06.03.25 かすみがうら市 オオタカ 20数日振りにオオタカの撮影に出かけた。春の夜明けは早い。その夜明けより、もっと早く現場に到着しなければならないので、ベッドから起きるのがつらい。だが、今日こそオオタカ メス成鳥、勝子の飛翔写真を撮るのだと思うと不思議に自分の動きが軽くなる。鎧袖一触の相手ではないだけに、研ぎ澄まされた神経が朝の洗顔とともに戻ってくる。 フイールドにブラインドテントを急いで張り、テントの中に入る。それから重いフランス製の三脚を組み立て、その上にカメラを装填した500ミリのレンズを備える。一度テントの外の光景にレンズを向け、カメラのテストを入念にチエックする。外はまだ薄暗い。 筑波の峰々が黒く横たわり、その上にまだ春の宵の星が残っている。レンズを再びテントの中に入れて窓を塞ぐ。それから僕は寝袋の中にもぐり込み、仮眠をとる。しかし心は昂揚し、眠れない。 オオタカが飛来して来るのは早くても1時間後と、分かっていても、眠れない。仕方なく目を瞑り、朝方から強くなっている北風の音を聞く。遠く走る車の音。カラスの鳴き声。ツグミの鳴く声が2−3風の中に混じっている。だが主役は断然風の音。こんなに風が強く、勝子は飛来するのだろうかと一抹の不安が走る。 北風は草むらに張り出した玩具のような小さなテントすら無視しないで絶えず吹き込んで来る。左側の破れたテントの部分が風に当たり音を立てている。もっと早く修理しておけば良かったとその気になる風の音を聞きながら悔やむ。だが、そんなことは、それこそ、オオタカの飛来から比べれば九牛一毛ではないか。早く来いと心に強く念じた。 いつの間にか1時間ほど眠りについた。 慌てて起きて、直ぐにブラインドの窓の蓋を開け、外を見た。外の光景は変わらず、ただドバトとムクドリが草むらの平地に集まり餌を摘んでいた。山々全体は茶褐色が薄れ、代わって薄緑が強まる気配が出てきていた。田圃も1ヶ月前と比較すると黒い土地が緑色に変わろうとしており、事実ドバト達のいる草むらは緑色が中心になり、正しく春の真っ只中だ。但し強い北風が無ければの話だが。 本日も勝子は飛来しないのだろうか?勝子は多分営巣時期に入っているだろう。営巣地の松の木の枝で寛いでいるのかも知れない。その気になれば、勝子の営巣地へ入り、営倉巣を探し当てることはたやすい。 だが、勝子の鋭敏な性格は僕が営巣の近くへ出没することを、極力好まない。僕の姿を認めれば営巣地を変えてしまうか、繁殖活動を控えてしまうかどちらかである。その結果は勝子が僕のフイルドに飛来しなくなることにつながるし、オオタカの若鳥も来なくなることは火を見ることよりも明確である。 従って勝子の営巣地やこのあたりの営巣地は静かに見守ることで僕のオオタカに対するスタンスははっきりしている。 繁殖時期の勝子でも空腹になれば必ず日常の餌場になっているこの場所に訪れるだろうと僕は確信している。まだ、抱卵時期でなければ、普段よりも効率よく餌を捕獲して早く営倉巣近くへ戻るのではないか。文献で次のURLを参考資料とした。 http://park15.wakwak.com/%7Eraptor/index.html 又は http://www.h6.dion.ne.jp/~aotaka/index.html だから僕は勝子の飛来する時間を早朝と見た!一番、小鳥類やドバトの集まる時間帯に勝子は訪れるに違いない。僕のブラインドは勝子にはっきり覚えられている。手練手管を労しても、見破られていることは過去の彼女の出没の記録をみても明々白々である。 ならば、フイルドに入る時期を延ばせるだけ延ばして、挑戦してみようとこの1ヶ月考え、本日実行に移した。 しかし、思うように捗らない。本日も駄目かなとテントの中から天を仰いだ。風が強いためか、次第に雲が多くなってきた。晴天の筈が次第に怪しげな雲が多くなってなってきた。 突然、餌を啄ばんでいたドバトやムクドリが一斉に飛び出した。見ると、その中の逃げ遅れた1羽のドバトに飛び乗っているのは紛れもなく勝子であった。 こちらのテントに向かって鋭い視線を送っている。炯炯と光る射抜くような鋭い瞳は僕のテントの中の動きを微動だに見逃さない眼差しだ。 勝子がやっと現れた!。僕は次第に心臓の高鳴りが高まってくるのを覚えた。だが何回もの失敗が、軽挙妄動の大失策が脳裏に走り自分の戒めとなり、冷静さを失わなかった。むしろ曇り勝ちになってきた天候を見て露出を一段下げなければならないと観察していた。 そして勝子の飛行する方角を判断したりしていた。 勝子は空腹だったのか勢い良く食事にかかった。お尻を上に上げ、鋭い嘴は殆ど下げっぱなしだった。時々こちらを睨み、周りに食べ物を奪う強奪者はいないか目を光らせていた。 僕はその時間になってもカメラには触れなかった。どのカットを撮ってもそれは以前と同じものだ。金太郎飴のように同じ写真になってしまう。 僕の狙いはあくまで飛び立つ時の瞬間の映像だ。地上近く離陸する、しかも近距離から撮影することが僕のターゲットでありこの2年間の僕のミッションである。 勝子は天空に現れたトビを警戒し、両羽でドバトを覆った。そこで始めて僕は500ミリのレンズをブラインドテントの中から外に静かに突き出した。 勝子はトビの動きに合わせ更に低く姿勢を構えた。僕はその横顔の光り輝く瞳にピントを合わせ5回ほど連写した。それでも勝子はこちらを向かないで上空のトビの動きを注視していた。 トビが去ってからも勝子は低い姿勢をなかなか崩さなかった。何か僕のブラインドから見えないところに餌を強奪する者がいるのかも知れない。 僕は勝子の動きを少しも見逃さない。飛翔に移る前触れはある程度予見できるが、いきなり飛び去ることも過去あったので 油断が出きなかった。それに強奪者はいきなり勝子の後方から攻撃してくることもあるので、カメラのアングルもそれらにあわせておかなければ、それこそ尻きりトンボでなく、尻きりオオタカになってしまう。いかなる突然のハプニングにも応じられるように柔軟な対応が要求される。勝子は再び食事を始めた。だが食事をしながらも落ち着き無く首をあげ、周囲を見回した。 「飛ぶぞ!」僕は直感した。 次の瞬間勝子はドバトをそのカギ爪で挟み、向かって左上空にあっという間も無く消えた。僕は勝子が離陸した瞬間からカメラのレリーズスイッチを押して連写。後ろ姿が見えなくなるところでスイッチを放した。充分な手ごたえがあった。少なくともフアインダーから消えるまで3カットは撮れたと直感した。 デジカメなので直ぐに映像の確認が出来た。確かに2枚は勝子の地上からの飛翔瞬間が映っておりもう一枚は尾羽の部分だった。天候が怪しかったので風きり羽はクリーンな映像にはならなかったが勝子の飛翔する始めての映像だった。 だいたい、イメージ通りの映像だが、勝子のアイデンテイを賭けた、存在感を示した映像にはまだ、至っていなかった。 僕はこの存在感を更に増すためにはどうしたら良いか、考える。オオタカの沢山の金太郎飴のような写真を前にオオタカのアイデンテイを思考する。 僕の学生時代の好きな哲学者、西田幾太郎の言葉を借りれば「オオタカとなって見、オオタカとなって行う。」僕がオオタカとなって、なりきった時、オオタカの存在感はおおきくなり、実存に迫り、僕は自由になる。オオタカの存在感をどう表現するか、僕は又再び、オオタカを撮影しはじめときに戻った。 出来上がった写真をみて、僕はまだまだと呟く。 戻り ![]() オオタカ メス成鳥 レンズ500mm 距離約20m 脚爪の左側にドバトを確り掴み、地上から飛び立つ。 |