森からのたより
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2001/6/2 ジムグリ
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山の一日も終わり近くなり、
私たちは夕日を追うように山道を下っていた。
向かいの尾根に日が落ちていく。
山道は最後の日差しに包まれ、明るく暖かかった。
先を行く勇治の後を追って足を下ろそうとした時だった。
その場に光って動くものが目に飛び込んできた。
“あっ、何だろう。”
あやうくつんのめりそうになりながら見ると、
それはヘビだった。
70〜80センチくらいの長さで、胴の太さは2センチくらいだろうか。
日溜りで日向ぼっこをしていたのかもしれない。
私たちの足音に驚いて動きだしたようだ。
見つめている私たちの目の前を横切り、
落ち葉の下の穴へともぐりこんでしまった。
その間、道を滑っていくヘビの頭の天辺から尻尾の先まで
じっくりと見ることができた。
黄褐色の頭とその色が淡くなった胴体、そして
そこに散る青っぽく小さな斑点。
それはジムグリだった。
ジムグリは以前にも見たことがあった。
3年ほど前のことだ。
やはりこの季節、時刻は夕方、そしてこのあたりでのことだった。
道の行く手にヘビが長々と横たわっていたのだ。
私たちは驚いて足を止めたがヘビはこちらに気がついたのかどうか、
そこに横たわったまま全く動く様子はなかった。
しばらく見ていると
ヘビはゆっくりと動き出し、道の脇の草むらへと向かい始めた。
私はよく見ようとそのヘビに近づいて行った。
するとその時、驚くべきことが起こった。
ヘビに近づきかけた私は偶然その通り道をふさぐ位置に立ったようだった。
ヘビは動きを止めると突然尻尾を細かく振るわせた。
すると、小さい音だが
“ガラガラ”とも“シャリシャリ”ともつかない音が
かすかに聞こえてきた。
驚いた私は思わず2、3歩後ずさりしてしまった。
ヘビはそれを待っていたかのように、
悠然と私の足元を通って草むらの中へ入っていった。
そして草の中から頭だけ出し、
こちらの様子をうかがっているかのようだった。
しかしそれもつかの間、
頭を引っ込めると草を揺らしながらどこへともなく行ってしまった。
音を出すヘビと出会ったのは初めてだった。
いったい何者なのだろう。
図鑑で調べても音を出すヘビについては書かれていなかった。
しかし体の模様やその生息場所などから、
そのヘビはジムグリという名であることは間違いなさそうだった。
ただ、その記述に私は思わずうなってしまった。
「日本的な優雅な感じのするヘビ。
・・・日本のヘビでは最も美しいアカジムグリ・・・」
その文章はヘビに対する深い愛情が読みとれるものだった。
ある意味では主観的ともいえる表現を
堂々と図鑑に記載する、
これは相手に対する深い思い入れがなければできないことだろう。
あまり人間に好かれないヘビを
いとおしく思う著者の気持ちが伝わってきて、
こんなにヘビに愛情を持つ人もいるのかと感心してしまった。
そのジムグリにまた出会ったのだ。
それも、同じ季節、同じ場所、
そして
時刻まで夕方という似たような状況だ。
前に出会ったときから3年ほど経っているが、
私としては
あのジムグリと同じものだと思いたい。
そうだと考えると、なぜか心楽しくなった。
ヘビはあまり好きではなかったが、
この出会いからその気持ちが変わっていきそうな
予感がしている。
Sumiko