|

きのこを通して自然を知る
きのこを通して自然を知る
古川 久彦
くじゅうの山々を背に、別府湾
に面した大分の美しい自然を、き
のこを通して学ぼうという遠藤正
喜会長の呼掛けで大分きのこ会が
創設されてから、今年で20周年を
迎えました。
当初はきのこに関心をもつ数人
の集まりでしたが、時が経つにし
たがって同士も増え、今は多数の
会員を擁する同好会にまで発展し
ました。これは、いかに自然を愛
する人たちが多いかを物語ってお
り、大分の方々の生き物に対する
愛着心の表れと思います。
私ごとで恐縮ですが、私には二
人の恩師がいます。一人は学生時
代の恩師で、京都大学の故浜田稔
先生です。浜田先生は生涯をマツ
タケ研究に捧げた方で、研究に対
しては厳格で、私は学問の厳しさ
を学びました。
もう一人は私が職を得てからの
恩師、故今関六也先生です。今関
先生は非常に温厚な方で、広い視
野から透視的に自然を見る方でし
た。いつも採集調査はご一緒でし
た。ある時、私が得意そうに憶え
たばかりきのこの学名を口にし
ているみて、先生はこう云い
ました。「古川君、きのこの名前
を憶えることも大切だが、同時に
そのきのこの生態的性質も憶えな
さい。それが解れば、そのきのこ
を通して付近の環境条件を知るこ
とが出来るのだよ。」と。「きの
こを通して自然を知る」この含蓄
のあるお言葉によって私の45年間
の研究生活は支えられ、「きのこ
学」の体系を生むことが出来たと
思っています。
毒きのこについても、今関先生
はこう語っています。ある採集会
で子供が自分の採ったきのこの名前
を聞きに来ました。先生は「こ
のきのこは毒ですよ」というと、
傍にいた母親が「危ないから早く
捨てなさい」といって捨てさせ、
足で踏み潰したそうです。毒きの
こだからこそ手にとってよく観察
し、細かい特徴を憶えるべきなの
に、この母親の姿勢が子供の科学
心を潰してしまったと嘆いておら
れました。たとえ猛毒きのこで
も、手に触れただけでは決して中
毒しません。
今回、遠藤会長が中心になって
出版されたこの本は、大変貴重な
資料であるし、また方言は和名が
混乱したときに有力な手掛かりにな
るので、これも大切な資料です。
この本によってきのこの知識が
深まり、「きのこを通して自然を
知る」ことが出来れば、今関先生
も大変お喜びになるとおもいます。
大分きのこ会顧問
元大分県きのこ研究指導センター
初代所長・参与・農学博士

|