森からのたより

2001/5/19 ブナの花

                      青々と葉を広げ始めたブナの木々

5月の中旬ともなれば 木々の緑も色濃くなり、
若葉の色に染まってくる。
5月19日に出かけた白山方面の山でも、木々の緑が
色鮮やかになりつつあった。

 登山口から少し入ったところでは
ブナもすでに葉を広げ、青々と若葉の色をしていた。

連休の初めの頃来たときは、
ブナの芽は丸々とはちきれんばかりに膨らんでいたが
まだ葉を広げるているものはなかった。
しかしその5日後、再びそこを訪れたとき、
ブナは芽を開き、
花を一斉に咲かせていた。

 それはみごとな眺めだった。
ブナは全ての枝で花を咲かせ、木全体が黄緑に霞んでみえた。
あたかも空中に漂う花粉が見えるかのようだった。

本来なら、これほどたくさんの花をつけるのはめずらしいことだ。
ところが不思議なことに
去年もその前の年も、ブナはたくさんの花をつけたのだった。

 これだけ咲けば秋にはさぞ豊かな実りがあることだろう、
その時はそう思ったのだが
ブナの実りはほとんどなかった。
一昨年は少しだけ実り、
道に積もった落ち葉をかき分ければ実を見つけることができた。

しかし去年の秋、
実はまったくといっていいほど見かけなかった。
実だけではない。実を包む殻斗もほとんど落ちていなかった。
梅雨明けの頃までは青く堅い殻斗が山道に落ちていたり、
枝についているのが見えたりしたのだが…………。

 秋になって全てが忽然と消えてしまったのだ。
いったい何があったのだろう。こんなことはこれまでなかったことだ。
いくら不作でも花の咲いた年は、小さくしなびた実があったり、
中身のほとんどない殻斗が落ちていたりしたものだ。
何もないということは考えられないことだった。
しかし去年の秋は
その出来事の不思議さに首をひねるばかりだった。

 今年もう一つ気になることは、3年も続けて花が満開になったことだ。
ブナは普通5、6年に一度花が満開になり、
その秋は大豊作になると言われている。
そして大豊作の翌年、花を咲かせることはほとんどなかった。
私のこれまでの経験でもだいたいそうだった。
しかし今年の花の咲き方は
その大豊作のときにも勝るとも劣らない様子だ。
ここ2年ほど、ほとんど実をならせることができなかったので、
連続してたくさんの花を咲かせたのだろうか。

そう言えば、ブナの大豊作にもここ8年くらいはお目にかかっていない。

今年、果して実はなるのだろうか。
それとも去年のように全く実をならせることはできないのか。
あるいはこの先毎年、ブナは
空しく花を咲かせるだけになってしまうのではないか。

青空をバックに咲き広がるブナの花を見ていると
次々と心配がわいてくる。
このままでは後継の木が育たず、
いずれブナ林は絶えてしまうのではないか…………。
胸に疑問を抱きつつ、私は山道を登って行った。

 

道は山腹を巻き、広い尾根へと続いていた。
その尾根にはブナの純林が広がっている。
ここまでの道筋では雪はすっかり消えていたが、
ブナ林では窪地や日陰の斜面の所々に雪が残っていた。
雪の感触を楽しみながらブナの木々を見上げると、
芽が開いたもの、
今にも開きそうなもの、
まだ固い芽のままのものと様々だった。
しかし、全てといっていいくらいにブナは花をつけていた。
ブナは
精いっぱい、ありったけの花を咲かせようとしていた。
ところどころに残る雪の白、
芽鱗からのぞくブナの花の薄黄緑、
その見事なコントラスト。

それは今年の実りへの期待を感じさせる光景だった。

それは
私の心に沁み込み、
喜びで満たしてくれた。

その光景を見ていると、 せめてこれからは
梅雨は梅雨らしく、
夏は夏らしく、
秋の実りへと
希望を繋げられる年であることを願わずにはいられなかった。

                                       Sumiko

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