これで食の安全はまもれるのか!
大野和興〜『消費者リポート』第1225号・03/06/07発行 |
| ■呼びかけ人の大野和興さんが、日本消費者連盟が発行する『消費者リポート』に執筆した原稿です。(03/06/04 新井up) |
| 「松田のマヨネーズはマヨネーズだ!の会」というおかしな名前の会を立ち上げたのは今年2月20日でした。それからほぼ2ヵ月半後の5月8日、農林水産省に対し約3800人の署名を添えて、JAS(日本農林規格)法に基づく農林水産大臣への申出を行いました。 いったい何が問題で、何を申出たのか。まず「松田のマヨネーズ」とはどういうものかから説明します。これは、埼玉県北部の神泉村という小さな村の(株)ななくさの郷という小さな会社でつくられている製品です。原料は国内産に限り、それも有機生産のものを選び、化学合成品や添加物は一切使っていないと、製造者の松田優正さんは胸を張ります。 松田さんはこのマヨネーズを「松田のマヨネーズ」という商品名で18年間作り、販売してきました。生産量は300グラム容器で月産5万本と小規模ですが、松田さんはこれ以上大きくするつもりはありません。「設備投資や原料獲得で無理をして質を落としたくないから」、というのがその理由です。 その松田さんにもとに昨年7月18日、独立行政法人農林水産消費技術センターから「マヨネーズという名称はJASに不適合なので、改善し、報告せよ」、との通達がきました。同センターは農水省の機関のひとつです。 松田のマヨネーズは甘さとおいしさを出すため、砂糖のかわりに甘味料として蜂蜜を使っています。北海道産の農薬をかけないクローバーからとった蜂蜜です。ところがJASが定めているマヨネーズの品質基準では、甘味料は糖類に限られ、蜂蜜は使えない定めになっています。製造業者はJASの格付けはとらなくても、品質基準は守る義務があり、違反すると1億円以下の罰金が科せられます。 寝耳に水の通達に驚いた松田さんは、JAS規格について審議する農林物資規格調査会の部会で意見口述をしたり、農水大臣にJAS法を変えて蜂蜜が使えるようにしてほしいとの申出を行うなど手を尽くしましたが、調査会、そして農水省の結論は「データがなく時期尚早」なので「だめである」というものでした。 こうした経過をうけて、北埼玉で有機農業を営んでいる伊藤晃・泰子さんの呼びかけで作られたのが、冒頭紹介した「会」です。まず、地域でがんばる良心的な、小さな生産者を市場から排除することのないよう、公正な食品行政を、という主旨の要請書を農水大臣に出しましたが、農水省からは松田さんに宛てた回答と同じものが返ってきただけでした。そこで松田のマヨネーズを共同購入している消費者グループや自然食品店、同じ小さな生産者仲間である有機農業に取り組む農家などを軸に署名活動に取り組み、5月8日の申出に至ったものです。 JAS法二十一条二項は「農林物資に関する表示(中略)が適正でないため、一般消費者の利益が害されていると認められるとき」は適正な措置を講じるよう農水大臣に申出ができることを定めています。 この規定を使って「JASが規定するマヨネーズの定義、規格、原材料に蜂蜜を加えること」を要請しました。農水省の事務当局によりますと、消費者でこの規定を使った初めてのケースではないか、ということでした。 なぜわたしたちは、小さなマヨネーズ会社の問題にこんなにこだわっているのか。この一連の経過の中に、今の食品行政が抱える根本的な問題が隠されていると考えるからです。 調査会が上記のような結論を引き出していく経過を、議事録などから追っていくと、業界代表である全国マヨネーズ協会から出てきた委員の意見に誘導され、その通りになっていく過程がはっきりと読み取れます。周知のようにマヨネーズ市場はキユーピーと味の素に二大会社の寡占体制のもとにあります。そして調査会委員はキユーピーの社員でした。彼はこの問題を審議した部会で「ここで蜂蜜を認めるとメープルシロップや麦芽糖にまで話は拡大するので時期尚早」と意見を述べ、蜂蜜を入れることに反対、結論はその通りになりました。 ところが反対理由となったメープルシロップや麦芽糖はとっくに糖類に入っているのです。しかし議事録を読むと、このまちがった事実認識に基づく意見をそのまま受けて調査会の結論が導き出されます。しかも、マヨネーズの原材料を定めたJASの基準は、味の素が得意とする調味料(アミノ酸等)を認めています。これでは、基準も運用も、すべて大企業優先で動いているといわれても仕方ないでしょう。 JAS法は第一条に「法律の目的」として「一般消費者の選択に資し、もって公共の福祉の増進に寄与すること」を掲げていますが、現実はそうではないのです。 そしていま、大企業優位の食品行政は、消費者の求める「食の安全」を逆手にとって、食品行政の中でますます強まっていると感じます。HACCAP(ハサップ)、トレーサビリティなど、いま食の世界はカタカナ語が全盛です。O-157中毒事件がきっかけとなって、食品の生産から販売までを高度な衛生管理システムでつなぐHACCAPを採用していない食品加工工場は、有機農産物をあつかう生協といえども相手にしてくれない時代になりました。このため、地域の農産物を加工する小さな加工業者や、自分で作ったものを加工する農村女性の加工が苦境に陥っています。 消費の段階で生産から販売までの全過程を把握しようというトレーサビリティもまた農民に大きな負担をかけます。ソフトをそろえ、コンピューターに打ち込まなければ成り立たないこの仕組みにかかる労力や経費は、JASの有機農産物基準と同じように、結局零細な生産者がかぶることになります。 こうして地域に根ざす小さな農業、農産加工は次第の淘汰されていくのです。それは食文化の破壊でもあります。松田のマヨネーズと同じような扱いを受けているものに、愛知県碧南市の日東醸造が作っている「しろしょうゆ」があります。北海道産の小麦だけを使い、伝統製法で作った醤油ですが、JASの基準では「醤油は大豆と麦で作る」ことになっており、「醤油」と名乗ってはいけないと農水省に言われたのです。 まともなものをまともに評価してほしい、これがわたしたちの運動の願いです。 大野和興(農業ジャーナリスト、「松田のマヨネーズはマヨネーズだ!の会」呼びかけ人) ※HPアップにあたり、以下の部分を訂正させていただきます(大野)。 約3800人の署名→3400人余の署名 日本消費者連盟のホームページはこちら |