たいせつに残し、育てていきたい
地域農産加工の危機

〜『地上』(家の光協会)2003年5月号

■呼びかけ人の西沢江美子さんが、農家向けの月刊誌『地上』に執筆した原稿です。(5/16新井up)

原料にハチ蜜を使用しているため、「マヨネーズ」とは表記できないという

困難を乗り越え、生産者と消貴者をつなぐ

農村に暮らす人たちが地域の産物を使って作る農産加工は、伝統の味と真心を消費者に届けるたいせつなきずなである。そうした取り組みの一つがいま、ある問題に直面しているという。そこで現地や農林水産省に足を運び、実状を聞いてみることにした。
 農産加工や産直についての疑問や悩み、怒りをぶつける農民に、最近よく出会うようになった。長い間、農業を中心にした地域づくりや農村女性の自立をめざして農産加工を積極的に行ってきた人たちからである。
「地元の花祭りでお弁当をみんなで作って販売してきたのに、突然役所にだめだと言われた」「グループで山菜つくだ煮を作って10余年。宅記や小さな無人販売所で売ってきたが、賞味味期間が長すぎると注意された」といったように、さまざまな疑問や不安が上がっている。

農村女性の手で広がった
商品開発や売り場づくり


 こうした農産加工や売り方はさまざまだが、共通していることは、長い時間をかけて村のなかでつくり出された小さな地域加工であり、農民の手による加工商品であることだ。そしてその多くは、女性や高齢者の手によって商品化されている。
 たとえば梅干し。いつの時代に生まれたものなのか、歴史をひもとくのさえ難しいほど古くから作られている。
 家庭の味を代表するこの梅干しが、全国各地で開かれている女性たちの店や朝市、タ市、そしてJAの店舗に並んでいる。「昔ながらの味」「○○さんの梅干し」と書かれたかわいらしい袋に入れられて買い手を待っている……。村の女性たちは、家族のために自給してきた梅干しを、商品化したのである。
 歴史を積み重ねた伝統的な食の技術と食材を商品化しようというのは、いまや農業女性の大きな流れになっている。全国的に見るとまだ点かもしれないが、面になっていく勢いが感じられる。
 農村女性とともに20余年、農産加工や売り場づくりを応援し、その自立にかかわってきた者として、農産加工についての現場からのさまざまな声を見逃すわけにはいかない−−。そう思っていたときに、農産加工を実践する人たちから、ある大きな間題に直面しているという声が寄せられた。

小さな人気商品に
表示義務違反の指摘


「18年問も作り続けてきた『松田のマヨネーズ』が、役所からJAS法表示義務違反と指摘されて、『マヨネーズ』という商品名を使うことができなくなった。こんなことはおかしい」
 正月明け早々、ある怒りのメールが飛ぴ込んできた。メールの発信者は、埼玉県寄居町で農業を営む伊藤晃・泰子さん夫妻である。
 JASとは「日本農林規格」の英語表記の頭文字。農林水産物の規格と品質表示基準を定めた法律だが、これに違反しているというわけである。
 またか、と思うと同時に、この問題の真相を知る過程で、農産加工者たちの不安や怒りの本質をつかむことができるかもしれないと考え、現地を訪ねることにした。「松田のマヨネーズ」は、埼玉県神泉村という小さな村にある「(株)ななくさの郷」(代表取締役・松田優正氏)で作られている。原料の素材は、いずれも素性のはっきりした国産品で、有機農産物を使い、化学合成品や添加物をいっさい使わないというこだわりの製品。そのため、「マヨネーズ世代」「マヨラー」という言葉があるほどマヨネーズが大衆化している現在、「松田のマヨネーズ」は知る人ぞ知る、隠れた人気商品になっている。
 この「松田のマヨネーズ」という商品名に、JAS法表示義務違反というクレームがついた。つまり、「マヨネーズ」という言葉を使ってはいけないというのである。

委員会に足を運んで
作り手の意見を訴える

 では、どの部分が「違反」しているのだろうか。JASが定めるマヨネーズの定義では、使ってよい素材が列記されており、「それ以外の原材料を使用していないもの」と定めている。使ってよい素材のなかに「糖類」があり、この「糖類」として「松田のマヨネーズ」ではハチ蜜を使っていた。ハチ蜜はJASの「糖類」に入っていない……このハチ蜜が問題となったのである。
 昨年の7月16日、独立行政法人農林水産消費技術センターから、製造元のななくさの郷へ一通のファックスが送られてきた。
 そこには、「松田のマヨネーズ」という商品名と名称の「マヨネーズ」を、JASに照らして「不適合」だから「改善」し、「その結果を速やかに報告せよ」と書かれていた。  ななくさの郷の代表、松田優正さんはびっくりした。「砂糖よりもハチ蜜のほうがどれほど健康にいいか。人類の歴史のなかで認められている」というわけだ。
 研究を重ねて作り出した商品がJAS法表示義務違反とは納得いかない。松田さんはドレッシング類のJAS規格見直しを協議する農林規格調査委員会の部会で意見を述べることができると知り、出かけることにした。
 JAS法を改正して、ハチ蜜を加えてほしいと松田さんは資料をそろえて訴えた。質問が出ると思ったが、意見を述べるだけの場であり、結局は「時期尚早」という集約になってしまった。

やむをえず商品名を変更し
消費者への呼ぴかけを表記


「時期尚早」という理由の根拠は、「ハチ蜜を加えると、どこまで広げていくのかという問題が出てくる。ハチ蜜だけをすぐに加えるには、総合的な検討が必要」というものだ。
 このまま「松田のマヨネーズ」を売り続けると、1億円以下の罰金が科せられる。そこで松田さんは商品名を「松田のマヨネーズタイプ」に変更し、名称を「半固体状ドレッシング」と改めた。
 包装の裏側には、こう記されている。
“品質維持のために原材料は変えずに規格を見直すよう農水省に働きかけていきます。それまではタイプはつきますがマヨネーズと呼んでください”
「わたしの良心的なものづくりの立場を主張したかった」という松田さんの思いが込められたこの表記にたいして、またもや「これもマヨネーズという表記に当たる」との通告があった。
 農水省の担当者は、「JASで決められている以上、それを守るのがわたしたちの仕事ですから」と言うだけである。安全性が間題かと聞くと、いわく「ハチ蜜は安全性にはまったく問題ない。だが、JASは安全かどうかで決められていない」とのこと。
 スーパーのマヨネーズ売り場へ行ってみると、数多くのマヨネーズが並んでいるが、「マヨネーズ」と明記されたものは大手メーカーのものだけで、「マヨネーズタイプ」という記載が圧倒的に多い。
 月5万本(300g)という生産規模の「松田のマヨネーズ」の販売ルートは、ほとんど自然食品店の系列だ。農産加工場のような小さな「松田のマヨネーズ」に降りかかった問題は、けっしてひと事ではない。
 法律をよく知ることからまず始め、法の矛盾点を明らかにしていかなければ、「安全」や「規格」の名のもとに、農民や小さな生産者が排除されていくことになるのではないだろうか。

農業ジャーナリスト 西沢江美子

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