060422   オオタカ    かすみがうら市

 今シーズン最後のオオタカ撮影だと思うと早く目が覚めてしまった。午前3時。少し早いなと思って、朝風呂に入った。10年前,自宅を新築した時、一つだけ贅沢の部屋として、風呂を特注した。24時間風呂であるが業務用のため保健所でもお墨付きの風呂である。
24時間いつでも入ることが出来、僕は時間に関係なく入るが、朝、入るときはその日が自分にとって重要な日とか腰が痛いときである。
しかし本日は前者で、最も大事な日であり今シーズン最後の締めくくりに相応しい風呂にしようと思った。
例によって髭を剃ったあと湯船に入り目を瞑る。
本日も勝子は来ない!と云ったマイナス思考と必ず来る!と云ったものから、レンズは何がいいかと云った沢山の魑魅魍魎の雑念が入り込む。思考が集中できず、されど屈託な想念があるわけでもなく急いで風呂から上がった。

それから40分後、僕はブラインドテントの中にいた。本日は一番小さな僕一人がやっと座って入れる簡易テントだ。もし、オオタカが後方に廻ってこのテントを見れば、僕の背中やお尻そして頭まで見下ろすことが出来る、云わば頭かくして尻隠さずどころか全部見えてしまうテントである。このブラインドテントの良さは小さくてあまり目立ったない点である。それに多少の移動は中にいても可能なところがメリットであるが後方が全部見えてしまうのが大きい欠点だ。
テントの窓から外の景色を見ると正しく春の世界である。黒々としていた野山は花が咲き乱れ、さまざまな色彩が重なりあって
賑やかだ。田圃は田植え前の、整備された耕地になり、これで水を張れば立派な水田になっていく。目の前の雑草地は草丈が延びてきて
場所によってはレンズが振れないところも出てきた。左の川土手は黄色い菜の花が川の水面近くまで迫って、春を謳歌している。
川の流れる音が長閑な春の世界に中心的な音源となり、カワラヒワや北に旅たつ準備をしているツグミ達が春の協演を送ってくる。
ブラインドの中にいると厭離穢土を目指した僧侶のような気持ちになってくる。
だが、オオタカは来ない。テントに入って約2時間を過ぎようとしている。鳴き声も聞こえない。この簡易テントは僕にとって2時間が限度だ。昔イヌワシを待って8時間ぐらい中にいたことはザラにあるが、今は腰が痛くなるので2時間を目途にするようにしている。
自転車に乗った農家の方が田圃見回りに来たのだろうか僕のブラインドの前に自転車を止めた。

「あのーもしもし、其処へ自転車置くと困るんですが」と僕
彼はあたりをキヨロキヨロ見回す。
「ここで小鳥の撮影しているんですが」とB
彼はそこで僕のブラインドに気がつき後方を見る。
「イヤー全然分からなかった。」と言って僕のテントの後ろに廻る。
「脅かして御免なさい。カメラ撮影していたものですから。」とB
「分からないものですね。」と彼はテントの中の僕を見て自転車に乗って立ち去った。

この光景を見てオオタカはどう判断しているだろうか?テントの中にやはり不審な人間がいるとみたか、それとも不審な人間は自転車とともにいなくなったと見たかそれは分からない。
だが僕の心の中は長くこらえていた緊張感が急に溶解した。周りの長閑な春景色のなかで自分ひとりが馬鹿なことをしている想念に捕らわれた。
「何をしているのだろう?」
と、考えた瞬間僕はテントの外に出てテントをしまい始めた。
いつもそうだが、オオタカが飛来しないと感じたり邪魔が入ったりしたら直ぐに撮影を断念して帰途に着くことにしていた。今シーズンはもう最後と思いながら、訪ねてみたが何も飛来しなかった。勝子は既に繁殖活動に入っているに違いない。多分、抱卵時期だろう。
今度、ここから少し離れた山里へ行って別な個体が繁殖している営巣地を覗いてみよう。其処は人家の隣で人の出入りが多く、人に慣れているオオタカが毎年ヒナを育てている。周りの方が暖かく見守っているから毎年雛の成長が見れるところだ。





 撮影06.04 


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