ゴボチ遊び 昨夜から風邪にかかってしまいました。朝、起きても熱が下がらず、学校を休むことにしました。 学校は僕の家の隣にあり、授業開始の鐘の音が静かな校庭に響き渡り、横になっている僕の耳にも伝わってきました。多分先生は今頃、生徒の名前を一人一人呼んでいる頃だろうなと僕は思いました。それから、僕はうとうと眠りに入り、目が覚めた時は、学校が休み時間に入り生徒たちが校庭でボール遊びを始めた時でした。 もう、熱も下がり一緒に遊びたかったのですが、学校を休んでしまったので、のこのこ学校に出て行くことも出来ず、布団の中で我慢をしておりました。 父母は仕事に出かけ、家の中は学校の校庭と違って静かで柱時計がガッチコ、ガッチコと鳴っておりました。 僕はお腹が空き、母が作っておいてくれたおかゆを食べました。それから飼っているメジロにすり餌を作ることにしました。生きた小魚がなかったので、煮干をすりあげて小さな器に入れてあげました。まだ、風邪が本格的に治っていないので、その出来上がったメジロの柔らかな練りえの餌は変な匂いがしました。メジロは餌を食べながらピーッ、ピーッと明るい声で鳴き始めました。 「どうした?風邪でも引いたか?」 担任のダボが入ってきました。 「もういいみたい」と僕。 「どれどれ。まだ少しあるな」とダボは僕の頭を触って言った。 「今日一日ゆっく休んでいな。明日から学校にくればいい。」と言って授業の始まる鐘の音とともに先生は学校へ戻りました。僕の家は学校の廊下に繋がっているほど近く、何かあると、先生がくるので、学校が近いことが嫌でした。日曜日、一日畑仕事の手伝いなどしていると、翌日は数人の先生に、昨日はご苦労さんと声をかけられ、見ていられたかと思うと、恥ずかしいような気がしました。 学校は再び授業が始まり、校庭全体が静寂さを取り戻しました。 僕はゴボチの点検に行くことを思いつきました。ゴボチとは野山に野鳥を捕獲するために仕掛けた手つくりのワナでした。当時冬になると、殆どのこの地方の子供たちがこのワナつくりに夢中になりました。 仕掛けは簡単で、竹篠のバネを利用して小鳥が入り口から、中のばら撒かれた餌を食べに入ってくると、バチンと半月の竹篠が戻り、小鳥の首が挟まってしまう仕掛けです。 小鳥が首を挟まって1時間ぐらいまでに行けば大体生きており、生け捕りにすることができるのですが、時間が過ぎれば哀れにも冷たくゴボチの中で首が挟まったまま死んでおります。従って小まめに廻ってみる必要があります。しかし 沢山のゴボチが野山にそれぞれかけられているので、子供たちはそれぞれ巡回して点検する時間は大体決められております。つまり一人で行くと、他の子のゴボチを覗くことになるのでルール違反になります。 僕はこのところ、自分のゴボチに小鳥がかからなくなっていることを知っておりました。仲間のトモやショウジも言っていましたが、誰か先回りしてゴボチにかかった小鳥を持って行く者がいるのかも知れませんでした。 ある朝、ゴボチ点検に行ったとき、ゴボチの前が自分よりも先に歩いた足跡があることが分かりました。 そしてゴボチの周りをを仔細に点検すると、小鳥の小さい羽毛が竹篠に一枚付いておりました。 これは小鳥が逃げたのではなく、誰かがそこに捕らえられている小鳥を、ワナからそっと外して持っていったのでしょう。そのとき落ちていたたくさんのホオジロの羽毛を丹念に取り除いたのではないでしょうか。 トモはジロウが犯人かも知れないと、そのとき呟きました。ジロウは学校に行かない、今でいう知識障害者でした。皆が学校に行っている間、いくらでも見に行く時間があると言うのが彼の意見でした。 僕もジロウかと最初思いましたが、ジロウがあれほど念入りに小鳥の羽毛をゴボチから外すことが出来るか疑問でした。それにジロウはゴボチよりも各家庭にあるラジオ等の機械に興味があり、ラジオなどバラバラに壊された家が数件ありました。 「だいたいジロウはこのゴボチの場所分かっているのか」 「分からない者いないよ。」 「毎日皆で山に入っていくもの」 そのとき、結論は出ませんでした。 そして本日僕はゴボチ破りの犯人を見つけるチャンスに恵まれました。そう思うと、布団などに入っていることはできませんでした。 大きな長いねじれた棒を持って山に入りました。犯人に会ったらこの棒で殴りつけるつもりでした。そして、皆のゴボチを一人で全部点検できるのだと思うと心臓は高鳴りしました。 山を一つ越えてもう一つの山に入りましたが、運良く誰とも合うことは有りませんでした。山の緩やかな斜面に辿りつきました。そこの開けた雑木林には冬になると、いつも小鳥たちが群がっておりました。それぞれのゴボチを点検しましたが、ホオジロはかかっておりませんでした。トモのゴボチは林道から余り外れていないため危うく踏み潰すところでした。 流石に、ショウジのゴボチはホオジロを誘うようにゴボチの前まで餌がおいてあり、どうしてもゴボチの中に入りたいように仕掛けられておりました。 何故か秘密の部屋を一人で覗いているようで、直ぐにそこから退散することにしました。 帰途もジロウには会いませんでした。ゴボチ破りの犯人は見つかりませんでしたが、意外なところから分かりました。 その夏、ウナギを小川に僕たちは仕掛けました。ドジョウをタコ糸の針につなぎ、篠棒を一晩中、川底に突き刺して、ウナギを釣る仕掛けなのですが、僕らよりも朝早く起きて仕掛けを引き上げてウナギを取ってしまう者がおりました。ジロウの兄のサブが朝早く小川から帰ってくるところに僕らは出会いました。勿論、サブの右手にはウナギの入っている網を持っておりました。僕らは何も彼に質問することはできませんでした。凶暴なことでは有名で何か同級生と喧嘩をして耳か頭を齧ったことで僕ら下級生には怖がられておりました。 「サブに捕まっては駄目だな」 「ゴボチもサブだったんだ。」 僕らはその夏ウナギとりはぴたっと止めました。 ゴボチはその冬続けたかどうかは記憶にありませんが、その後僕はメジロ探しに夢中になり、鳴き声の綺麗なメジロを探すようになりました。05.03.06 完。 ![]() オーロラへ |
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