21世紀の初頭に、こんな活動をします  --上田昌文--



 21世紀を迎えて、科学と社会を考える土曜講座はこれまでよりも大きな広がりと勢いを持って活動していくことになりそうです。個別の研究発表に加えて、長期の複数のプロジェクトに並行して取り組んでいきます。ここに今年1年で着手したり成果を上げたりしようと目論んでいる活動を、大まかに紹介します。詳しくは今号の関連記事ならびに今後の『どよう便り』での経過報告をご参照ください。積極的なご参加、お問い合わせなどを期待しています。

●企画1:科学館プロジェクト これは昨年から始めた大型の企画です(『どよう便り』第39号「私たちは科学館に何を求めるのか」参照)。私たちが求める理想の科学館の具体像を実地調査に基きながら探ります。そこには「そもそも科学技術は何のためにあるのか?21世紀にどうなっていくべきなのか?そのことを意識した科学館のありかたとは?」という観点も入ってきます。科学館に対する市民による外部評価の基準を作り、実際に私たちが高く評価できる科学館のさまざまな運営システムや存立基盤を分析します。そして私たちが「科学館で実施してみるべき新しい企画」を提案し、提案するばかりでなく科学館の職員と共同でそれを実行に移します。それをモデルケースとしてさらに研究を深めます。そしてそうした成果を1冊の本にまとめて出版します。このプロジェクトは古田さん、中島さん、高橋さんが現時点ではチームメンバーですが、科学館関係者を中心にメンバーを拡大するつもりですので、関心のある方は是非お声がけください。さらに活動資金を得るために、現在助成をしてくれそうな財団に申請を行なおうとしています。既存の申請条件になかなかうまくあてはまらない新しい枠組みのプロジェクトですが、なんとか獲得してみたいと考えています。もし助成に関してなんらかの情報をお持ちの方は是非教えてください。 合宿をかねた現地調査も遠方の場所を選ぶ可能性があります。(5月あたりに滋賀の琵琶湖博物館訪問を含んだ愛知県での合宿を計画しています。)詳しくは今号の5ページの古田さんの「市民のための生きた科学館とは〜科学館プロジェクト」をご覧下さい。

●企画2:電磁波プロジェクト これも昨年開始した大型企画です。「電磁波の人体への危険性」というまともに取り組もうとするとおよそその道の専門家しか足を踏み入れられないように思える領域に、あえて素人集団が踏み込みます。携帯電話の問題は、もう誰が考えても放置できないものになってしまっていて(日本人全体の半数以上が所有している)、方やIT革命推進のための最右翼のデバイスとして巨額の利益を生んでいますし、方や電車内の迷惑源、学生のカンニング(教室内でメールが飛び交う)ためのツールなどになって、日々社会問題を引き起こしています。これが10数年後に脳腫瘍を多発させるかもしれないなどという"暗い"議論は、この日本ではほとんど消し飛ばされてしまっているように見えます。技術の普及があまりに急速で、リスクをじっくり検討してその技術を受容することの可否を決めようという意向が、まったくないがしろにされているわけです。 携帯電話を題材にして、素人の観点から専門家の議論にも切り込み、かつ専門家が見落としているような視角をつかみ出していく、というのがこのプロジェクトのねらいです。現在集まっている10名ほどのプロジェクトメンバーはこの1,2ヶ月で、携帯電話の問題を中心に具体的な調査研究テーマの絞込みを行ないます。そして1年がかりで何らかの報告書をまとめてみたいと思っています。電磁波について基礎的な理解を深めることを目的に、高校の物理の先生たちとも協力して、「これでわかるゾ、電磁波問題」という教材キットを開発してもよいかと思います(後に述べる「企画10」とも関連してきます)。教室の中で語られる「物理」と誰もがかかわっている「社会問題」を大胆に結びつけること。携帯電話の問題は、ひょっとしたら「教室の中からの反乱」によって新しい方向が見えてくるかもしれません。 このプロジェクトは、外部の助成を得ることが難しそうなので、土曜講座の購読者・参加者の方々や、このプロジェクトを共催している「ガウスネット」(高圧線問題全国ネットワーク)の会員の方々や学校関係者にも呼びかけて、ご支援いただくよう手はずを整えたいと思います。 上田個人としては、今後数年をかけて取り組んでいきたい「まっとうなリスク評価とは何か?科学はそれにどう寄与できるのか?」というテーマの一つの実例として、この電磁波問題に本格的に取り組みたいと考えています。電磁波、(電離)放射線、化学物質などの危険性を見極めていく場合に、「リスク論」「疫学」「レギュラトリー・サイエンス」「動物実験」などの手法や考え方がからんできますが、これらを総合的にとらえて"市民の科学のためのリスク論"のようなものを探求してみたいと思っています。専門的な検討の成果を土曜講座などでの徐々に発表していきます。さっそく3月に「動物実験は科学的か?」という発表を予定していますので、ご関心のある方は是非いらしてください。

●企画3:英国訪問「エコツアー」 滝光子さん滝知則さんご夫妻が英国に滞在されていることから端を発した企画ですが、思い切って今年の6月くらいに、土曜講座関係者で10日間ほど英国に出かけてこようと考えています。英国の大学関係者(科学技術社会問題でおもしろい研究をしている方にも会いたいですね)、環境NGO、地域の活動家など、お会いできそうな人とお会いするとともに、科学館や博物館など科学技術に関連するいろいろな施設も巡ってくるつもりです。将来的に土曜講座がエコツアーを企画して実施することができるように、その下調べをするというつもりの旅行にしたいと思っています。

●企画4:市民のための科学技術政策分析手法(「巨大科学プロジェクトの評価」プロジェクト) 土曜講座で「市民版科学技術基本法」を模索した経験から、市民のための『市民版科学技術白書』のようなものが作れないかという発想が生まれました。そのためには科学技術政策が決められているシステムをある程度詳細に知る必要があり、そこで、巨額の国家予算がつく1つの具体的な科学プロジェクトを取上げ、そこに絡んでいる役所や研究機関のすべてのメンバーのかかわりとお金の流れを分析し、そのプロジェクトがどう適正に自己評価されているのかを探る、あるいは市民が実際にそれに外部評価を加えてみる、というものです。"公共事業"という観点から科学技術を分析する試みといってもよいでしょう。これには先に私も含めた民間のシンクタンクの研究メンバーがまとめた『科学技術と社会・国民との相互関係の在り方に関する調査』(平成11年科学技術新興調整費研究報告書)が一つの手がかりになるでしょう。土曜講座の参加者の中で国立研究機関に勤めていらっしゃる方にも加わっていただいて進めてみたいと思います。このプロジェクトに関心ある方は是非お声がけください。 環境アセスメントに関連していろいろなオンブズマン的な動きが科学技術に関連しても起こってきています。しかし、役に立つかどうかわからない(ひっとしたら社会にとって少しもよいことをもたらさない)高度に専門的な科学プロジェクトで、巨額の費用が投じられているものも少なくないのです。こうしたことにまで市民として目配りし、適切な評価を行なうことができるか?そしてその手法は?この辺の問題に先鞭をつけたいと考えています。これはうまく展開すれば、現場の研究者や科学技術政形成にたずさわる政府の役人たちにそれなりのインパクトを与えることができるかもしれません。

●企画5:科学ジャーナリズムを考えるシンポジウム これは、私抱いている積年の疑問「どうして日本ではまともな科学ジャーナリズムが育たないのだろう?」を何とかして解いて、市民の立場に立った科学ジャーナリズムの育成なり、「市民科学ジャーナル」の創刊なりにつなげる企画です。テレビ、新聞、科学雑誌などで仕事をする科学ジャーナリストを招き、現場から見た問題を語ってもらうとともに、たとえば立花隆に代表されるような「先端科学礼賛」の論調をどうしたら本当に乗り越えていけるのかを皆で考えます(今号の資料紹介に『立花隆の無知蒙昧を衝く』があります)。もしそのシンポジウムでかなり具体的建設的な改革案が出てくるのなら、その意見を手がかりに、「では、市民の立場に立った科学技術ジャーナルを創刊できるか」という検討をはじめてみるとよいでしょう。海外のいくつかの雑誌とも比較して、創刊に向けた構想を皆の力でまとめてみたいものです。このシンポジウムウに誰を呼んでみたいか、皆さんの意見を募集していますので、ご協力ください。

●企画6:ノーマ・フィールドさんと語る集い ノーマさんのことは昨年も土曜講座メーリングリストでは幾度か話題にしましたし、土曜講座のメンバー4人がノーマさんとお会いする機会も作りました。実際、その細やかな感受性と心の真実を裏切ることのない表現をなすことへの意志力において、これほど秀でた方を私は稀にしか知りません。ノーマさんが土曜講座に関心を持ってくださって、一緒にお話することを引き受けてくださったことは、本当に嬉しいです。ノーマさんご自身は「単なる講演ではない」形を希望されています。そこで私は1つアイデアを出したいのですが、科学と関係した、あるいは一見無関係に見えるがどこか深いところでかかわりあっている文学作品(これも広義の「文学」で、エッセイや評論を含みます)で短めのものを、ノーマさんに1つ選んでいただき、それを事前に土曜講座のメンバーが読んで、それぞれの意見をノーマさんに書き送る。ノーマさんにはその意見を手がかりにして、お話をしてもらうというものです。あるいはこの作品の選定を、私なり土曜講座の方でも行なって、ノーマさんにも前もって意見を寄せてもらうようにもして、相互に2つの「作品」を介して、「科学と文学」の関係を探り合う、というのもおもしろいと思います。ノーマさんはもちろん自在に日本語が使える方ですが、この企画に「英語」と「日本語」という異質の言語の世界を重ねてみることもできるかもしれません。 ノーマさんとの連絡係は、薮さんに担当していただくことになっています。皆さんも、何かよいアイデアがありましたら、教えてください。

●企画7:「生命科学と市民」プロジェクト 21世紀は良くも悪くも「生命科学」の世紀になるでしょう。遺伝子医療、生殖技術、臓器移植、遺伝子組み替え食品……おそらくこれまで予測もしなかった領域へのバイオの利用がますます進むでしょう。「技術の開発が世の中を変える」ことの強迫的な勢いに飲まれて、私たち(そしてひいては他の生命たち)が、どんなふうに生をまっとうすることが価値あることなのかという視点が、知らず知らずのうちに霞んでしまうようです。生命技術の進歩と、生きることの手ごたえの希薄さには、何か深いところでつながりがあるのではないか。あるいは技術が開発されることによって広がるかに見える個人の「命」をめぐる選択が、技術が普及することで成立してしまう「社会の意思」によって、かえって狭められてしまっているのではないか。こうした問題を、生命科学研究の全般に通じる「問い」として、きちんと練り上げていくこと、そして生命科学の研究をどのように適正にコントロールできるかを具体的に明らかにすることが、どうしても必要だと思われます。慎重に計画を立てなければなりませんが、何か新しいアプローチにもとづく、専門家を交えた斬新な連続講座のようなものを企画してみて、このプロジェクトの手法を探ってみたいです。関心のある方は、是非アイデアをください。

●企画8:日本の職人技術の世界を探る 「地域」をキーワードにして科学技術のあり方を検討し新しい方向を提示していく仕事は、21世紀はじめの頃の最も重要な仕事の一つになるかもしれません。いろいろなアプローチがあると思います。地域の大学の活用、地域の企業と行政や大学との連携から、地域通貨(エコマネー)を活用した自立的な生活圏・経済圏の確立まで……。そうした中で、伝統的な職人技術や地域で活躍する「ローテク」に注目して、従来の大量生産・大企業型「ハイテク」と違った技術のあり方とその意義を探っていく作業は、非常に有益だと思われます。地域を核にして企業社会がどう変わっていくかを見通すこともできるでしょう。(この辺にダイレクトに関係した本として赤池学『ローテクの最先端は実はハイテクよりずっとスゴイんです』ウェッジ1800円がある。)まだ構想はかたまっていませんが、土曜講座では一つの手がかりとして、小林一朗さんの現地調査報告を受けて(5月頃の研究発表)この問題のへの切り込み方を見出していきたいと考えています。

●企画9:科学技術を論じる英語力養成講座 私とネイティブ講師を軸にして、20人以下の受講生を募り(有料)、週1回か隔週かで、科学技術に関連した話題を扱いながら、発表と討論と作文の実践をとおして"使える英語力"を身に付けていくというものです。試験的な試みがうまくいけば、外部に開かれた「英語教室」として営業してもよいでしょう。科学研究者は、「英語が使える」ことがいわばあたりまえとみなされる世界に生きていますが、実際一人で身につけるのはそうたやすいことではなく、苦労している方はたくさんいると思います。学生については言うまでもありません。また、NGOで活動する際に英語で議論ができたり英語の文献をそれなりの速さで読むことができたりすることは、国際的なネットワークを築く上で不可欠な要素です。現時点で最も効率のよいと考えられる学習法と深い関心を喚起されるテーマ内容を組み合わせて、英語のみを使って討論できるレベルにまで徐々にステップアップするプログラムを提供したいと考えています。担当してくれそうなネイティブ講師も出てきています。この講座に関心のある方はいつでもご連絡ください。

●企画10:総合的科学教育プログラムプロジェクト 高野雅夫さんがメーリングリストで指摘してくださっているように、土曜講座は、「市民」と「大学」をつなぐ役割、「市民」と「専門NGO」をつなぐ役割、そして「市民」と「調査研究」をつなぐ役割……などを担いつつ、この世界にあって(科学技術問題を媒介にしながら)主体的で豊かな生き方を仲間との連帯をとおして模索していく、新しいタイプの"コミュニティ作り"なのかもしれません。ここでは、「出前」「出張」と銘打ちましたが、いろいろな場に出かけていってその「つなぎ」の役目を担うことを、こうした言葉で表現しています。今年は、外からの声がかかればむろん、こちらからも積極的に打って出て、具体的な問題での「つなぎ」の役割を果たせるようにしていきたいと思います。もっと学生さんたちと交流できる機会も作りたいですし、研究者の世界にも入り込んでいきたいと思います。昨年は東京理科大学の「サイエンス夢工房」との共同作業が実現しましたが、今年はもっともっと広げていきたいと思っています。 その具体的な取り組みとして、中学や高校で実施されることになる「総合教育」の時間に使ってもらうことのできる具体的な科学教育のプログラムを開発し、私たち自身で授業を受け持つこともできるようにしよう、という企画が進行しています。科学技術と社会とのかかわりについて、土曜講座がこれまで蓄積してきた情報や経験を生かして、深く生き生きと学べるようなプログラムを作り、学校に提供していくというものです。リーダーを小寺昭彦さんに担ってもらって、小林さん、上田らも加わる形でチームが出来上がりました。今号では、総合的な"科学技術・社会"の教育がなぜ必要か、その背景を論じた小林さんの文章を7ページに掲載しています。次号以降に具体的な報告を行なっていきますのでご期待ください。