JASからはじかれた「松田のマヨネーズ」

        〜大野和興〜〜週刊「金曜日」2003/4/18号より
■米英のイラク侵略攻撃のために、掲載が延期されていた大野さんの記事が、やっと出ました。スキャンした掲載誌面は、その雰囲気だけお伝えしますので、下の枠内の本文をお読みください。(4/23up)



◆事の起こり

「松田のマヨネーズ」―埼玉県北部の神泉村という小さな村の小さな会社で作られてい るマヨネーズだ。原材料は国産の、素性がわかる有機生産のものを厳選し、化学合成品 も添加物も一切使わないというこだわりの一品である。
 今年1月のある日、埼玉県寄居町で農業を営む伊藤晃・泰子さん夫妻から筆者にメー ルが入った。「松田のマヨネーズ」が役所筋からJAS法の表示義務違反を指摘され、 「マヨネーズ」という商品名が使えなくなった、という怒りの便りであった。
この話は私の関心をかきたてた。農業ジャーナリストととして長年村を歩き、循環型の 地域づくりや産直、農民加工といった足元からの仕組みのつくりかえに関わり、心を寄 せてきたものとして、見過ごすことができないと感じたからだ。伊藤さんに会いに出か けた。
 まず事実経過を追ってみる。
問題のJAS法とは農林水産物についての規格と品質表示基準を定めた法律で、「日本農 林規格」の英語表記の頭文字をとったものである。
 で、どこが違反なのか。JASによるマヨネーズの定義には、使ってよい素材として 「糖類」が入っている。マヨネーズの甘味料としては砂糖が一般的だが、「松田のマヨ ネーズ」ではミネラルやビタミンを豊富に含み、自然性が豊かな蜂蜜を使っている。と ころがマヨネーズJAS規格の「糖類」に蜂蜜は入っていない。JASのマヨネーズの定義に 入っていない原材料を使っておるので、「松田のマヨネーズ」はマヨネーズではないとい うことになるのだ。
 昨年7月16日、農林水産省の外郭団体である独立行政法人・農林水産消費技術セン ターから、「松田のマヨネーズ」製造元の(株)ななくさの郷宛一通の文書がファッスで 送られてきた。名称の「マヨネーズ」、商品名の「松田のマヨネーズ」ともにJASに照 らして「不適合」であるので、「改善し、その結果を速やかに報告せよ」とあった。

◆大手メーカー委員が引き出した結論

  18年間こつこつと作り続けてきた小さな企業にとって、寝耳に水の知らせだった。だ が、ドレッシング類のJAS規格見直しを協議する農林規格調査委員会の部会が10日後の 7月25日に開催されるので、そこで意見を述べることができるともいわれた。そこでな なくさの郷代表の松田優正さんは、霞ヶ関の農水省に出かけた。
このときの部会のようすは、昨年12月6日に開かれた「農林物資規格調査委員会総会 」で部会長報告の形で公表されている。その議事録と農水省の担当者である総合食料局 品質課の島崎眞人課長補佐からの聞き取りを元に再現すると、こうなる。
多くの委員が蜂蜜に好意的な意見を出す中で、業界を代表する全国マヨネーズ協会の委 員が「ここで蜂蜜を加えてしまうとメーブルシロップや麦芽糖など、どこまで広げてい くのかという問題が出てくるので、蜂蜜だけをすぐに加えるというのは時期尚早であり 、総合的な検討が必要だ」と述べ、それが部会の「時期尚早」という意見集約につなが った。
この委員はマヨネーズ最大手のキューピーに所属する人で、専門家のはずなのに重大な 事実誤認をしていた。メーブルシロップや麦芽糖はJASマヨネーズ規格の「糖類」に含 まれていたのだ。島崎課長補佐は部会の席上でそのことを指摘したが、出席者は関心を 示さなかった。
総会の議事録を読むと、部会長はキューピー委員の発言をそのまま引用、それに対する 島崎課長補佐の訂正には、まったく言及していない。一番大事な論点が事実誤認された まま意見集約され、何の議論もないまま業界の引き出した結論が追認されたのだ。
JAS法の表示義務に違反すると、法人の場合1億円以下の罰金という行政処分が待ちう けている。松田さんは仕方なく商品名を「松田のマヨネーズタイプ」に、名称を「半固 体状ドレッシング」とそれぞれ変え、包装の袋の裏側の商品説明に、「品質維持のため に原材料は変えずに規格を見直すよう農水省に働きかけていきます。それまではタイプ は付きますがマヨネーズと呼んでください」と書いた。良心的なもの作りを続けてきた 生産者の心意気のようなものを示したいと思ったからだ。ところが「これもマヨネーズ という表示にあたる」と行政側は改善を通告してきている。
同年9月に松田さんは農水大臣宛にJAS規格改正を求める申出で行い、蜂蜜は優れた甘 味料であることをデータをつけて指摘した。これに対する農水省の回答は「データが十 分ではなく時期尚早」という部会集約の繰り返しであった。
 島崎課長補佐にいったいどこが問題なのか、改めて聞いた。
―安全性が問題なのか?
「まったく問題ない。JASは安全かどうかで決められてはいない」
―データ不足とは?
「どういうデータがなければいけないというものはない」
―時期尚早とは?
「方程式はない。市場に受け入れられていること、他のマヨネーズと比べ味に遜色がな いこと、が満たされれば(問題ない)ということだろう」
―それは誰が決めるのか?
「規格調査委員会である。しかし、だめだというばかりだから・・・」
 こんな問答の間、島崎補佐は「JASで規格が決まっている以上、それを守るのが私た ちの仕事ですから」と繰り返した。

◆なぜ小規模生産者を育てない

松田のマヨネーズ」の生産規模は月5万本(一本当たり300グラム)である。販売ルー トはほとんどが自然食品店系列。松田さんは自身も以前、自然食品店を経営していたが 、安心して食べてもらえるものを届けるには自分でつくらなくてはと選んだのがマヨネ ーズ製造だった。月産500本ほどから始めて、ここまできた。「これ以上大きくする 気はありません。大きな設備投資をしなければならないし、原材料の質を落としたくな いですから」と話す。
 工場は利根川の支流神流川に沿った田園地帯にあり、周りには田んぼや畑が広がって いる。一年前から自分で作った農作物を提供するレストランも始めた。従業員はそのレ ストランも入れ5人ほど。工場というより、食べ物工房といったおもむきだ。
 冒頭述べた私自身の関心事に戻る。この一、ニ年、企業の食品犯罪が次々を明らかに なった。農水省は「農と食の再生プラン」なる方針を掲げて「国民の信頼を回復する」 と張り切っている。そうした中で出てきたのが、食品の生産から販売まで高度な衛生管 理システムでつなぐHACCP(危害分析・重要管理点方式)や、消費の先端でもその食品の 素性を確認できるトレーサビリティーの導入であったり、アイガモまで農薬に入れられ そうになった農薬取締法の改正問題であったりする。
 これらに共通しているのは農民を含む小さな生産者を縛り、その創意工夫を無視し、 大きな経済的負担を強いるものだということである。たとえばトレーザビリティーなる ものを本格導入したなら、農民はコンピューターを備え自在に操作できることが要求さ れる。その手間と経費は、このデフレ時代、農産物価格に上乗せできないから自分でか ぶるほかない。
また2000年から始まった有機JAS認定制度も認定機関」へ相当の支払いを必要とす るため、多大な負担を強いる。この制度は有機農産物についても輸入農産物に道を開く ものであり、有機JASを表示した輸入農産物が、国内市場で現実に大きなシェアを占め はじめている。
「松田のマヨネーズ」にふりかかっているのは、こうした問題の一端と筆者はとらえて いる。地域でがんばる良心的な生産者の安全な生産物を守ることができるかどうかの試 金石といえるだろう。
(農業ジャーナリスト)

「松田のマヨネーズ」の支援サイトは
http://www.geocities.co.jp/NatureLand/4936/

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