森からのたより

2001/4/15 口三方岳の椅子
 

口三方岳は以前よく足を運んだ山だ。
ところが4、5年前、
県の体育大会のための登山道整備で道の脇の低木が切られ、
無残な様子になってしまった。
それを見るのがつらく、最近はご無沙汰が続いていた。
しかし今年になって、
あれからだいぶたつがどんな様子になったかと気になり、
久しぶりに出かけてみた。

 ここは春、特に雪の融け始める頃がいい。
ふもとは春の花が咲き、上へ行けば残雪の上を歩く楽しみがある。
よく出かけていたのもその頃が多かった。

 直海谷川沿いの道の登山口から急登10分程で細い尾根に出る。
イワウチワやカタクリ、タムシバ、ヤマザクラが咲き、
ブナが若葉を広げるその尾根を登り、
暗い杉の植林地を抜けると、コナラの林が広がっている。
その上もまた杉の植林地で、
このコナラ林が元のままに残された口三方の自然の姿なのだろう。
(もっとも、炭窯の跡があり、かってここでも炭焼きが行われていたようで、 コナラがもともとのものかはわからないが。)
5分も行けば通り過ぎてしまうような狭いコナラ林だが、
地形は平坦で見晴らしも良く、一休みするにはもってこいの場所だ。

 以前この山によく来ていたころは、しばしばここで休んだものだった。
遅い時間に登り出したときは、ここで昼食をとった事もあったし
上まで行ったときは帰りにコーヒーや紅茶を飲んで一服したりもした。
いわば、愛用の休憩所といったところだろう。

 何年か前の3月末の頃、
一面の雪で覆われたこの場所で昼食をとったことがあった。
その日は登り始めが遅く、コナラ林に着いた時はもう昼食時分だった。
どうせ頂上まで行くわけでなし、
ここで昼食をとって、後は行けるところまで行こうということにした。
食事をするのに良いところはないかと見渡すと、
椅子にしたらちょうど良さそうなコナラの木が目についた。
その木は雪の上40〜50センチ程のところで、水平に
大人がちょうど2人座れる位まで伸び、
そこで方向を変えて空へと向かっていた。あそこに座ったらよさそうだ。
近づいてみると、どうぞお座りください、と言われているようだった。
そこで、ありがたく座らせていただいた。
ちょうどよい高さ、木から伝わって来る暖かさ、すわり心地のよさ。
おあつらえ向きの椅子だった。
口三方に専用の椅子を見つけたような気持ちだった。
勇治と私はそこに座って昼食をとり、
気持ちのよい一刻を過ごしたのだった。

 

あの木はどこにあるのだろう。
今は雪がないので、腰掛けた場所は少し上の方になるのかもしれない。
そう思いながらあたりの木を見てみるが
目指す木はなかなか見つからなかった。
道からかなり離れたところだったのだろうか。
あの時は雪があったから、
夏道どおりに歩いていたとは限らないからとあきらめかけた時、
その木はやっと見つかった。

なんとそれは私たちの想像以上に高いところにあった。
地上約3メートル。
その木の下に行き、かって座ったところを見上げて
改めて驚いた。
あんなに高いところで座ったり歩いたりしていたのか。
それほど雪が積もっていたとは。
あの時は高さなど考えもしなかったが、今見れば
空を飛んでいるようなものだ。
口三方の椅子は空中高く浮かんでいた。

残雪期のマジックともいうべきか、
私には驚くべき発見だった。

                                         Sumiko

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