次のような点が明らかに
  なった。
    ・実験群と対照群との間で喫煙者の割合に相違が認められたのは“喫煙の今日的意義”についてのメッセージによる場合の
    みであった。
    ・5つの実験群の間に次のような相違がみられた。
  a.喫煙の今日的意義に関するテーマは喫煙の長期的影響に関するテーマおよび喫煙問題の2つの側面に関するテーマよりも効
   果があった。
  b.喫煙問題に対する当局の立場に関するテーマは、喫煙の長期的影響および喫煙問題の2つの側面に関するテーマよりも効果
   があった。
  c.大人の役割の模倣に関するテーマは、長期的影響および2つの側面に関するテーマよりも効果的であった。
 〔2〕生徒によるシンポジウムの効果に関する研究
   生徒が開催するシンポジウムで取り上げるメッセージ・テーマが生徒の喫煙行動に及ぼす影響を、マス・コミュニケーション
  によるメッセージの伝達による効果と比較することによって明らかにしようとするものである。
   実験は、Winnebago Countyの農村地域にある中学校12校と高等学校5校に在籍する8年生と11年生の合
  計18クラスを各学年それぞれ4つの実験群と1つの対照群とに分けて行われた。4つの実験群は次のとおりである。
    ・生徒によるシンポジウムで喫煙の長期的影響をテーマとして取り上げる群
    ・生徒によるシンポジウムで喫煙の今日的意義を取り上げる群。
    ・マス・コミュニケーションによって喫煙の長期的影響に関するメッセージが届けられる群
    ・マス・コミュニケーションによって喫煙の今日的意義に関するメッセージが届けられる群
   マス・コミュニケーションによるメッセージの伝達方法は上述したものと同様(パンフレット、チラシ、ポスターが3週間お
  きに3回にわたって配布される)である。生徒によるシンポジウムは、学校の管理者、カウンセラー、英語とスピーチ担当の教
  師によって選出された各クラス4人の生徒によって、3週間の間隔をおいて合計3回開催された。
   メッセージが喫煙行動に及ぼす影響を評価するために、メッセージ伝達前と伝達後の結果をもとに、各群における喫煙者の割
  合の変化を分析したところ、いずれの群においても変化は認められなかった。
   しかし、8年生の実験群については、喫煙に対する態度の変容がみられ、生徒によるシンポジウムの効果があったと判断され
  た。
 〔3〕喫煙に対する態度および信念の変容における教材の役割に関する研究
   この研究は、生徒が選択した教材を保健行動の変容モデルにおける各段階に応じて配列した教材による指導が、喫煙に対する
  態度および信念の変容に及ぼす影響を明らかにしようとするものである。実験は7年生の生徒を対象にして、実験群と対照群を
  設定して行われた。5週間にわたって事前調査および事後調査が実施され、その結果、この教材によって指導を受けた生徒の嫌
  煙的態度および信念は有意により好ましい方向に変容をきたしたことが明らかになった。
 〔4〕喫煙防止教育の指導者および指導法の相違が指導の効果に及ぼす影響に関する研究
   この研究は、クラス担任教師による指導と喫煙防止教育に関する専門的トレーニングを受けたことのある教師の指導との効果
  の比較および、異なった指導法による効果の比較を行おうとする本のである。なお、この実験で用いられた指導法は次の3つで
  ある。
    ・個人的アプローチ:生徒の個人研究および教材解釈
    ・生徒主導型アプローチ:クラスの生徒が主催する学級会
    ・教師主導型アプローチ:生徒の個人研究と学級会および教師の指導の統合
   実験は4つの中学校の575人の7年生の生徒を対象に行われ、指導の効果は、生徒の態度、信念、知識の変化を測定するこ
  とによって行われた。その結果、次のような場合に態度および信念に変容がみられた。
    ・特に訓練を受けた教師よりも,学級担任教師による指導の場合
    ・生徒主導型アプローチよりも個人的アプローチによる場合
    ・男子よりも女子の場合
   また、知識については、個人的アプローチおよび教師主導型アプローチによる指導を受けた生徒のほうが、生徒主導型のアプ
  ローチによる指導を受けた生徒よりも変化がみられた。

  <San Diego Program>
   このプログラムは、1966年にthe National Clearinghouse for Smoking an
  d Healthによって設立されたthe San Diego Community Laboratoryによって開発
  された総合的な喫煙防止プログラムである。このプログラムの実施に当たったのはthe San Diego County
  Council on Smoking and Healthである。このCouncilは18の加盟団体を擁し、学校プ
  ログラムとコミュニティ・プログラムの組織的基盤となっており、4つのプログラム・コミッションからなっている。それらは
    ・Health profeson、
    ・マスメディア、
    ・小・中・高校および大学、
    ・コミュニティ・プログラムの各コミッションである。
   学校プログラムの任に当たるコミッション(Educational Programs for Youth Comis
  on)のメンバーは、全学年の学級担任教師、学校管理者、スクール・ナース、ボランティアおよび公共団体のメンバー、それ
  に学校の外部の青少年育成団体の代表者からなっている。
 〔1〕プログラムの内容
   1966年から1974年までの8年間にわたってさまざまなプログラムが実践され、同時にそれらのプログラムを遂行する
  ための教材が開発された。プログラムの第1は学級担任教師による活動であった。まず初めに教師の研究集会がもたれ、その後
  1年生から12年生までの生徒に対する喫煙防止教育のための指導書が開発され、また、プログラム実施期間中、教師の研究集
  会と現場教育が行われた。教師が生徒に対して喫煙防止教育を行う際に利用できる教材は資料1のとおりである。
   プログラムの第2の活動は各分野の専門家による指導である。教室での生徒に対する直接指導は教師による指導が中心となる
  が、専門家による指導に対する要求が高まったことにより、常勤のスタッフ・メンバーとして専門家が採用された。その役割は
  特に、教師が今後用いようと考えている指導法を実際に教室でデモンストレーションするという訪問指導にある。この訪問指導
  は、特に5年生から9年生に対しては“Smoking Sam”のデモンストレーションが行われたが、その回数はプログラ
  ムが開始されてから3年間で884回に及んだ。また一方で、この訪問指導後も教師が継続して指導が行えるようにするために
  指導書が開発されている。
   プログラムの第3の活動は青少年リーダーによる指導プログラム(Youth to Youth program)の実践
  である。このプログラムを実践するにあたって、青少年リーダーのトレーニングが行われたが、トレーニングを受けた生徒の数
  は、1974年から1977年の3年間に合計728人にのぼった。リーダーとなる生徒は高校のKey Clubのメンバー
  であるが、彼らは自分たちの高校の姉妹校となっている学校の5年生と6年生の生徒と討論会を行った。その回数は1010回
  に及び、討論会に参加した生徒数は合計3万5445人に達した。
   プログラムのその他の活動として、サイエンス・フェア、研究集会、青少年会議などが開催された。
 〔2〕プログラムの効果
   1967年1月に、San Diego Countyの7年生から12年生の全生徒の25%を無作為に抽出して基本調査
  が、1971年1月に第2次調査が実施された。その結果、この期間中に男子の喫煙者の割合がすべての学年で減少したことが
  明らかになった。ちなみに、この当時の米国の全国的傾向をみると、この年代の男子の喫煙者の割合はわずかながら増加してい
  たということである。一方、7年生から10年生までの女子については喫煙率の上昇が認められたが、これは米国の全国的傾向
  でもあった。また、将来喫煙者になるかもしれないと予測した生徒の割合は男女ともに減少したという結果が得られたが、これ
  は特筆すべき結果であった。

  7)社会心理学の理論を応用した喫煙防止プログラム
   これまでに報告されたこの種のプログラムには、McAlisterら(1980年および1982年)、Botvinら
  (1980年および1982年)、Luepkerら(1983年)、それにFlayら(1985年)のものがある。これら
  のプログラムに共通する要素は、生徒たちに単に喫煙に関する知識を提供するだけでなく、喫煙を促す社会的な誘惑(仲間、家
  族、メディアなど)に対処する方法を身につけるためにクラス単位でディスカッションやロール・プレーイングなどの方法を用
  いた。トレーニング・セッションを実施していることである。一方、プログラムのセッションをクラスで実際に運営する者には
  相違がみられる。McAlisterら(1980年および1982年)、Botvinら(1982年)およびLuepke
  rら(1983年)のプログラムでは、仲間から選ばれて特別の訓練を受けた青少年リーダー(peer leader)がセ
  ッションの運営にあたり、Botvinら(1982年)およびFlayら(1985年)のそれでは健康教育の専門家がそれ
  に当たっている。この指導者の相違がもたらすプログラムの効果については、Arkinらが報告を行っている。
   以下ではこれらのプログラムのうち、Arkinらが開発・実施したThe Minnesota Smoking Pre
  vention Programと、Botvinら(1982年)のLifeSkillsTraining Smokin
  gPrevention Programを紹介することにする。

 <The Minnesota Smoking Prevention Program>
   このプログラムは、社会的影響因子に視点をおいた喫煙防止プログラムの効果をより明確に把握するために、従来の喫煙防止
  教育のコンセプトである喫煙の及ぼす長期的影響に視点をおいたプログラムの効果との比較を行い、さらに、プログラムの実施
  方法による効果の相違を明らかにするために、仲間のリーダーによる指導、教師による指導、それにメディアの利用による指導
  といった3つの指導法による効果の比較を行おうとするものである。
   以上のような研究目的に即して、以下に示すような主として喫煙を促す短期的な社会的影響力に視点をおいた短期影響カリキ
  ュラム(Short−Term Influences Curriculum)と、喫煙のもたらす長期的なヘルス・リスク
  に視点をおいた長期影響カリキュラム(Long−Term Influences Curriculum)が開発されてい
  る。
   短期影響カリキュラムは喫煙への潜在的・顕在的な社会的誘惑に視点をおいている。十代の青少年の喫煙は、仲間や家族それ
  にメディアによって促される心理社会的現象と解釈されている。このカリキュラムに含まれているスキル・トレーニングのセッ
  ションでは、このような喫煙への誘惑を生徒に認識させ、種々の手段を利用してこれらの誘惑への対処の仕方を教えることを意
  図している。資料2にカリキュラムの詳細を示す。
   長期影響カリキュラムでは、生徒たちは喫煙の長期的生理的影響を識別し、論議することになっている。また、そのセッショ
  ンはすべて健康教育の専門家によって指導される。資料3にカリキュラムを示す。
   以上の喫煙防止プログラムをArkinらは、1979年の11月から1980年の4月の間に、Twin Citiesの
  8つの中学校の7年生全員(3206人)に実施した。
   8つの学校はあらかじめ、長期影響カリキュラムに基づいて健康教育の専門教師によって指導を受ける学校と、短期影響カリ
  キュラムに基づいて教師がメディアを用いて指導する学校、同様に仲間のリーダーがメディアを用いて指導する学校、リーダー
  がメディアを用いずに指導する学校にそれぞれ2校ずつ4つのグループに分けられている。
 〔1〕プログラムの効果
   プログラムの効果は、プログラム実施前の1979年の10月に実施された事前調査と、プログラム実施後の1980年の5
  月に実施された事後調査によって把握された非喫煙者と喫煙者の割合を比較することによって行われた。
   その結果、このプログラムの実施時期と同じ時期に標準的なカリキュラムで指導を受けた学校(2校)を対照群として、4つ
  の実験群を比較したところ、以下のような点が明らかになった。
   ・事前調査時に非喫煙者であった生徒がプログラムの実施後もそのまま非喫煙者であり続ける割合をみると、4つの実験群の
   いずれもその割合は対照群に比べて、多い値を示していた。また、対照群は他のいかなる実験群よりもexperiment
   al(過去に1、2回喫煙したことがある)とweekly(最低1週間に1回は喫煙する)の喫煙者の割合が高かった。
   ・長期影響カリキュラム群においてはexperimentalの喫煙者の割合が短期影響カリキュラム群における減少の割
   合に比べて有意に減少した。
   ・教師による短期影響カリキュラム群は他の実験群における減少以上にweeklyの喫煙者の割合を減少させた。
   ・平均すると、実験プログラムは事前調査時の非喫煙者についてみると、experimentalな喫煙の開始を37.3
   %、weeklyな喫煙の開始を58.8%減少させたことになった。

 《Life Bkills Training Smoking Prevention Program(LST Program)》
   このプログラムは、Botvinらによって、ニューヨーク市郊外に位置し、在籍する生徒の社会経済状態、人種構成および
  喫煙率が比較的類似した2つの学校の7年生の全生徒(426人)を対象に実施されたものである。
   2つの学校は無作為に実験校と対照校に分けられ、実験校の生徒は12のセッションからなる喫煙防止プログラムに参加した。
  このセッションはそれぞれクラス単位で、週に1回およそ1時間の割合で実施された。このプログラムは、喫煙へのさまざまな
  社会的誘惑に対処するための生徒の能力ばかりでなく、一般的な個人の適性を改善するための基本的な生活能力を獲得すること
  に重点が置かれている。また、プログラムのセッションのなかには、喫煙(特に短期的な心理的効果と十代の青少年の喫煙率)、
  自己のイメージ、自己変革、意思決定と自律的思考、広告のテクニック、不安への対処、コミュニケーションの技能、社会的対
  応能力、自己主張といったことなどについての実際的な情報に重点を置いた本のが含まれている。
   また、これらの題材は、グループ・ディスカッション、模範演技、行動のリハーサルといった手段を用いて指導が行われ、プ
  ログラムはすべて、プログラムの調整を指摘する役割に当たる教師と、このプロジェクトのスタッフのメンバーの監視の下に、
  年長の仲間のリーダー(11年生および12年生の生徒)によって運営された。
   リーダーの選出は、広報紙と学校新聞によって募集され。候補者は保健教師とプロジェクトのスタッフのメンバーとによって
  面接が行われた。その結果、非喫煙者であることに加えて、他の生徒たちに人気があり、課外活動に積極的であり、自信があり、
  喫煙防止を促進することに興味をもち、喫煙者になりそうな生徒に対して強い説得力をもっていそうな20人のリーダーが選出
  された。20人のリーダーは1チーム男女各1人からなる9チームに分けられ、2人は補助にまわった。リーダーはすべて、カ
  リキュラムのさまざまな側面に精通し、さらに自分たちの責任を自覚するために4時間にわたるトレーニングのためのワークシ
  ョップに参加することになっている。リーダーには教師用のマニュアルが配布されるが、それにはプログラム全体のレッスンプ
  ランが詳細に述べられている。さらに、リーダーはこれから行おうとしているセッションにおいて取り上げられる題材を概観し、
  かつセッションの進行中に起こるであろうことが予測される問題について討論するために、毎週の初めに行われる1時間程度の
  簡単なセッションに参加する。リーダーの主な役割は、7年生の生徒の興味や要求に見合った方法で喫煙防止プログラムの題材
  を提供することにある。リーダーは、喫煙しないことと題材との関連が論理的であり適切である場合には、それらを関連づける
  ように指導を受けている。しかし、7年生の生徒に喫煙の危険性について説くことはかたく禁じられている。
   12のセッションからなるプログラムに参加した生徒には、それに加えて、これから学ぼうとしているセッションのための予
  習と、すでに学んだ題材についての復習のために、宿題が課せられる。生徒はさらに、自己変革のためのプロジェクトに参加す
  ることが義務づけられる。このプロジェクトはプログラムが終了するまで継続するように作られており、生徒はなんらかの特殊
  な技能を開発し、自分のなんらかの行動を変容することを試みるように指導を受ける。そのために生徒は週毎の目標のほかに長
  期的目標を設定し、その結果,自分自身の行動を具体化し、週毎の進歩の度合を図表に表すことができるようになる。
 〔1〕プログラムの効果
   プログラムの効果を判定するために、実験群と対照群の生徒全員について次のような事柄について事前調査および事後調査2
  回(3ヵ月後と1年後)が実施された。
   ・喫煙状況(過去1ヵ月以内と過去1週間以内)―生徒の自己申告による
   ・喫煙の開始にかかわる事象に関する知識―喫煙そのものに関する知識、社会心理的知識、および広告に関する知識からなる
   20項目
   ・喫煙の開始にかかわる心理学的変数―Locus of Control、自尊心、社会的不安および感受性に関する36
   項目
   以上の項目についての調査に加えて、無作為に抽出した生徒から唾液サンプルを採取した。これは唾液中のチオシアン酸のレ
  ベルを測定し、その結果から生徒の自己申告による喫煙状況の信頼性を評価するためのものであるが、本プログラムの場合はそ
  れによって喫煙状況の信頼性が検証されている。
   喫煙状況を、事後調査の結果からみると、事前調査時に非喫煙者であった者のうち、事後調査前の1ヵ月間に新たに喫煙を開
  始した者の割合は、実験群では8%であり、対照群の19%に比べて有意に低い値を示した。これは、年長者の仲間のリーダー
  によるLSTプログラムの効果を示すものであり、新たに喫煙を開始する者の割合を58%減少させたことになると報告されて
  いる。しかし、1年後の事後調査では、これらの値が、実験群24%、対照群32%にまで上昇し、しかも両群の間に有意な差
  は認められなかった。プログラムの効果としての新たに喫煙を開始する者を減少させる割合も25%に低下した。
   これらのことから、LSTプログラムは喫煙行動に対して意義のある影響力を有してはしるものの、この影響力は青少年の喫
  煙を将来にわたって完全に防止するという長期的なものではなく、単に喫煙の開始の時期を遅らせるにとどまっており、プログ
  ラムの効果を維持するためには継続的な指導が必要であることが示唆されている。
   また、喫煙の開始を促進あるいは阻止するために重要であると仮定されている知識および心理学的変数に関する事前調査と事
  後調査の得点の分析結果をみると、実験群の事後調査の得点は、喫煙に関する知識、社会心理的知識および広告に関する知識に
  ついては事前調査時に比べて有意に増大し、これに対し、社会的不安および影響の受けやすさについては有意に減少した。した
  がって、実験群の喫煙への社会的誘惑に対する感受性は減少したことになり、このことからLSTプログラムが喫煙を防止する
  ことになるプロセスが説明できると論じられている。
  資料1 サンディエゴ・プログラムの教材
   ・“What’s New”:1年に5回にわたって教師、看護婦、図書館司書、青少年リーダーに郵送されてくる出版物で
   あり、これには喫煙防止教育の領域で利用できる教材はもちろんのこと、最新の教授法についてのリポートが掲載されている。
   ・利用可能な教材のリスト
   ・“Up in Smoke”:スペイン語と英語で書かれた小学校1年生用のワークブック
   ・参考書と教材一式
   ・科学の教師用キット
   ・喫煙人形の“Smoking Sam”と“Nicoteena”:この人形はニコチンとタールをフィルター・ペーパー
   に沈殿させる装置を備えており、生徒はそれを目で確かめることができる。
   ・自動車のバンパーに付けるステッカー
   ・喫煙と健康にかかわるkey facts
   ・喫煙と健康に関する単語集
   ・追跡調査(follow−up activities)のための説明書
   ・“Health and Appearance Program for a Prettier You”:女子中学
   生のために特別に準備された健康ユニットであり、喫煙はもちろんのこと、ダイエット、身だしなみ、飲酒、肌と髪の手入れ
   などといったトピックが盛り込まれている。
  資料2 Short−Term Influences Curriculum
   カリキュラムは次の5つのセッションからなっている。
   Sessionl:
    1)リーダーは討論のセッションを企画し、そこで生徒たちに喫煙の否定的側面について指摘させ、類型化させ、討論させ
     て、さらに生徒が喫煙を開始する理由をあげさせる。
    2)リーダーは生徒たちに自分の学校の同学年の生徒の習慣喫煙者の人数を予測させる。その結果は集計されて次のセッシ
     ョンで利用される。
    3)喫煙への圧力に効果的に抵抗するような状況を簡単にロール・プレーイングする。
    4)ロール・プレーイングに続いて、ビデオ・テープ(Why Do People Smoke?〕を見る。このテープ
     には、仲間からの圧力の具体例とそれに対して効果的に抵抗するためのテクニックが示されている。なお、メディア教材
     を用いない学校ではロール・プレーイングが引き続き行われる。
   Session2:
    1)リーダーは喫煙者である生徒の実際の人数を生徒たちに知らせ、Session 1で生徒たちが予測した人数と実際
     の人数を比較する。例外なく生徒たちは喫煙者の人数を多く見積もっているはずである。
    2)クラス全体で、この多く見積もった理由を討議する。そこで、生徒たちは非喫煙者が大多数を占めていることに気づく
     ことになる。
    3)生徒たちは自分の友人が自分たちに喫煙をするように勧めるのはどのような状況であるかをプレーン・ストーミングを
     し、さらにそのような勧めに抵抗するための方法をロール・プレーイングする。
    4)ロール・プレーイングに続いて、生徒たちは2本目のビデオ・テープ(If Your Friends Smoke、
     Do You Have To?)を見る。このテープには積極的な役割モデルが上手に喫煙の申し出を断る状況が映像
     化されている。
   Session3:
     ここでは、生徒たちにまず初めに、喫煙を勧める個人の役割を想定し、次に、その勧めを拒否する個人の役割を想定する
    ことによって、喫煙に対する反論を行える能力をもたせることを意図している。この方法で生徒たちは喫煙に関する賛否両
    論を闘わせる。
     社会心理学的の研究では、説得力のある企てに対して反論を形成し、それを言葉に言い表す者は、将来そのような説得力
    のある企てに対して容易に抵抗するであろうことを指摘している。
     なおこのセッションではビデオ・テープは映写されない。
   Session4:
     ここではメディアと家族の喫煙モデルに視点がおかれる。
     ここでの活動には、たばこの広告を利用して、反喫煙のコラージュ(collage)を制作することが含まれる。生徒
    たちはこのコラージニを学校のよく目立つ場所に掲示する。また、生徒たちは3本目のテープ(Aren’t We Sm
    arter Than That?)を見る。このテープはたばこの広告にみられるメッセージのタイプと、家族の喫煙が
    青少年に影響を及ぼすその仕組みについてレビューしている。
   Session 5:
     生徒たちはたばこを吸わないという公約を作って、それを伝えるためにそれをビデオに録画する。そのテープはこの公約
    を強化するためにクラスで映写される。
  資料3 Long−Term Influences Curriculum
   カリキニラムは1セッション1時間で5つのセッションからなっている。
   Session 1:
     喫煙が肺に及ぼす長期的な影響がここでのテーマである。生徒たちはAmerican Cancer Society
    の制作したフィルム(Breath of Air)を見て、その後で、喫煙が肺に及ぼす影響について討論する。
   Session 2:
     ここでは、喫煙が心臓血管に与えるダメージに視点がおかれている。健康教育の指導者は喫煙が血圧、心臓それに血中コ
    レステロールのレベルに与える影響について話して聞かせ、その後、生徒たちは自分の心拍数を計って、フィルム(喫煙:
    民族的習慣についての報告―A Report on the Nation’s Habit)を見る。
   Session 3:
     生徒たちは喫煙と健康関連問題のパス・ワード・ゲームを行う。
   Session 4:
     生徒たちは女性の喫煙が胎児に与える影響について調べる。その後、フィルム(I’m Sorry,Baby)を見て、
    クラスで妊婦の喫煙がその子供に与える影響について討論する。
   Session 5:
     ここでは喫煙をしないという公約を作る。公約を作らないクラスは喫煙の長期的影響を強調するようなコラージュを制作
    する。

(2)成人に対する喫煙防止教育の現状

  1)喫煙対策プログラムの概要
   米国では,1964年に公衆衛生総監から「喫煙と健康」の報告が出て以来、公衆衛生関係者の目は喫煙に向けられ、その後、
  American Cancer、Society、American Heart Association、Americ
  an Lung Associationをはじめとする民間および行政の公衆衛生機関が大々的な喫煙対策キャンペーンを繰
  り広げることになる。一部のプログラムは教育的でないものもあったが、だいたいは教育的働きかけの必要性を認識しているも
  のであった。Thompsonは1960〜1976年に書かれた成人向けの喫煙防止教育プログラムを扱った論文をキャンペ
  ーン、禁煙クリニック、具体的なやめ方(Withdrawal Methods)の3つに分けて説明している。
   また、The National Interagency Coucil(NIC)は、1980年秋に州、郡・市および
  地域で実施しているあらゆる喫煙に関するプログラムの実態調査を行っている。それによると436の多様なプログラムが実施
  中であることがわかった。その中には禁煙クリニック、学童・青少年対象の喫煙予防、学校の授業プログラム、コミュニティ・
  プログラムと患者教育プログラム、マスメディア・キャンペーン、セルフ・ヘルプ・プログラム、カウンセリングなど多様なプ
  ログラムが含まれている。
   それらのプログラムの多くはAmerican Cancer Society、American Lung Assoc
  iation、Seventh Day Adventist Church、Centers for Disease C
  ontrol、National Cancer Institute、National Heart、Lung and 
  Blood InstituteそしてOffice on Smoking and Healthなどの全国組織によって
  開発されたり普及されたものであり、それを多少改善して用いている。
   数のうえからは、わが国と比べ大量のプログラムが実施されている米国の場合も、一般成人向けの教育はマスメディア、パン
  フレット、ポスターまたは1回限りの講演が圧倒的に多いということである。
   米国では、国民の70%は1年に少なくとも1回は保健・医療機関を利用しているという実情から、この機会を使うようにと
  いうことで医師の喫煙防止教育への参加の必要性を強調している。
   また、最近では企業における喫煙対策プログラムの実施も増加している。企業における喫煙者は非喫煙者に比べ50%以上多
  くの医療費を使っているとの報告もあり、それは企業側の負担になっている。そこで喫煙対策プログラムのための投資は短期に
  効果を現すものと受け取られており、強い動機づけになっている。1977年、1980年の報告では米国企業の11〜15%
  が何らかの喫煙防止教育を実施している。また米国健康保険協会(Health Insurance Associatio
  n of America)は会員企業のための喫煙対策プログラムの提供を行っている。
   禁煙者を調べてみると、実はその95%は組織的な禁煙教育プログラムの助けを借りずに自分で中止しているということが分
  かり、また喫煙者の多くができれば自分で禁煙したいと答えている。そこで1980年に入ってから自己禁煙(self−he
  lp)プログラムのための手引書が開発され利用されている。
   また後に事例としてあげるノースーカレリア・プロジェクトのごとく、喫煙を単独に取り上げるのではなく、肥満、高血情コ
  レステロール、高血圧、その他の好ましくないライフスタイルなどに総合的に取り組む総合リスクファクター介入プログラム
  (Multiple Risk Factor Intervention Program)が効果的であるとする見方が強
  くなっている。
   次に対象についてみると、成人の場合、一般成人のほか特に病者、妊婦などを対象とすることはいうまでもないが、医師、看
  護婦などの保健・医療従事者、教師、運動部コーチ、親など影響力の強い立場の人びとを対象とした教育の必要性が強調されて
  いる。それは、これまでの研究により、喫煙の開始においても禁煙においても上記の人びとの影響の大きいことが実証されてき
  ているからである。
   以上、米国を中心に成人に対する喫煙防止教育の概要を述べたが、次に現在用いられている喫煙防止教育プログラム、効果判
   定に関する議論そして事例としてノースーカレリア・プロジェクトを取り上げる。

  2)喫煙対策プログラムの例
   a.成人向けキャンペーン
     反喫煙キャンペーンはマスメディア、パンフレット、小冊子、展示、フィルム、広報車、グループ・ディスカッション、
    講演、個別相談、禁煙グループなど多様な組合せで行っている。
     これらのキャンペーンは節煙または禁煙への行動の変容には有意な貢献をしていないという結果が多い。また、これによ
    って喫煙は健康に有害であると信じる人びとが増加したかどうかについては一定した見解がない。
   b.奨励金や禁煙コンテスト
     企業におけるプログラムのなかにはこの種の試みがみられる。米国では1〜3%の企業が採用し、普通は禁煙した場合奨
    励金を出しているが、なかには非喫煙者にも出している。
   c.禁煙クリニック
     禁煙クリニックも方法、治療期間、その他一様でなく比較が困難であるが、そのなかで標準化したプログラムになってい
    るのが、Seventh Day AdventistのFive Day Planである。このプログラムの成績をみ
    ると、終了時には40〜97%が禁煙し、3ヵ月後は18〜53%、6ヵ月後は15〜35%、そして12カ月後が16〜
    27%に低下している。
     また、Helping Smoking Quilというプログラムも禁煙クリニックのひとつとして利用されている。
     これはAmerican Cancer Societyのカリフォルニア支部で開発したもので、8人から18人の喫
    煙者を対象に、1回2時間、週2回、合計8回のコースが1単位になっている。1つのプログラムは3段階に分かれており、
    第1段階の自己洞察開発には前半4回が当てられ、受講者は各自の喫煙習慣を評価し、自己の禁煙方法を見つけ出す。第1
    段階の修了時に48時間の禁煙を試みる。
     第2段階は後半4回が当てられ、禁煙への適応を援助するようにデザインされている。グループ内の相互作用と支援を強
    い頼みとする。
     第3段階はコース修了後に始まる。プログラムの目標を達成させるための強化を目的として、IQ(I quit)クラ
    ブを結成することを勧められ、このクラブでフォローアップする。
     8回の集まりには、客員医師や禁煙先輩の話、グループ・ディスカッション、卒業式、プログラム評価、buddy s
    ystem(2人1組で互いに相手の責任をもつシステム)などの内容が組み込まれる。
     その他、個別のカウンセリングは普通医師によって行われるが、一般に3カ月から1年後の調査で20〜46%の成功率
    がみられた。しかしたとえば、心疾患患者で動機づけられている場合は、1年後に63%が禁煙していたのに対し、Por
    terなどの調査では101人中6ヵ月後の禁煙者は5人にすぎないという報告もある。また、ロール・プレーイングの効
    果としては、JanisやMannの研究のごとく情緒的ロール・プレーイング(たとえば肺がんになった喫煙者の役を演
    ずる場合)は効果的であり、認識的ロール・プレーイングはそれほど効果がないとしている。
     また、急速に大量の喫煙をさせて不快感を起こさせる嫌忌条件(averve conditioning)や、いやと
    いうほど喫煙して吐き気をもよおすようにイメージづける潜在感作法(covert sentization)や脱感作
    技法desensitization technique)などになると教育の範疇なのか否か疑問である。
   d.自己禁煙プログラム
     1981年の1月にAmerican Lung Associationが開発したもので、多くの喫煙者が望んでい
    る自分の力で喫煙習慣を断ち切る自己禁煙プログラムである。
     このプログラムは、2冊の色彩豊かな手引書がベースになっている。1冊は“Freedom From Smokin
    g in 20 Days”で1日、1日どのように禁煙してゆくかを解説しており、2冊目は“A Life time
    of Freedom From Smoking’であり、禁煙後いかに魅力ある生活を築くかについて述べている。
     このプログラムは1979年の5月に5つのLung Association支部で試みが始められ1237人が参加
    し、手引書を受け取ってから1、3、6、9、12カ月後に追跡調査が行われた。
     American Lung Associationは1981年に全国Freedom From Smoking
    増強年間行事表を作り、テレビ・インタビュー、新聞のイベント、ラリーなどを含む大宣伝を行った。対象としては婦人、
    青少年および夏季レクリェーション団体、禁煙旅行の企画に関心のある旅行社、十代喫煙者をも含めた。
     完全に自分1人で実施するプログラムのほかに、準クリニック形式も用意された。この場合は、たとえば職場などに適す
    ると思うが、まず集まりをもってリーダーが2冊の手引書の説明をしてから、各自が禁煙を始める。その後の集まりは、禁
    煙開始日や1ヵ月後など主要な日を定めて行う。この形式は基本的には自己禁煙の精神を生かし支援的環境を組み合わせた
    ものである。

  3)効果判定
   現在、広義の喫煙に関する教育の効果判定に関して厳しい議論が起こっている。
   Mclntyreは、現在の効果判定の欠点として、
    ・自己申告に依存しており治療効果を客観的に証明するデータの欠如、
    ・対照群の欠如、
    ・クライテリアの欠如、…少なくとも85%減煙すれば成功だとする者もあれば、50%減煙すれば成功とする者もある。
    ・追跡期間の相違や不足、
    ・治療効果の決定に用いる方法の不一致…電話、自記式、面接など多様、
    ・再現性が困難であるなどをあげている。
   Windsorは、妊婦に対する喫煙防止教育研究のためのガイドラインと方法論的基準について次のような枠組みをあげて
  いる。
    ・研究デザイン、
    ・サンプルの代表性…サンプル・サイズと予測力、
    ・対象者の特質、
    ・行動把握の方法、
    ・教育的働きかけ群と対照群の手続きの適切さと再現性の以上5項目について、おのおの1から5までの点数をつけ教育研
    究を評価し質の向上をはかる必要性を提案している。

  4)ノースーカレリア・プロジェクト
   第2次世界大戦後の先進諸国の重要な健康問題のひとつは、心臓血管疾患による中年層の死亡の増大であった。なかでもフィ
  ンランドは、1960年代の統計によると心臓血管疾患の死亡率が他国に比べ最も高く、地域でみるとノースーカレリア地方が
  顕著であった。1971年ノースーカレリア地方の代表者は心臓血管疾患対策を政府に請願し、これが受け入れられ1972年
  に国のパイロットプログラムとしてWHOの協力を得てこのプロジェクトが開始された。心臓病の第1次予防としての喫煙対策
  プログラムは全体の中のひとつのサブプログラムとして位置づけられた。
   a.喫煙対策プログラム
     喫煙については、開始、習慣形成、維持、そして節煙または禁煙というように多様な段階があり、1つの地域の住民を対
    象とした場合、これらのおのおのの段階の人びとが混在し互いに影響し合っているのであり、喫煙対策プログラムの目標と
    しては、喫煙者が減少し、喫煙開始者が増加しないことである。
     プログラムは、
      ・特に中年男子を対象とした組織的な健康教育、
      ・非喫煙環境づくり、
      ・組織的禁煙活動、
     に重点が置かれた。
 〔1〕一般公衆教育
   地方新聞記事、ラジオの地方番組、ポスター、リーフレット、各種印刷物、種種のタイプの健康教育講演等により、住民が健
  康と喫煙のかかわりを理解し、喫煙を予防することの必要性を認識することを目標とした。
 〔2〕個人サービス
   既存の公的・私的健康管理機関を利用し、特に、一般的ハイリスク・グループおよび心疾患患者(心疾患要注意者を含む)、
  妊婦、幼児をもつ両親、保健医療従事者、コミュニティ・リーダー、教師などを重点的に対象とし、喫煙状況の調査と個人ファ
  イルへの登録、喫煙の影響と禁煙に関する個人指導が行われた。教材として印刷物が手渡され、次回の面接日が決められた。さ
  らに、保健婦と教師が担当する3週間コースの禁煙教室が開設された。
 〔3〕非喫煙環境の促進
   実際には、強制というのではなくプロジェクト、行政または専門家などの忠告によりそれぞれの施設の所有者が決定すること
  になっていたが、学校、保健施設、役所、交通機関などは禁煙区域とするところが増加した。また食堂内での節煙、会議中の禁
  煙、たばこの販売促進への千渉が行われた。
   プロジェクトでは非喫煙環境を広げるため大量のポスターを作った。
   “Avoid smoking here-we are in the North Karelia Project area”、
   “Smoking prohibited-we are in the North Karelia Project area”
   という標語をつくったり、自家用車、タクシー、バスに貼るための特製のステッカーや標語をつくった。
 〔4〕要員教育
   郡の衛生部主催の喫煙対策教育戦略や喫煙対策プログラムの活動に関する研修会が開かれたり、同じく郡レベルで、各地域の
  保健従事者、教師、ソーシャル・ワーカー、ボランティア団体の役員、コミュニティ・リーダーなどを対象とした研修会が催さ
  れた。
 〔5〕プログラム履行を援助するための情報サービス
   プロジェクト実施機関中すべての健康管理サービス利用者の喫煙状況はファイルされ、適宜フィード・バックできる体制がと
  られた。
   b.プログラムの評価
     喫煙対策プログラムの評価は全体のプロジェクトの評価の一環として行われた。評価のための資料の主なものは、
      ・1972年、1977年および1982年にノースーカレリア地方(対象地域)と対照地区の住民の年齢25〜59
      歳の男女から6.5%ランダム・サンプリングして調査(各地区約1万人,参加率80〜94%)した結果、
      ・1972年より年2回、ノースーカレリア地方の25〜59歳の男女から3.5%ランダム・サンプリングして行わ
      れた郵送調査の結果、
      ・その他適宜実施された調査結果である。
     評価はプログラムの実行可能性、保健行動、リスクフロクターさらに死亡率および罹患率に及ぼした結果、コスト等に注
     目した。
   c.結果
     5年後の1977年の結果によると、プログラムの実行は良好であり、住民のリスクファクターに効果をもたらした。心
    臓血管疾患の権患率は減少したが、死亡率は対照地区と比べ差がなかった。プログラム・コストはそれほど高額でなく、罹
    患率の減少のための治療費の節約のほうが大きく、また、参加住民はこのプログラムに非常に満足しているといら報告であ
    った。
     表・・2―1 ノースーカレリア・プロジェクトの1977年および1982年におけるリスクファクターの減少率
          (30−59歳の男女)(略)
     さらに10年目の結果をみると、表・・2−1のごとくリスクファクターの改善については、全体的に、最初5年間の減
    少が、その後も引き続き維持されているといえる。心臓血管疾患の中年男性の死亡率は、1974年から1979年の変化
    をみると、ノースーカレリア地方の22%減に対し、対照地区は12%減であり、ノースーカレリア地方を除くフィンラン
    ドは11%の減少(p<0.05)であり有意差が出ている。